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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第6章 記憶の継承

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第172話 シーサークラーケン討伐戦#1

 暴風雨が吹き荒れる中、僕達はずぶ濡れになりながら甲板に立っていた。

 船首にはロゼッタがおり、彼女はそこから遠くを眺めている。


「見えてきたぞ。大渦が」


 柵に手をかけて進行方向を見る。ロゼッタの言う通り巨大な渦潮が見えてきた。

 大きさは......百メートルほどはあるだろうか。デカい、とにかくデカい。

 まるで海に漂うありとあらゆるものを飲み来んばかりの凄まじさだ。


操舵者(アントニー)! このまま大渦の外側をぐるぐると回り続けろ!

 お前がこの船の命綱を握ってる! くれぐれも引きずり込まれんなよ!」


「任せろ、頭ァ!」


 ロゼッタの指示によって船は大渦に巻き込まれないギリギリのラインで周回を始める。

 しかし、回ってるだけで特に渦潮から何かが現れるような気配はない。

 確かに、渦潮の下からは何か強大な気配が伝わってくるが......。


「ロゼッタ、これからどうするんだ?」


 そう尋ねてみれば返ってきた言葉はシンプルだった。


「ここからド派手な落雷をぶちかますんだよ」


 船首から甲板に戻ってきたロゼッタ。

 そんな彼女の近くに複数人の船員が布に書かれた魔法陣を広げながら床に設置していた。

 この魔法陣は......


