表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第6章 記憶の継承

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

177/185

第177話 神殿の巫女

 ロゼッタが海底神殿への話を切り出した瞬間、僅かにだけど空気が変わった気がした。

 その空気感を主に出しているのは先程から沈黙している王女様だ。

 発言をした僕のことを品定めするように視線をぶつけて来る。


「どうしてそのような場所に行きたいのじゃ?」


 王女様が初めて発言した。加えて、しゃべり方からのじゃ系らしい。

 そして、僕が答えようとした時、自己紹介していないことに気付いたのか王女様は咄嗟に言葉を続けた。


「すまない、まだわらわ達の自己紹介がまだじゃったな。

 わらわはアイナルセ、隣におるのが国王のルドローグじゃ。

 して、話を戻すがどうしてお主達は海底神殿にようがあるのじゃ?」


「あそこにいるであろう守護神に用があるんです」


「守護神とな。確かに、あの神殿には獣に身を堕とした女神様が守護しておる。

 過去に邪な理由で神殿に潜入した阿呆もおったが、そういう奴らが帰ってきたことは一度もない。

 それほどまでに危険な場所じゃ。そして、そんな場所に神殿の巫女たる童が許可するわけがない」


 なるほど、王女様は神殿の巫女だったのか。であれば、疑うのも無理はないか。

 しかし、僕達がこの世界の真実に近づくにはこの神殿に行かなければならない。

 これが証拠になるかわからないけど、二人の神に会った際に手に入れたものを見せてみよう。


「これを見て欲しい」


 そう言って取り出したのは装飾の施された取っ手と僅かに伸びた棒という中途半端な金属。

 改めて見ると、四人の女神で完成すると考えると、残すは刀身のもう半分と刃先って感じかな?

 だけど、見た感じ棒って思うほどにはただの円柱なんだよな。

 金色のパイプに取っ手が付いたようにしか見えない。


「っ!?」


 それを魔法陣から取り出すと、それを見た王女様の反応が変わった。

 いや、王様も同じように驚いている。もしかして、これが何か知ってる?


「どうしてお主がそのようなものを!? 父上、これはまさか......!?」


「あぁ、初めて見るがこの神聖な魔力......間違いない。先代の言葉は本当だったんだ。

 であれば、この者が蘇りし人物だというのか!?」


 話が見えない。どうやら事前に情報を持ってる二人で話が進んでしまってるようだ。

 どうにか僕達にも共有をして欲しい。一番知りたいのこっちだっての。

 そんな願いが届いたのか取り乱していた王女様は一つ咳払いしてしゃべり始めた。


「取り乱してしまった、すまない。まず確認したいのじゃがお主達は何も知らないのか?」


「はい、何も知りません。

 ただ同じような遺跡を攻略......というか神に出会った際に受け取ったものです。

 これを全部で四つあるらしく、残りの二つを集める必要があります。

 それで情報を集めた結果、残りの二つのうち一つがここにあると聞きました」


「確かに、その鍵について海底神殿を訪ねるのは間違ってない」


 鍵? これは何かの鍵なのか?


「今、鍵と言いましたが、これは鍵なんですか?」


「そう先代からわらわも父上も聞き及んでおる。鍵の形をしたものであるものとはな。

 しかし、それが何を開くための鍵であるかは定かではない。

 聞くためには直接聞く必要があるじゃろうな」


「ということは、海底神殿に行く許可を出してくれるんですか?」


「あぁ、わらわがあの神殿の巫女として守護していたのは全て先代の言い伝え故じゃ。

 先代はこう言っておった『いつの日かこの世界に勇者が召喚される。それは勇者としての宿命を背負い、並びに世界の宿命を背負うもの。かつての因縁に立ち向かえるものはそのもののみ。女神が認めし鍵を握りし勇者に道を示せ。さすれば、世界の命運は変わらん』とな」


 勇者が召喚される.....それは間違いなく僕達のことを指しているだろう。

 僕達はクラス単位で召喚されたけど、職業ではなく召喚された者を広義的に”勇者”と呼ぶから。


 となると、”勇者としての宿命を背負い”は、魔族と戦うことを指すのか?

 だけど、それはあくまで召喚された国からそう説明を受けただけで、実際に魔族から親交を受けたという報告は一度もない。

 いや、魔神の使途のことを魔族と勘違いすることはあるかもな。


 とにもかくにも、”世界の宿命を背負うもの”ってのも似たような意味だろう。

 勇者ってのは基本的に人類では抗いのようない運命に立ち向かう存在なのだから。

 そういう意味では、世界の宿命は勇者の手にかかってる。


 そして、次は”かつての因縁”って言葉だけど......これは昔から戦いが続いている人族と魔族の因縁って意味で間違いないんだよな?

 勇者として呼ばれた僕達が抱える因縁なんてそれぐらいしか思いつかないけど。

 だけど、この一文が妙に引っかかる。


 というか、考えてみればどうしてこの言葉は召喚したクロード聖王国には伝わってないんだ?

 ゲームとかで例えるのもあれだけど、普通はそれほど重要な言葉を伝えないのはおかしい。

 まだ実力が伴っていなかったから伝えてないだけとか?


