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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第5章 旧友との再会

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第155話 悪役の使命

 僕は刀を地面に突き刺し、柄頭に両手を重ねながらバルドスを見る。

 バルドスは這いつくばりながら僕を睨めば、口の端から流れる血を拭うこともなく言った。


「ふざけやがって......何が確殺領域だ。人間が神に勝てるわけねぇだろ!?」


 バルドスが立ち上がれば、足をバキッと地面をへこませるほど踏み込む。

 奴は一気に走り出してきた。視界に捉えるのもやっとの速度だ。

 そこから、奴は火花の右手を背中に向けると、手のひらから連続爆破。

 それによって、体に回転力をかけ、その回転の勢いのまま僕に突っ込み、回し蹴りを繰り出す。


「かち割れろ!」


「それが驕りって言われない?」


 バルドスの蹴りが僕の眼前に迫る。

 <転移>を使えば避けることも容易いだろう。

 しかし、それはあくまで避ける必要のある攻撃だけだ。

 今のバルドスの攻撃を避ける必要はない。


 バルドスの頭上から<燈槍>の魔法陣を展開させる。

 それは蹴りが届くよりも早く、奴の体を地面に縫い付けた。

 残念、また届かなかったようだね。


「がっ!」


 バルドスが目を開き、口を歪めた。

 奴の背中に燃え盛る炎の槍が突き刺さる。

 しかし、さすがの防御力か僅かに焦がす程度で貫通までとはいかない。

 だけどまぁ、それも時間の問題だろう。


「ぐふぉ!」


 バルドスの真下から<土鉄拳>の魔法陣を展開し、奴の体を下から突き上げる。

 奴は吐血した。


 奴の頭の高さが丁度僕の殴りやすい位置まで来たところで、裏拳で殴り飛ばした。

 奴は地面をゴロゴロと転がっていくが、すぐに四つん這いになる。

 相変わらずタフだな。


「ハッ、テメェ忘れてるようだな! 俺のもう一つの攻撃をよ!」


「まさか、忘れるわけないじゃん」


「っ!」


 僕は<転移>でバルドスを引き寄せた。

 突然体が移動したことに奴は目を見開いて固まっている。

 ハハ、驚いてる。お前が設置したんだ。回収も当然お前だろ?


 僕は<土操作>で地面から土の手を作り、バルドスの四肢を掴み、地面に押さえつけた。

 そこには先ほどの僕の攻撃の際にしかけた奴お手製の地雷がある。

 さすがの僕も巻き込まれれば致命傷は避けられない。


―――ドゴオオオオォォォォン


 僕が<転移>で移動した直後、そこから盛大に爆発が起きた。

 その爆破を眺めていれば、黒煙にポッカリと風穴が開く。

 バルドスが移動した際に出来た穴だ。

 奴は全身を焦がした状態ながら突っ込んでくる。

 タフだねぇ~、いいじゃん。もっと殺り合おうよ。


 僕は空中に<燈槍><雹弾><雷剣><風刃>の四つの種類の魔法陣を五十ほど展開させる。

 一つの魔法陣から放たれる魔法の数は一秒間に三十発。それが五十ほどある。

 つまり一秒間に千五百発もの魔法が飛んで来る。

 それをバルドスには受けてもらう。


 もちろんながら、僕にもこの魔力消費のデメリットはある。

 僕の攻撃の届く範囲は作り出した魔力ドームの半球内であるが、当然魔法陣で魔力を消費すればその範囲も小さくなる。


 魔法陣は誰でも使えることを前提としたために低コストだが、さすがに威力の高い魔法をいくつも展開させればドームが小さくなるのも早い。

 しかし、バルドスを潰せるのなら出し惜しみする理由もないよな!


