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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第6章 記憶の継承

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第165話 ヨナの中のセナ

「ぷはーっ、流石に疲れた~」


 設置されたビーチパラソルの下、レジャーシートの上に寝そべった。

 その隣には僕の真似をするようにアイもゴロンと寝転がった。


 は~~~、久々に心行くまで遊んだ気がする。

 普段はこんなことする余裕がなくなったから、今がすごく楽しい。

 ほんとこんな時間がずっと続けばいいと思うよ。

 あ、今の僕、結構ポエミーだ。


「リツさん、水分補給はいかがですか?」


 ヨナが水筒を片手に聞いてくる。

 僕は体を起こし、それを受け取った。

 冷たくて気持ちいい。

 外は炎天下だからありがたい。


「他の皆は?」


「レンさんとウェンリは街の方へ買い物に行ってます。

 カオルさんとミクモさんはまぁ、デートですね」


「どっちもデートだと思うけど」


 今更レンとウェンリの関係なんて言わなくても察しがついてるでしょ。

 友達以上恋人未満って感じで、言ってしまえば一番楽しい時期と言われてる。

 まぁ、本人達は互いの好意に気付いてないんだけどね。


 それをわざわざこっちから指摘することもないんだけど、はよくっつけと思うことはある。

 そっちの方が今後の展開としては扱いやすいと思うし。


 僕も野暮な人間ではない。

 本人達が自然とくっつくのを陰から見守ることにしよう。

 あれ? もしかして、ラブコメの主人公の友達ってこういう気持ち?


