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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第6章 記憶の継承

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第164話 遊ぶときは全力で

 海へやってきた。

 それだけでもはや現在の目的は一つと言ってもいいいいだろう。


 本当は海水浴なんてするつもりはなく、単に海を近くで見たかっただけ......だったのだが、皆が乗り気になってしまったのなら、それはもはや仕方ないことだろう。


 いや~、仕方ないね、うん。これは本当に仕方ない。

 せっかく海へ来たんだから楽しまないとね。


 コウタとメイファには申し訳ないけど、海の魅力には抗えないということだ。

 それにしても、さっきから拳矢の姿が見えないな。


「海だーーーー!」


 全力で拳を突き上げて喜びを噛みしめる。

 僕はもとの世界でも海へ行った経験はない。

 つまり、今日が記念すべき海デビュー。

 初めての海が異世界とは思わなかったけど。


「なんで海ってテンション上がるんだろうね」


「原初の生物が海で生まれた結果だからじゃないか? 知らんけどな」


 薫と蓮がそれぞれ海を見ながら、そんなことを呟く。

 ちなみに、もうすでにキッチリと海パンを履いていた。

 薫に至っては薄い上着を羽織り、パッと見は女の子と間違えられてもおかしくない気がする。


 なにはともあれ、全員がこれから海に挑む準備は万端ということだ。

 正直、今にも海に向かって全力で飛び込みたい。

 しかし、そんな衝動を抑えて突っ立っているのは、ここに仲間達が来るからだ。


「お、お待たせしました......」


 やや緊張気味のヨナの声を聞き、僕達は振り返った。

 瞬間、あまりの神々しさに目が釘付けになる。

 こ、これは.......!


 まずヨナは水色の水着を着ており、腰には花柄のパレオを巻いていた。

 水着は髪色に合わせたのだろうか。


 恥ずかしそうに体をよじらせながらも、こちらの反応を伺うようにチラッと見て来る姿勢は、とてもオタクの癖に刺さる。

 なんせ二次元及びファンタジー大好き人間だったからね、うん。


 アイの水着は黄色だ。ビキニタイプではあったが、胸元がフリルで覆われてるやつ。

 加えて、下は水着の上に白いデニムパンツのようなものを履いているようだ。


 アイも水着の色は髪色から合わせた感じかな?

 なんであれ、アイの太陽のような明るさにマッチしていて実に可愛い。

 さすいも(※さすが我が妹の略)である。


 ウェンリは植物の葉っぱがあしらわれた黄緑色がベースの水着だ。

 ワンピースタイプの水着であるため、胴体の肌面積は少なく、腰回りにはスカートがついている。


 クールで何事にも動じることが少ないと思っていたが、さすがにウェンリも今の格好には羞恥心が現れているようだ。

 立っているだけなのに動きがなんだかよそよそしい。

 水着もそれが現れた結果だろう。


 最後に、ミクモさんは一言で言えば白のハイレグだ。

 加えて、お腹部分と背中部分が大胆に開いており、お腹部分に至っては若干下乳が漏れてる。

 あれは見てはいけない類の人物だ。歩く猥褻物。


「ミクモさん、アイの前でなんて格好してくれてるんですか。

 旦那を誘惑するならよそでやってくださいよ」


「だって、我慢できひんかったんやもの。いつだって女は着飾って魅力的でいた方、殿方かて離れていかへんどっしゃろ?」


「アイの情操教育に悪いって言ってるんです。

 アイがそんな格好してきたら、僕は恐らく泣くと思いますよ」


「嬉しくて?」


「間違った教育を施してしまったことに対してですよ」


 僕は間違ってもアイをそんな痴女に育てるつもりはないぞ。

 アイがどのような成長していくかは基本アイ任せだけど、少なくともミクモさんみたいにはならないようにとは思ってるぞ。


 アイがミクモさんのような痴女になったら......ダメだダメだ! そんな未来はありえない!

 一ナノほどでも考えるな! 考えた瞬間、それが現実に近づくぞ!


 頭から考えを払しょくするように頭を振った。

 すると、目の前にアイが近づいて来る。


 アイは何やらモジモジした様子で僕をチラッと見る。

 薄紅色に染まった頬と熱ぼったい瞳が相まって、何かを訴えかけてきてるのは確実だ。


「どうした? アイ――っ!?」


 一瞬の出来事だった。

 アイが突然僕の体に抱き着いてくる。

 ほ、ホワッツ!?


 普段意識してなかったが、今回ばかりは一枚の薄い布越しに女の子特有の“柔らかさ”がダイレクトに伝わってきた。


 何がとは敢えてここでは言及するまい。女の子だけが持つ柔らかさだ。

 さすがの僕も意識するなという方が無理そう。

 だが、アイは妹。その意識だけは決して外すな。


「お兄ちゃん」


 アイが抱き着いたまま下から覗いてくる。

 ウルウルした瞳をこっちに投げて来る。


「アイもミクモさんと同じ方が良かった?」


「っ!?」


 なんというダイレクトな可愛さ!

 ギュッと抱きしめたい衝動にかられた!