「一斉掃射だ」


 僕は正面から向かって来るバルドスに向かって手をかざす。

 瞬間、空中に展開された魔法陣から一斉に魔法が飛び出した。

 炎の槍が地面を焦がし、氷の弾丸が地面を凍てつかせ、雷の剣が地面に電気を放つ小さなドームを展開し、風の刃が地面を刻む。


 バルドスはその中をかき分けて進んでくる。必死な形相をして。

 時には爆破で攻撃を相殺させ、体を逸らして躱したり、攻撃量の甘い所へ移動したりと。

 されど数が数だ。奴も無傷とはいってないようで、かすり傷が増えていってる。

 辛うじて致命傷を避けながら接近してきてるようだ。


 今のバルドスはまるで昔アニメで見た主人公のようだ。

 敵の攻撃の雨をどうやって躱してるのかという動きでもって、術者の懐に潜り込む。

 この場合、大抵やられるのは悪役。ここで言えば僕だ。

 けどさ、それって悪役側に一切の油断がなかった場合って違うんじゃない?


「っ!?」


 バルドスは目を見開いた。目の前に僕がいるからだ。

 奴はグッと拳を握れば、青筋を走らせて叫ぶ。


「わざわざ目の前にぶっ殺されに来てくれるとはな!」


 バルドスは右足を前に出し、かかとで地面にブレーキをかける。

 正面にいる僕を無視すれば、振りかぶった拳を背後に向けた。

 奴の背後にも僕がいたからだ。


「テメェはこっちだ! 絶対にな!」


 バルドスの背後にいた僕は目を見開き、息を呑んだ――演技をした。

 まるで奴が勝ちを得たような顔をするのを見て、僕はニヤリと笑う。


「不正解」


 僕、否、僕だったものはバルドスの拳を胸に受ければ、破壊された彫刻のようにバラバラになる。

 もともとそれは本物の僕ではない。

 僕のように偽装させた<幻惑>と<土人形>を重ねたものだ。

 ちなみに、最初にバルドスの目の前に現れたのも作ったのを<転移>で移動させただけ。


 もちろん、僕が動いたのもしっかりと意味がある。

 バルドスはあの弾幕攻撃では倒れない、と僕は理解していた。

 奴はずっと紙一重で躱し続けている。

 人間には無理な体力と身体能力でもって。


 だが、逆に言えば、それはギリギリなバランスで立っている岩も同じ。

 全く影響を及ばなさいであろうハエほどの小さな生物が止まっただけで崩れる危うさがあった。


 だから、僕は思いっきり揺さぶってやった。

 あ、そうそう、ついでにバルドスを囲むように魔法陣を追加もしたね。

 後は、バルドスのその後の光景を土で作った椅子で座りながら眺めるだけ。


 バルドスの周囲から一メートル以内の距離に僕の弾幕攻撃が迫る。

 それを奴が雄叫びを上げながら爆破で捌いていくが、弾けなかった攻撃が砂埃を切り裂いて体に突き刺さる。


「がぁああああ!」


 最初は左足の太ももに突き刺さり、その次は右肩、右わき腹、左足の甲、右足ふくらはぎ、背中側の左肩。

 バルドスはまるで無数に手があるように動かしていくが、それでも僕の弾幕は終わらない。

 少しずつ、体中に傷を増やしていく。


 バルドスの体はまるでサボテンのように実体化した魔法が刺さっている。

 当然、魔法なんだから直撃すれば魔素となり霧散し、実体が消える。

 それでも見えるということは、消えるよりも早く次から次へと攻撃が直撃しているということだ。

 それを僕はあくびをしながら眺めた。

 まだ耐えるんだね、ちょっと飽きて来たよ......ん?