「んじゃ、今いるのは俺達だけなのか」


「そ、そうなりますね......」


 ヨナが妙に緊張した様子でモジモジしている。

 どうしたんだろ。あ、いつの間にかアイが寝てる。


「な、なんといいますか、こんな事してもいいんでしょうか?」


「というと?」


「ほら、いつ襲われてもおかしくないという状況でもありますし。

 にもかかわらず、こんなのんびりとしているのは......」


 ははん、なんとなく言いたいことがわかったぞ。

 その言葉はあくまで建前で、本音はこっちだろ。


「康太やメイファもいなくて残念だなって思ってるでしょ?」


「そ、そんなことは!?」


「いいよ、隠さなくて。実際、僕だっていなくて残念だな~と思ってるし。

 だけど、これが最初で最後ってわけじゃないんだから。今は普通に楽しめばいいんじゃない?」


 僕がぼんやりとキラキラ光る海を見ながら言った。

 横目でこっちを見てくるヨナは呟くように答える。


「そう......ですね。その方が良いかもですね。今更変に気を遣う仲でもありませんし」


 僕はチラッと横目で表情を確認し、さらに答えた。


「ま、さっきのヨナの建前の方に答えるとしても、ずっと敵の襲撃を警戒して緊張しているわけにはいかないでしょ。

 疲れるし、気が休まらないし。それにそんな常に警戒してられるものじゃない。

 息抜きは大事だよ。心休まる時間を見つけたのなら、ここぞとばかりに作らなきゃ」


「......リツさんはさすがよく周りを見てるんですね」


「そんなことないよ。単に僕が海で遊びたかったってのもあるし。

 ほら、一人がそういう行動を取れば、皆だって動きやすいだろ。

 それがリーダーだったら、尚更悩む必要も無いってことさ」


 俺は再び寝そべり、両手を枕にした。

 康太とメイファに対して、改めていなくて残念だな~と思っていると、ふともう一人の仲間の存在を思い出した。


「そういえば、最近セナの姿を見てないけど、元気にしてるのか?」


「それなんですが......」


 ヨナがどこか言いづらそうに目を背ける。

 ん? セナに何かあったのか? といっても、セナの体はヨナだしな。


 とりあえず、ヨナからの回答を待っていると、少しして彼女は口を開いた。


「なんと言いますか、最近私自身でもセナとの会話が出来ないんです。

 セナの気配が希薄になって来ていると言いますか、呼びかけても応答がないことが増えてきて」


 僕は思わず体を起こした。


「そうなのか? 何かあったのか?」


「わかりません。私自身の体にいるもう一人の人格なのに、私がわからないというのもおかしな話ですが」


「......俺が話を聞いているっ言ったらどうする?」


 僕は今までも色々な魔法に関して魔導書から網羅している。

 その中には、当然精神に干渉する魔法もいくつか存在する。

 それを使えば、セナに話しかけられるかもしれない。


 あくまで可能性だ。実際に出来るかは試してみないとわからない。

 それに精神系の魔法は扱い方を間違えれば人格に影響を及ぼすものもあると聞く。

 故に、提案としていてアレだが、僕としては慎重に――


「お願いします。私も知りたいです」


 ヨナの回答は即答だった。

 それほどまでにヨナもセナのことが大切なんだろう。

 ま、ヨナからすればセナは双子みたいな存在なのかもしれないからな。


「わかった。僕も最大限慎重にやらせてもらう」


「リツさんなら大丈夫ですよ」


 屈託のない笑み。それほどまでに僕を信頼してる証。

 それはとても嬉しい。嬉しいが......それ以上の感情が出ないことを望む。


「それじゃ、行くよ」


 ヨナの額に手を当てる。そして、魔法陣を展開した。


意識進攻(オフェンシブイマジン)


