第174話 シーサークラーケン討伐戦#3
空中に舞うシーサークラーケン。その姿の全容を僕は見た。
まぁ、イメージ通りのクラーケンなのだが、やはり特徴的なのは足。
さながらキメラのように足は独立した生物となっており、足先にあった鱗は本体に近づくにつれてタコ特有の体に変化している。
「ロゼッタ! これで攻撃出来るだろ!」
「ハハ、最高だぜ! リツ!」
僕はシーサークラーケンの巨体をぶん投げただけだ。
下は海であり、大した威力も無ければ再び潜られてしまう。
しかし、それでも本体を引きずり出したのは全てはこのため。
これから放たれるのは積年の恨みを持つ竜人族の一撃だ。
「野郎ども、船長留守の船を頼んだぞ!」
「「「「「おぉ!!!」」」」」
大量のサハギンに侵入されて多くの船員達が船で暴れる中、船長の声には一糸乱れぬ返答がされた。
ロゼッタは大事な船を船員達に任せると、背中から翼を生やし空中に飛び出す。
「よう、人が気持ちよく航海中に随分と邪魔してくれたよな。
お前のせいで一体何人の仲間達が死んだと思ってやがる。
これまでずっと水中にいていい気になってんじゃねぇぞ! シャバの空気を味わえ!」
ロゼッタは全身から魔力を放出する。同時に、体を光らせた。
すると、光の奥から見える影はみるみるうちに巨大化し、シーサークラーケンと同等のサイズに変化する。
「これがアタシの竜化変形だ。これが恨みの一発分!」
ロゼッタの竜化を一言で表せば赤色の竜であった。
ただし、四つん這いで動くようではなく、むしろ人の形に近いような状態。
背中から生えた巨大な翼をはためかせ、一瞬にして加速する。
空中に赤い閃光が通り抜けるようにシーサークラーケンに近づいた。
未だ空中に浮かぶシーサークラーケン。
そこに向けられるは竜化したロゼッタにより巨大な拳の一振り。
刹那、拳はシーサークラーケンの頭を捉え、思いっきり吹き飛ばす。
「ぬおっ!?」
しかし、シーサークラーケンもただではやられなかった。
ロゼッタが接近してきたことを良い事に、足でロゼッタに絡みつき、そのまま吹き飛ばされた勢いを利用して後ろにぶん投げたのだ。
「リツ! 危ない!」
つまり、それはシーサークラーケンをぶん投げた僕に向かってくるというわけで。
さすがにシーサークラーケンに投げられたとあっては、竜化でも空中機動のコントロールは難しいようだ。
とはいえ、来られても困るのでお帰り頂こう。
「んぎっ!? 」
僕はロゼッタを躱すと同時に、背後に回り込み尻尾を掴む。
物凄い勢いに体が持ってかれそうになったが、そこは気合で乗り切る。
それから、尻尾を引っ張られて苦しむロゼッタの声が聞こえるがそれも無視しよう。
リューズと戦った経験があるならこれぐらい大丈夫、大丈夫。
「舌噛むなよ、ロゼッタ!」
「うおおおおおぉぉぉぉぉ!」
<火炎放射>と<強風>の魔法陣を利用し、ジェットエンジンのように回転に勢いをつける。
そう、これから僕がやろうとしていることはハンマー投げだ。ただし、チートありの。
ゆっくりと回し始め、時間経過でブンブンブンブンとぶん回す。
そして、速度が最大になった所で返却。
「ぶっとべ!」
「リツ、後で覚えてろよおおおお!」
申し訳ないが覚えるつもりは無いのでよろしく。
ともあれ、投げたロゼッタはあっという間にシーサークラーケンの下へ。
再びシーサークラーケンの頭に突進する。
「ぬおおおおおぉぉぉぉ!」
ロゼッタの攻撃はそれだけにとどまらなかった。
竜化して力が増したことを活かし、シーサークラーケンの巨体に爪を刺して固定。
さらに翼を大きく動かし、上空へと巨体を運んでいく。
そして、巨体を空中にぶん投げた。絶対に水中に行かせない意思を感じる。
「リツ、お前ならかませるだろ。ドでかい一発をよ」
「無茶言うなぁ。ま、いけるけど」
ロゼッタが上空に移動してた時点で準備はしていた。
シーサークラーケンの真下の海面に氷の足場を作って立ち、真上に両手を上げる。
さらに両手に魔力を集中。
「あ、お前!」
瞬間、シーサークラーケンはロゼッタから解放されたことをいいことに、全ての足から水ブレスを発射してその推進力で落下速度を上げた。
狙いはこのまま僕を海に沈めると同時にホームへ帰還することだろう。
だけど、そんなことをさせると思うかい?
「降りる氷の竜巻」
空中に向かって渦巻く風を発生させる。それで大気を掴み、引きずりおろす。
すると、上空の空気が真下に向かって吹き下ろす降りる竜巻が完成。
そこにさらに冷気を混ぜることで、その竜巻はさながら冷気の砲撃へと変わる。
吹き下ろされた風はシーサークラーケンのブレスを凍らせ、その巨体を覆いながら海面に直撃。
まるで爆弾を投下したかのような衝撃が周囲に広がる。海面に発生した吹雪というべきか。
それは海面の周囲数百メートルをたちまち凍らせていく。
多少下にも凍っただろう。つまり、氷のプレートが出来たも同じだ。
―――ドンッ
そこに凍ったシーサークラーケンが落ちてくる。
しかし、芯まで凍ったわけじゃなさそうだ。
本体はそのままだし、両手足も一部残ってる。
あれぐらいでは再生されるだろう。
とはいえ、足場は奪った。反撃開始だ。
「ロゼッタ!」
「おうよ!」
ロゼッタが氷の足場まで下りてくる。
隣に立たれるとホント首が痛くなるほどにでかいな。
そんなことを思っているとロゼッタがギロッと睨んできた。
「おい、リツ! さっきの攻撃は凄かったが、危うくアタシまで巻き込まれそうになったんだが!?
