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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第6章 記憶の継承

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第161話 幼馴染が会いに来た

 僕にまつわるちょっとした事件が起きてから数日後。

 僕はアイ監視官と行動を共にしながら日々を過ごしていた。

 穏やかな日々が続き、束の間の平穏に浸っていると外からの来訪者がやってきた。


 この拠点は今ではちょっとした小さな町になっている。

 というのも、先言った来訪者の人達が関係している。


 ここはもともと攫われて奴隷として理不尽な扱いの人達を集めてきた場所で、またその人達の家族や村も含めたら今ではこのような大所帯に。


 もちろん、誰彼構わず入れていたら荒っぽい人も入ってしまう。

 だから、村に入れるにはこの拠点に住んでいる人達が許可したら的な感じにしてる。


 犯罪歴みたいのあったら拒否しようかとも考えてたけど、さすがにそれはやめた。

 過去に過ちを起こしたとしても今罪を償いながら生きている人達っているもんね。


 というわけで、いつも通り「来訪者がやってきた」という報告だけ受けて自宅謹慎生活を送っていると、僕が読んでる本の上にポトッと小さな蜘蛛が落ちてきた。


 この蜘蛛は蓮が契約している召喚獣のようなもので、この小さな蜘蛛は連絡係だ。

 いつもなら普通に<念話>を使えばいいものの、これを使う時は大抵何かしら問題が起きた場合。

 でも、確か蓮は今日ここにいるはずだった予定じゃ?

 特に外から気配もないし。


「どうしたなの?」


「どうしたんだろうね」


 アイが僕の肩の横からひょいっと顔を出す。

 じーっと見つめる視線は身振り手振りで何かを伝えようとしている小蜘蛛の方。

 あの、小蜘蛛さん? さっきから身振り手振りじゃわからないんですが。


「聞こえないなの」


「っ!」


 アイが指摘すれば、小蜘蛛はビクッと反応した。

 そして、お茶目っぽくテヘっと誤魔化しながら、そそくさと糸で魔法陣を作り出していく。

 <音声>の魔法陣に自分が聞いた声を流し始めた。


『律か? 俺だ、蓮だ。いつも通り門の入り口に設置した蜘蛛で来訪者を見ていたのだが、どうやら珍客が来たもんで急遽対処することにした。

 念のため、余計な動作で俺達に外部との連絡手段があると気づかせないためにも、このような連絡を取ることにした』


「なるほど、それでこの蜘蛛を」


『それで、相手は誰かと問いたいところだろう。簡単に言えば、お前の所縁の人物だ』


「俺の所縁の人物?」


「前に行ってた学院の人達かもなの」


 アイの言葉に僕は顎に手を当てて考える。

 学院の人物と言われたなら、僕にとって所縁のある人物は朱音、拳矢、リューズ先生にマイラ先生の四人だろうか。

 え、こんな所に一体誰が? せめてもリューズ先生以外でおなしゃす!


『それじゃ、答え合わせだ。恐らく、この蜘蛛のことだ。

 ドジって多少のタイムラグがあるだろう。

 その間にはもう俺達は家に着いてる頃だ。玄関に降りてこい』


「結局言わんのかい」


 蓮の言葉に思わずツッコんでしまったじゃないか。

 もったいぶるなよ、余計に気になるじゃないか!

