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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第6章 記憶の継承

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第189話 本当の自分#6

――ヨナ視点――


 セナちゃんが要求してきたことは私と戦うこと。

 それで自分が生まれた意味が証明できる、と彼女は言いました。

 その言葉に対し、私はすぐに返事をすることができませんでした。


 だって......だって、私はセナちゃんと戦いたくないんですから。

 セナちゃんは確かに私から生まれた存在ですが、もう自分じゃない存在で。

 それこそ、カッコイイ彼女を姉のように思っていて。


「私......私は......」


 この空間が嘘をつけない以上、セナちゃんがこのまま時間とともに消えてしまうのはそうなのでしょう。

 であれば、もとより私に選択肢は無かったのかもしれません。


 だからといって、では戦わなければという気分にはなりません。

 どうにかセナちゃんが助かる方法はないのかと考えてしまいます。

 本当に、本当にセナちゃんの望みを叶えるしか方法はないのでしょうか?


「無いわよ。それしか無い。いい加減覚悟を決めなさい。

 今更私が消えることを止められはしない。

 私のことをそこまで思うのなら、私と戦いなさい」


「っ!」


 セナちゃんは真っ直ぐと瞳を向けてきます。

 その目は純粋に輝いていて、とても眩しくて。

 同じ人物のはずなのに、全然そうは思えなくて......。


「もうあんたは大丈夫。私がいなくても立っていける。

 歩いていける。どこまでもね。

 そして、その隣には私じゃない大切な人、仲間達がそばにいる」


「......」


「そんな人達が窮地に陥った時、あなたは立ち止まるの?

 またリツに頼るの? 無力な自分を恨み怯えて暮らすの?

 そこから変わりたいから、変わっていくリツを見過ごせないからついてきたのでしょう?」


「それは......」


 セナちゃんは私に向かって向けていた薙刀の刃先を上に向けました。

 そして、私を睨みつけて言います。


「最後にもう一度言うわ......覚悟を決めなさい!

 あんたはもううずくまって泣いてるだけの子供じゃない!

 立ち上がり、自分の手で誰かを助けることができる力を持ってるの!

