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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第6章 記憶の継承

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第166話 拳矢の情報

 意識がヨナの無意識空間から解放されていく。

 まるで大空を飛ぶ鳥が地上を俯瞰するように、ヨナの作り出した世界が小さくなっていく。


 僕が世界から排除されていくのがわかる。

 周囲が目まぐるしく流れていき、背後からは別の光が差し込む。

 やがて暖かく眩い白い光が僕を包んだ。


「っ」


 パッと目が覚める。うだるような気温に、潮の香り。

 正面には頭に触れたヨナの姿があった。

 僕が目を開けたことにヨナはキョトンとしている。


「どのくらい経った?」


「そうですね、一分も経過していないと思います」


「一分か......」


 つまり、僕が現実に魔法を使っていた時間と、ヨナの無意識の中の時間の流れは全く違うということか。


 僕が無意識の中で過ごした感覚を覚えてるせいで、なんだか今日という一日が途端に長く感じてきた。


 僕が何気なく海の方を向いた。

 太陽光に照らされて散りばめた宝石が輝くように海が奇麗だ。

 しかし、心なしかもう今日はこれ以上気分は上がんないな。


「リツさん、どうでした?」


 横から眺めてくるヨナが眉を八の字にして聞いてくる。

 どうとはもちろんセナの様子のことを指してるだろう。

 それに対する答えはここに戻ってくる前に決まっている。


「めんどくさいから出て来ないみたいだよ。

 心配するまでもなく元気だったね」


「......そう、ですか」


 これが僕がセナから託された願いである。

 本当はヨナにもちゃんとしたことを伝えた方が良いと思う。

 しかし、それでは俺はセナの最期の願いを叶えずに終わることになる。


 どちらが正解とも言えない。

 だけど、セナに限ってはその願いが最初で最後だ。次はない。

 だから、俺は今だけはセナの願いを優先させてもらった。


 セナの願いの言葉をヨナに伝えたが、あまり嬉しそうには笑ってない。

 何かを考えるように水平線を見つめ始め、海風に髪を揺らした。


「ん~~~~......あれ? アイ、休憩してたつもりが寝ちゃってたの」


 ヨナとは反対側でアイが起床した。

 寝ぼけ眼を擦りながら、ゆっくり上半身を上げていく。

 相変わらずの低血圧でエンジンがかかるまでもうちょいだな。


「アイ、気持ちよく寝れたか?」


「うん。でも、遊ぶ時間が減っちゃったなの」


「まだ初日だから大丈夫だよ。それにまた皆でくればいいさ」


 その皆に自分が含まれているかと思うと自身は無いな。

 皆の中ではあっても、僕自身にはない。

 あぁ、あまり作ってもない感傷に浸るのは良くないな。


 僕はアイの頭を優しく撫でた。

 アイはそれが気持ち良かったのか目を細め、尻尾を大きくゆっくり揺らした。


―――夕刻


「よう、律! 海は楽しめたか?」


「拳矢、お前今まで一体どこにいたんだ?」


 結局、俺達が全力で海で遊んでいる時、終ぞ拳矢がやってくることは無かった。

 拳矢のことだから僕達に遠慮したってのは考えられないけど。


 そして現在、再会したのは街の大通り。

 両手にはメモ帳のようなものを持ってる。

 一体何をしてたのか。


「とりあえず、もういい時間だし夕飯食いに行こうぜ。どっか予約取ってたりするか?」


「いや、これから探そうかなって。その言い方だとどっか予約取ってるの?」


「察しがいいな。そういうことだ。こっちだ、ついてこい」


 拳矢に先導されて歩いていったのは中華料理店を思わせる看板の店だった。

 だけど、店頭には大きな水槽があり、そこには多種多様な魚が泳いでる。

 海に近いだけあってやっぱ海鮮系の料理って感じか。


 店に入ると香ばしいニオイが鼻孔をくすぐる。

 昼間に散々遊びまくったせいで腹ペコも良い所だ。


 見た感じ店内も賑わってるし、どこもどこも同じと考えると、予約してくれた拳矢には感謝しかないな。


 お店の人に案内されてテーブル席につく。

 回転テーブルだ。まさか実物を見たのが異世界だなんて。

 なんという異世界文化(アナザーカルチャー)ショックだろうか。


 僕達はお店の人からオススメ料理を聞き、それを注文していく。

 雑談しながら待っていると、全員分のメインが揃ったところで食べ始める。

 しばらく料理に舌鼓を打ったところで、僕は拳矢に質問した。


「それで結局、拳矢は僕達が海ではっちゃけてる間に何してたんだ?

