第181話 ヴァルヴァジア神殿#2
僕達は海底神殿の扉を開き、中に入っていく。
中はこれでもかと言っていいほど殺風景だった。
取り付けてあった巨大な扉のサイズをそのままに通路が続いているだけ。
見る限りちょっとした脇道ものない。
神殿というから久々のこう、探索的なものを期待していたが、どうやらそれはなさそうだ。
なんかガッカリというか......味気ないというか。
しかし、魔物はいるようで、目の前か頭がタコであったり、イソギンチャクであったりした人型の上半身を持ち、魚やサメみたいな尾ひれを持つ魔物が武器を持って近づいてくる。
敵意はあまり感じないが、このまま見逃してくれるという感じではなさそうだろう。
「ほら、皆。水中戦に慣れておかないと後々苦労するよ。さぁ行った行った」
僕は相変わらず僕を潜水艦代わりにしている皆に声をかける。
水中での戦い方は......こう水中抵抗力だったり、浮力などが独特なので意外と感覚が狂う。
加えて、移動先は三百六十度。
グルグルとする視界を制御する術を知っておくのは重要だ。
だから、これは決して僕がサボりたいわけではない。ないったらない。
皆は僕の言葉に一理あると思ったのか、各々動いて魔物と戦い始めた。
その戦闘を見ていると、皆それぞれ戦いにくそうにしていた。
ヨナであれば魔力で生成した武器を振るうが、水の抵抗力に阻まれたり、ウェンリであれば弓を使う攻撃を主としているが、射出した矢がすぐさま失速する。
まぁ、ウェンリは水の精霊がいる分まだマシだろうけど。
蓮は糸の粘着力があまり発揮できていないだったり、拳矢は超近接戦であるが故に近づくが機動力で負けてるだったり。
アイとミクモさんは魔法を発動させようにも、アイの場合は雷で周囲に感電するし、ミクモさんの炎は水中ではほぼ封殺されている。
魔法とかで機動力を補うでもしないかぎり、水中の戦闘ははるかに難易度が高そうだ。
その中でも薫とロゼッタは特に問題なく動けていた。
薫は基本植物を使って攻撃するが、水中で覆われてるこの場ではどこでも発芽・急成長するらしい。
どうやら海水を養分としているようだ。ただし、オブジェクトとしてものすごく邪魔そうだけど。
ロゼッタは尻尾をプロペラのようにして機動力を確保している。
加えて、水中でも問題なくブレス吐いてる。おかしい。
どんだけの熱量の炎を吐き出してることになるんだ。
ただしその場合、瞬間的に大量の泡が発生して視界不良になるため、ロゼッタには封印してもらった。
そうじゃなくても竜人族は肉体のスペックが強いしどうにかなるだろ。
「シーサークラーケンの成体を倒したとて、やはり全てが水中に覆われてるとキツそうじゃな」
僕が後方腕組み体勢で観察していると、王女様がそばによってきてそんなことを言った。
そりゃあね、僕達は基本的に地上での空気抵抗と重力になれているわけだし。けどまぁ――
「すぐに慣れるでしょ。仮に時間がかかっても僕がいるし」
「それは頼もしいな。しかし、それで済めばいいがな」
「どういう意味?」
「ここの神殿が別名なんと呼ばれておるか知っておるか? 心の神殿じゃぞ?」
王女様は忠告したからなとばかりに、意味深な表情をすると、魔物が倒された先を泳ぎ始めた。
その言葉の意味は正直わからなかったが、経験上ロクなことはないことは知っている。
「用心しとくか」
僕はそう考え、王女様の後をついていった。
しばらく魔物を倒しながら進むと、道が三方向に分かれた。
具体的に言うと、正面には巨大な扉がある。
最初の入り口と同じように、輪っかの取っ手の中央に両手の型がついた円がある。
ただし、その周囲に中央の円を囲むように、三つのただの円が存在していた。
そして、その扉の手前に左右、それから下に続く道がある。
「この先は三つの道の先にあるレバーを、降ろしてからじゃないと明かない仕組みになっておる。
加えて、三つとも同時にレバーが下がった状態でなければ、鍵は開かぬ」
という王女様のお言葉だ。
つまり、この先は三手に分かれて行動すべきというわけだ。
となると、下手に戦力分散させるのはよくないよな。
「言っておくが、わらわは戦力にならんぞ」
というありがたいお言葉も頂いたので、それを踏まえて考えよう。
現在、メンバーは僕を含め蓮、薫、拳矢、ヨナ、ウェンリ、アイ、ミクモ、ロゼッタ、王女様の十人だ。
そこから王女様を除くと九人。つまり、三人ずつに分かれていけばいいか。
王女様は適当に待機......は不味いか。魔物が普通に湧くし。
なら、僕の所に適当についてきてもらおう。
んで、水中でも現状問題なく動けるのは、僕とロゼッタ、薫、後ウェンリもか。
ただ、僕とロゼッタは戦力過剰なので、薫とウェンリをまとめてしまおう。
それじゃ、残りのメンバーは――
「僕はアイとヨナと組む。王女様はこっちについてきてくれ。
それから、戦力的にロゼッタ、拳矢、蓮の三人組とする。蓮、接近戦の二人のサポートをしてやってくれ」
「わかった」
「それじゃ、僕はウェンリとミクモってことだね?」
「あぁ、ただ、ミクモさんは鉄扇があるとはいえ、基本魔術師系の戦闘スタイルだ。
近接戦は不得手だと思うから、そこは二人でサポートしてくれ。
で、道は......適当にじゃんけんで決めよっか」
代表者の僕、ロゼッタ、薫がじゃんけんで決めた結果。
僕は正面、ロゼッタ達は右、薫達は左の方に進むことが決まった。
