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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第5章 旧友との再会

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第156話 幼馴染の決意~勇者サイド~

―――聖朱音 視点―――


 学園の襲撃が遭ってから早くも三日の時間が経った。

 その膨大の時間の大半を、私はベッドの上でぼんやりと天井を眺めることで過ごしていた。

 日課の訓練も、食事も何もかもが今はただ煩わしい感じがして。


 私を心配して友達が何人も声をかけてくれたり、マイラ先生も声をかけてくれたりした。

 私のことを待ってくれている人が何人もいる。

 それは嬉しいし、理解している。

 どうにかして起き上がらないとって思ってる。

 しかし、どんなに気持ちが落ち着こうと、起きた出来事に対して私が考えないことはない。


 なぜ、あの時、りっちゃんが目の前に現れたのか。

 それ以前に、りっちゃんは狐の仮面をつけていて、その人は前に聖王国を襲った。

 声は女性そのものだったけど、確かに今思えば体格はかなりしっかりしていたし、声なんて魔法陣でどうとでも変えられる。


 そして、その仮面の人は宝物庫へ侵入して何かを盗んだ――りっちゃんが何かを盗んだ。

 その目的はわからないけど......いや、そんなこと本人が言ってたじゃんか。

 神を殺すこと、だって。


「なんたってこんなことに......」


 私は腕で目元を覆う。

 まるで視界に映る全てが嘘であって、それから目を隠すように。


 りっちゃんは国を追放されてから何があったのか。

 神を殺すなんて生半可な動機じゃ到底思いもしない。

 加えて、りっちゃんはその目的を達成するために力を身に着けている。

 それこそ私達の力すらまるで及ばない領域に。


 本気だった。あの時のりっちゃんは戦いに疲れていた様子ではあったけど、発せられた言葉からそう思わせるほどの気力があった。


 りっちゃんは神を殺すことを目的としているのなら、学院長すらも殺してもいいと思ってるの。

 それにこれまで学院で見せてくれていた表情は全て噓だったの?


 私は......りっちゃんが生きていることを嬉しく感じたし、せっかく幼馴染三人が揃ったと思ったのに。

 りっちゃんだけじゃない、ヨナちゃんも、メイファちゃんも、ミクモさんも全員私達を騙していたの?


 悔しさで涙が溢れる。歯を噛み締め口が歪む。拳に力が入る。

 許さない。騙したことを絶対に許さない。

 何が神を殺す、だよ! 誇大妄想もいい加減にして!

 それに自分で悪役(ヴィラン)って名乗って、さらに悪役の偉業(ヴィランレコード)

 クソダサい意外に言葉がないよ! 相変わらずネーミングセンス皆無だよ!


「決めた」


 今度会ったら必ず目の前で謝罪させてみせる。

 泣き喚こうが暴れようが、どうしてあんなことをしたのかキッチリ説明してもらう。

 そして、りっちゃん達の目的を潰すんだ!

 そうじゃなきゃ、私は皆を友達と認めない!


