第151話 敵の敵は味方
とんでもないことになった。
僕がヨナ達が学院から出てくるまで、学院の生徒の相手及びリューズ先生の相手をしているその最中、まさか魔神の眷属がやってくるなんて。
それもこの強さはネルドフ大迷宮で戦った使途の連中よりも強い。
アルバートまでとはいかないが、それでもオーラが確実に僕よりも強いことを物語ってる。
不味い、コイツだけは倒さないと俺達が逃げ切るプランが無くなる。
「ハァ~、それにしても、随分なおつかいをさせるもんだな。アルバート様も。
ロクトリス様に内緒で殺せば後でどうなるかわかったもんじゃないのに。
でも、ま、あの人ならどうにでもするか。それよりも俺は任務を遂行するだけ」
一人でブツブツとしゃべっているバルドスとかいう人物の容姿は、一言で言えば地元のヤンキーみたいな感じだ。
上裸の上に短ランを着たような服装で、目線だけで人を威圧する目をしている。
それこそ赤い髪なんて返り血で染めたようにすら思える。
「僕に用があるのか?」
「そうだな。上から命令でお前を殺すことが俺の目的だ。
ってことで、俺に潔く殺されろ......と言いたいが、俺も優しいからな。
たっぷりと抗ったその上で殺してやるよ」
うっ、コイツの目、リューズ先生がする目のそれだ。
つまり、コイツも戦いに悦楽を見出すタイプ。
何? なんなの? 俺ってそういう奴に好かれるような星の下に生まれたのか?
そんなことを思っているともう一人の戦闘狂が口を出した。
「やい、待たれい! 彼奴の永久指名相手はこのワシじゃぞ?
どこぞの馬の骨が勝手にワシから彼奴を奪おうとするな!」
「待て、いつ僕があなたを永久に指名した?」
「あぁ? なるほど、そういうことか。お前もこっちタイプか。
なら、話は分かってんだろ? 早い者勝ちってことぐらいな。
それと本気で殺し合うならさっきから乳繰り合ってんじゃねぇぞ」
「お主にワシと彼奴の情事をとやかく言われるつもりは無いな!」
「勝手にその内容で話を進めるな!」
コイツら、俺がいるってのに好き勝手言いやがって。
だが、リューズ先生がバルドスに対して敵意剥き出しなのは好都合だ。
魔神の眷属だけは生きてちゃ困る。
僕はすばやくリューズ先生の体に<念話>の魔法陣を転写した。
『リューズ先生、聞こえますか?』
『む? 突然リツの声が脳内に......ついに彼奴への闘争心が強くなりすぎて幻聴まで聞こえるようになったか?』
『バカなこと言ってないで、これは僕が仕掛けた魔法陣の仕業ですよ。
ともかく、あのバルドスという相手は危険です。
あの敵だけは確実に排除しなければならない。手伝ってください』
『なるほど、そういう類の話か。
確かに、ワシらが真剣勝負しているというのに突然横から間男が現れたんじゃ続きは難しいからな。あいわかった!』
『解釈のされ方に非常に不満があるんですが、とりあえずそんなんでいいですもう。
あの敵はとにかく強いです。油断せず二人がかりで戦いましょう』
『わかっておる。久々に鳥肌が止まらん。ククク、これが愛の共同作業というやつか』
『もう切りまーす』
『あ、ちょ――』
僕は魔法陣を消去してこれ以上の不毛な会話を避けた。
すると、リューズ先生から不満そうな視線を送られてくるが無視。
今そんなことに構ってられる余裕はない。
「魔神の眷属バルドス。お前はこの世界の秩序を乱す悪因子だ。
よって、速やかに排除させてもらう!」
「おっ、いいねぇ。そうこなくっちゃ」
僕はバルドスの足元に転移魔法陣を飛ばすと、すぐさま眼前へと移動した。
そして、刀に付与した炎でもって炎の一撃を振るっていく。
「熱っちぃな。だが、当たってない」
「っ!」
こ、コイツ、リューズ先生ですら受け止めたゼロ距離攻撃を体を逸らして避けやがった!?
反応速度がリューズ先生以上だし、なんだったら体を動かす速度も速すぎる!
「ほら、やり直し」
バルドスが僕に向かって蹴りを放ってくる。
それを転移で回避し、奴の背後に回って体の回転を活かした刀の薙ぎ払いをした。
「がっ!」
しかし、それは奴が刃先を指先で摘まんで止めるというイカれた方法で防がれ、そのまま殴り飛ばされた。
その速度はきっと朱音達からすれば影でしか捉えられなかっただろう。
そんな気が付けば目の前に何かが通り過ぎ去ったという速度でもって、学院側と反対側の民家へ吹き飛んでいく。
くっ、殴られた勢いが強すぎて風圧で体がまともに動かせねぇ!
「――と思ったけど、やっぱりめんどくせぇからいいや」
「っ!」
突然体がガクンと止まったかと思うと、バルドスが僕の足を掴んでいた。
あの速度を後から追いかけて追いついたってのかよ!?
だが、僕の足に触れ過ぎだ!