アタシよりでかいあのシーサークラーケンで体の半分が凍ってんだぞ。
アタシなんか全身凍ってそのまま死んじまうところだったじゃねぇか!」
「大丈夫、大丈夫。リューズという理不尽に出会っていたのなら生きれると思ってたし。
そんなことよりも今は目の前のことに集中しよう。ほら、やる気満々だぞ」
「そんなことって......ホント後で覚えておけよ? 勝てなくてもやってやらぁ」
「はいはい。んじゃ、とっとと終わらせるよ」
そんな話をしてる間にシーサークラーケンは自身の口のある足で凍った足を自切。
そして、切った断面から健全な足を再生させた。
「やっぱり再生能力が高いね。今のとこ足だけしか再生させてないけど、恐らく全身も似たような感じとして想定した方がいいと思う」
「なら、再生が追い付かないほどにダメージを与えるか、再生させないほどの一撃で屠るかの二択だな」
「そこの状況判断はロゼッタに任せるよ。ともかく、今は攻撃あるのみ!」
僕はシーサークラーケンに向かって走り出す。
その魔物は足先から水ブレスを放って攻撃してくるが、その前にロゼッタが立ち塞がった。
「おらおらおらー! 邪魔すんな」
ロゼッタが翼を前面に張り出し、盾のようにして数多の水ブレスを防いだ。
そして、盾を構えながら突撃する重騎士のように敵へ突撃していく。
なので、僕はその後ろからついていった。楽だしね。
ロゼッタが先行し、水ブレスを弾き飛ばした。
口を大きく開け、そこから放たれた巨大な火球はシーサークラーケンに直撃。
されど、それは正面から受け止められ、代わりに触手で両手や首を絞めつけらて行く。
「ふんぬうううう!」
拘束されて動けないロゼッタ。
抵抗してもがいている......かと思っていれば、それは少し違った。
翼を大きくはためかせ、両腕に血管が浮き出るほど力を込めれば、あの魔物の巨体を持ち上げた。
それはさながらジャーマンスープレックスのように向かって.......え?
「ちょ、これ僕に向かって落としてない!?」
「さっきの恨みをついでに晴らしてやる!」
どうやら尻尾を掴んで投げ飛ばしたことといい、魔法の巻き添えになってしまったことといい、思ってる以上にロゼッタはお冠だったようだ。
その恨みがシーサークラーケンを通して僕に向けられているようだ。
いや、その魔物に対する怒りはどこへ行った?
「白轟雷鳴」
僕は両手に魔法陣を作り出すと、それを頭上に掲げる。
作り出すは白く眩く雷撃。それを天に降り注ぐ雨のようにして攻撃。
シーサークラーケンの体は巨体なのでよく刺さる。
「竜火砲」
さらに両手から一つの巨大な魔法陣を作り出し、竜が放つブレスのごとき一撃で吹き飛ばす。
「おいおい、なんで人族のお前が竜人族の、それも竜化した時のブレスを放てるんだよ」
「それは魔法陣の研究の成果のたまものだね」
「そうやって知らず知らずのうちに秘伝は秘伝じゃなくなるんだな。
まぁ、お前みたいな魔法陣に造詣が深くで、さらにバカ魔力があって初めて成立するもんだからいいっちゃいいんだけどさ。複雑ではある」
「まぁまぁ、それよりも敵はまだ生きてる。かなりの耐久力だ。
それにやっぱり頭を多少破壊したぐらいじゃ再生してる」
シーサークラーケンは<竜火砲>を食らって空中に吹き飛ぶ。
しかし、魔力反応があることから生きてるのは確か。
そんなことを考えながら見ていると、その魔物は水ブレスを利用してさらに上昇した。
「アイツ、水の噴射を利用して逃げる気か!?」
「いや、違う。それにしては角度が真上すぎる。これは......」
シーサークラーケンの魔力反応がどんどん小さくなる。
つまり、それほど高く上昇したということだ。
すると今度は魔力反応がすごい勢いで近づいてきた。
やはり相手の狙いは捨て身の突撃らしい。
「さっき僕相手にやろうとしたことだね。
違いがあるとすれば、かなりの上空からの速度を上げての落下。
あの魔法陣の構築がちょっと面倒だから間に合う感じしないな」
「なら、どうすんだ?」
「決まってる。二人でぶっぱなして終わらせるんだよ!」
「なるほど、了解した!」
ロゼッタは僕の意図を理解し、上空に向かって大きく口を開ける。
それに合わせ、僕も頭上に両手を伸ばし、魔法陣を展開する。
「準備はいいか?」
「ハッ、誰に言ってやがる?」
「なら行くぞ!――」
「「竜星攻」」
その昔、一匹の竜が夜空に瞬く星に目掛けてブレスを放ち、星を砕いたとされる。
その逸話に基づいた攻撃こそこの<竜星攻>だ。つまり威力はお墨付き。
それが実質二本も放たれるというのだから相手はたまったものじゃないだろう。
嵐の中で天に伸びる二本のブレス。
それは途中で融合し、一本の極大ブレスへと変わる。
ブレスは余裕でシーサークラーケンの全身を飲み込み、雷雨に風穴を開けた。
ブレスが消えれば、開いた穴は衝撃で少しずつ広がり、天のはしごを降ろした。
「これで長年の因縁も終わったな」
「ハッ、ざまぁねぇぜ」
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)