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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第1章 悪役の誕生

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第21話 悪の救済者

 心は酷く荒んで、視界はモノクロに近いものになっている。

 そう見えてしまっているのは自分の単なる思い込みのせいか、はたまた本当にそうなってしまったのか。


 ま、そんなことはどうだっていい。

 今はただこの森に巣くう()()は殺すだけだ。


 動きだしの足は重かった。

 しかし、その一歩は迅速に魔物へと足を運んでいった。


「一匹」


 獣人の女性を犯していた男の頭が手刀で吹っ飛んでいく。

 人の顔した魔物だから少しは躊躇うかと思ったが、どうってことない。

 所詮は魔物であった。畑を荒らす害獣よりも情が湧かない。


「な、なんだお前―――」


「誰だ―――」


「二匹、三匹」


 続けざまに女性を抑え込んでいた男二人も同様に木に顔面を叩突きつけて殺し、胸に手触れて転写で<突風>の魔法陣で風穴を開けて殺していく。


 疲れたように前のめりに倒れる女性を抱えると優しく声をかけた。


「同じ人族だから怖いかもしれないけど、信じて欲しい。僕はあなた達を助けに来た」


「うっ、うぅ......ありがとうございます」


 弱弱しい声で感謝を告げる女性。

 どうやら村にいた僕のことは信じてくれるみたいだ。

 そっと優しく抱きしめる。

 少しでも安心してもらえるように。


 しかし、それでも僕の瞳に消えた熱は戻らなかった。

 ただ真っ黒な瞳が次なる標的を自然と追っている。

 心の傷が大きくなっていく気がするが、自分のことなんてどうでもいい。

 今は助けないと。


 女性を木に寄りかからせると次に人へと助けに行った。

 やっていったことは同じだ。魔物を殺していく。

 行為に夢中かこっちの意識なんてまるでない。

 まるで止まった的に攻撃を振るっているようだ。


 とはいえ、それを数回繰り返していくとさすがに異変を察知した騎士が集結し始めた。


「何者だ! なぜ人族がこんなところにいる?」


「それはこっちのセリフだよ。

 どうしてお前達のような魔物がここにいるんだ?」


「魔物? それはそこにいる人の皮を被った獣風情にかけてやる言葉じゃないか?」


「......やっぱり、こんな魔物じゃ言葉も通じないか」


 僕は腰にある鞘から刀を引き抜いていく。

 そして、ゆっくりと近づき始めた。


 そんな僕の異様さに恐怖を感じたのか相手の騎士の表情は硬い。冷や汗も見える。


「そういえば、魔族もあの村にいたな。

 ということは、貴様は人族の癖して魔族に下った罪人というわけだ。

 ならば、神に仕える正義の騎士として敵に寝返る人間には神に代わって私達が裁きを与える! 殺せ!」


 一人にリーダー格的な騎士が指示を出すと大勢の兵士が殺気立って剣を構えて向かって来る。


 しかし、その足取りは遅い。

 こいつらは国で一体なんの修行をこなしてきたというのか。


「四匹、五匹」


 ま、育ったのは人族至上主義の思想だけか。

 襲ってきた騎士の攻撃を躱しながら一撃で首を刎ねる。

 そして、もう一人は左手で剣を掴むと胴体を真っ二つにした。


 そこからはただの流れ作業だ。

 躱し、いなし、パリィし、隙に一撃を入れて絶命させるだけの。


 斬ったり、刺したり、殴ったり、蹴ったり、叩きつけたりと様々な方法で簡単に死んでいく。

 人族以外の種族は悪だと認定しておきながら、自身の快楽のためにはその限りじゃないと。


「ハッ、そんな正義はクソ喰らえだ」


 ほとほと自分は幸せに生きて来れたんだなと感じる。

 王国から追われたけど、ゾルさんと出会いこの村で過ごし、役に立てるように力を蓄え続けた。


