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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第5章 旧友との再会

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第154話 確殺領域

 全身が痛いのに体が軽い。

 血がどこかしこから流れているのに思考が冴えている。

 ガタガタなのに笑みがこぼれてくる。

 本当に自分でもどうしたのかと思うようなイカれ具合だ。

 しかし、とにかく理由もなく――気分が良い。


 立ち上がった僕は全身から一気に魔力を放出した。

 僕を中心に半径三十メートルの魔力のドームを作り出し、その中が非常に濃い魔力で満たされる。

 あぁ、この中でなら僕は何でもできそうだ。そんな全能感を感じる。


 僕が立ち上がったことにバルドスは面食らった様子だったが、すぐに不敵な笑みを浮かべる。


「ハッ、まさかここまでタフとはな。いいぜ、俺も潰し足りなかったところだ。

 急に魔力を全解放して俺を潰す策でも思いついたのか?」


「あぁ、出来るよ。この全方位魔法陣(パンデモニウム)の中ならね」


 僕はそっと右手を向ける。

 その行動にバルドスは「懲りねぇな」と余裕な表情を見せるが、その余裕もそこまでだ。

 ここから先に一切のお前のターンはない。


「<剛力>、<衝打>、<絶鋼>、<爆破>」


 僕は右手のひらに四つの魔法陣を重ね合わせた。

 そして、まばたきよりも早く、右手でバルドスの顔面を鷲掴んだ。

 バルドスは全く動けていない。

 当然だ、お前が反応出来ない領域なんだから。


 顔面を地面に叩きつければ、衝撃で五メートルほどのクレーターが出来上がる。

 同時に<爆破>の魔法陣の効果で地面に接触した瞬間、バルドスの顔面を盛大に爆発させた。

 そこから、アンダースローでバルドスを投げた。

 バルドスが先ほど出来たクレーターの壁にぶつかっていく。


「クソが!」


 バルドスはすぐに立ち上がれば僕を見た。

 奴の額からは血が流れ出ている。ダメージは入ってる。

 つまり、勝機があるということだ。


 バルドスはギュッと拳を握れば、額に青筋を走らせた。

 すぐさま飛び出せば僕が視認できなかった速度でもって背後に回る。

 そして、オレンジ色の火花を散らした右手を振りかぶった。

 ハハッ、見えてる見えてる。


「がっ!」


 バルドスが頬を歪めて体勢を崩していく。

 あぁ、僕の<壊風>に殴られたんだね。

 んじゃ、遠慮なくその体斬らせてもらうよ!


 バルドスは振り返る僕に反応して咄嗟に距離を取ろうと後ろに下がろうとする。

 しかし、すぐに奴は目を見開かせた。

 炎の鎖が足に絡みついてるからだ。

 残念、<炎鎖>に足が捕まっちゃったね。

 ま、そもそも僕のエリア内に逃げ場なんてないけど。


 ザンッと僕の刀が確実にバルドスの体を捉えた。

 一刀両断とはいかなかったが、奴の胴体から盛大に血が噴き出していく。

 奴は体をくの字にしてクレーターの外まで吹き飛んでいった。

 僕は<転移>でクレーターの外まで移動すれば、這いつくばるバルドスを見る。

 あぁ、神の仲間の一人を圧倒している。最高に気分が良い。


「どう? さっきまで圧倒していた相手に今度は圧倒される気分は?

 お前達神には持ちえない感情だろ? 人間に屈するなんてさ」


「クソ......調子に乗りやがって」


 バルドスは口の端から流れる血をそのままに、地面に手を付け僕を睨んだ。

 顔は真っ赤で怒りで興奮状態って感じだ。

 そんな屈辱今まで味わったことないでしょ?