「.......」


 僕はチラッと拳矢を見たが、案の定初めて聞いたような反応だ。

 ふーむ、そう考えるのが妥当なのかもしれないな。

 にしても、こうして聞けば聞くほど魔族はこれといって何もしてねぇ。

 勇者がいるなら多少動きがあってもいいはずなのに。謎だ。


「まぁ、僕としては神殿に入れさえすればいいです。これで僕からの要望は終わりです」


「わかった。わらわはこのような答えじゃが、父上も同意見でよいか?」


「あぁ、それで問題ない。では、改めて依頼の件はご苦労だった。

 明日の夜に祝宴を開かせていただく。それまでゆっくりしているといい」


 これにて王様との謁見が終わり、僕達は王の間から出て言った。

 それから、ヨナが全員を呼んでくると城を出ていき、僕は案内された部屋でゆっくりすることに。

 客室用とは思えないキングベッドにゴロンと寝そべる。


「なんというか思ったよりあっさりだったな......」


 それが今僕の心を満たしていた。

 いや、別に僕の目的がスムーズに進行すること自体はいいんだけど、神殿という神聖な場所にこうもあっさり人を通してくれる辺り。

 いくら僕が神殿に関係する物を持っていたからといって、それだけで信用するのはどうなのか。

 もしこれが盗んだものであればどうするつもりだったのか。


「ま、いいや、にしても本当にこの世界はなんなんだ......?」


 そう呟いた直後、コンコンガチャと僕が何か言う前にロゼッタが入ってきた。

 ノックする礼儀があるならもう少し我慢できないものか。問答無用で入るなよ。


「よ、飲もうぜ」


「だから、僕は飲まないって。っていうか、何の用?」


「なんだよ、用が無きゃ来ちゃいけないってか? つれないなぁ、アタシとお前の仲だろ?」


「卑猥な手つきやめろ。一回もそんな事実はない」


「えー、なら、せっかくだしどうだ?」


「リューズのもとに送り付けるぞ」


「ごめんなさい。それだけは本当にやめてください」


 この酔っ払いめ、大人しくしてりゃ美人なのに残念過ぎる。

 だが、その変態竜人でも相変わらずリューズは弱点(トラウマ)らしい。

 今後はこのカードを遠慮なく切らせてもらおう。しつこかったら本当に送る。


「で、本当に何の用だ?」


「さっき言った姫様の言葉が妙に引っかかってる感じがしてな。

 なんつーか、文章自体は勇者のことを指しているはずなのに、なぜかアタシが思っているような勇者像と一致しないっつーか」


「どういうこと?」


「実はな、アタシの国にも似たような言葉があるんだよ。

 で、さっきの姫様の言葉を聞いて思い出したって感じだ。

 姫様が話している時、なんだか気にしてる様子だったからな」


 変な所で意外と見てるな、この酔っ払い。

 しかし、竜人族にも似たような言葉があるとは興味深い。

 是非聞かせてもらおう。


「それでその話ってのは?」


 僕がそう聞くとロゼッタはベッドに座り、話を始めた。


「正直、アタシが小さい頃......加えて、興味があった内容だった感じもしないから合ってる可能性も少ない。それでもいいか?」


「あぁ、こっちが聞いて判断する」


「わかった。じゃいくぜ、ごほん......『この世界は混沌に飲まれた。まもなく暗黒が世界を支配するだろう。しかし、その暗黒も朽ちた勇者の片割れがこの世界に呼び出されれば話は変わる。それがこの世界の運命を決める最後の機会だ。もしオマエが出会ったとき、こう伝えてくれ――ロキが待っている』ってさ」


「ロキが待っている......?」


 誰かわからない。にもかかわらず、心の琴線に触れた気がした。

 知らないはずなのに、僕の心は知っていると言っている。

 どうしてこんなに懐かしい気持ちになるのだろう。


「お、おい、どうした!? なんで泣いてんだ!?」


「泣いて......」


 僕はそっと頬に触れた。確かに湿っていた。

 なんで僕は泣いてるんだ? 懐かしさに泣いたってことか?

 わからない。だけど、状況や気持ち的にそうなのだろう。

 そして、無性にロキという人物に会いたい。

 なんだ焦がれるようなこの気持ちは。


「なぁ、そのロキって人物に関してもっと話はないか!?」


「近い近い! 急に顔が近いぞ! どうしたってんだ!?」


「あ、ごめん.......」


 僕は勢いよく迫ったことを反省し、そっと距離を放す。

 珍しく戸惑った様子のロゼッタは一つ咳払いして気を取り直すと、質問に答えてくれた。


「残念だが、アタシはそれ以上の話は知らない。覚えてないのかもしてないが。

 アタシにとって興味があるような内容じゃなかったしな。

 その話をしてくれた大長老様は数十年前に死んじゃったみたいだし、今の長老なら知ってると思うが」


「そうか.....にしても、なんでか懐かしい名前を聞いた気がした」


「ロキってやつか? アタシは正直、よくわからんけどな。

 だって、お前は別の世界から召喚された人物なんだろ?

 で、ロキって奴は現地民のはずだ。であれば、接点がない」


「巫女的な存在ならあったんじゃない? 神様のお告げみたいな感じで聞かされてたとか」


「あぁー、それは確かにありそうだ。まぁ、なんにせよこれでアタシの話は以上だ」


 ロゼッタは立ち上がり、ドアに向かって歩き出した。


「また何か思い出したら言うわ。じゃあな」


 そして、ロゼッタは部屋を出ていく。

 その後ろ姿を僕はどこかの誰かに重ねて悲しく感じた。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