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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第6章 記憶の継承

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第184話 本当の自分#2

――ヨナ視点――


 目の前に来る巨大な斬撃。

 縦十メートル、横ですら三メートルぐらいあります。

 それがたった一振りで放たれ、目にも止まらぬ速さで迫ってくる。


 だけど、放った攻撃としてはそれだけ。

 以前の私なら避けられなかったかもしれない。

 しかし、リツさんとの修行がそれを可能としています。


「っ!」


 とはいえ、避けれたとしても怖い。

 当たれば死ぬ。それだけはよくわかりますから。

 斬撃を避けた後、相手がさらに追撃してくる様子はありません。

 握った刀を手を捻りながら見ては、振った感触を確かめてる感じです。


 なので、改めて現れた虚像の姿を観察してみました。

 まずその虚像はリツさんではありません。

 身長が百八十以上ありますし、細身だけど筋肉質。

 ややサバサバしたような黒髪は腰まで伸びている。


 顔はシュッとしており、カッコいい部類に入るかと思います。

 顔が濃いイケメンというよりかは、鬼人族っぽい薄い感じ。

 まぁ、カッコいいとは思いますが、好みかと言われれば別......コホン。


 そして、何より額にある角。

 その角は鬼人族である証であり、纏っている鎧も鬼人国(こきょう)で見たもの。

 しかし、この人の姿は私がまだ故郷にいた時にすら見たことありません。


 守護神であるスーリア様に存在が認知するほどとなれば、相当凄い偉人であることは間違いないのに。

 そして、そんな凄い人なら歴史を重んじる我が国が知らないはずはないのに。


「なぁ、アレがリツの本性なのか? 普段は姿を偽ってる?」


 私があの鬼人さんを見ていると、隣にいたロゼッタさんが同じく見ながら聞いてきました。

 ロゼッタさんの方をチラッと見てみれば、僅かに口の端をヒクヒクと動かし、額には汗のようなものをかいています。


 普段のロゼッタさんはもっと飄々としている感じなのに。

 それだけあの鬼人族さんがヤバイ存在ということなのでしょうか。

 だとすれば、私もいい加減目の前のことに集中しないと。

 すると、近くで見ていたスーリア様が私達に話しかけてきました。


「今ので実力の一端は理解したと思うが、この虚像は偽物であるが実体はある。

 故に、お主達が斬られれば当然死ぬ。

 一応、死なぬように手前で消せるように見張っておくが、奴の挙動を目視で捉えるのは至難だ。

 だから、言えることとすればただ一つ。簡単に死んでくれるなよ」


 スーリア様は王女様に「そなたはこっちだ」と呼びかけ、リツさんの襟を咥えると、この場から退避していきました。

 スーリア様がここまで言う人物......となれば、やはり相当な偉人だったに違いない――っ!?


