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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第6章 記憶の継承

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第182話 ヴァルヴァジア神殿#3

 海底神殿の試練として、目の前にアイの虚像がいる。

 よりによってアイだ。いや、ヨナならばいいという話じゃないけど。

 やっぱ、男ならまだなぁ......申し訳ないけど。


 とにもかくにも、この試練を越えなければアイの意識は戻らない。

 例え、虚像であろうともアイを傷つけるのは良心が痛むが、仕方ない。

 全てはオリジナルのアイを取り戻すため。


 僕は一気に水中を蹴って偽アイへと接近した。

 すると、目の前のアイは両手をググッと広げ、爪を立てると、両手に纏わせた雷を振るった。


「雷爪斬」


 偽アイから放たれた雷は、五爪の斬撃となり、それが両手合わせた十爪が僕に肉薄する。

 雷の斬撃の影響か、移動した先から海水が電気分解されてブクブクと泡が発生していた。


 僕は剣を素早く振るい、向かってきた斬撃を全て弾く。

 弾かれた斬撃は四方八方へ飛んでいき、周囲の壁や天井に直撃した。

 瞬間、偽アイの姿は目の前から消える。


 いない......いや、気配はある。

 しかし、偽アイは水中でこんな速くは動けない。


「なるほど、神殿が作った虚像だから水の抵抗を考慮しないのは当然か」


 偽アイの気配が背後から現れた。

 なので、僕は背中にある鞘に剣をしまうようにして、剣を移動させた。

 すると、剣に攻撃が当たった感触があり、それを弾くと同時に、後ろに向かって剣を薙ぎ払った。


 僕の剣に、偽アイが弾かれ少し後退した。

 しかし、すぐさま距離を詰め、得意の徒手空拳で連撃を放ってくるが、僕はそれを全て防ぐ。


 なんだかアイに手ほどきしてる感覚になるな。

 ま、違う点を挙げるなら、僕が倒す気でいることぐらいか。

 それに――


「アイ、君が相手にしてるのは二人だ」


 僕は偽アイの拳を弾き、がら空きの胴体に蹴りを入れる。

 アイの胴体がくの字になり、グルグルと縦回転しながら後ろへ飛んで行った。

 すると、その偽アイの後ろから、巨大な大剣を握ったヨナが迫った。

 そうか......うん、やはり()()で来たのか。


 偽アイは咄嗟に後ろを向き、両腕をクロスさせ、大剣の薙ぎ払いの一撃をガードした。

 しかし、その一撃は到底受け止められるものではなく、再びグルグルと回転しながら吹き飛ばされた。


「兜砕き」


 斜め上に移動する偽アイの到達地点を予測しながら、僕は先回りして移動する。

 同時に、右足を大きく振り上げ、強烈なかかと落としを偽アイに食らわせた。

 すると今度は、偽アイの体は垂直に落下する。その先にはヨナの姿が。


「アイちゃん、ごめんなさい――斬鬼刃」


 偽アイを待ち構えるヨナは、大剣の柄をギュッと握ると、タイミングよく振り上げた。

 瞬間、落下してきた偽アイは一矢報いようとしているのか、ヨナに向かって拳を振るうも、リーチの差によりヨナの攻撃が先に届く前に、偽アイの体は両断された。


「これで終わりかな」


「恐らく......やはりアイちゃんを斬るのは心が痛いですね」


 ヨナは大剣を消すと、両手を重ねてギュッと胸に当てた。

 その時の表情は眉尻が下がっており、悲しいという感情がよくわかる。


 それに関しては、僕も同感だ。僕も罪悪感がある。

 けど、これがこういう試練だとすれば、ある程度は割り切らなきゃ。


「これ、いつまで感傷に浸っているつもりだ? お主達の本物の姫はこっちにおるじゃろ」


 そう言ってきたのは、本物のアイを抱えている王女様だ。

 すると、先ほどまで眠っていたアイは僅かに身じろぎし、瞼を小刻みに震わせると、目を開けた。

 どうやら僕らがお姫様はお目覚めのようだ。


「アイ、おはよう」


「ん? あ、お兄ちゃんなの.......あぇ? いつの間にアイは眠ってたなの?」


 アイは体を起こすとキョロキョロと辺りを見渡し、最終的にコテンと首を傾げた。

 何その動き、可愛すぎるんだが? ちょっと後で撫でさせてもらおう。

 それはともかく、どうやらアイの記憶に先程の戦闘の記憶はないらしい。


「どうやらアイちゃんは先程の戦闘は覚えてないようですね」


 ヨナも同じ意見のようだ。

 ま、仲間にボコボコにされた記憶なんてなくていいけど。

 とりあえずまぁ、これでここの試練は終わりってことでいいかな?


