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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第6章 記憶の継承

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第171話 嵐の中心に向かう船

「それで例の海が荒れてる元凶ってどこにいるんだ?」


「ここまま沖合に進んだ所にあるアーバル海域にいる。

 そこにはドルトック海溝っていう巨大な海溝があって深海まで繋がってる。

 そこがこれからアタシ達が向かう場所だ」


 隣にいるロゼッタさんに話を伺いながら僕は水平線の先を眺める。

 現時点では特に海が荒れてるわけでもなければ、遠くに分厚い雲が見えるわけでも無し。

 ま、ここしばらくは快適な海の生活を送ることになるだろう。


「にしても、お前はどういう経緯でリューズ並みの強さを手に入れたんだ?」


 海を眺めていればそんなことを質問してきたロゼッタ。

 どうやって強くなったか......まぁ、地道な努力としか言えないが。

 ただ、他の皆より僕の成長率はとりわけおかしかったような気が今更ながらしてる。


「練魔という修行法だよ。魔力を練って練度を高める修行。

 それをすると魔法に込める魔力の質が上昇して同じ魔法でも威力が段違いになるんだ」


「あぁ、豪魔のことか! それを本土の方ではそう呼ぶんだな。

 そう考えると生まれた頃から強者の部類に入る竜人族(アタシら)にとっちゃ修行なんてわざわざ強くなる方法しないからな~。納得だわ」


「なら、やり方教えるから今から学んでみてはどう?

 そうすれば、元々のスペックの有利さでリューズに勝つことだって無理な話じゃない」


「おい、それ体よくアタシにあのバケモンを押し付けようとしてるだけだろ」


 チッ、バレたか。


「どう考えてもあの戦闘狂の前で強くなって現れたら骨の髄までしゃぶりつくされるに決まってるだろ。

 自分に勝つために強くなってきたとか、もはやあの化け物にとってこれ以上ない最高のエサだろ。エサはお前だけで十分だ」


「そんなこと言わずに僕の重荷を少しは背負ってくださいよ。

 目が合ったら勝負みたいな頭のおかしな人なの!

 僕が学院にいたころ一体どれだけつきまとわれたか......っ!」


「ただのストーカーより厄介だな」


 僕がどれだけ熱く語ってもロゼッタさんには暖簾に腕押しの様子。

 まぁ、わかってましたけどね。誰もあんな歩く厄災みたいな人と関わりたいとは思わない。

 それこそ自分と同格の強さを持っていることを知られれば......うぅ、寒気が。もうこの話やめよ。


「リツさん」


 呼びかけられたので振り返るとそこにはヨナの姿があった。

 その時、ふと彼女の纏う雰囲気に注目してみたが、やはりそこからセナのような雰囲気はない。


 セナはヨナが持つもう一つの人格だ。小さい頃のトラウマが原因で生み出された存在。

 しかし、そんな彼女がヨナの肉体を借りて出てくることはもうない。


 そんなことをヨナは未だ知る由もないのは、彼女の深層心理でセナに会った時に僕が言わないように口止めされてるからだが――


「......私の顔に何かついてます?」


「あ、いや......」


「見惚れてたんじゃないのか? 男受けする可愛い顔してるしな」


 その瞬間、ヨナの顔が真っ赤になる。

 そんなに素直に照れられるとこっちも恥ずかしくなるんだが。

 ハァ、ともかく、僕は未だあの出来事を正直に話すか迷っている。


「え、えーっと、お昼の準備が出来たのでお呼びに......」


「お! もうそんな時間か! ハハッ、ここ最近は野郎どもの油こってり料理ばっかりだったからな。

 久々に繊細な味が楽しめそうだ。ほら、とっとと行くぞ」


「う、うん」


 そして、僕達は三人で食堂に向かった。


―――一週間後


 甲板に立っている僕は柵に手をつけながら遠くを眺めていた。

 ここ最近船の揺れが大きくなっていたが、案の定大シケだ。

 しかし、不思議なことに雨はまだ降っていない。


「こいつはかなりだなぁ」


 そんなことを言いながら横に立ったのは拳矢だった。

 そういえば、拳矢は小さい頃に親戚のおじさんに何度か船に乗せてもらったことあるんだっけ。


「体に僅かな浮遊感を感じるほどの揺れで、それこそ長らく一緒に船に乗っていた船員達がグロッキーする波にもかかわらず、嵐のような暴風雨が一つない」


「ただし、空を見ればまるでこの世の終わりみたいに曇天が渦巻いてるけどね。時折雷のような音も聞こえるし」


 こんなおかしな環境が当たり前に構成されるところが異世界ファンタジーたる所以なのか。

 まぁ、なんにせよ僕達はこの先にある魚人島に向かわないといけないわけで。


「そろそろ目的の場所が見えてきたな。ここがアーバル海域だ。

 そして、もう少し先に行けばドルトック海溝の上までやってくる」


 さらに追加のお客さんでロゼッタが横に並んだ。

 そういや、結局この海が荒れてる原因がなんだか聞いてなかったな。

 まぁ、こういう海ステージっていうのもなんだけど、出てきそうなのは検討がついてるけど。


「そういや、ロゼッタ。ずっと聞きたかったんだけどこの海の原因は何?」


「あ? 言ってなかったか?」


「言ってないですよ」


 この人、ずっとどこかで言ってたと思ってたのか。一体どのタイミングでしたと思ったのか。

 そんな僕の気持ちをよそに、ロゼッタは腕を組みながら答える。


「アタシ達がずっと格闘しているこの海に住む化け物はシーサークラーケンだ」


 シーサー? クラーケン?