「調子にも乗るさ。神兵(お前)を思うように攻撃出来てるんだからさ。

 僕を潰したいのならもう一度避けてみてよ、僕の魔法陣。避けるのは簡単なんでしょ?」


「ぶっ潰す!」


 僕はバルドスの真下から<土針>を設置した。

 その魔法陣の発動直前の光に気付いたバルドスは体をゴロンと横に転がして避ける。

 奴の横には数メートルの高さでそびえたつ土針が出来上がった。


 土針にさらに<空斬>の魔法陣を複数設置し、風の斬撃を飛ばした。

 その攻撃をバルドスはすぐさま立ち上がって後方に下がって避ける。

 そこから、地面から空に伸びる<火柱>、土針の先端を拳状に変えて殴る<土鉄拳>、その土の拳から針の雨を撃ち出す<針時雨>と連続で畳みかけるがその全てをバルドスは紙一重で躱した。


「ハッ、粋がってた割には大したことねぇな!」


 バルドスの顔に余裕が戻る。

 ハハッ、こんなさっきまで避けれていた攻撃を避けただけで調子に乗るなんて可愛いとこあるじゃん。

 それに僕がなんであえて躱せる魔法陣を置いてるかわかってないみたいだね。


「もうお前の攻撃は食らわねぇよ!」


 僕が見たいのはお前の歓喜から絶望に落ちる表情の落差だよ。


「は?」


 バルドスは目を見開いた。

 当然の反応だね、なにせその魔法陣は()()にあるのだから。

 バルドスの体に<炎槍>の魔法陣による炎の槍が直撃する。

 こっちに接近中というのも相まってカウンターのようにその攻撃を食らい、ものの見事に逆側へ吹き飛んでいった。


 バルドスは地面をゴロゴロと転がれば、仰向けで血を吐いた。

 奴の表情は未だ混乱しているようで口を半開きにしている。

 奴は体を横に向け、地面に手を付けて上体を起こせば呟く。


「ど、どうなってやがる......空中に魔法陣なんてありえねぇ」


 バルドスの疑問はもっともだ。

 本来魔法陣というのは空中に設置できるものではない。

 魔法という事象を起こした際に空中に現れることがあるが、あれは単なる飾りのようなものだ。魔法陣は違う。


 魔法陣は魔法を構成する陣を作り、そこに発動する魔法構成を付け加える。

 そうすることで魔法陣は誰でも使うことができる。

 だけど、その時は必ず紙であったり、魔石に彫ったりであったり使うための”設置”が必要だ。

 

 一つイメージして欲しい。

 もし、それを空中で作るとしたらどうなるのかということを。

 前提として魔法陣は作る陣も形が奇麗に決まっており、角度も長さも何もかも決まっている。

 つまり長さをキッチリと測り、線引きで奇麗に線を引かなければいけないということだ。


 例えるなら、手に持った紙を空中にかざし、その状態でイラストレーターのような絵が描けるかということだ。

 当然不可能だ。描くにはキッチリとした土台が必要。

 故に、魔法陣はどこかに設置された状態でしか発動できない。


 それを僕は今使ってる“転写”という魔法陣を飛ばす技術で少しだけうやむやにした。

 あれは実は予め作っておいた魔法陣の型に魔力を流し込んで空気砲のように撃ち出してるだけなのだ。

 