 それでも、立ち上がれないというのなら......私と死ぬまで一緒にいることね」


 瞬間、セナちゃんは薙刀を振り下ろしました。

 キラリと光沢で弧を描く刃は私の頭に向かい、それを私は――


「っ!?」


 受け止めました。両手に作り出した薙刀でもって。

 あぁ、もう本当に選択肢はないんですね。進まなきゃいけないんですね。

 .......わかりました。だって、私にはもう――


「セナちゃんと同じぐらい大切な人達が待ってますから」


 私は流れる涙をそのままに、ニコッと笑ってセナちゃんに言いました。

 すると、セナちゃんはとても嬉しそうな顔で笑いました。


「なら、仕切り直しと行きましょう」


 そう言って、セナちゃんは一度下がり、薙刀を構えます。

 その構えに対し、私も立ち上がり、同じように構えを取りました。


「行くわよ、ヨナ!」


「はい、セナちゃん!」


 私達は同時に走り出し、薙刀を交えました。

 実力はやはり互角。まぁ、私ですから当然ですよね。

 となれば、差を作るのは一瞬の技術だけ。


「っ!?」


 瞬間、私の薙刀が絡め取られ、下に押さえつけられました。

 そして、その優位から流れるように、セナちゃんは薙刀を振るってきます。

 もちろん、その薙刀が向かう先は私の顔......精神体とはいえ、容赦ないですね。

 ですが、私もそう簡単にやられません。


「ここ!」


 私はすぐさましゃがみ込み、鬼人族の膂力を活かし足元目掛けて薙ぎ払いをしました。

 すると、私の頭上でセナちゃんの薙刀が通過すると同時に、セナちゃんの足元で私の薙刀が通過しました。

 もっとも、私の攻撃は当たらなかったのですが。


「良い反応ね。でも、ここまでは――っ!?」


 私は立ち上がると、すぐさまセナちゃんに薙刀を投げつけました。

 その攻撃をセナちゃんが躱している隙に距離を詰め、両手に大剣を作り出し、一気に跳躍からの叩きつけ。


「くっ!」


 セナちゃんは薙刀を横に向け、柄で受け止めましたが、私の大剣はそれごと叩き折りました。

 畳にズガンと大剣の刃先が突き刺さり、僅かな衝撃が広がっていきます。


 そして、私はそのまま流れるように大剣を逆袈裟に斬り上げようとしましたが、その直後には距離を取ったセナちゃんが短剣を飛ばしていました。


 それを大剣を横にしてガードすると、大剣で前方の視界が塞いでしまった一瞬の隙をつくように、セナちゃんが懐まで接近し、思いっきりショルダータックルしてきました。


「くほっ!」


 肩がみぞおちに刺さり、肺の空気が強制的に吐き出されてしまいました。

 そのまま畳の上をズサーッと滑っていくと、セナちゃんはすぐさまマウントポジションを取り、両手につけたガンドレッドで攻撃をしかけてきます。


「鬼武術――鬼衝拳」


 セナちゃんは拳を顔面に向かって放ってきました。

 その攻撃を首を傾け躱せば、耳元にはメコッと大きな音が聞こえ、畳が凹んだ影響で僅かに頭が下がっていきます。

 すると、セナちゃんが床に拳を突き刺したまま、ニヤッと笑いました。


「よく避けたわね! この状況でよく見てる証拠よ!」


「ありがとうございます! ですが、これだけじゃありません!」


 私は右手に短剣を作り出し、それを逆手に持ってセナちゃんの首を狙いました。

 しかし、それはセナちゃんのガントレットで防がれます。

 ですが、それは想定内。目的は意識を一瞬そちらへ向けることですから。


 私はすぐさま左手でセナちゃんの胸倉を掴み、引き寄せると同時に私の頭を叩きつけました。

 所謂頭突きというやつで、セナちゃんがその攻撃で怯んだうちに、胸倉を掴む手を体とともに横に流してマウントポジションからの脱出。


 同時に、すばやく両足を引き戻し、それをセナちゃんの胴に当てると、屈伸で圧縮した力を開放するように蹴り出しました。


「鬼武術――双岩脚」


 セナちゃんはその蹴りで吹き飛び、畳の上をゴロゴロと転がっていきます。

 しかし、すぐさま体勢を立て直すと、ガントレットを畳に押し付けることで勢いを止めました。

 ですが、すぐさま反撃は来ませんでした。


「かっは......ハァハァ、今の蹴りは効いたわ。

 いや、それよりもさっきの頭突き......あんたらしくなかったわね。

 良かったわよ。戦いなんだからあれぐらいしなきゃね」


「相手は待ってはくれませんからね。それで......まだ続けますか?」


 セナちゃんの体は今も刻一刻と消え続けています。

 今見れば、もう素手に足首は消えて無くなっていました。

 全体的にも透けており、とても戦えるような状態とは思えません。


「えぇ、もちろん!」


 ですが、セナちゃんの瞳は変わらずとても熱く滾っていました。

 今こうして私の実力が測れていることが嬉しいようで、無邪気さが伝わってきます。

 あぁ、きっと昔の私もこんな風にキラキラしていたんでしょうか。


「ですよね!」


 ならば、それに応えてあげなきゃもったいないですよね!

 私の胸に沸き上がるこの熱い感情。戦うたびに滾る血。

 自然と口角が上がり、目がギラついてきます。


「......私達が敬い、崇拝していた鬼神様っていうのは、それはそれは偉大なお方で、それでいて怖い存在だったらしいわよ。

 で、その怖いたる所以が戦いが激しさを増す度に笑うから、相手はその狂気さに恐れをなしたと伝えられているわ――今のあんたの顔のようにね」


 そう言って、セナちゃんも目をギラつかせました。

 なるほど、つまり今の私はそんな顔をしているということですか。

 これは確かに......怖いですね。ですが、同時に高揚してきます!


「決着、つけるわよ?」


「はい、もちろん」


 私は右手に持つ短剣を手放し、代わりに両手にガントレットを身に着けました。

 そして、そのまま歩き出すと、セナちゃんもそれに合わせるように歩き出しました。

 それからやがて、私達は互いの間合いで立ち止まり、向かい合います。


「準備はいい?」


「はい」


「それじゃ、このリングを描く炎が一周したら合図よ」


 セナちゃんはサッと右手を横に動かすと、私達から一メートルほど離れた位置で畳に炎が発生しました。


 すると、その炎は円を描くように動いていき、私の後ろ、横、そしてセナちゃんの後ろへと移動し、後数秒で一周します。

 その間、私達は互いに向かい合ったままで、炎が移動し、移動し、移動し、一周――今!


「「はああああぁぁぁぁ!」」


 互いに目の端で合図を捉え、拳を振り上げました。

 直後、その円の中で始まるのは、まるで男性同士がやるような肉弾戦の殴り合い。

 まるで互いの想いを拳に乗せてぶつけるように、ノーガードでやり合います。


 その度に、額、頬、口の端が切れ、ダメージを受けていることを示すように血が出ました。

 痛みで目を逸らしたいのに。痛みで拳を振るう手を手を止めたいのに。


 それ以上に、今のこの状況が楽しくて、セナちゃんに自分の成長を示すことができて、その嬉しさで止めることができません。

 加えて、目の前のセナちゃんも変わらず笑みを浮かべています。


 ならば、もはやどちらかが倒れるまでやり合わなければもったいないでしょう。

 そうしないと、この滾る気持ちを、全ての感謝を、伝えきることができませんから。

 まぁ、自分の顔を殴るというのはなんとも変な感覚ですが。


「そこ、意識を逸らさない!」


「ぐっ......やりましたね!」


「かはっ!......まだまだ!」


 その後も肉を削り合うような拳と拳のぶつかり合いが続きます。

 しかし、体感で数分と続いたようなこの殴り合いは、ついに終わりが来ました。

 それは私がセナちゃんの拳を受け、少し怯んだ時でした。


「今! 鬼武術――鬼衝拳っ!」


 セナちゃんの拳が私の顔面めがけて飛んできます。

 そこへ、私は思わず下げてしまった後ろ足を前に出すようにして一歩前進。

 踏み出した右足と同じ側の拳を体のひねりと合わせて打ち出しました。


「鬼武術――拳胎鬼」


 私の動きは、まるでクロスカウンターのようになりました。

 体が半身になったことで、眼前でセナちゃんの拳を躱し、そのまま拳をセナちゃんの胴体へ。

 その拳はセナちゃんの腹部にねじ込むように突き刺さり――


「かはっ」


 セナちゃんはその攻撃で吹き飛び、炎で囲った円の場外へ飛び出しました。

 そして、畳の上で寝そべったまま動きません。


「ぺっ......私の勝ちですね」


 口の中に溜まった血を吐き出すと、そう言って私は親指で口の端の地を拭いました。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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