 クラーケンは所謂あの神話のクラーケンなんだろうけど。巨大タコ的な。

 一方で、シーサーとは。その単語で思いつくのは沖縄の守り神だけだぞ。

 すると、拳矢がその魔物について質問する。


「その魔物は厄介なのか?」


「厄介だな。いくつもブレスを放ってくるし、足の吸盤でなんでも吸い付けてへし折るし、噛みつかれて海に引きずり込まれるし」


 それは何とも恐ろしい相手だな。とはいえ、僕がイメージするクラーケンだとしたら噛みつくってのは何とも不思議な表現だけど。普通、足で掴んで引きずんじゃなくて」


 そこに今度は僕が質問する。


「ロゼッタが竜化したらどうなんだ? 竜人族なんだから竜化ぐらいできるだろ?」


「出来るがあんまり戦力にならねぇんだよな。

 シーサークラーケンの出現ポイントは風もかなり強いし、空中制御が難しい。

 その状態で船を狙うそいつを迎撃するってのは単純に手数が足りねぇんだ」


「ほ~ん、そうなのか」


「それにブレスが当たればちったぁ違うんだろうけど、相手は海の中。

 アタシの火炎が海の水で半減以下になっちまう上に、たたでさえ嵐という環境の中でブレスによって発生した濃霧なんて目の当てられねぇだろ?」


「それは確かに......」


「だから、まともにやり合ったのは一度だけ。運が良い事に逃げきれたがな」


 想像しただけでも無理ゲーだってわかる。

 現状、ロゼッタさんの船が無事だということは、シーサークラーケンに対して何とか対抗出来てる状態だ。

 それが濃霧によって視界制限まで加わったら......ロゼッタさん一人だけの脱出ぐらいしか無理だろうな。


「それじゃ、これまでは何してたの?」


「あの海域を渡ろうとするバカを海域に入らないように追い返してただけだ。

 いいとこ魚人島との貿易船なんだろうが、いくらなんでも最短ルートだからって無茶しすぎだ。

 海の男が海で死ぬことはどうでもいいんだが、それでも見かけた船が沈むのは寝覚めが悪くなる」


 なんだ、聞けば聞くほどこの人ただの良い人じゃん。

 まぁ、始めっから特に悪いことしてる感じじゃなかったけどさ。

 となれば、この海賊船も半ばロゼッタさんの趣味ということか。

 その趣味で人助けね、ふ~ん。やるやん。


「なんか僕の中でロゼッタさんの印象が変わったね。最初は好戦的なヤベェ奴かと思ってたけど」


「竜人族は概ね好戦的な種族でアタシなんか趣味に没頭してる大人しい方だぞ?

 でもまぁ、好印象になったんなら良かったぜ。どうだ? 抱いとくか?」


「そんな一杯行くか? みたいな感じで言われても。僕はそこまで不埒じゃないよ」


「前にも言ったが竜人族は強い奴が好きなんだ。そこに美醜はあまり関係ねぇ。

 あ、だからって人型種族に限っての話で、魔物をカウントするんじゃねぇぞ?

 昔に強い奴で美醜関係ないだったら魔物でもイケるんじゃね? ってトチ狂った発想した奴がいたからな。さすがに全力で止めたけど」


「そいつはマジでヤベェ」


 魔物との異種姦なんて考えただけで......いや、止めよう考えてはいけない部類だ。

 早急に僕の脳内からその言葉を聞かなかったことにしよう。


「まぁ、空を好む竜人族で海を船で行くロゼッタさんという変わり者もいるぐらいだからね。やはり世界は広い」


「確かにな。あの化け物のリューズにラブコール送られる人間がいるとは。世も末だ」


「ロゼッタさんもまぁまぁ失礼なこと言ってますよ」


 そんな会話をしながら、さらに他愛もない会話もしばらく続けてると、突然マストの見張り台から望遠鏡で遠くを観察していた船員から大声がかかってきた。


「船長! 進行方向に六十度切った先に巨大な渦潮を確認! 例の怪物の渦潮に間違いありません!」


「ほぅ、とうとうお出ましってわけか」


 船員の声で目の色が変わったロゼッタはすぐに近くにいた船員達に声をかけ始める。


「聞いたか野郎ども! そろそろ嵐の中心地に突っ込む! 帆をたため! 戦いの準備だ!」


「「「「「オオオオォォォォ!」」」」」


 船長の一声で船員達は慣れた手つきで動き始める。

 そして、僕と拳矢はというと邪魔しないように眺めてるだけ。

 まぁ、ここで僕達が変に動いても作業効率が下がるだけだろう。


「んじゃ、そろそろ念願の怪物とやらとやり合うわけか」


「あぁ、それにここから先は雨も加わって来る。

 目を開けるのもやっとな大粒の雨がこれでもかってぐらいにな」


「現時点で雨が降ってないだけで十分に疑問だったけどね。でもそっか、降るのか」


「せっかくだったらこのままでいいのにな。だが、降るもんは仕方ねぇ。

 お前らもこれからやり合うんだ。それにこっちは貴重な戦力として頼りにしてる。

 当然、いつ戦いに入ってもいいように準備は出来てるんだろうな?」


 俺と拳矢は目を合わせると答えた。


「あぁ、問題ない」


「俺達の目的地は魚人島なんだ。こんな海の化け物如きに邪魔されるわけには行かねぇ」


「ハッ、そいつはいい気概だ。んじゃ、仲間達にも声をかけてきな。全面戦争はもうすぐだ」

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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