「過炎脚」
「くっ!」
僕はバルドスが掴む足から炎を纏わせ、蹴りの振りでもって手を振り払う。
そして、体勢を変えて右手に持った刀を大振りに振り下ろす。
そんな僕の行動に奴は笑った。
「遅ぇな!」
「だったら、間に合うようワンテンポずらせばいいんだよ!」
「目がっ!」
僕はバルドスに視線を合わせると、その目に<閃光>の魔法陣を飛ばした。
設定は設置直後。魔法陣は瞬く間に発動し、眩い光を放つ。
それによって、奴が一時的に目が潰され、そこに僕の全力振り下ろしの刀が入る。
バルドスは咄嗟に腕で頭を覆い攻撃を防いだ。
固い! 刀で腕をぶった斬ろうと思ってたのにちょっとした切り傷しか入らない!
だが、僕達のターンはまだ終わってない!
ぶつけてやろう、剣士の頂点に立つ人間の一撃を!
「行ったぞ!」
「任せい! こんな間男、ワシが一刀両断してくれるわ!」
バルドスが僕の攻撃で地面に押さえつけられる形になり、目潰しも相まってその場から動けない。
そこに蚊帳の外にされてプンプンな様子のリューズ先生が、刀を納刀した状態で接近してきた。
「一刀流奥義――落花扇」
リューズ先生の居合斬りは僕が目で追うのもうやっとのくらいだった。
まるで扇を開くかのようにバルドスを逆袈裟に斬った刀は、斬り終わった直後再び通ってきたルートを戻るように今度は奴を袈裟斬りにしてそのまま納刀。
バルドスの胴体からは盛大に血が噴き出していく。
気が付けばリューズ先生は僕の背後に――っ!
「危ない!」
「なっ!」
「痛ってぇな!」
確実にダメージを与えたにもかかわらず、バルドスが怯んだ時間はほとんどなく、奴はすぐさま背後のリューズ先生の肩を掴んだ。
そして、強引に引き寄せると、そこから一気に頭突きをかましていく。
「させるか!」
僕はすぐさま追撃しようとするバルドスに真上から刀を振り下ろす。
しかし、奴が振りかぶった拳はすぐさま頭上へと伸びて、僕が振った刀を掴んだ。
「「かっ!」」
バルドスはそのまま一気に僕でもってリューズ先生を叩きつけた。
重なって咄嗟に身動きが出来ない僕達に、奴は一度自分の両拳を突き合わせて火花を散らすと、一気に右拳をストレートに放ってきた。
「爆砕拳」
―――ドオオオオオォォォォォン‼!
突如として怒った半径十メートルにも及ぶ爆発。
辺りはすぐさま黒煙に包まれていく。
爆心地にいた僕とリューズ先生は服の一部が焼け、体の一部に火傷覆いながら、黒煙の尾を引いて吹き飛んでいった。
二人して地面にズサーッと滑りながら無様な着地をしていく。
全身がめちゃくちゃ痛い。
まるで体が動かすなとでも言ってるような感じだ。
しかし、ここで動かなければやられるのは目に見えてる。
僕はやられるわけにはいかないんだ。
僕は仰向けになった体をうつ伏せに変えて、手で地面を押して立ち上がる。
隣にいるリューズ先生も同じように上半身を起こすと、向きを変えて座った。
そして、乾いた笑みで話しかけてくる。
「ククク、ヤバいな、あれは。
咄嗟にお主が魔法障壁を張ってくれなければ、今頃ワシら共々粉微塵じゃったな。
にしても、彼奴はなんだ? おおよそ人間の体ではない。
斬った感触があったのに、ワシの奥義で斬ったのが薄皮一枚ぞ?」
「アイツが俺達の敵――魔神の眷属ですよ。
使途は人間から神へと昇華した存在ですが、眷属は本物の神、いや神兵と言った方が正しいか」
「そんなことは彼奴の自己紹介でも言ってたが......魔神は大昔に先代の勇者によって倒されたのではなかったか? お主達は何と戦っておる?」
「見てわかるでしょ。あの敵は僕を狙っていた。それが答えです。
それに魔神の眷属がいるということは、本来伝わってるその歴史が正しくないということですよ」
「まさか......それでは魔族は魔神を味方につけて進攻してきてるということか!?」
「そもそも僕はこれまで魔族の魔の字も見てないですよ。
魔神の魔の字なら腐るほど見てきましたが。
僕にとっては魔族に関係するのかどうかすら怪しいですけど」
「......お主達はワシらよりもずっと早くからこんな相手と戦っていたというのか。
どうりでお主やお主の仲間達が強すぎるわけじゃ。
これほどまでの力の前に生半可な力では到底太刀打ちできまい」
僕は膝に力を入れて立ち上がる。
「おっと、僕はてっきりリューズ先生ならこれまでにない強敵に喜ぶと思ってましたよ」
リューズ先生も立ち上がる。
「バカ言うな。確かに、ワシは強者と戦うことは好きじゃ。
じゃが、人の身を辞めた存在になった相手に喜ぶような女ではない。
持ちうる力、持ちうる知能、持ちうる技術の全てに上限が設定されてる人の身でもって、しのぎを削るような戦いをするから面白いのじゃ。
ワシとて戦う相手ぐらい選ぶ」
「その中から僕も除外してもらうことは......できませんよね?」
「当たり前じゃ。お主は生涯ワシとしのぎを削る相手。死ぬなら当然同時じゃ」
「なにそれ、新手のプロポーズ?」
「そう受け取ってもらって構わん」
「冗談で言ったんだけどマジか......なんか死亡フラグたった気がする」
そんな息絶え絶えながらに話していると、バルドスが悠然と歩いてきた。
「まさかもう終わりじゃねぇよな?」
「「まさか!」」
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)