 てっきり腹痛でも起こしてくるのが遅れてるかと思いきや、全く来る気配も無かったし」


「そいつは悪かったな。ただ、俺はお前らみたいに遊びに費やしてる時間はないのかなって」


「どういう意味だ?」


 ラーメンのような料理を食べていた蓮が続きを煽るように反応した。

 拳矢は言いづらそうに頬をかきながらも、結局全てを話した。


「単に、俺が出来ることは何もねぇかもって思ったんだ。

 律や薫、蓮の実力は知ってるし、そっちのヨナさん達も。

 アイとウェンリに限っては初対面だけど、海での騒ぎを聞いたらな」


「見てたの?」


「たまたまだ。お前らの水遊びはとても水遊びの範疇を越えてた。軽く災害よ。

 でも、それを制御し自分の手足のように使ってるのは見てて分かった。

 たぶんだけど、俺はアイとサシで戦ったとしても敗北率の方が高いだろう」


 拳矢の見立ては実際の所正解だと思う。

 拳矢は拳闘士としてチート級の能力値があるけど、ただそれだけだ。


 この世界はとっくにステータスに依存しない魔力というのを、如何にこの世界にとって常識的に使いこなせるかという強さの枠組みで成り立ってる。


 ステータスがあるのにステータスが無意味。

 だから、僕は随分前からステータス画面というのを見るのを止めた。

 この世界では環境に順応したものが勝者となる世界だから。


 もっとも、それを知ったのは僕達も練魔を知ってからなんだけどね。

 でも、それによる戦闘力の差は学院襲撃の時に身に染みるほど理解した。


 チートとなって魔王を倒して世界を救う勇者達(クラスメイト)が僕に手も足も出せなかったのだから。


 だから、現状で拳矢がアイと戦っても、練魔で鍛えてるアイが勝つ。

 それも割と一方的な戦いとなって圧勝する形で。


 火力だけで言えば、拳矢に分があるだろう。

 でも、アイは素の僕でもたまに見失うほどの高速移動ができる。

 つまりは、いくら攻撃力があろうと当たらないということだ。


「で、そんなことを考えていた拳矢がしてたのは?

 通りで会った時もなんかメモ帳っぽいの持ってたけど」


「あぁ、少しでも役に立てるようにと思って調べてたんだ」


 拳矢は近くのバッグから何かを漁り出した。

 そして、取り出したのは僕がさっき指摘したメモ帳。


「俺が調べてたのはこの先の目的地――魚人島に関する情報だ」


 魚人島? まさか拳矢が先んじて調べてくれていたなんて。

 教えてくれるってんなら教えてもらおう。


「それでどんなことを聞いたの?」


「そうだな。簡単に言えばここからの船が出てるかってところだ。

 ここは魚人島から最も近い港で、魚人島と貿易も行われている。

 だから、通常だったら魚人島もしくはこの港から互いの場所に向けて船があるはずなんだ」


「その言い方的に今回は無いってこと?」


 薫の問いかけに拳矢は頷いた。

 そして、再び口を開く。


「今回って言うかもういつ来るかわからないってことだな。

 もう二か月ぐらい魚人島からの便が来てないみたいだ」


「だとしたら、逆にこっちから魚人島に向かう便は?」


 僕の質問に拳矢は首を横に振る。

 どうやらそこら辺もしっかり調べてきてるらしい。


「もちろん、ここから魚人島に向かった便もあるらしいが、戻ってきた船もあれば戻ってこなかった船もあるらしい

 そして、その戻ってきた船について事情を聞いてみれば、どうやら海賊船に出会ったみたいだ」


 拳矢が話してくれた内容を整理するとこんな感じだ。

 今から一週間前、魚人島に向けて一隻の船が出港した。


 この港町にとっても魚人島は貴重な取引相手。

 加えて、魚人島の商品は本土ではこの港でしか手に入らないということもあり、港町にとっても最おいそれと貿易を止めることは出来ない。


 故に、魚人島の調査も兼ねて出港した船だが、それがいくら経っても帰ってこない。

 そのため、何かあったのではないかと港街に新たなる船を出港させた。


 すると、またしてもその船が戻ってこない。

 最初こそ魚人島が突然裏切ったのかと思われた。

 だが、その船に設置されていた小さな船で帰ってきた人達から事情を聞くと原因が分かった。


 海の沖、荒れ狂う天候と海の中一隻の船が悠々と航海を続けていた。

 その船の帆にはドクロマークがあり、それから海賊船と分かったようだ。


 すると、その海賊船が船に近づいてくる。

 その時、船体が揺れ、外部からの強い圧力によって船が壊れ始めた。

 船員達は慌てて逃げ出すが、周りは大シケの海。


 荒波に飲まれる船員達が多い中、小さな船に乗れた船員達が最後に見たのは、海から生える巨大な触手を従える海賊船の姿があったという。


「となると、その海賊船によって魚人島に進めないってことか」


「それもあるが、魚人島に向かう間の沖でなぜか天候が荒れてる。

 そのせいでそもそも航海すること自体が難しいらしいんだ。

 だから、結局今も魚人島に向けて出てる船は無いらしい」


「そうなのか......」


 まぁ、行けないと言ってもあくまで地元民の証言によるものだ。

 僕達なら魔法を駆使しして移動できると思うが、さすがに長時間空を飛ぶっていうのは難しい。


 となると、船を用意する必要があるけど、その船をどこから調達するか。

 さらに、その船を誰がどうやって操舵するかってのもあるよな。

 う~ん、ここはもう誰かに無理にでも頼んで移動してってもらうか?


「お兄ちゃんなら、船を守りながらいけるんじゃないなの?」


 アイもそんなことを言ってくる。

 まぁ、それがやっぱ一番可能性がある感じだよな。

 そう思っていると、拳矢が手を挙げた。


「それなんだが......一つ手がないこともない」


「おいおい、どこまで調べてきてくれてんだ?」


「丁度情報収集してる間についでに聞いたもんだ。

 それに、これは律達が海で大はしゃぎしてくれていたおかげでもある」


 ん? どういう意味?


「どうやらお前達は冒険者と思われてるらしくてな。

 お前達にこの港から少し離れた岩場にいる海賊のアジトを潰して欲しいとのことだ」

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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