 僕の意識はスーッとヨナの中に飲み込まれた。


―――精神意識


 僕の意識がハッキリした時、いる場所はとある城の目の前だった。

 自分の過去の城を見比べてもどの城と似つかない。

 まぁ、単に城の形をあんまり知らないだけだけど。


 推測するに十中八九ヨナが暮らしていた城だろう。

 周囲を見渡してみるが何もない。


 地面の上にポツリと城があり、その周囲はどこまでも遠く続いてるみたいだ。

 ただし、地平線も見えず、黒い壁が覆っているような景色だけど。


 一先ず歩いて城に向かってみることにした。

 動いてみないとわからないことってあると思うしね。


「誰かいませんかー?」


 城の入り口を叩いて声を出してみる。

 しかし、反応はまるでない。

 取っ手に手をかけてみれば動くみたい。


 城の中に入って歩き回ってみる。

 まるで人の気配がしない。

 音もニオイも何もかも。


 これがヨナの精神世界と思うとなんだか不気味だ。

 なんたって、ヨナはいつでも誰かのことを考えてるような優しい人だ。

 それがこんなに空っぽなんて......想像も出来てなかった。


 魔導書で精神系の魔法について調べている時、精神は人の強い過去の記憶に基づくとそれには書いてあった。

 だから、てっきり城下町で賑わう人々の様子が見られると思ったのに。


 二階に上がっても、三階に上がってもヨナの気配はない。

 精神世界だと精神世界を形成している人しか自由に能力を行使できないからな。

 手探りで探すしかないのだ。


「セナー? どこだー? いたら返事してくれー!」


 呼びかけても返事はなし。

 まるで城一つ使ったかくれんぼしてる気分だ。

 こうなれば、色んな場所開けて徹底的に調べてみるしかないか。


―――しばらく経過


「ハァハァ......」


 一体どのくらいの時間が経過しただろうか。

 地下、一階、二階、三階と目に見える場所も隠し扉も全て調べてみたけどどこにもいない。


 となると、最後は最上階の天守閣のどこかに。

 もうここまで来たら探しきるか。

 一番最悪なのはセナがこの城にはいない、もしくはいなくなってるとかだけど。


「まぁ、考えたって仕方ないよな。よし、行くか」


 僕は休憩で取り戻した体力を使って、天守閣の中を捜索した。

 すると、一つ目の部屋を調べた後に開けようとした二つ目の部屋。

 ふすまに手をかけて横に引くが、ピクリとも動かなかった。


 建付けが悪いのかと思ったが、何度引こうが動かない。

 そのふすまをノックして声をかけてみる。


「セナ! ここにいるのか? セナ‼」


「.......何の用かしら」


「セナ!」


 ふすまの奥から声がした。

 どうやらセナはここにいるらしい。

 一先ずセナの存在か確認できたことに安堵した。

 にしても、一体どうして引きこもっているのか。


「とりあえず、ふすまを開けてくれないか? 顔を合わせて話そうぜ」


「そんなことする必要ない。このままでも話せる。それで十分でしょ」


「セナ......?」


 頑なに顔を合わせようとしない。

 まるで昔出会った時のセナの態度のようだ。

 ただ僕は顔を見て様子を確認したかっただけなのだが。

 ともかく、今は話を続けるか。


 僕はその場に座りふすまに背中を預けると、改めてセナに話しかけた。


「それで何の用だったか? 僕はもう一人の君であるヨナから頼まれて様子を見に来たんだ。

 もちろん、僕も最近セナを全然見ていなかったからね。心配になったんだ」


「心配......そう、心配してくれたのね」


「当たり前だろ。大切な仲間なんだから」


「だとすれば、もうする必要はないわ」


 あまりに唐突な言葉。

 何か気に障ることでも言ったのだろうか。

 衝撃に返答の言葉が詰まる。


「どうしてって反応ね。黙っちゃってわかりやすいわね」


「そりゃ思うだろ? そこまでこっちの反応が分かってるんだったら答えてくれるんだよな?」


「単純な話よ。私にはもう時間が無いだけ。

 あんたにもヨナにも皆にも出来ることは何もない。

 だから、何もする必要はない。かえって、余計な気持ちを抱えるだけだから」


「ちょ、それはどういう意味だよ!?」


「そのままの意味よ」


 どうやら答える気がないみたいだ。

 にしても、僕にも皆にも出来ることは何もないって......それはあまりにも寂し過ぎるだろ。


「なぁ、本当に僕達はセナに対して出来ることは無いのか?

 僕達は仲間だろ? どんな些細なことでもいい。必要なら言ってくれ」


「本当に......本当に何もないのよ。何も無くなってしまったの」


 なんでだろう、セナの言葉がどこか嬉しそうにも聞こえるのは。

 悲しみがこもった声のはずなのに、全く別の感情が見える気がする。


「ねぇ、後ろ向いてくれてる?」


「後ろ? ふすまに背中預けて座ってるから、まぁ後ろを向いてるな」


「そう、良かったわ」


―――ガタッ


 瞬間、ふすまが開き、寄りかかっていた背中は後ろへ倒れる。

 同時に、背中から優しき抱き止められた。

 ヨナよ一緒の優しいニオイに、着物の色。

 小さく柔らかな手が爪を立てて、離れがたくしがみついている。


「セナ......」


「そのままの状態で聞いて。私はね、もう存在する理由が無くなってしまったの。

 だから、消える。といっても、すぐじゃないからもう少しだけヨナを通して世界を見させてもらうけどね」


「......それが僕達が出来ることが何もない理由か」


「そう」


 耳元からセナの声が聞こえる。息遣いを感じる。

 別れを感じさせるには十分すぎるシチュエーションだ。


「セナ!」


 僕はすかさず後ろを向いた。

 そこには泣きながら笑みを浮かべるセナの姿がある。

 見慣れたツインテールに、故郷にいた時の服装であろう見慣れない姫っぽい衣装。


「向かないでって言ったのに......」


「ごめん。だけど――っ!」


 言葉を発しようとしたその時、唇に当てられる人差し指。

 もちろん、セナのものだ。まるで言わないでと言わんばかりに。


「安心して、私の意志はあの子の中で生きる。だから、この姿を見るのはここで最後。

 皆にお別れを言えないのは寂しいけど、死ぬわけじゃないしね」


「......セナ」


「だから聞いて。これが私からの最期のお願い」


 そして、僕はヨナに答えるべき言葉を聞いた。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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