 しかし、今は裸同然の格好。さすがに自重せねばなるまい。

 それはそれとして、だ。


 僕はアイの両肩に手を置くと、そっと伝える。


「大丈夫、アイの水着姿は今でも十分に似合ってるよ。

 むしろ、僕は今着てるアイの水着の方が好きかな」


「ホントなの!? やったなの!」


 アイが僕から離れ、ぴょんぴょんと喜びを全身で表していく。

 その姿に僕も一安心。ふぅー、無事にアイのご機嫌は取れたみたいだ。


 額に手の甲を当てて、日差しでかいた僅かな汗を拭う。

 すると、近くから妙な視線が届いてることに気付いた。


 なんや、と周りに目を配ると、全員が全員して少し引いたような目をしていた。

 なんだその異常者を見るような目は。やめろよ。


「やっぱリツはんってロリコン......」


「ミクモさん、どうやら戦争の覚悟は出来てるようだね」


 僕はミクモさんの足元に瞬時に魔法陣を作り出す。


「え?」


「覚悟しなよ。先に戦争を始めたのはそっちだからな!」


「ちょ、ま――」


 ミクモさんを瞬時に転移魔法で海の上へと移動させる。

 海面に落ちた所で、彼女の周りから数多もの水で作り出したヘビで取り囲む。


「これが異世界版水掛け合いじゃー!」


「ひゃー!」


 同時にヘビが襲い、ミクモさんは海の中へ。

 ふっ、これが僕をロリコン呼ばわりした罰だ。

 僕はミクモさん相手なら割と容赦しない。


―――ボゥン!


 瞬間、海面から水柱が立ち、すぐさま水蒸気へと変化した。

 十中八九ミクモさんの仕業だろう。火の魔法を得意とするし。

 しかし、海に囲まれてるここじゃ、火の魔法はもは無力――ん?


 正面から勢いよく何かが飛んできた。

 ミクモさんを投げ飛ばしたとこで若干優越感を浸っていた僕は、それがものの見事に顔面に当たる。


「がっ!?」


 潮の味......これは海水!?

 顔を覆うような水の塊が高速で飛んできた!?

 ミクモさん、水系の魔法は使えないはずなんじゃ。


 ゴロゴロゴロと砂浜の上を転がっていった。

 顔だけ濡れただけに、顔だけが砂まみれである。

 ぺッ、ペッ、砂が口の中に入った。


 何が起きたんだ? と正面を見てみれば、水蒸気の中からミクモさんが見えた。

 両足の下から炎を出して、それで器用に空中に立っている。

 

 加えて、右手は水をすくったような状態で構えていた。

 まさか水を水く上げてこっちまでぶん投げたって!?


「リツはん、えらい過激なことしてくるわね。

 せやったらこっちも容赦しいひんわ。

 確かに、ここではウチの魔法は分悪い。

 そやけど、獣人の膂力を活かしたら水弾ぐらいは人力で生み出すねん」


「なるほど、そういうことか」


 とりあえず、顔を洗おう。よし、砂を洗い落とした。

 さて、何か言っておりますが、結局のところは人力。

 所詮は魔法には敵わな――


「あら、まさかリツはん。ウチのような女性に対して圧倒的なアドバンテージを持ちながら、魔法なんてセコい真似をするのかしら?」


 ミクモさんが上品に口に手を当てながら煽って来る。

 ほう、なるほど、そう来るわけね。でも、残念だったな。


「ミクモさん、覚えときな。僕のいた世界には偉大な言葉があってね――獅子はウサギを狩る時も全力ってな!」


 僕は素早く砂浜をかけ出した。

 波打ち際をラインに大きく跳躍すれば、ミクモさんの数メートル手前の海面に落ちていく。


 右手を海面を打ち抜くインパクトを利用して魔法陣を起動した。

 殴った海面はその場に十数メートルの巨大な高潮を作り出す。


「え、リツはん、もう少しお手柔らかに......」


「海咬」


「キャアアアア!」


 高潮がカーブし海に戻って行く瞬間。

 それは一つの巨大な生物の口に飲み込まれるような形となり、その範囲にいたミクモさんは波に飲まれた。


「ハハハ、どうだ! これが力――うっ!」


 上機嫌にしゃべっていると背中から水弾を撃ち込まれた。

 振り返るとひざ下辺りまで海に入ったアイが水をすくった手で構えていた。

 ま、まさか今のはアイ......なのか!?


「お兄ちゃん、イジメはダメなの!」


「イジメ!? いや、違う。アレは互いの意地のぶつかり合いで――」


「アイ、耳を貸すな。今のアイツには何を言っても届かない」


 アイの肩にポンと手を置き、スッと横からウェンリが現れる。

 こ、こいつ! 俺の言葉を遮ってアイに妙な言葉を!


「そうだな。もうアイツは変わっちまった」


「なら、せめて友達であり仲間である僕達が止めるしかないようだね」


「リツさん、必ず私が責任を持ってあなたを止めます!」


 蓮、薫、ヨナが続けて言ってきた。

 そのどれもが僕を敵と認識したような発言。

 こいつら思ったよりノリノリだな!


 だけど、そうか。皆がそう来るんだったら、こっちも乗ってやろう。

 これは海の陽気にやられた末路。

 そう思い込むことにして。


「お前達に俺が止められるとでも? 遠慮なく全員でかかってこい。

 それでようやく五分に届くかどうかだろうからな!」


「お兄ちゃん、絶対止めて見せるなの!」


「もうこれ以上好き勝手はさせません!


「その目をキッチリとアタシ達が冷ませてやるわ」


「止めるよ、仲間だからね」


「全員、迎撃準備だ」


「こらこら、ウチを忘れんといて。ウチもリーダーに借りがあるさかい」


 なんか結果として生まれてしまった僕バーサス仲間達。

 ノリノリの掛け合いで始まったレベルの高い水かけ攻防戦はしばらくの間続いた。

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