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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第6章 記憶の継承

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第180話 ヴァルヴァジア神殿#1

 水中での呼吸方法を得ると、僕達は早速水中へと入っていく。

 足元からひんやりとした感覚に包まれ、ズボンが濡れて重くなる。


 そのままバシャンと全身を海中に沈めていく。

 服のせいで若干動きずらくあるが、それも少しすれば慣れるだろう。

 この感覚はなんだか中学の時の着衣永を思い出すな。


 あれは服を着たまま川や海とかん見入ってしまった時の、水難事故防止のための授業だったんだけど、普段感じることない感覚にちょっと楽しかった覚えがある。

 それが今異世界で体験することになるとは思わなかったけど。


 そういや、無意識に口に空気を蓄えて止めてしまってるけど、王女様の話からすると大丈夫なんだよな?

 水中で口を開けていいなんて状況がなかったからなんか緊張する。

 けど、水中が戦いの舞台であるなら早めに慣れてみないとな。


 僕は思い切って口を開けてみた。

 口の中に水が入り込んでくるかと思えば、そんな感覚はない。

 口を開けたり閉じたりを繰り返してもやはり口の中に水を感じない。

 まるで口の周りを空気が包んでいるような感覚でなんとも不思議だ。


「どうじゃ? 普通に呼吸ができるじゃろ?」


 王女様がゆらゆらと近づいてくる。

 さすがに魚人族だけあって泳ぎ慣れているようだ。

 僕は喉に手を当てて声を出してみる。


「あ、あー.....いろはにほへとちりぬるを.......うん、問題なさそうだ。

 にしても、水中でしゃべれるなんて.......いや、説明されてたからできると思ってたんだけどね?」


「ククク、相変わらずこの手の反応は新鮮が一番じゃな。

 肺呼吸しかできないお主達には不思議な感覚じゃろうが、それも時期に慣れる」


「ちなみに、これって水分補給とかってする時はどうなるの?」


 旅には欠かせない必須アイテムである水筒。

 しかし、それは水中では使えない。蓋を開けた瞬間に中身が溢れるかもしてないし。

 呼吸のおかげで水中での行動に制限はなくなったけど、さすがに水分補給は出来なきゃ不味い。

 そう聞いてみるといつの間にか目の前で逆様になっていた王女様は答える。


「そこら辺は安心せい。呼吸藻は水の浄化能力が高い海藻なのじゃが、不思議なことにそれはお主達が口に含んだとしても作用する。

 つまり、水を飲みたい時はそこら辺の水をすくって口に押し当ててみるがよい」


 「ほれ、何事も実戦じゃ」と言われ、僕はそこら辺から水をかき集め、言われた通り口に押し当てる。

 瞬間、開けた口の見えない膜を通り越して、口の中に水が流れ込んできた。

 海水だから多少塩っ気があると思ったが、普通に水だ。それも美味い水。


「ほれ、普通に飲めるじゃろ?」


「うん。それも普通の水より美味い」


「よし、全員呼吸ができるみたいじゃな。ならば、早速行くぞ」


 王女様が先導して泳ぎ始める。

 その後ろを追うようにして僕達も泳ぎ始める。

 しかし、さすがに服の水に対する抵抗力が強くて中々進めない。

 対して、王女様は慣れた様子でドルフィンキックで先へ進む。

 仕方ない。少し風魔法で推進力を出すか。


 そう思って両足から<強風>の魔法陣を発動させた瞬間、僕の両手が突然掴まれる。

 びっくりして振り向けば、右手には蓮がいて、左手にはヨナがいた。

 蓮の先には拳矢、薫、さらにミクモさんの姿がある。

 また、ヨナの先にはウェンリとロゼッタの姿が。

 あれ、アイの姿は――と思った矢先に背中に重量がかかる。


「お兄ちゃん号、出発なの!」


 こ、こいつら、僕に捕まって泳ぐのサボろうとしてるな?

 アイはいいとしても君達は自力で泳げるでしょうが! 特にそこの駄竜!


「こら君達、もう少し自分で泳ぐという気概はないのか?」


「だって、楽だし」


「そうですね。ふふっ、楽ちんです」


 蓮とヨナがそんなことを言う。これだから現代の若者は.......ん?

 いいだろう、そっちがその気なら僕も手加減しない。


「アイ、しっかり捕まってろ!」


「ラジャーなの!」


「行くぞ、きりもみ大回転!」


 僕は体を捻りながら泳ぎ始める。イメージとしてはドリルみたいな感じだ。

 当然、僕が中心となっているため、両手に繋がれた彼らは遠心力にグルグル。


「「「「「うああああああ!」」」」」


「キャーーーー♪」


 アイ以外から絶叫の声が聞こえてくる。

 ふふっ、これが僕に主導権を握らせた末路だ。

 すると、それを見ていた王女様からは「遊ぶな」と怒られてしまった。

 なので、仕方なく僕は「お兄ちゃん号」として泳いでいくことに。


「ん、お兄ちゃん、魔物が来る音がする......気がするの!」


「自信があることはよろしい」


 僕はアイの指さされた方向を見る。すると、一匹のサメが近づいてきていた。

 当然、水中にも魔物がいるのは知ってたが、あのサメ......なんかデカくね?

 パッと見五メートルぐらいありそうだし、ヒレや背びれがマジのブレードになってる。

 あれ、辻斬りされたら普通に死ぬくね?