 それは僕を仲間だと思ってくれたこの村に恩返しするためでもあり、大切な人や良い人には幸せになって欲しいというささやかな願いのためのもの。


 だけど、こいつらは勝手な正義を振りかざして村を蹂躙した。

 挙句の果てには一生消えないような傷まで植え付けて。


 僕はもう十分に幸せになった。

 だから、僕は僕の大切な人達を守るためだったら悪になってもいい。


「な、なんだコイツ!? 舞ってるように動いて全然当たらねぇ!」


「次々と死んでいく! 嫌だ! 死にたくない!」


「撤退! 撤退ー!」


「サルザール様に報告だー!」


「逃がすかよ」


 僕は左手の平に<氷塊>の魔法陣を発動させるとサブマシンガンのように連続で射出していった。

 それによって、背後から数名の騎士が射貫かれ、絶命によって地面を転がっていく。


 僕は残りの騎士を追いかけ走り出した。

 すると、<魔力探知>で一際大きな気配を察知する。

 その場所に向かってみると木がなく開けた空間に逃げ帰った騎士に囲まれる一人の男がいた。


「お前か、妙に兵がうるさい原因は」


 金髪のロン毛で首筋に妙な天使の入れ墨が入った騎士の男。

 他の騎士に比べて鎧も丈夫そうだし、何より錬魔に近いが違う何かの魔力を感じる。


「サルザール様、この男が仲間を次々と......」


「見てばわかる......ん? 貴様の顔......どこかで見たことあるな?」


 なるほど、こいつがサルザール。

 つまりゾルさんを死に追いやった首謀者か。


 その男は顎に手を付けて僕をまじまじと見つめる。

 そして、考えるような素振りをみせると思いだしたように手をたたいた。


「貴様、王国にいた最弱の勇者だったな。

 いや、我らが聖王国を陥れる魔族に身を売った大罪人と言った方が正しいか」


「そんなことはどうだっていい。僕はただゾルさんの仇を取るだけだ」


「ゾル? もしかして、あの正義気取りの魔族の男のことか?

 なるほど、魔族の手はこんなところまで迫っていたわけか。

 単なる趣味の邪種族狩りをしていたがとんだ収穫だ」


 おい、こいつ今なんて言った?


「お前は趣味で人の幸せを踏みにじるのか?」


「人の幸せ? あいつら邪種族にそんな権利があるわけないだろ?」


 その瞬間、僕の足はスッと動き出した。

 そして、潜り込んだ懐から一気に刀を下から上に逆袈裟斬りを決めていく。


―――キンッ


「!」


 しかし、その攻撃は男の頬にかすり傷を与えただけで剣で受け止められてしまった。

 思いっきり振った一撃だったのに。この男、並外れた実力者だ。


 男に刀が弾かれる勢いで距離を取っていく。

 すると、男は自身の頬に手を触れてその手が血に濡れていることを確認すると途端に怒気を放つ。


「貴様、俺の顔に傷つけたな? 簡単には死なせんぞ」


「それはこっちのセリフだ」


 そして、同時に動き出すと刃を交えていく。

 力は互角......いや、僅かにあっちの方が強い。


火炎槍(フレイムランス)


 僕の体が弾かれると同時にサルザールは左手を向けるとすぐさま炎で形どられた槍を放った。

 それを横に転がって躱していく。


 放たれた炎の槍は背後にあった木をいくつもなぎ倒していった。

 抉られた部分は燃えたというより溶けたに近い。

 相当な魔力を込められている。

 当たればただじゃ済まなそうだ。


「チッ、小賢しい!」


 すぐさま体勢を戻すとそのまま刀を切り上げる。

 しかし、すぐさま反応されて剣を横に向けて受け止められるが、接近することは出来た。


「転写」


 剣を弾くと左手を伸ばしていく。

 胸の中心に当てようとしたが僅かに体を捻られて直撃したのはサルザールの右肩。

 だが、当てられただけ良しとしよう。


「ふんっ、最弱ようだが中々に武器の熟練度を上げているようだな。

 だが、貴様は所詮魔法陣を描くことしか出来ない雑魚でしかない!