 それと小蜘蛛さんディスられて......喜んでんじゃん、この蜘蛛。


 僕はアイ監視官とともに玄関に向かった。

 僕の部屋は二階にあり、廊下を通って玄関前の中央階段の最上段から玄関を見下ろす。

 すると、そこにはすでに蓮ともう一人の人物が立っており、その人物に僕は目を疑った。


「拳矢!? どうしてここに!?」


「お、まさか本当にいるとはな。よ、久しぶり」


 拳矢は快活そうに右手を上げて返事をした。




 僕は彼と二人で自室に来れば、早速体面で話始める。

 最初に声をかけてきたのは彼の方からだった。


「改めて久しぶりだな。学院ぶりか?」


「......そうだな。もう一か月以上は経つだろうけど」


「その手の怪我はあの時の戦いのものか?」


 拳矢が僕の手に対して聞いてきた。

 僕はそっともう片方の手で重ねれば、首を横に振った。


「違うよ、僕の個人的な怪我さ。それよりも、なんでこんな所に?」


 僕はさっさと本題に入ることにした。

 なんか拳矢相手だと余計なことを滑らしそうな気がして。

 すると、彼は頬をかきながら目線を僅かに逸らす。

 しかし、すぐにギュッと膝上に拳を作れば言った。


「単刀直入に聞く。お前は何をしようとしている? 学院で何をした?」


 拳矢が真っ直ぐした瞳で聞いてくる。

 本当に直球で聞いてきたよ。

 とはいえ、やはり聞きたいのはあの時の出来事で間違いなかったか。

 まぁ、逆の立場でもなぜあんなことをしたのか問い質したくはなるよな。


「そりゃ、当然僕達の正義のためさ。だけど、それを理解してもらうつもりははなから無い。

 どうあがいたって拳矢は勇者側の立ち位置にいるわけだしね」


「おいおい、しょっぱなら俺に追求されることを想定して動くなよ。

 今のですげー聞きづらくなったじゃん」


「悪い悪い。でも、きっと拳矢は僕達の事情を聞いても、止めに入る側だと思う。

 一体何年の付き合いだと思ってるのさ? それぐらいわかるよ」


「確かに、俺とお前は家も近所で入った高校も一緒で、今ではこんな異世界に来ちまってる。

 けど、俺には未だお前の考えがわからない。本当に悪いことをしているのかもな」


「......」


「正直、あの学院でやったことを考えればお前達が悪く見えても仕方ないと思う。

 だけど、律、お前がここにいるという時点でそう悪いことをする集団じゃないと思った。

 それはこの場所に来て確信に変わった。

 色んな種族がいる中で、誰もが楽しそうに暮らしている。

 本当にお前が悪いことだけをしているならこんなことにはならないはずだ」


 拳矢の鋭い観察眼が光っている。

 こんな明らかにスポーツバカって見た目なのに、意外と頭の回転が速かったりするんだよな。

 それこそ、もとの世界じゃ僕よりも頭良かったし。


 真剣な目で俺が真剣に答えてくれることを願っている。

 もう今更自分が引き下がることはない。


 それを胸を抱きながら、僕は自分の出来事に起きたことを話し始めた。


 僕の話に拳矢はじっと耳を傾ける。

 今更同情なんて貰おうと思っていなかったが、あまりの真剣な目についつ力が入ってしまう。

 普段見せない感情が吐露するように言葉が強くなってしまった。


 握り拳は血が出るほどとまではいかないが、それほどまで強く握った。

 表情は怒りという言葉を表すかのように歪み、魔力が荒々しく昂る。

 今の僕は沸騰した鍋にかぶせていた蓋がカタカタと音を鳴らしているかのようだ。


「もういい」


 いつの間にか訴えかけるように前のめりになっていた僕の肩に、拳矢の手がポンッと置かれる。

 その手はずっしりと重たく感じられると同時に、僕の悪い気を吸い出してくれてるように体を軽くした。


「もう言うな。それ以上思い出すと、お前が苦しくなるぜ。

 だって、今のお前すげー苦しそうな顔してるからな」


 僕はゆっくりと顔を上げた。

 僕の顔がどんな風に映ってるのかわからないけど、拳矢が優しそうな目をしてることはわかる。


 初めて自分の感情をハッキリと吐き出した気がした。

 そして、同時に理解する。

 やはり僕の怒りの根幹はあの村で起きた出来事なんだと。


「言っておくが、俺は別にお前の行動を止めに来たわけじゃねぇんだぜ?」


「え?」


 拳矢の言った言葉に僕は首を傾げた。

 すると、彼はおかしそうに笑って言葉を続ける。


「何驚いてんだよ。そもそも俺はお前を止めるなんて一言も言ってないし、お前も俺に言われたところで今やってる行動を止めることなんてないだろ?」


「それは確かにそうだけど......それじゃ、本当に拳矢は僕の話を聞きに来ただけ?」


「まぁ、本音を言えばまた一緒に頑張りたかった。

 皆がどう思おうと俺はお前はすげー奴だって思ってたからな。

 覚えてるか? 今ではこんな図体もデカくなったが、もともとは小学校でお前に助けられるほど背が低くてイジメられてたことを」


 これは僕が小学校で拳矢と出会う頃の話だ。

 家が近くにあったとしても、僕は拳矢の存在なんて知らなかった。

 だけど、同じクラスで一緒になってからはイジメられてる拳矢を知った。


 教室の誰もが見てみぬフリする中、僕も同じだった。

 だけど、その環境に一番最初に耐えられなくなったのも僕で、イジメを止めに介入したんだ。


 それから、二人で抵抗していく中で、僕達には友情が芽生え、家が近所ということもあって今ではこういう形に至った。


 思い返せば懐かしい思い出だ。

 もっとも、その頃の記憶を拳矢の方から引っ張り出すとは思わなかったけど。


 拳矢は自分の拳を見つめながら言った。


「俺がボクシングを始めたのだって、弱い自分を叩きのめす意味合いもあったが、本音を言えば俺はお前みたいになりたかったんだぞ? 律」


「僕......みたいに?」


 拳矢が僕に憧れていた......全然そんな風には見えなかったけど。


「お前はいざとなったら行動できる人間だ。

 だから、今も悪者になったように行動を続けている。

 確かに、あの頃のよりは消極的な行動が多くなったが、学院でお前を見た時思ったんだ。

 あぁ、やっぱり変わってねぇって。だから、理由だけ聞いて止めるつもりは無かったんだ」


 目頭が熱くなった。

 泣くのはなんだか情けない気がして我慢したけど、感情は確かに昂った。

 これまで僕の行動に対して、肯定してくれる人達はいた。

 僕が今一緒になって行動してる仲間達だ。


 だけど、心のどこかでは必ずある。

 彼らもまたこんな争いとは無縁の世界で幸せに生きるべき人間だと。

 だから、僕なんか肯定して一緒にいないで別の所で過ごして欲しいと。


 これは()()()()()()()()()()()なんだ。


「なぁ、学院で俺達と戦った時、ずっと手加減してくれてたんだろ? 今俺達の実力を教えるために」


「......あぁ」


「それって間接的に言えば、俺達を助けるためだったんだよな。

 だって、本気で戦ってる時お前を俺は一切目で追えなかった。

 正しく次元が違うって勝負だった。

 俺は自分がぬるま湯に浸かって生きてることを理解した」


 拳矢はギュッと拳を握る。


「だけど、それじゃダメなんだって思い知らされた」


 今度は僕の目をしっかりと見て来る。

 そして、言った。


「律、俺をお前の仲間に入れてくれないか?」

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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