表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第5章 旧友との再会

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

149/185

第149話 嫌なマッチアップ

 僕は慢心していないつもりであったけど、結局どこかに慢心があったのだろう。

 マイラ先生を捕えているから主導権はこっちが握っている......はずだった。

 その時点で慢心していたのだ。


 マイラ先生は冒険者で最強の魔術師と名高い人だ。

 そんな人が僕と関わっていて、魔法を全く盗まないはずがない。

 マイラ先生は錬魔に関しては僕より劣っている。

 劣っているからこそ別の方法を考えた。


 それが魔法陣の乗っ取り。いや、厳密に言えばそれに使う魔力を利用した。

 僕のマイラ先生にしかけた魔法陣は正常に機能し、ちゃんと先生を目の前に呼び出した。

 しかし、この行動自体先生からすれば予測していたのかもしれない。


 マイラ先生は予め転移魔法陣をなんらかの形でリューズ先生との間に繋げていた。

 しかし、転移魔法陣というのは本来一人でポンポン使う魔法ではない。

 複数人が多大な魔力を込めて使う魔法である。


 マイラ先生は仕掛けた魔法陣を発動させることは出来ない。

 故に、俺がマイラ先生をなんらかの形で封じる際に使う魔力をそれに利用した。

 俺が先生や朱音達を傷つける意志はないとわかっていたから。


 そして、俺が転移魔法でもってマイラ先生を呼び出した時、彼女の転移魔法の発動条件は揃った。

 それで呼び出したのが、僕の天敵であるリューズ先生。あぁ、完全にしてやられた!


「ハハ! 急に景色が変わったからマイラが何かしたのかと思っていたが、まさかこのような面白い状況とはな!」


「今さっき面白さは無くなったけどね」

 

 朱音達の攻撃を止めたリューズ先生が後ろを振り向きながらにこやかな笑みを浮かべてくる。

 まるで春の訪れを感じて喜ぶ少女のように。

 もっとも僕視点からはとんでもなく怖い笑みにしか見えないけど。


 僕はすぐさま距離を取っていく。

 もう遊んでられる状況じゃなくなったから。

 さて、ヨナ達よ、早く戻って来てくれ!

 この人の相手を長いことしたくない!


「ふむ、どこもそこも入り口が封じられて困っていたんじゃ。それも強い相手ばっかでな。ワシも困っておったんじゃ」


 なんか一人でにしゃべり始めた。え、怖いんだけど。


「で、ワシも戦士の端くれじゃ。どうせ戦うのなら一番強い相手と戦いたいと思うのが戦士の性というもの」


「それなら、僕じゃなくて糸を使う奴が一番――」


「そんな気持ちを悶々とさせていた時に現れたのがお主なのじゃ! いや~、これはもはや運命とした言えんよな? な?」


「いや、絶対違う――」


「お主もそう思うか! ハハ、気が合うな!」


 全っ然人の話聞いてくれない。それどころか時間経過で目が闘志で漲っていってく。

 うわぁ、助けて。誰か助けて。調子乗ってたの謝るから。

 勝てないから戦わないじゃなくて単純に相手にするのがめんどくさいの!


「お主となら長話も悪くない......じゃが、互いに戦士であればこそ、語るのは互いの刃を交えてではなかろうか?」


「......ハァ、もう、わかった。相手して一瞬で潰してやる」


「ハハ、その意気込みじゃ! じゃが、お主との本気を待ち望んでいたワシが簡単に倒れると思わないことじゃな!」


 リューズ先生は武器を構えると地面を蹴って動き出す。

 一瞬でトップスピードに入ったな。

 相変わらず速さは僕でも影でしか負えない。

 しかし、直線に来るってのは少し舐め過ぎ――っ!


 僕の目の前に同時に三体の残像が現れた。

 一つは右側からの斬りこみ、二つ目は左から、三つ目は上から。

 いやいや、せめて残像であっても普通は振るった刀が同時に三方向から攻撃してくるとかでしょ?

 何この人、普通に肉体のまま三つの残像残してんだよ。

 それって俺が影で捉えられる速度以上に速く動けるってことじゃん!


「そこだ!」


「ほう、さすがに防ぐか。すまんな、ついどのくらいならついて来れるか測りたくなってしまった。

 次からは全力で行く。安心せい」


「どこにも安心要素が無い!」


 背後からの攻撃を咄嗟に取り出した刀で防ぎ、弾き返せば、リューズ先生はすぐさま消えた。

 当然、もはや僕ですら目で追える速度を超えている。間違いなくこの人は人外だ。

 こんな戦闘狂が人間であっていいはずがない。


 しかし、目で捉えられなくても魔力による探知は可能。場所はわかる。

 問題は速度だ。いくら捉えられようとも対処できなければ意味ない。

 というわけで、緊急避難先をいくつか設定しよう。


 僕は左手を伸ばすとそのまま体を回転させる。

 リューズ先生は俺が何か仕掛けてると思うだろう。

 正解、僕が仕掛けたのは<転移>魔法陣だ。

 万が一、リューズ先生の攻撃が避けるのに間に合わない時にそれで移動する。


 と、同時に<振動>の魔法陣もいくつか設置した。

 そして、この使い方はこうだ!

 僕はその場に刀を刺すと、すぐさま両手で一回音を鳴らした。

 それは僕が朱音の仲間達を気絶させるために放った衝撃波だ。


 一つ違う点は、僕が設置した<振動>の魔法陣によってその衝撃が拡散し、いくつもの衝撃波がその魔法陣から周囲へ放たれていくということ。


「くっ!」


 その衝撃波は動き回るリューズ先生からすれば厄介な範囲攻撃。

 加えて、衝撃波であるために普通の防御では受け止められず、魔力障壁であっても一時的なスピードダウンは余儀なくされる。それで十分!


