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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第6章 記憶の継承

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第169話 あの人と同じニオイ

 ロゼッタ対拳矢の戦いの第二ラウンドというべきだろうか。

 根本的に能力値が違う竜人族相手に拳矢は健闘してみせた。

 しかし、ロゼッタの方はまだ全然余力を残しているという。

 そして、これから始まるのがロゼッタの本気というのか。


「ここからは真面目にやらせてもらうぜ。だが、本気の本気は竜形態になることだ。

 そこまで行くと人間相手には酷だ。だから、あくまで人間ベースでってことだな」


 要するに人型の今の状態で出せる全力ってことか。

 それが如何ほどなのかはわからないが、確かにロゼッタの纏う空気感が変化した。

 より威圧的、攻撃的なオーラが伝わってくる。


「さて、今度はアタシの方から行かせてもらうぜ。全力で防ぐことに集中するんだな」


「まだそうと決まったわけじゃねぇ」


「すぐにわかる」


 ロゼッタは砂浜を蹴った。僅かな影を残して姿が消える。

 そして、彼女が再び姿を現わした時は拳矢の眼前だ。

 拳矢も気づいたようだが、完全に反応が送れている。


「そらよォ!」


 ロゼッタは渾身に振りかぶった右拳をストレートに叩きつける。

 紙一重でガードが間に合った拳矢だが、態勢までは整っておらず吹き飛ばされた。


 拳矢の体が地面と平行に高速で移動していく。

 吹き飛ばされた距離は数メートルどころか数十メートル。

 下は砂浜から海面の上に変化してもなお勢いが失速することはない。


「まだまだっ!」


 ロゼッタは拳矢を追いかけるように走り出した。

 波打ち際まで走ると、そこからは背中に身の丈ほどの翼を生やして海面を飛び始めた。


 空中を飛行し始めてからは瞬く間に拳矢の位置まで追いつき、さらには背後に回り込む。

 拳矢が来るであろう位置で右足を大きく振りかぶるロゼッタ。


「さっきよりも強めに行くぜ――竜の豪脚(ドラゴンシュート)


「ぐっ!」


 ロゼッタは拳矢を蹴り飛ばす。同時にバンッと大きな音が鳴った。

 直後、拳矢の体はあっという間に来た道を戻り、僕と蓮の背後にある崖の壁に突っ込んだ。


「拳矢!」


 これには僕も思わず叫んでしまった。

 いくら勇者がこの世界の人族の兵士よりも並外れた力を持っていたとしても、それはあくまで人間の中での枠組みだ。


 僕もこの世界の竜人族とはここで会うのが初めて。

 ラノベとかではよく異世界人が簡単に竜を圧倒してるシーンがあるが、それがこの世界でも同じように通じる保証はない。


 現に拳矢でも相手にならなかった現地民(リューズ)がいたんだ。

 竜人族が人族よりはるかに強者であることもある。

 幸い、拳矢の魔力を感じる以上生きてるのは確定だが。


 崖の凹んだ壁から発生した砂煙が風に流れて散っていく。

 砂煙の奥から見えてきたのは壁に半身をめり込ませた拳矢の姿だった。


「がはっがはっ......さすがに効いたな、今のは」


 思ったよりタフそうだ。さっきのヒヤッとする攻撃でもまだ動けそう。


「リューズ先生の一発でも殴られたら起き上がれなくなるような威力じゃなくて助かった」


 何それ初耳。え、あの人そんなことしてたの?

 異世界からきた勇者の身体を一撃で沈めるとか.......やっぱあの人だけ人間じゃないな。


 拳矢は凹んだ壁から数メートル下の砂浜に降りて来る。

 その頃にはロゼッタも砂浜に戻って来ていて、感心したような表情をしていた。


「やるじゃねぇかお前。アタシの一発を食らってもなお動けるとか昔にあった化け物を思い出すぜ」


「化け物?」


 ロゼッタが興味深い話をし始めた。

 その話題に拳矢も気になったようだ。

 僕も丁度気になってたんだ。よし、そのまま聞け。


「あぁ、人間の時間基準で言えば数年前ってぐらいか。

 アタシがたまたま故郷に帰っていた時に、とある冒険者パーティがやってきたんだ」


 ん? なんだろうもうこの先の展開が読めるような話題。


「どいつもこいつもタフでな。まぁ、同じ竜人族のタルクはわかってたんだが。

 中でも黒髪の極東の剣士が異色の強さでな。

 竜王と勝らずとも劣らずの戦いを見せて、ついには引き分けに持ち込んだんだ」


「......なぁ、それの人物って女で“リューズ”って呼ぶんじゃないか?」


「おぉ、確かそんな名前だった! って、もしかしてその化け物と知り合いか?」


「知り合いっつーか恩師っつーか」


 はい、ですよね。わかってました。わかってましたとも。

 にしても、あの人......竜人族相手に化け物って呼ばれてるのか。

 いよいよ本格的に人間かどうか怪しくなってきたな。

 人の皮を被った物の怪の類と紹介されてもたぶん驚かないよ。


 ところで、リューズのパーティが四人いるのは知ってるけど、マイラさんとリューズ以外の名前ってなんだっけ?

 タルクっていう竜人族がいたようだけど、ぶっちゃけ関わりなさ過ぎて全然顔が思い出せない。


「なるほどな。通りでやたらタフいわけだな。

 あの化け物に師事してもらったのなら、アタシの攻撃を受けてもへこたれねぇのは理解した。

 だとすると、そいつに直々に指導を受けたのはお前だけのようだな」


 ロゼッタがそんなことを言う。

 瞬間、拳矢がこっちになんとも言えない視線を向けて来る。

 なんだよ、僕達はリューズに師事なんかされてないぞ!