「王女様、あの壁際にあるレバーを引いて来ればいいんですよね?」


「あぁ、そうじゃ。それだけでよい」


「なんだか簡単ですね」


「それはお主達の戦闘力がおかしいからじゃ。

 普通はもう少し時間がかかる。なんせ、一人というのはわらわもビックリだからな」


 その言葉に、僕は振り返って王女様を見た。

 あれ? 一人じゃなかったの? いや、そんなことは言ってなかったか。


「わらわとて確証的なことは言えないが、この神殿は試練である以上、平均より少し上になると予想しておる。

 故に、わらわが大量の兵士を引きつれここに来た時は、虚像も同程度かそれよりも少し多いぐらいの数が目の前に現れた」


「ってことは、アイちゃんが選ばれたのって......」


「戦力差的に釣り合わない故に、この童で神殿側が妥協したという感じかのう。

 わらわはリツの戦力は、ロゼッタの戦力を知っている以上、ある程度の予測は出来る。

 がしかし、ヨナとアイに関してはわからん。わらわは武人じゃないからな」


 予想するに、仮に僕が虚像になったとすると、それは戦力差的に試練ではくなる。

 自分でこういうのもなんだけど、僕が強すぎるせいで。


 では、ヨナの場合はどうか。たぶん、理由は同じ。

 ただし、この場合は挑戦者側の戦力が大きくなりすぎるからという理由。


 そう考えると、アイで妥協としたというよりは、もうアイでいいんじゃね? 的な感じかもしれない。


 半分諦めというか、考えすぎて一周回ってどうでもよくなったというか。

 どっちにしろ試練突破されるなら、誰を出そうが一緒じゃんみたいな。

 なんかこっちが悪いことしたみたいな気分になってくるな。


「ともかくまぁ、試練を突破したことは変わりない。ほれ、さっさとレバーを下ろしに行け」


「はーい」


 返事をした僕はふよふよと進んでいき、レバーを掴むと、ガコンと下ろした。

 瞬間、レバーが設置されている円盤の縁が緑色に光り、それが円盤の周囲から枝分かれするように広がる。


 それはやがて円盤の上で一つに収束し、太い一本の光となったそれは天井を這って入り口の方へ進んでいった。

 ゲーム脳で予測するなら、恐らく最初の入り口の方に光が向かったと思われる。


「よし、これで終わり。それじゃ、撤収」


 僕達は全員で最初の巨大な扉の方へ向かっていく。

 戻ってくれば、まだ誰もいなかった。どうやら一番乗りみたいだ。

 左右の道に順に移動し耳を傾けてみれば、なにやら大きな音が聞こえた。


 ふむ、もしかしたら同じ試練を受けてる可能性があるな。

 であれば、ここは仲間を信じてここで待つことにしよう。

 そして、アイを撫でながら待つこと十数分。

 ほぼ同じぐらいで残りの皆が戻って来た。


 パッと見すぐにわかったのは、ロゼッタ以外全員苦労してるみたいな感じだ。

 なんというか疲労感が顔に如実に表れていると言うか......うん、お疲れ。


「大変だったみたいだね」


 そんなフワッとした感想をこぼすと、ウェンリがため息を吐いて答えた。


「大変なんてものじゃない。普通に倒すのに苦労した。良心が痛むのもあったしな。

 まぁ、敵がミクモだったのはまだ救いだったけどな」


「な、なるほど、お疲れ......そっちは?」


 僕が話題を蓮に振ってみれば、蓮はその話題を拳矢に投げるように視線を飛ばした。

 すると、拳矢が試練の状況を話し始めた。


「俺達の場合は、蓮が敵になった感じだな。まぁ、なんというか、非常に厄介だったとしか。

 基本糸による遠距離攻撃で、加えて搦め手? ってのも平然と使ってくるし」


「まぁ、蓮って見た目ねちっこそうだしね」


「おい律、それはどういう意味だ?」


 連からギリッと睨むような視線が来るが、僕は華麗にスルーして拳矢に話しかける。


「にしては、ロゼッタは元気そうだけど?」


「あぁ......ほら、この人は体力お化けだし」


「久々にいい運動になった気がする。また他の連中とも手合わせしてみたいもんだな!

 で、戦いの後は一緒に酒を飲んで、その後夜はしっぽりと......」


「なら、おススメな相手がいるよ。リューズっていう狂人なんだけど――」


「あ、ちっす、遠慮しときやす......」


 先程まで元気だったロゼッタが急にテンションをガタ落ちさせた。

 それこそ、両手で自信を抱きしめながらガタガタと震えだすほどには。


 やはりロゼッタにとってリューズという人型の怪物は相当なトラウマらしい。

 そんな彼女の姿を見て、調子に乗った時はリューズを脅し言葉として使おうと決意すると同時に、やっぱリューズってこの世界のバグだろ、とも思った。


「雑談は終わったか?」


 ある程度話に終わりが見えると、王女様が声をかけてきた。


「あ、ごめん」


「謝らんともよい。休憩も兼ねた雑談とわかっておるからな。

 それにわらわが先行したとて意味はなかろう。

 どうする? もう少しだけ休憩するか?」


 王女様がそう聞いてくるので、僕としては準備万端なのだが、周りはどうなのかと視線を巡らせる。

 すると、特に問題なさそうに頷くので、僕はみんなの意見に従い返答した。


「先に行こうと思う」


「そうか。ならば、お主達の意見を尊重しよう」


 王女様は一人扉に近づくと、中心の両手の型がある円盤に手をかざした。

 すると、すでに先の試練によって光がともっていた、中心の円盤の周りにある三つの円盤が、線で繋がるように光を伸ばしていく。


 三つの円盤が全て光で繋がると、巨大な扉はガコンと大きな音を立て、ひとりでに開き始めた。

 ゆっくりと開いた先に見えてきたのは、なんの変哲もない一本道......のように見える。

 すると、扉を開けた王女様が振り返った。


「ここからは海流が発生しておる。

 つまり、その海流に乗って移動するわけじゃが、同じ魚人族でも飲まれるほどの激流じゃ。

 決してはぐれるではないぞ。はぐれれば、海流でミンチにされ、魔物の餌となるからな」


「それは怖いね。だけど、それだけなの?」


「そうじゃな。それだけじゃ。そして、その先にお主達の求める最終地点がある」

 

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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