「<雷衝>」


 僕はリューズ先生に接近すると右手の刀で攻撃すると同時に、左手を向けて<雷衝>の魔法陣を設置した。

 これで確定でダメージが入る。しかし、すぐに発動させない。


「嫌らしいな。すぐさま発動してくれればこっちとしても安心できるというのに」


「そしたら、さっきの二の舞だ。ヒット&アウェイは厄介だからな」


 リューズ先生が先ほど動き回っていたのは僕の魔法陣設置を受けないためだ。

 余程自分の防御力に自信がある奴以外は普通好き好んで攻撃なんて受けたくないしな。

 それに僕の場合、設置されれば最後。確定でダメージが入る。

 ダメージは相手の魔法耐性によるけど。


 そして、そうした相手が一番嫌がるのは、自分にいつ爆発するかわからない爆弾を持たされてる状態だ。

 しかも、発動はこちらの任意のタイミングだ。

 自分が攻撃するタイミングに発動されればたまったものじゃないからな。


 そうなった相手の取り得る行動は、ダメージ覚悟でこちらに突っ込んでくるか、遠距離でチクチクと攻撃してくるか。

 ま、相手がリューズ先生であるなら後者はありえないか。


「じゃが、そういうこちらをドキワクさせる行動が本当に最高じゃな!」


「そういうとこがホント嫌!」


 リューズ先生は迷わず突っ込んでくる。

 そして、大振りに刀を振るってきた。

 発動タイミングを誤るな。攻撃が直撃するその直前だ。

 そこにチャンスが生まれる――ここだ!


「ぐっ!」


「っ!?」


 僕は確かに適切なタイミングで<雷衝>を発動させた。

 その魔法によって全身に凄まじい電撃が流れ込んできたはずだ。

 にもかかわらず、リューズ先生は全く変わらぬ速度で振るってくる。


「信じておったぞ。そのタイミングで来ることになると」


「くっ!」


 僕はそのことに驚いたが、なんとか咄嗟に躱すことが出来た。

 な、この人、僕がそのタイミングで攻撃してくると予想して、あの一瞬に全身を魔力強化して魔法耐性を上げたのか!?

 信用されてるのは嬉しいけど、こんな信用のされ方は嫌だ!


 しかし、僕の<雷衝>は生半可なものじゃない。

 いくら魔法ダメージを減らそうとも、全身に流れる電撃によって生まれた痺れは逃れられない。

 そんな僕の思惑通りにリューズ先生は刀を振るった後、一秒もの長い硬直をした。


 そこに僕はすかさず左拳で腹を殴っていく。

 あんまし女の人の腹を殴りたいとか思わないんだけど、この人の場合そんな悠長なこと言ってられないからな。


 そして、吹き飛ばそうとした直前、リューズ先生は左手で僕の胸倉を掴んだ。

 彼女はニヤッとした顔で僕に右手に持った刀を見せつける。

 この間合いじゃさすがに斬ることはできな――刀を手放した!?


「ククク、奇策はお主だけじゃないわ。視線、誘導されてしまったな」


「しまーー」


 リューズ先生は刀で戦う戦闘狂。

 そういうイメージが先行していたせいで、彼女が自ら刀を手放すという行為に視線が移動してしまった。


 そんな隙に付け込むようにリューズ先生は胸倉を掴んだ左手をそのままに、背を向けるように体を反転させて力強く踏み込んだ。


「せいやあああああ!」


「がっ!」


 左手一本の気合一発背負い投げ。

 投げられた僕は背中から地面に叩きつけられていく。

 地面は衝撃で凹み、さらに周囲数メートルに亀裂を生んだ。

 寝そべる僕にすかさずリューズ先生は拳を振るってくる。


 避けるには拳の速度が速すぎる。よって、避けるのは無理。

 なら、カウンターをぶち込むまで。

 僕は落ちてくる拳をガシッと右手で掴むと、左手で腹部に触れようした。

 しかし、それはすかさずリューズ先生のもう片方の手で払われた。


「残念、それじゃもう防いだことにはならないよ」


「どういう意味――かっ!」


 リューズ先生は背中と腹の両方から衝撃を受けて、腹部の衝撃の方が強かったのか上に吹き飛んでいった。


 僕がやったのは二つ。

 まず投げられる直前に先生の背中に触れて魔法陣を設置すること。

 そして、これまでにあえて手を伸ばして魔法陣を設置していたことだ。


 前者はそのままの意味。

 後者は僕がもう目視で魔法陣を設置できることを先生に悟られないようにする意味だ。

 それが成功していることを示すように先生は俺の手を払った。

 しかし、これで手の内はバレたな。


 リューズ先生は吹き飛ばされたまま地面に落ちていく。

 かなりダメージを与えたと思ったのだが、起き上がるタイミングがなぜか僕と一緒だった。


「ハハハ、まさか見るだけで設置できるとはいよいよ化け物じみて来たな」


「そんな評価をする相手と戦えてる時点であんたも大概だよ」


「ってことは、心も体も相性最高ってことか! なんと嬉しいことを言ってくれる!」


「拡大解釈酷すぎない?」


 おかしい、ダメージを与えてるのに先ほどよりも目がランランとしてる。

 これ、まだ相手しなきゃダメですか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