「<天雷豪槍>の魔法陣か。確かに雷系の魔法陣としては破格の威力の一つだね」


「お、わかるか。あぁ、ただし一発限りだけどな。

 魔力消費もバカにならんし、何よりうちの船員に魔法が得意な奴がいないしな。

 数がこれだけいても一人もいないんだぜ? そんな珍しい職業でもないと思うけどな」


 この船に乗っているのは僕達を除けば二十人ほど。確かに、これだけの数がいていないのか。

 でも、別に職業が魔法系でなくても、戦闘系職業でも魔力を持っている人はいるからな。単純に運がなかっただけだろう。


 にしても、この魔法陣......発動はするが偉く魔力経路が雑だな。

 まるで絡まった毛糸みたいになってる。ぐちゃぐちゃもいいところだ。

 これでは魔力の伝達だけで余計な魔力を消費し、さらに発動した際も威力が減少する。


 故に、僕としては非常に作り直したいところだ。

 だが、布に魔力のインクで直描きしてるから書き足すことは出来ても、やり直すことは出来ない。


 というわけで、ここは書き足して本来の魔力経路を廃止し、新たな魔力経路で魔法効率を上げるとしよう。

 ただ、魔法陣というのは日本刀のように一つの目的に特化させたような美があるからな~。それを崩すというのは非常に悲しい。


「ロゼッタ、その魔法陣に書き足していいか? どうせなら威力を増幅させる」


「そんなことができるのか?」


「リツは魔法陣設置師という特殊な職業なんだ。

 だから、魔法陣に関してはこの中では誰よりも詳しい」


 ロゼッタの疑問にウェンリが代わりに答えてくれた。

 というわけで、僕は床に置かれた一変一メートルほどの正方形の布に近づき、魔力経路を確認した。

 なるほど、ここがこうなって......こうでこういう感じか。魔力インク、魔力インクっと。


 魔力インクを片手に持つと、ゴチャゴチャしてる魔力経路部分の魔法陣の術式に大きくバツ印をつける。そして、そこから別の術式を書き足し、重要な経路に繋げる。


 あぁ、ほら、円形の魔法陣からちょろっと紐が伸びたみたいになってしまった。

 美しさの欠片も無い。せめて円形のままであればまだ良かった。だけど、それだと上手く行かないし仕方ない。


「これで完成だ。ちょっと不格好になってしまったが、威力はお墨付きだ。

 これがあるってわかっていたら時間があるなら作り直してたけど」


「まぁ、素人も同然の野郎どもが必死に魔導書と比べっこしながら描いたもんだからな。

 それよりも使えるもんだったら何でもいい。どうせ対シーサークラーケンようだしな」


「切り札は持っておくものだよ。でも、今回は初っ端に仕掛けるみたいだけどね」


 魔法陣を眺めていたロゼッタが柵の方へ近づいていく。

 僕達の乗っている船の数メートル横はもう大渦の範囲内だ。

 大渦の中心は五十メートルほど先にあり、今もなお流動的に海を飲み込み続けている。


「それじゃ、野郎ども準備はいいか!」


「「「「「おう!!!」」」」」


「リツ、お前は?」


 ロゼッタが尋ねてくる。

 僕はふと周りを見渡し、拳矢、蓮、薫、ヨナ、ウェンリ、ミクモさん、アイがいるのを確認する。

 そんな仲間達も全員覚悟を決めたような目で頷いていた。

 そこには微塵も恐怖の揺らぎが感じられない。


「問題ない。当然、僕の仲間もだ」


「ハッ、そりゃ上等! なら、早速かますぜ! 野郎ども――魔法陣、起動準備!」


「「「「「起動準備よーし!」」」」」


「んじゃ、いっちょぶちかましたれ! 忌々しいあのクソッたれに目覚めの一発をな!――発射!!」


 ロゼッタの合図に魔法陣を囲む数人の船員達が魔力を流し込んだ。

 発動意思を乗せた魔法陣は瞬く間に発光し、上空に向けて光の柱を放つ。

 曇天に光が突き刺さる。しかし、すぐには何も起きない。


「おい、リツ。発動しないぞ」


「そりゃ奇襲用の攻撃なんだから通常の攻撃魔法のように即時発動じゃないさ。

 え、もしかして? すぐに発動してたの?」


「あぁ、一発目をズガンと打ったらさらに魔力を流して二発目、三発目って感じで」


 なるほど、それは威力が低くなるわけだ。


「この魔法は上空に魔法陣に込めた魔力の塊を放つ。

 そして、その魔力が上空の雷エネルギーを収束させ、それが一定量溜まると落雷となって地上に現れる。つまり、その溜まるキャパシティを上げれば、当然威力は上がるよね」


 上空の曇天にゴロゴロとした大気が不安定な音が聞こえ始める。

 次第に曇天に青白い明滅が起こり始めた。さて、ここからだ。

 明滅の速度が速くなり、やがてそれはふつっと何も無くなった。

 どうやら準備は整ったようだね。


「それじゃあ、皆、耳に手を当ててくれ」


「なんだぁ? ビビってんのか?」


「そういうわけじゃないよ。ただ、めちゃくちゃうるさいから気を付けてねってこと」


「ハッ、そういうことか。なら、アタシにはそれぐらいどうってことねぇ」


「忠告はしたからね」


 僕は耳に手を当てた。すると、僕の仲間達は同じように耳に手を当てる。

 周りの船員達は従う人半分、ロゼッタに従う人半分ってところだ。

 ってことは、ロゼッタを含めその人達はしばらく動けなくなりそうだね。

 

 上空を見る。曇天が渦を巻き始めた。その中心は丁度海の大渦の真上だ。

 そこに物凄い魔力の波動を感じる。さぁ、物凄いのが来るぞ。

 そう思った瞬間に見えた海に落ちる一瞬の激しい明滅。

 遠くから見ていてもとても雷のが落ちたとは思えない大きさ。

 真下に向けて波動砲を打ってるような感じだ。


 瞬間、嵐の中だったこの空間に一秒にも満たない静寂な時が現れる。

 感じれた人は存外多いかもしれない。

 なぜなら、体感でそれは一秒以上に引き伸ばされたはずだからだ。

 それほどまでに凄まじい轟音が周囲に響き渡った。


―――ズガンッ!!!


