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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第6章 記憶の継承

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第160話 僅かな歪

「本当に何も覚えていないんですか?」


 アイにじっとしているよう指示されれば、数分後にはゾロゾロとヨナを含めた皆が集まってきた。

 ヨナからかけられた言葉や皆の視線的にとてもお見舞いに来たような雰囲気ではない。

 しかし、一体何がそう思わせているのか、全く分からない今日この時。


「残念ながら覚えてないよ。気が付けばベッドで寝てて......この手の怪我は何が?

 まさかここにも魔神の眷属が来たのか!?」


 俺の迫真な態度に皆は困惑する顔を浮かべる一方。

 顔を見合わせたり、小声で何かを話し合ったり。

 そんな皆の態度に今度は僕の方が困惑していると、蓮が口を開いた。


「それはお前自身がつけた傷だ。直前に稲光を見た者がいた様子に、恐らく雷を発動させて自ら当てたのだろう」


「僕が? 自分自身で!?」


 蓮から言われた言葉に僕はあまりピンと来ない。

 というか、それが本当だとしたら、なんで僕はそんなことをしてしまったのか。

 僕は蓮達に「どうして?」と聞き返したが、「俺達の方が知りたい」と返された。

 まぁ、そりゃそうだよな。特に皆からすれば。


「むしろ、リツさんは自分が何かしたか覚えていないんですか?」


 ヨナからの言葉に僕は首を横に振る。

 覚えてたらとっくに言ってるし、そもそも自分で作り出した雷に打たれるようなおかしな行動はしない。

 そんな僕の反応に全員が再び困惑した顔をする。


「誰かに操られたのか?」

「いえ、それはありえないかと」

「どうしてだ?」

「律君の場合、常にそういった精神干渉類の魔法陣をかけてるからだよ」

「そやな。仮に相手魔神の使途やとしても、リツはん相手になんも気配出さず精神干渉するなんてことはややこしいやろうな」

「となると、律は自分の意志でやった? あんな傷が出来るのを?」

「それはありえないなの!」

「だけど、アタシもコウタの言葉を否定できないわ」


 皆が僕を抜きに話し合っていく。

 なんだろう、この疎外感。

 話題は僕のことに対してなのに、僕が一切話に関われないこの気持ち。


「にしても......本当に僕はそんなことを?」


 僕は左手を見る。

 左手には包帯が巻かれていて、発見当時左手に数センチほどの穴が出来ていたらしい。

 加えて、包帯が巻かれていることから僕自身がつけた魔法は回復魔法を弾いたということだ。

 つまり、魔神の使途と同じ魔力干渉を受けている。


 そんなバカな行動を僕がやったということに僕自身でも驚いてる。

 それをやる意味があるかと考えてみれば、無いだろうと思うから余計に。

 でも、問題なのがなんとなく心当たりがあることだ。


 学院街オストレアで魔神の使途バルドスとの最終決戦の時、僕は確かに内なる声のようなものを聴いた。

 僕も知らないどこか高圧的な雄々しい声。

 その声に従うような形で思考したら、僕は新たな力を手に入れた。


 とはいえ、その時の戦闘は思い返すととてもふわふわしてるんだような。

 なんだか、僕がゲームのキャラのようになって、第三者の誰かに操作されているような感じ。

 操作してるのが自分自身? だから変な感覚は無かったけど、思い返してみるとそれなりにラリってた気がするんだよな。


 とても僕がやるような戦闘スタイルじゃないような、だけど絶対にやらないと問われればそれも全く違うような......ともかく言語化が難しいが、アレはたぶん内なるもう一人の僕と考えていいだろう。


 凄い厨二くさいセリフを言ったような気がするが、実際その声を頼り......はなんか違うけど、それを使って戦いに勝ったわけだし。

 それを認識するとするなら“内なるもう一人の僕”というのが一番しっくりくる。


「律......おい、律」


「ん? あぁ、どうしたんだ蓮?」


「聞こえてなかったのか? もう一度言うぞ、お前、禁書庫で何があった?」


 蓮もとい皆が真面目な様子で僕の回答に耳を傾けている。

 そうか、皆からすればあの時が確実な僕との空白の時間。

 禁書庫で見た内容は僕しか知らないから、その可能性を疑っているのか。

 確かに、あの内容は僕にとって衝撃的......ん? なんで僕はあれを衝撃的だと思ったんだ?


「禁書庫で見たのは魔神との戦いのその後だよ。

 魔神と戦った人達は死力を尽くして戦った。

 だが、魔神の力は強大で倒すまでとはいかなかった。

 だから、封印という形を取ろうとしたが、それすらも魔神は防いでしまった。

 結局、魔神と戦った人達は全員やられてしまった。

 それが今の魔神の使途――つまり、ガレオスさんのような人達のことさ」


「そんな歴史があったんですね......」


 ヨナは興味深そうに頷いた。

 そう、それが正史だ。つまり、今の世が魔神を勇者達が倒したという今の歴史が嘘なんだ。

 とはいえ、どうして魔神がそのような歴史にしたのかはわからない。

 推測で言えば、自分が死んだことになれば、身を隠しやすくなるという考え方もできるが。


 しかし、魔神といえど腐っても神。

 それを考えるととてもそんなことをする必要がないと思える。

 いくら戦いで傷ついた体であったとしても、自身を追い詰めた連中以外は塵芥に等しいはずだろうに。


 そう考えると、魔神はこの世界を破壊することが目的じゃなかった?