「なぁ、僕、両手塞がってるし、誰か倒して――」


「とお兄ちゃんが言ってるぞ、アイ」


「そうですね。お兄ちゃんが言ってますよ、アイちゃん」


「おい、そこでアイに振るのは酷いだろ」


「よし、アイがやってやるの! お兄ちゃん号、砲撃準備!」


「え、それ、結局やるの僕じゃね?」


 そう思うも、アイには僕すらも逆らえない。

 ならば、もう僕は「お兄ちゃん号」としてこの船の実力を見せてやろう。

 僕は口を開け、そこに魔法陣を作り出す。

 作り出した魔法陣は<豪水砲>であり、一言で言えばハイド〇ポンプだ。


 魔法陣に周囲の水が渦を巻くように集まる。

 そして、それは次第に目に見えるまでハッキリと形になり、直径五メートルほどの水ブレスを発射した。


 それは真っ直ぐ飛んでいき、目の前のサメの魔物に直撃した。

 その魔物は水圧に押し飛ばされ、やがて近くの岩に直撃する。

 そのまま動かなくなった感じ、どうやら倒したようだ。


「ふふん、どんなもんだい!」


「お兄ちゃん号、よくやったの!」


 アイから頭を撫でられる。いつもは逆だからなんだか妙な気分だ。

 しかし、存外悪い気がしないのは相手がアイだからかもしれない。

 すると、そんな光景を近くで見ていた王女様が言った。


「なんじゃあの威力......あれほどの水魔法を瞬時に扱える者など魚人族にいるかどうか」


「だーから言っただろ? この男に常識を求めちゃいけないって」


 おい、ロゼッタもとい駄竜。変なことを言うんじゃない。

 駄竜のせいで王女様がドン引きしたような顔で僕を見てくる。

 せっかく魔物を倒したのになんだこの解せない気持ちは。


「よしよーし、お兄ちゃん大丈夫だからね~」


 そして、アイは状況を察して慰めないでくれ。

 何にも悪いことしてないのに余計に惨めに感じちゃうから!

 結局、僕は王女様から「暴れすぎるなよ?」と注意され、王女様の後を追いかける。


 しばらく潜っていくと神殿らしきオブジェクトが見えてきた。

 パッと見で思い浮かんだのは、ギリシャの神殿みたいな感じだろうか。

 こう、屋根があってそこから床に向かって柱がいくつも支えてる感じ。


 近くまでくればよりそのような感じだった。というか、まんまそれ。

 だいぶ年期が行ってるのか柱は所々ひび割れてたり、欠けてたり。

 それでいて藻のようなもので彩られている。


「ここがヴァルヴァジア神殿じゃ。本来、わかわでもそうそう訪れない場所。

 とはいえ、一度も訪れたことのない場所というわけではない。

 入り口はもう少し先にある扉じゃ。その際、少し力を貸してもらうぞ」


 王女様はドルフィンキックで颯爽と進んでしまう。

 その後ろを少し遅れてついていくと、やがて見えてきたのは巨大な両扉。

 大きさだけで十五メートルぐらいある気がする。


 扉の中央には二メートルほどの錆びついた輪っかがあった。

 あれが扉の取っ手なのだろう。

 にしても、ギリシャの時もそうだったけど、どうしてわざわざこんなデカいものを作るのか。


「今から開ける準備をする。少し待っておれ」


 王女様は扉の中央に近づいた。

 中央(両開きドアの境目)には五十センチほどの円があり、そこには人型の両手の跡があった。

 その両手に王女様は自身の両手を合わせていく。


 瞬間、その円から放射状に光が伸びていき、やがて扉全体を広がった。

 恐らくこれをするのに王女様の力が必要なのだろう。

 つまり、王女様自身が神殿の鍵であったということ。


「ゼェゼェ......相変わらずめちゃくちゃ体力もっていきおってこのアホ」


 王女様は肩で大きく息をしながら、神殿の扉をガッと殴る。

 水中のせいで汗をかいてるとはかないけど、言動から疲れているのは一目瞭然だ。

 それはそうと仮にも大切にしてる神殿を殴って良かったのか?


「ほれ、次はお主らの出番じゃ」


 王女様は僕達の方を向くと、親指を後ろに向けてそう言った。

 僕は扉の方にある輪っかを見て確認する。


「あの輪っかを使って扉を開けばいいのか?」


「そうじゃ。とはいえ、いかんせん大きい分重くてな。

 開ける時も兵士や民の総出でもって引っ張らなければならん。

 ハァ、なんで昔の王族はデカく作ったんじゃろうな。

 定期的に開け閉めするんじゃろ? アホか」


 王女様、そこら辺で。一旦落ち着きましょうか。

 僕も同じことを考えましたけど、王女様が言うとだいぶ意味合いがことなります。

 僕は蓮とヨナに手を放してもらうと、ロゼッタの方を見た。


「おい、駄竜。行くぞ」


「え、あ、おん......あ? 今、駄竜って言わなかったか!? アタシのこと駄竜って言わなかったか!?」


 王女様がこれ以上愚痴をこぼす前に、僕はうるさい駄竜をつれて輪っかへと移動する。

 そして、それぞれの扉についている輪っかを僕とロゼッタが持つと開くように引っ張る。


 めちゃくちゃ重たかった。

 確かに、これは片方引っ張るのに五十人ぐらいいるんじゃないだろうか。

 扉はガガガと鈍い音を響かせ、水中に砂が舞った。

 そして、人が入れる程度に開けると、輪っかを離す。


「ご苦労じゃった。これより神殿の中に入る。

 神殿は神の意思そのもの。故に、入った瞬間試される。

 お主らなら大丈夫と思うが、気を引き締めておけ」


 王女様の忠告を受け、僕達は神殿に入っていった。

読んでくださりありがとうございます。

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