 魔法剣士の私の相手ではない!」


 サルザールがすぐさま距離を詰めてくる。

 肩とはいえ弾いた直後なのに岩のように不動だ。

 そして、相手は剣を振るってきた。


「ここだ」


「っ!」


 その瞬間、僕の<火球>の魔法陣が発動した。

 それによって、サルザールの右肩が爆ぜて体勢が崩れていく所にすぐさま刀を突きたてる。


「熱線」


「ぐっ!」


 だが、魔法陣によるダメージが低かったのか心臓を狙った一撃はわき腹を抉るに終わり、逆に左手の人差し指からわき腹を炎を凝縮したビームで貫かれた。


 その勢いで転がっていくとさすがのサルザールも一旦距離を取っていく。

 すると、尋ねてきた。


「貴様、なぜ魔法が使える!?」


「魔法は誰でも使えるものだろ」


「魔法陣ならな。だが、貴様は魔法陣を描く素振りすら見せていなかった。

 まさかそれが魔族に恩を売った見返りか?」


「自分の弱さを知ってもがき苦しんだ結果だよ」


「答える気はなしか。ならば、死ね!」


 そこからは剣と刀と魔法が入り乱れる戦いとなった。


 近接で剣と刀を交えたかと思えば、押し返され吹き飛ばされた拍子に地面に<土杭>を仕掛け、そこにサルザールが近づけば発動していく。


 地面から生える杭をサルザールが紙一重で躱し、その杭ごと切断した僕の横薙ぎ攻撃を受け止めると前蹴りして土の塊ごと僕を吹き飛ばした。


 そして、そこに空中に展開させた多数の光の粒子を放つ<光連弾>を放っていく。

 しかし、僕は旋回しながら回り込み、スライディングで間合いに入った。


 そこから足を上げて逆立ちになる勢いでサルザールの顎を蹴り上げた。

 だが、すぐさま横薙ぎに剣を振るってきたため、体を捻りそれを刀で受けて地面を転がっていく。


 サルザールはそんな僕を追いかけて来るが、地面を転がりながら連続転写した<火柱>でサルザールの行動を抑制。


 サルザールはその火柱の僅かな隙間をジグザクに躱してきた。

 そこへ背後にあった木を掴んで引っこ抜くと相手に向かってなぎ倒していく。


 それはすぐさま切り刻まれてバラバラにされていくが、僅かに消えた隙に<幻影>を仕掛けた石を投げて、まるで僕が真っ直ぐ迫ってきているように見せた。


 その一方で、僕は<気配断ち>でサルザールの背後に素早く回り込むと石を僕と間違えたサルザールの背中を斬った。


 だが、どうにも相手の防御が固く、すぐに後ろ蹴りで吹き飛ばされる。


「チッ、厄介な」


 そうウザったそうに言うサルザールだが、そのセリフは結構こっちのものだ。

 的確にダメージは与えられている。血も出てるし。


 しかし、斬った相手が想像以上に怯まない。

 着ている鎧の防御力というよりは、もっと別の何かのような気がする。

 けど、それを考えている時間はない。


 そろそろ相手に僕の魔法陣の発動のさせ方が割れている。

 さっきの連続<火柱>が避けられたのもそうだ。

 手によって対象に触れることが条件とバレてしまっているからだ。


 だが、まだ完全に対処出来てるわけではない。

 石にかけた魔法陣の幻影を僕と見間違えるほどだし。

 しかし、その戦法も時間の問題だ。

 手から放つ飛び道具的を扱いをしても一発じゃたかが知れる。


 せめて手で触れずに設置出来たら......手に触れず?

 やってみる価値はあるかもしれない。

 そう思いサルザールに向けて左手を向ける。


 魔力は魔法として現象させずに塊として飛ばす方法もある。

 それを応用して形どった魔法陣を指定した位置に発射。

 さらに発動に必要な魔力分も放つ。


 魔力は地面や壁など魔力を含む対象に触れなければ空気中の魔素のように見えない。

 逆を言えば、その設置した魔法陣が見えるようになるのは魔力を持った対象に触れた時。


 この世界には土にも石にもありとあらゆるものに魔力が宿っていて、それが術者の魔力と反応するから光る。といっても、光はほんの鈍いものだが。


 けど、今確かに僕の<衝撃>の魔法陣がサルザールの腹部に光った。殺れる!

 そう思うと僕はすぐさま走り出した。


「単なる特攻に見えるが、お前は攻撃が読めん。故に、さっさと終わらせる―――シャイ」


「ここだ」


「ごっ!」


 サルザールは体をくの字にさせた。

 その表情はなぜかわかっていない様子だ。

 そりゃそうだ、僕はまだ近づいている最中で腹部なんて手で触れてないはずだから。


 僕は隙が出来たサルザールを斬っていく。

 そして、すぐさま離れ“座標”を決め転写していった。


 そして、火で爆破させて斬り、水の刃で斬りつけてさらに斬り、感電で動けなくさせて斬り、風の弾丸をゼロ距離で当てて斬り、足元の影から鎖を作って拘束して斬り、相手の周囲を回転するように動きながらばら撒いていた光の玉を撃ちつけながら斬って斬って斬った。


 そして最後に斬られて血まみれになったサルザールは膝立ちになるので、その胸を蹴って上から覗き込む。


 サルザールの瞳には僕の顔が映っていたが顔だけはよく見えなかった。

 すると、サルザールが僕の顔を見て告げる。


「がはっ......魔族に魂を売った罪人め。

 お前の悪は必ず正義のもとに裁かれる。必ずだ」


「いいよ。僕は僕の大切な人を守れるのならいくらでも悪になってやるよ。

 少なからず、僕の理想にお前のような魔物は要らない」


「その言葉......後悔するなよ」


「しないよ。それを受け止める心はもう置いてきた」


 そして、僕はサルザールの首を刎ねた。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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