 支配することが目的だとすれば一応納得も出来るか。

 とはいえ、アルバートのような存在がいながら、いつまでも支配にチンタラしているのは随分おかしな感じがするが。

 

「後はそうだな......リーダー的な存在の魂を切り分けたってのも書いてあったな」


「魂を切り分けた?」


 薫が首を傾げながら聞き返してくる。

 僕は頷いて説明をした。といっても、書いてあるままだけど。


「魔神はリーダーの肉体を奪おうとした。そのリーダーがやられれば完全に勝ち目は無くなる。

 だから、その前にリーダーの魂を切り分け、時空に飛ばすことでどのくらい先の未来になるかはわからないけど、いつかその魂が新たな肉体を得て戻ってきた時、再び魔神に挑めるようにって」


 僕がそう言えば、蓮達は顔を見合わせていく。

 その目は何かの良くない可能性を考えてるような感じに見えた。

 なんか僕の知らない所で共通した話でもある?


「ちなみに、その時空って別世界のことだったりするのか?」


 蓮が真剣な目つきで聞いてきた。

 ん~、どうだろ? それらしきことは書いてなかった気がする。


「特にそれに関する記述はなかったよ。でも、敵を倒すために未来に転生させるみたいな話は理解できても、わざわざ別世界に転生させる意味は無くない?」


「まぁ、それもそうか」


 だって、その可能性を考えたなら、平和な世界に生まれたその魂の精神は環境に染まるわけで、そんなん起きちゃったら「なんで自分が戦わなくちゃいけない?」とかなりそうじゃん。


「ともかく、俺が禁書庫で見た手記の内容はそれだったよ。

 正史とは違うから禁書庫に入れられてたとは思うんだけど、どうにもそれにしては内容のパンチが弱いような感じはしたけど」


「ちなみに、その時にお前さんの体には何もなかったんだよな?」


 メイファが素朴な質問を投げつけてきた。

 それに対し、僕は記憶を振り返って見る。

 なんかその手記を見た直後に何かあった気がするけど、上手く思い出せないや。

 ということは、それほど重要なことじゃないのかもしれないな。


「うん、無かったよ。それ見て帰ってきただけ」


「その割には戻って来るまで時間がかかってたような気がしたが......ま、もう過ぎたことだし、考えても仕方ねぇか」


 あっけらかんとしたメイファの態度を見ながら、僕はふと思い出したことがあった。


「あ、そういえば、力の女神の神殿がある場所も見つけたよ」


*****


―――とある街道


 のどかな草原が一面に見える中、一台の馬車が走っていた。

 その馬車には一人の男が乗っていて、運転手が声をかけていく。 


「なぁ、若い兄ちゃんはこれからどこ行くつもりなんだ?」


「ちょっと友達の所までな」


 フードを被った男は気さくに答える。

 その回答に運転手はさらに質問した。


「なんだい? 故郷にいる人に会いにいくってクチかい?

 まぁ、冒険者になっちまうといつ命を落としてもおかしくないからついつい考えちまうよな。

 故郷に置いてきたアイツはどうしてるのか、あの子は今も元気にしてるのかってな」


「あんたも同じような感じだったのか?」


「そうだな。今はこうして承認をしているが、数年前までは普通に冒険者をやってた。

 だが、俺以外を残して仲間が全滅してしまった気に生き方を変えたよ。

 一緒にパーティを組んでた仲間も、死ぬ直前に『故郷で待ってる人に会いに行く』とか言ってたな」


「そうなのか」


「だが、さっきも言ったように仲間は死んじまった。

 きっと伝えたいこともあっただろうに、伝えきれずに死んでしまうことはよくあることだが、やはり生き残ったこっちとしても未練ってのは気分が悪い」


 運電種は手綱を強く握れば、真っ直ぐ地平線を見ながら言葉を続ける。


「だから、もし伝えたいことがあるなら手紙でもなんでも言葉にしておくことをオススメするよ。

 死んじまったら最後、何も伝えることも出来やしないんだからさ」


「......肝に銘じておく」


 運転手はチラッと荷台に乗る男を見れば、再び質問した。


「で、その友達ってのは小さい頃に約束した恋人かい?」


「いや、幼馴染の男友達だ。一応、つい最近会ったんだがな、なんだか俺が知ってる人物と変わっちまってるようでそれを確かめに行く所なんだ」


「それはまた随分と拗れそうな話だな。これは人が良さそうなあんたへの忠告だ。

 変わった人に昔の姿をむやみやたらに重ねないことだ。

 人はある日突然変わることもある。

 それは人である以上仕方ないことだ。

 だから、今のその友達の姿を理解してやりな。

 無理そうなら無理と縁を切るのも一つの手だ」


「それなら大丈夫そうだ。だぶん根は変わってねぇから」


 荷台に乗る人物――灯夏拳矢はぼんやりと外を見ながら答えた。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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