 しかし、それでも最後の欠点だけは補えなかった――座標の設定だ。

 魔法陣は魔法と違ってアドリブで構成術式の一部を変えることができない。

 決まったものを決まった通りでしか発動できない。


 そのため、僕の魔法陣であっても、基本的に何かしらの土台の上で設置してある状態でなければ魔法を発動できない。

 しかし、その状況が今展開してる魔力ドームで一変したのだ。

 言うなれば、前提が崩れた。


「特別に教えてあげるよ。どうせ理解した所で逃げれないし」


「どういう意味だ?」


 バルドスが額に青筋を立てたまま聞いてくる。

 なので、気分が良いから教えてあげることにした。

 なんせ、僕のやってることは大したことじゃないから。


 魔展操制<全方位魔法陣(パンデモニウム)>は一言で言えば僕の攻撃エリアだ。

 その範囲内であればどんなに距離が離れてようとも攻撃が出来る。

 しかし、それは魔法を放てばやれることは同じだ。


 特徴なのはそのドーム内が僕の魔力で満たされてるということ。

 魔力は魔法を起こすにも、魔法陣を作り出すにも必要不可欠の存在だ。

 それが満たされている――つまりその中であればどんな操作も可能ということだ。

 それこそ空中で魔法陣を作り出すなんてことも。


 魔法陣は理論上形さえ出来ていれば、後は魔力を注ぎ込むことで発動できる。

 しかし、座標を決める必要があるため設置することは必要不可欠だった。

 だが、もうその必要はない。


 魔力ドーム内は僕の手のひらのようなものだから。

 僕の魔力操作でもって、魔力に満ちた空間の中で、発動したい魔法陣の形を作れば即完成。

 そうだね、もっと簡単に言おう。


「このエリア内であれば僕の攻撃は必中する。

 ま、誘導でさっきみたいに空振りさせるかもしれないけどね。だから――」


「がはっ!」


 バルドスは突然背中を誰かに殴られたかのように体をのけぞらせ、そのまま前のめりに倒れた。

 当然、それは僕の魔法陣によるものだ。

 バルドスは僕の攻撃エリア内にいるからね。

 どこにでも設置できるということはそういうことさ。

 この魔力内が僕の目の届く範囲であり、この中であれば死角はない。


 僕は<転移>でバルドスの前に立つ。

 口元を大きくニヤつかせると、地面に這いつくばる奴を見た。


「さ、抗ってみせてよ。神なんでしょ?」


 バルドスは地面に指を立ててギュッと拳を作ったまま僕を睨んだ。


*****


―――リューズ 視点


「先生! 大丈夫ですか?」


 ワシがリツとバルドスの戦いを見て居れば、二人の距離がワシから離れたのを良いことにアカネがやってきた。

 彼奴は心配そうにワシを見る。ま、ボロボロじゃから当然だな。それよりも、じゃ。


「アカネは今の戦いを見て何を感じた」


「え?」


 アカネはワシの質問にリツの方を見る。

 すると、大きく目を開き「りっ......ちゃん?」と体を強張らせた。

 正しく信じられないものを見たって顔じゃな。

 そうか、彼奴らはリツの正体を知らなんだったか。


「遠くからじゃ顔が良く見えなくてわからなかったけど......まさか狐の仮面の人がりっちゃん!? え、嘘、どうして!?」


「そこら辺は本人に聞け。それよりも、先ほどリツが魔力を周囲に展開したのに気づいたか?」


「え? あ、え、あ.......はい」


 アカネが口をポカンと開ければ、慌てて返事した。

 そんなワシ動揺すること言ったか?

 まぁ、あのリツは正真正銘でヤバい存在だからそういう反応にもなるか。


「あれは魔展操制という技じゃ。ま、言うなれば自身の奥義じゃな」


「魔展操制......」


「ワシの奥義<魔断>もそうじゃが、奥義にはその人物の特色が大きく表れる。個性の延長線上とも言えるな。

 そして、その魔展操制を生み出すには己が心に秘める真理に気付かねばならぬ。

 ワシの場合であれば、魔法の才が無かったから剣で一本で魔法を封殺するってな感じじゃったな」


 ワシの話を聞きながら、アカネはリツの方を見て言った。

 頬からは冷や汗が流れている。


「それじゃあ、りっちゃんは自分の真理に気付いてあんな風になったということですか?」


「そういうことじゃ。まぁ、発動した能力が些か頭おかしいレベルじゃけどな。

 仮にワシが万全状態で<魔断>を何回でも放てたとしても、必ず剣の振りは再び振るまでにラグが出る。

 つまり......アレ発動された時点でワシ詰んだな」


 ワシは苦笑いを浮かべた。いや、ほんとそれしか感情が浮かばん。

 もはやワシが魔力をぶった切らねばいかんくなったが、さすがにそれは出来んからな。

 全く、リツには驚かされてばっかじゃ。さすがワシの永久指名好敵手じゃ。


「リューズ先生が勝てない......」


 アカネがワシが勝てないとハッキリ言ったことに驚いてるようじゃ。

 が、それは単にお主の視野が狭かっただけじゃ。


「よく見ておけ、これから始まるのは一方的な蹂躙じゃ」

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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