「ハァ......」


 涙を袖で拭い、腕を広げる。

 ずっとあの時の戦いの光景が脳内でフラッシュバックしていたせいで、まともに考えることすらできなかったけど、今世界を救うとは別の目標が定まった。

 なら、今度はどうやってって話んあるんだけど......そこの難易度が高すぎるんだよね。


 現実問題、りっちゃん達は強すぎる。

 学院を守護していたのは糸青君、堅持君、花街君、りっちゃんの三人だけど、りっちゃん以外の三人ですら冒険者最強パーティの金龍乱舞を足止めしていた。

 それは未だにあの人達に指導を受けながら、勝ち越せていない私達では手も足も出ないということだ。


 そのことに関しては私も身に染みて感じた。

 私達が戦った狐の仮面――正確にはりっちゃんの作り出した人形――に対し、私達は全員の力を終結させても手も足も出なかった。

 全員の力を使い、マイラ先生にも協力して貰ってようやく届いた攻撃は人形を破壊しただけ。


 まるで赤子の手を捻るような感覚でりっちゃんは私達を圧倒していただろう。

 そして、りっちゃんの力の領域がどの程度なのかというのは二人の戦いによって証明された。


 まず一人目が、私達勇者の指南役であり金龍乱舞でずば抜けて戦闘力の高いリューズ先生だ。

 二人とも余力を残した状態とはいえ、私達が束になっても勝てたことがないリューズ先生に対し、りっちゃんは互角以上の戦いをしていた。


 もはやあの二人の動きは目で追えるレベルではなかった。

 見えていたのは終始影のような何かが動いていることだけ。

 この時点で私達がりっちゃんに対して負けるのは確定事項だった。


 そして二人目が、空から降ってきた謎の人物。

 その男の人は本気の顔をしたりっちゃんとリューズ先生を二人相手に善戦するような戦いを見せていた。

 その時点でもはや私達が手を下せる領域じゃない。

 指を口に咥えてただ運命の行く末を見据える一般人も同じだ。


 その男の人はついには二人を完全に圧倒した。

 リューズ先生は深手で動くのが厳しくなり、りっちゃんが辛うじて動ける程度。

 りっちゃんがなんとか巻き返そうとしていたけど、一度は完全に負けた。

 しかし、その直後にりっちゃんの様子がおかしくなった。


 リューズ先生が言っていた“魔展操制”という豪魔を極めた人だけが発動する技。

 その技はリューズ先生すら「詰む」と言うほどの強力な技でもって、確かにそれが発動してからは謎の男の人を圧倒していた。

 ついには一人で決着をつけてしまうほどに。


 今のりっちゃんと私達にはそれほどの力の開きがある。

 リューズ先生に勝てていない私達では到底敵わないことは明らかだ。

 この世界はゲームでも漫画でもない。

 セーブ&ロードなんて出来ないし、一パーセントの可能性だけで敵に勝つなんてことはない。

 故に、堅実的に勝つ方法を探さなければいけないってことだ。


「まぁ、見つかれば苦労ないんだけどね」


―――コンコンコン


「ん?」


 ノックの音が聞こえ、ドアの方に視線を向ける。

 そこから聞こえてきた声の主はマイラ先生だった。


「アカネちゃん、起きてるかしら? 少しだけ気になることがあって......協力してもらっていい?」


「わかりました」


 前までの私なら断っていただろう。

 しかし、りっちゃん達に土下座させるという目的を持った以上は立ち止まっていられない。

 クヨクヨするのはもう終わり。私は勇者なんだから。皆よりも前に進まなきゃ。


 私はマイラ先生に少し待ってもらうと、急いで着替える。

 そして、普段着に身を包めば、ドアを開けてマイラ先生と顔を合わせた。

 マイラ先生は私を見るやすぐにニコッと笑みを浮かべる。


「良かったわ、顔色はそこまで悪くなさそうね」


「ご迷惑おかけしました。もう大丈夫です」


「ふふっ、なら良かった。でも、無理しちゃダメよ?

 それほどまで精神的に追い詰められる出来事が起こったってことなんだから。

 にしても、一人で立ち上がられるってさすが勇者ね」


 私は首を横に振る。


「いえ、私なんてまだまだです。皆が待ってくれているとわかったから力が出ただけです。

 それにりっちゃん達に土下座させるという目標が出来たから、じっとしてられなくなったのもあります」


 マイラ先生は一瞬目を見開けば、失笑した。


「ぷ、ふふふふ......それはなんとも素敵な目標ね。

 私もあの少年には個人的にお仕置きしたいと思っていたの。

 だから、もしその時が来たら呼んで。必ず力になるから」


「わかりました」


 りっちゃんはマイラ先生に対して一体何をしたのか?

 あのマイラ先生が魔法以外に興味を向けてるし、早速どんなお仕置きをしようかぶつくさ言うほどなんて。


 私はマイラ先生に連れられて廊下を歩く。

 廊下の窓からは訓練場が見え、そこで一人シャドーボクシングをしている人の姿が見えた。

 けんちゃんだ。やっぱりけんちゃんは流石だなぁ。


「私はあの子が少し心配よ。何か思い詰めたような表情をして、暇さえあればあのようにずっと体を動かしてる。

 昨日なんて限界まで動き続けて倒れるってことがあったぐらい」


 マイラ先生が同じように窓の外を見ながら、憐れむような目で見ている。


「そうなんですか!?」


 思わず言葉が漏れ出た。

 あのけんちゃんがそんなになるまで修行するなんて......。

 確かにけんちゃんは何かとストイックだけど、自分の体が壊れる寸前まで追い込んで鍛えるほどではない。


 そこら辺のバランスはキッチリと見極めているらしく、私に対しても無理してけんちゃんの修行ペースに合わせようとしたら止められたぐらいだ。

 だから、そこまでけんちゃんは追い詰められてるということかもしれない。

 きっと私と脳内で思い浮かべてる光景は同じ。


「けんちゃんもあの時のことを考えてるんでしょうね」


「むしろ、考えない人の方がいないわよ。

 なんせ、私達は魔族よりもより強大な敵の存在を知ってしまったのだから。

 加えて、その敵に対しては私達の力はあまりにも無力。

 あの空から降ってきた男の狙いがあの少年だったからまだ良かったものの、もしこの学院に向いたのならきっと......」


 マイラ先生はそれ以上の言葉を続けなかった。

 しかし、私からすれば容易にその先の言葉を想像できる。

 いや、私でなくても出来るだろう――今頃こうして話せていない、と。


「そういえば、私はこれからどこへ行くんですか?」


 空気を変えるように話題を変えれば、マイラ先生は沈んでいた表情を戻し答えてくれた。


「私達が学院の外で戦っている最中に、学院内では別の戦いが起きていた。

 アカネちゃんも見たことある場所よ」


「学院長が亡くなっていた室内修練場ですね」


 私もりっちゃん達が去ってから一度だけ見た。

 りっちゃん達が頑なに学院の中を入れさせないようにしていた理由を知りたかったからだ。

 そして、私は見た――焦げたニオイが充満するあの空間を。


 数分後、私は現場に辿り着く。

 目の前のドアを開ければ、そこはまるで黒いクレヨンで塗り潰したかのような煤で覆われてる光景だった。

 床は当然として、二階の手すりも観客席も何もかもが黒く変色していた。


 それはそれほどまでの戦いの大きさを表していて、こんな戦場の中をヨナちゃん達は勝って生き抜いたという戦力差も表していた。


 そんな光景をぼんやりと見つめていれば、マイラ先生は言った。


「ここ少しだけ変なのよね」

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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