そして、僕は目的地についたら<念話>で連絡することだけ伝え、解散した。
正面を行く僕とヨナ、アイ、王女様の四人は移動して、多少の魔物を倒すとすぐに、目の前に巨大な円盤とそこに取り付けられているレバーを見つけた。
なんというか、とてもシンプルなギミックだ。まぁでも、ゲームの謎解きもこんなもんか。
「待たれよ、お主達」
その時、最後尾を泳ぐ王女様に呼び掛けられ、僕達は振り返る。
すると、王女様は神妙な面持ちをして、この先のことに忠告をした。
「リツ、お主に先に言った通りじゃが、ここは心の神殿。
どれだけ善人を装っていても、いかなる魔法でプロテクトしようと、挑戦者の内を曝け出す。
ここは嘘がつけぬ水鏡じゃ。そのことを忘れるなよ」
「大丈夫。僕達の中に悪い考えをもっている仲間はいないから」
「そういうことではないが......まぁ、主に言っても仕方ないか。とにかく、気を付けるのじゃぞ」
王女様の言葉を受け、僕達はレバーに近づく。
その時、突然四方の壁の隅から気泡を含んだ水流が流れ出し、それが僕達の目の前で合流した、
水流はグルグルと繭を作るように回転すると、その水流が収まった直後、そこには一人に人間が立っていた。
「......アイ?」
僕は目を剥いた。アイ......半透明となったアイがいる。サイズ感も存在感も瓜二つだ。
直後、僕がふと本物のアイの方を見れば、彼女は水中で脱力して動かなくなっていた。
「アイ!」
僕はすぐさまアイを抱き寄せ、体を揺さぶってみる。しかし、反応はない。
胸に耳を当て、心臓の音を聞いてみる。心音は......する。ホッ、良かった。
一先ずの安堵を得た僕は、この状態について王女様に尋ねた。
「王女様......もしかしてこれが?」
「どうやら今回はこの幼子が虚像として選ばれたようじゃな。
安心せい。この神殿の試練のようなもので、この子が死ぬことはない。
もっとも、死なぬのはこの子だけであるがな」
「つまり、僕達は普通に死ぬってわけか。虚像なのに物理干渉とは.....それは恐ろしいな」
「となれば、私達は今からあのアイちゃんを、相手にしなければいけないというわけですね」
僕はアイの体を王女様に任せ、ついでに王女様の体に<オートフルガード>の魔法陣を付与した。
これは二人を守るための防御魔法だ。ここが神殿である以上、何が起こるかわからないからな。
「ヨナ、準備はいいか?」
「はい、問題ありません」
ヨナは魔力で両手に剣を作り出し、構える。
その姿を僕は横目でチラッと見る。やっぱセナにはならないか。
やはりそれが彼女の二人目の人格の意思らしい。
いや、そんなことはわかってた。なのに、やっぱ寂しいものだな。
「アイ、悪いな」
僕は足の裏から<水流>の魔法陣を出し、一気に加速する。
その勢いでアイの眼前に辿り着くと、右手を後ろに伸ばし、同時に<亜空間収納>から剣を取り出す。
そして、それをアイの首筋目掛けて振るった。
「っ!?」
アイは微動だにせず、僕を見る。それだけで僕の攻撃は止まった。
いや、止めてしまったというべきか。
アイそっくりの虚像であるのに、いやそっくりだからこそアイの顔がちらつく。
「リツさん!」
僕はヨナの声にハッとすると、目の前のアイが動き出してることに気付いた。
アイは真っ直ぐ拳を繰り出してきた。
その攻撃を僕が躱せば、今度はアイは逆の拳でフックを放つ。
その攻撃すら僕が防げば、最後に後ろ回し蹴りでもって蹴りを放った。
「っ」
僕が蹴りを腕で受け止め、先ほど動き出した位置の半分ほどの距離まで押し返される。
この蹴りの感じ......アイに修行をつけていた時の威力と同じだ。
ってことは、あのアイは本人と同等の力を持っているってことか。
こんな展開、この世界に来る前のファンタジー漫画で読んだことあるぞ。
「今のあの幼子の力は、この神殿に入った時の生体情報をもとにしたものじゃ。
故に、リツ......この場でお主が虚像にならなくて幸いじゃ」
という王女様の言葉だ。まんまそれだが、いざ体験するとこんなにも厄介とはな。
あと、ヨナは王女様の言葉に「それは確かに」って呟かなくていいから!
僕ってばヨナにすらそんな暴れん坊みたいな認識されてたの!?
「にしても、アイが相手とはな......いや、ヨナであったとしてもやりずらかったか。
相手が男であれば、まぁそれなりの覚悟を持って出来たかもしれないけど」
「なら、私がやりましょう。
心は痛みますが、先に進むためにはどちらかがやらなきゃいけないことです。
死ぬことはないのであれば、まだ刃を振るえます」
ヨナの覚悟が凄い。本当にこの度の中で気持ちが強くなったんだな。
とはいえ、そんなことをアイ大好きなヨナにさせられるわけないじゃないか。
「いや、僕がやる。ヨナにそんな重荷は背負わせられない」
「なら、チャンスがあればやります。それでいいですね?」
「そうだね。みんなを待たせるのも悪いし」
僕は一度大きく深呼吸し、目つきをキリッと切り替える。
相手はアイであるが、躊躇すれば殺される。
それに、アイの安全が確保されてる以上、これ以上偽物に惑わされる必要はない。
「もう一度だけ言う......アイ、悪いな」
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)
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