「ぐっ!」


 目線の先から先の鬼人さんの姿が消えました。

 まばたきもしておらず、むしろ逃さないようにしっかり見ていたのに、まるで最初から幻を見ていたかのように姿が消えて。


 同時に聞こえてきたのは、隣からの僅かなうめき声でした。

 先程隣にいたロゼッタさんで、だけど隣に視線を移してみれば、片足を上げた鬼人さんで。


 その後の状況的に近づいて蹴り飛ばしたのは理解できます。

 けれど、その認識がまるでできなかった。

 明らかに今までの敵と速度の次元が違います。


「え!?」


 鬼人さんと目が合いました。

 直後、次に私が理解できたのは、後十数センチという所で迫る鬼人さんの刀。

 まるでその間の時間が飛んでいるかのように、動き出しが認識できません。

 これは避けられ――


「ヨナッ!?」


 ウェンリちゃんの声が聞こえた瞬間、首に刀が思いっきり直撃し、その勢いで頭が弾かれました。


 視界が高速でグルグルして、今がどういう状況なのかよくわかっていません。

 ただ、僅かにわかることは体が水の抵抗を感じるということ。


――ドゴンッ


「かはっ!」


 私の体は思いっきり壁に叩きつけられました。

 その勢いは体を簡単に数十センチはめり込ませるほど。

 刀で殴られた衝撃で視界がぼやけ、生きていることが不思議でなりません。


「......これは」


 その時、首元からはらりと何かが落ちました。

 少しずつ明瞭になる視界でその何かを手ですくうと、それは透明な糸でした。

 この糸は......レンさんのものでしょうか。


 ということは、レンさんがいつの間にか首にこの糸を巻いてくれていたおかげで、私は今生きているんですね。

 けれど、例え首が切断されていなくとも、あの威力はまず間違いなく首をへし折っていました。


 いくらレンさんの糸が強力であろうとも、さすがにあの威力を防ぎきるほどではない。

 となると、これまでの旅での戦いや修行が、私を強くしたということでしょうか。


 それは定かではありません。

 が、今答えを出す必要もないでしょう。

 今すべきことは、あの鬼人さんの武器を壊すこと。

 そして、ハッキリしたことはあの相手には勝てない。


「くっ......!」


 私は首に手を当てながら、壁を手で押して立ち上がります。

 視界がようやく元に戻ったところで皆の様子を見てみれば、そこにはロゼッタさん、レンさん、アイちゃんの三人の姿しかありませんでした。


 恐らく今その場にいない人達は、私と同じように吹き飛ばされたのでしょう。

 そして、今残っている三人は攻撃を受けていないか、受けて耐えきったかの二択。

 しかし、そうなるとアイちゃんがあの場所にいることからして、前者でしょうか。


「だああああぁぁぁぁ!」


 アイちゃんが水中を思いっきり蹴って、鬼人さんに殴りかかります。

 しかし、大きく振り被ったひっかき攻撃は、鬼人さんの左手で受け止められました。

 その後のアイちゃんの連続攻撃も、鬼人さんの左手一本で防がれます。


 加えて、その時の鬼人さんは一切アイちゃんのことを見ておらず、しまいにはアイちゃんの腕を掴んで遠くへ投げ飛ばしました。


 な、なるほど......アイちゃんが残っていたのは単なる偶然ではなく、純粋に相手にしてないということですか。


 それは子供だからなのか、それとも純粋な力不足だからななのか。

 それは定かじゃありませんが、リツさんですら舌を巻くアイちゃんの速度に対し、鬼人さんは一切の身じろぎもしていません。


 その後、ロゼッタさんとレンさんが束になって攻撃しますが、気が付けば吹き飛ばされています。

 もはや私の視界には二つの黒い影が移動したようにしか見えません。

 直前の二人の動きは見えるのに......鬼人さんの攻撃を受けただろう後がまるでわからない。


「これはいよいよとんでもないことになりましたよ、セナちゃん........セナちゃん?」


 私がそう呼び掛けてもセナちゃんの反応がありません。

 ......あれ? そういえば、いつから反応が無かったんでしたっけ?

 確か、前は......リツさんと海で話した時だったような?


 まさかそこまで私はセナちゃんのことを忘れて!?

 あの子はもう一人の私なのに!?

 と、ともかく、それに関しては後で精いっぱい謝りましょう。

 それよりも今は戦闘向きなあの子の方がいいはずです。

 セナちゃん、返事をしてください! セナちゃん!


「ヨナ!」


 その声に反応してハッと意識を向けました。今のはロゼッタさんの声でしょうか。

 いや、それよりも目の前から来る十字の斬撃に目を向けるべきです。

 その斬撃は高速で飛翔し、今にも私に襲い掛かってきます。


「っ」


 私がそれを避けると、目の前には鬼人さんの姿が。

 不味い、セナちゃん! いや、頼った所でセナちゃんは今反応しない!

 となれば、この状況を自分で何とかしなければ!


「鬼武術――双鬼月」


 私は咄嗟に両手に逆手に持つようにして双剣を取り出し、それをクロスさせました。

 その動きはもはや相手が動き出す前に行動している感じでしたが、それが功を奏したのか重なった刃の部分に鬼人さんの刀が直撃しました。


「ぐっ!?」


 お、重い! まるで仰向けの状態で巨岩に圧し潰されているような感覚。

 もはやまともに受ける攻撃ではありません。

 なぜなら、咄嗟とはいえ私が魔力を込めて作り出した双剣が、一撃で亀裂が入ってるのですから。


 加えて、鬼人さんも全力というわけじゃないでしょう。

 私が両手の全力に対し、鬼人さんは右手一本のみ。

 また、その状態で隙だらけの私に追撃を加えてくる様子も無し。

 未だ様子を見られているのか、はたまた単に舐められているだけなのか。


「っ!?」


 瞬間、僅かに剣に力が入ったのがわかりました。

 同時に、私の全身にもけたたましい警鐘を鳴らすかのような悪寒が走ります。


「鬼武術――朧鬼燐」


 鬼人さんの刀が僅かにが離れた瞬間、私は双剣を順手に持ち替え、クロスさせた両腕を解き放つように剣を動かしました。


 直後、双剣からはバツ印の斬撃が鬼人さんに向かいます。

 本来ならこの斬撃は炎を纏っているのですが、ここは水中なので斬撃のみ――


荒覇穿アラハバキ


 その時、鬼人さんが頭上から足元へと向かって振り下ろした刀から放たれた斬撃は、真っ赤に()()()いました。

 海中にも関わらず、激しい炎が辺り一帯の水をあっという間に蒸発させ、大量の気泡を放出させながら、私の放った斬撃に迫ってきます。


 もはや視界は泡だらけで何も見えません。何がどうなっているのか。

 しかし、その知らせはすぐさま衝撃となって私に知らせました。


「くっ!」


 ボンッという音ともに発生した衝撃波は私の体を容易く包み込み、弾き飛ばします。

 全身が軋むように体がグイッと強制的に動かされ、吹き飛んでいる最中はもはや体一つ動かすことが出来ず、そのまますぐ近くの壁に叩きつけられます。


 叩きつけられた後も、しばらく衝撃は残り続け、私を中心として壁にクレーターが出来上がるほどでした。

 また、当然ながらダメージは凄まじく。


 壁に直撃した外的ダメージよりも、衝撃波による内的ダメージの方が大きいです。

 内臓が傷ついたのか、喉を逆流して口から血が......ゲホッゲホ。

 口元から懐中に溶けるようにして血が広がっていきます。


「ハァハァ......んぐっ.......」


 すぐには動けそうにありませんね。

 にしても、見てる限り追撃してくる様子はない。

 この感じ......やはり手加減されている?

 殺す気なら初手で私を殺せていたでしょうし。

 もしかして、この鬼人さんも何かの思惑で動いてるのでしょうか。


 それはわかりませんが、あの鬼人さんの刀を壊さない以上、恐らくリツさんは戻ってきません。

 アイちゃんがそうでしたから、たぶん同じでしょう。

 ならば、リツさんを取り戻すためにもどうにかしてあの動きを見切らなければ!

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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