 両手で耳を塞いでいても貫通してくる音。案の定めちゃくちゃうるさい。

 同時に、雷が落ちた衝撃波が空気を伝わって広がり、同時にそれによって波が押し上げられる。


「ロゼッタさん、無事ですか!?」


 念のため確認を込めて隣を見てみた。

 しかし、案の定「くらくらする......」と目を回してるようだ。

 まぁ、それだけで済むならさすが竜人族の頑丈さと言える。

 後ろにいる船員達は漏れなく泡吹いて気絶しちゃってるし。

 僕の指示に従ってくれた船員達も耳を抑えてうずくまってる。

 仕方ない。


「全員、何かに捕まって衝撃に備えろ! 蓮、薫! ロゼッタを含めた全員が吹き飛ばされないようにしてくれ!」


 その言葉に全員が頷く。

 蓮が糸を張り即席で蜘蛛の巣を作り、薫が木製の木の板を利用して船員達の体を固定する。

 薫が吹き飛ばされないための土台固めで、蓮が万が一吹き飛ばされても大丈夫なようにしてるのか。さすが。


 他の女性陣も各々近くのものに捕まって身を屈めている。

 そんな中、なぜかアイだけは僕の背中にガシッとしがみついてるのだが。

 本人がそこを安全だと思うのならそういうことなのだろう。今はツッコんでられる暇はない。


 声をかけた直後、まず初めに衝撃波が襲ってくる。

 船体の真横からダイレクトに風を受け、その勢いに船体が傾いていく。

 僕も風の防御壁を作っているが、さすがに自然の力を利用した威力は半端じゃない。

 衝撃を防ぎきれていない。しかし、まだいい方。問題は次だ。


―――ゴゴゴゴゴッ


 衝撃波に煽られた波が巨大な高潮となって襲ってくる。

 見上げるほどにはバカデカい。超大型巨人を見た時なんてこんな感じなのかと思ってしまう。

 こんなものに船体が飲み込まれたら、横転どころか木っ端微塵だ。


「アイ、移動するからしっかり捕まっててよ!」


 僕はすぐに帆の上にある遠見台に<転移魔法陣>で移動する。

 大渦側からはもはや壁のような波が迫ってきている。

 不味い、衝撃波による勢いで接近までの時間があまりにも早い。

 ちょっと威力重視で魔法陣を改造しすぎたな。後先が見えてなかった。


「アイ、少しの間僕の体を支えられるか?」


「出来る! 一生そばで支えてるの!」


 それはもはや意味合いが違うのではないか、と思ったが、今はツッコみは無しだ。

 僕は目に見える範囲で海に魔法陣を飛ばし、<水流砲>を設置する。

 そして、その魔法陣を一斉に発射した。


 魔法陣から直径五メートルはある水の砲撃が数十本と放たれる。

 本来なら数秒しか持たない砲台だが、ここは母なる海の上だ。

 水資源は豊富で尽きることがない。それを利用して高潮を押し返す。

 進むスピードが減速した。そのおかげで高潮は少しずつ小さくなる。


「ご―――拳!」


「ん?」


 荒れ狂う風の中で何か言葉が流れて聞こえた気がした。

 アイに聞こえたか確かめてみる。すると、彼女は「下から聞こえた」と答えた。

 下方向に目を向けてみると、大地が何度も拳を空に突き出してる姿があった。

 .......なるほど、そういうことか。ま、お前も男だもんな。


「アイ、降りるぞ。しっかり捕まってて」


 僕は再び<転移魔法陣>で移動した。場所は拳矢の近く。

 彼の肩に手を乗せれば、<身体能力向上>の魔法陣を発動させた。


「拳矢、全力で放て。全体重をかけるように」


「っ!?......わかった!」


 大地は思いっきり左足を前に突き出し、踏み込む。

 それから、重心を左足に移動させると同時に、殴り飛ばすように右腕を振った。


「豪衝拳!」


 瞬間、拳矢の放った拳圧は拳の形が目で捉えられるほどの衝撃となって高潮を殴りつける。

 バンッと高潮の一部が弾けた。ほんの一瞬だったが、高潮の壁に穴が開いた。

 それがきっかけとなり、高潮は形を崩してざばっとバケツをひっくり返したような水が海に帰る。


「拳矢、ナイス」


「アシストのおかげだな」


 高潮の水が海に帰った衝撃で海が盛大に揺れた。

 それでも僕と拳矢がぶつけあった拳は外れなかった。

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