 僕は右手を小さく上げて魔法陣の掃射を止める。

 バルドスが立ちながら背中を丸くして動かなくなっていた。

 そんな奴の様子を見に行くように<転移>で正面に立つ。


「もしかして、死んだか? まぁ、さすがにそうでなくちゃ困るけど」


 僕は背を向ける。瞬間、背後からゾッとした気配に襲われた。

 振り返れば、バルドスが血走った眼で僕を睨みながら拳を振りかぶって来る。

 その行動に目を丸くする僕――という幻惑を見せて上げた。


「がっ」


 バルドスの動きが止まる。

 奴は口からボタボタと血を流し、そのままの状態で背後に視線を向けた。

 驚いてるだろうな、まさか自分のお腹から刀が突きだしてるとはって。


「言ったじゃん。もう油断しないって」


 僕は刀の向きを上向きにすれば、素早く振り上げた。

 バルドスの肩から刀が抜けると同時に、ブシャーと盛大に血が噴き出していく。

 バルドスが膝を折って崩れ落ち、前のめりに倒れた。

 そして、その返り血を僕は浴びた。


「終わった......」


 ホッと息を吐いた瞬間、意識が飛びそうになる。

 アドレナリンドバドバのおかげで足の痛みは無いが、それも時間の問題だろう。

 それに魔力の消費をし過ぎた。さすがに負担が大きいな。

 しょっぱなからぶっ放すってのは考えた方が良いかもしれない。


 膝に力が入らなくなり、その場に崩れた。

 ぼやけた視界にバルドスの死体と奴の作った血だまりが見える。

 ヤバ、もう立ってられな......い.......。


「律、しっかりしろ!」


 僕の体が支えられる。この声は蓮か?


「おいらが背負うよ。薫は治療をお願い」


「うん、わかった。すぐに癒し花を作るよ」


 僕の力の入らない体は康太に背負われ、僕の肩から何かの植物が絡みついた。

 これは白い百合のような.......何か光の粉を振りまいてる。

 ダメだ、視界がハッキリしない。ダメージを負い過ぎたか。


「リツさん!」


「リツ、大丈夫か!?」


「リツはん、いける?」


 この声はヨナに、メイファ、そしてミクモさんか。

 ヨナは僕に近づけば「これを食べてください」と丸薬を口に入れた。

 それをなんとか喉の奥に押し込んでいく。はぁ、飲み込むだけでもキツイ。

 そして、僕達の全ての用が終わって帰ろうとした時、一つの声に呼び止められた。


「待ってよ、りっちゃん!」


 声をかけたのは朱音だ。

 彼女は今にも泣きそうな顔を......してるように見える。


「......何?」


「何じゃないよ! これは一体どういうこと!?

 なんでりっちゃん達が学院を襲って......リューズ先生と戦って、その後謎の敵も......わけがわからないよ!」


 朱音が両手に拳を作り、訴えかけるように大声を飛ばした。

 すると、その横から拳矢も追いつき、彼も彼で言葉を投げかけて来る。


「そうだぞ、律! しっかりと説明しやがれ!

 お前はなんで俺達の敵に回るような行動してんだ!

 それと今の敵はなんなんだ! お前達は何の目的でここに来た!」


 何の目的? そんなの決まってる。


「この世界の神を殺すことだ。そのためだったらどんな悪役にでもなる」


 その言葉に朱音は信じられない光景を目にしたように口を両手で覆い、涙を流した。

 一方で、拳矢は怒鳴り声で何か言い返してくるかと思いきや、握った拳で怒りを堪えながら聞いた。


「それが......お前の為すべきことか?」


「そうだ」


「......そうか」


 拳矢が僕から顔を背け、下を向いた。

 なんというか、やけにあっさりと事実を受け入れたな。

 てっきりもう少し言ってくるかと思ってたけど。

 けどまぁ、僕に失望したという意味では正しい反応なのかな?

 もうなんでもいっか。


「僕達は悪役(ヴィラン)だ。

 そしてやがて、僕達はこの世界に悪役の偉業(ヴィランレコード)を刻む。

 もし邪魔するようなら、僕達はお前達も......殺す可能性がある。これは最終忠告だ」


 それだけ伝えると、僕は大きめな<転移>魔法陣を作り出しその場から去った。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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