 まぁ、僕に関してはやたら戦闘に絡まれたけど。


「ハハッ、ならもう少し楽しめそうだ。お前もまだ行けるよな?」


「あぁ、こんなもんじゃなかったぜあの人の攻撃は」


「そりゃいい。そんじゃ、もう少し楽しもうぜ!」


 ロゼッタは拳矢に真っ直ぐ走っていく。

 単純なその行動であるが速度領域は既に拳矢の視界に捉えられるものではなかったようだ。

 「まだ速度が上がるのかよ!?」と拳矢が呟く。


「がはっ!」


 拳矢は咄嗟に両腕を揃えて腹部を守る。

 しかし、既にその領域を遅いと認識しているロゼッタの行動には到底追い付かない。

 ロゼッタの右フックが拳矢の左わき腹を捉えた。


 柔らかい枕に拳を押し当てて沈み込んでいくように、ロゼッタの拳が拳矢のわき腹に深く刺さり、瞬間衝撃で弾けた。


 まるで発射台でもつけられていたかのように、拳矢の体がくの字を描きながら空中へ移動する。


「まだアタシのターンは終わらないぜ」


 斜め上に吹き飛ぶ拳矢の足をガッと掴むロゼッタ。

 拳矢の空中への運動エネルギーは突如としてゼロになり、ガクンと彼の体に強い衝撃が流れる。


「そらよ!」


 ロゼッタは人の体を片手で吹き飛ばすと、すぐさま拳矢を追いかけていく。

 部分竜化によって翼を生やし、拳矢の肉体を追い越すと移動直線上で拳を固めて構える。


「これで仕舞だ!」


 ロゼッタがタイミングよく拳を振るった――その直後。


「はい、確かにこれで終わり」


 僕はロゼッタの突き出した手首を掴むと同時に飛んできた拳矢の肉体を上方へエネルギー方向を変えた。

 たぶん、拳矢に衝撃の負担は言ってないはず。


 空高く舞い上がった拳矢の肉体は途中で止まり、その後重力に引き寄せられて真っ逆さま。

 しかし、待機していた蓮が回収してくれたので大事には至らなかった。

 とはいえ、さっきの攻撃をまともに受けて大丈夫かな。


「蓮、拳矢の様態はどう?」


「大丈夫だ。気を失っているだけだ。どうやら殺さないようには手加減してくれたみたいだな」


「そっか」


 僕はロゼッタの方へ顔を向ける。

 なんか凄い物申したそうな目でこっちを見てる。

 まぁ、そりゃ聞きたいことあるよね。この状況はなんだとか。

 一先ず手は話してあげよう。


「ごめんごめん、流石にさっきの攻撃を食らったら拳矢も致命傷になりかねなかったからさ」


 ロゼッタは自身の掴まれた手首を一瞥する。


「これはどういうことだ? お前は何者だ? どうしてアタシの攻撃を受け止められた?」


「一つずつ答えるよ。まず、これは僕が止めたから起きた状況。

 で、止められたのは僕の方が強いからってことかな。

 最後に、僕の名前は律だ。拳矢の幼馴染」


「ふ~ん、そうか」


 ロゼッタは自分の拳を見つめる。

 ふと僕もその視線を追うとその手がブレた。


「っ!」


 眼前に迫った拳を片手で止めるとロゼッタは驚いたような顔をする。

 すると、ロゼッタはさらに攻撃の手を増やして俺を襲ってきた。

 両手両足から尻尾まで拳矢とは比べ物にならない猛攻でもって。

 しかしまぁ、それでもこれまで戦ってきた連中に比べればどうってことないわけで。


「全部片手で止めるかよ」


「だけじゃなく反撃も出来るけど」


 僕はロゼッタの攻撃の合間を縫って、防御に徹していた手を彼女の額に近づける。

 そして、額に向けて素早くデコピン。


「がっ!?」


 ロゼッタの頭が弾け、勢いのまま海側の方へ吹き飛んでいく。

 そのまま海面の上を滑っていき、やがてザッバァーンと入水。


「ぷはっー! ハァハァ、アタシが手も足も通じなかった。

 なんなんだお前は......まさかリューズの弟子か!?」


「いやいや、あんな人の皮を被った化け物と一緒にしないでくださいよ」


 海面から顔を出したロゼッタが泳いで戻って来る。

 どうやらもう戦闘意思はないようだ。さっきので懲りたみたい。

 ふとロゼッタの仲間の方へ視線を向ければ、なんか信じられないものを見たように固まっていた。


「なんつーか、お前からはリューズと同じようなものを感じる。

 信じられない圧倒的理不尽になすすべもなくやられる感じがまさに」


「理不尽って......そんなこと言ったら拳矢からみたロゼッタさんだって似たようなものかもしれないでしょ?」


「.......まぁ、そうだな。ハァ、実力を見誤って調子こくとこんなしっぺ返しが待ってるのか。

 あんな化け物と似たような存在がこの世界にいるとは、全くこの世界は何がいるか分からないな」


 心外だ。甚だしく心外だ。リューズと一緒にしないで欲しい。

 僕はあんな頭空っぽに強い相手との戦いを求める戦闘狂なんかじゃない。

 理由があって強くなったわけだし、誰彼構わずケンカを吹っ掛けるような人間じゃない。


「ハァ、まぁなんでもいいや。とりあえず、これで僕達を認めるわけだよね」


「そうだな......ってアレ? 一体何の用でケンカしてたっけ?」


「......」


 僕はロゼッタから戦いのために目的を忘れる感じがリューズに似たような気配がし、凄く距離を置きたくなった。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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