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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第5章 旧友との再会

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第148話 油断大敵

 僕が素手で戦うことを宣言すると反応は色々だった。

 それだけ大見栄切って言うということはそれだけの自信があると考えてる人や、完全に舐めてるからその油断に一発かましてやると負けん気を見せる人とか。


 性格の違いによるものなんだけど、今回の場合だと前者のように警戒する人の反応の方が正しいかもね。


 ちゃんとした実力差も測れてないのに闇雲に隙を伺おうとすれば、相手の思う壺。

 相手もバカではない。もちろん、奢りが全くないというと嘘になるけどね。

 少なくとも僕はないかな。相手が面倒だから。


「さて、誰から挑む? そっちから来ないとなれば僕から行かせてもらうけど」


「なら、俺から行ってやるよ。その薄気味悪い仮面をぶっ壊して正体をさらしてやる!」


 薄気味悪いのか、このキツネの仮面。個人的に割と気に入ってたんだけど。

 まぁいいや、やっぱりこういう時に最初に動くのは拳矢だってわかってたよ。


 拳矢はファイティングポーズを取るとタイミングを計るようにその場でステップを取り始めた。

 軽い小さなジャンプは体を上下に揺らし、踏み込みのタイミングを読みづらくさせる。

 そして、一気に地面を蹴ると瞬く間に眼前へ迫ってきた。


 拳矢の戦闘スタイルはダメージ源が拳というだけあって超接近戦(インファイター)になる。

 また、全身の装備があまりゴテゴテしていないのは小回りを意識したスピード型だから。

 故に、拳矢は躱しに特化したボクサーと言える。


 となれば、今にも俺の顔面に拳を振りぬこうとしている拳矢の速度にも納得がいく。

 拳との距離は後数センチ。今から避けるにはとても困難だろう―――()()()()ならね。


「遅いよ」


 僕は拳矢の拳を躱しながら同時にカウンターとして手で彼の腕を優しく掴む。

 そして、そのまま合気道の要領で腕を回し、それによって彼も体が回っていく。


 きっと拳矢は驚いただろうね。

 当たったという間合いで気が付けば、攻撃を受けているのが自分という事実に。

 それこそ今はまだ何が起こったかわかってなんじゃない?


 僕が正面を見てみれば拳矢の行動を見守っていた他の人達が唖然とした表情で固まってる。

 たぶん瞬きしてたら状況が一変していたような感じで驚いてたのだろう。


 漫画で言えば見開きで勝ち確のような演出しておいて、次のページめくったら平然と殴り返されてる感じ。

 え、何が起こった!? って。なんか読み飛ばした? って。


「さて、次は君達の中に入って思いっきり手を叩くから衝撃に備えて」


 僕はそう宣言するとその場から勇者達の密集している中へサッと移動していく。

 僕からすれば普通に移動しただけなんだけど、きっと皆からすればスピードの違いが異次元過ぎて見失ってる感じだろうね。現に固まって動かないし。


 僕が皆の中に入れば最初に気づいたのは朱音だ。

 そこら辺はさすが勇者というべき察知力だろう。

 しかし、僕はすでに両手を広げて叩くモーションに入っている。

 さて、むやみやたらに暴れて戦うのも面倒だし数を減らさせてもらおう。


―――パン!


 僕は一回だけ大きな音を響かせた。

 それは巨大な衝撃音となって瞬く間に周りの皆を包み込んで意識を刈り取っていく。

 さながら某有名漫画が魚人島で覇気を使ったような光景だ。

 ま、さすがに規模はちっちゃいけどね。


 僕はすぐさま移動前の場所に戻ると立っている人数を確認する。

 ひぃ、ふぅ、みぃ......大体十人ちょっとぐらいか。

 全体で三十人ぐらいいたしいい具合かな。

 良かった、手加減成功して。鼓膜破ったらどうしようかと。


「どう? これでも戦う? 正直、今のやり取りで大分実力差は見せつけたはずだけど」


「......っ!」


 僕がそう言えば朱音達は僕を睨みながらも歯噛みするだけで答えない。

 きっと体が理解してしまったのだろう。どう足掻いたって勝てない事実を。

 アフターケアは任せますよ、マイラ先生―――


「ざけんなっ!」


 その声に振り返ると拳矢が立ち上がって構えていた。

 その目には揺るがぬ意志というものを感じる。

 ずっと僕が憧れていた負けず嫌いの目だ。


「俺達は勇者として呼ばれた存在だ! その使命を多くの人を脅威から救うこと!

 最初はなんで俺達がとも思った。だが、関わっていけば守りてぇと思うようになった!

 そんな俺達には守れるぐらいの力が与えられてる!

 だったら、今立ち上がらなくていつ立ち上がるんだ!」


 その姿はめっちゃ主人公だった。もう憧れるほどに。

 僕は正しく悪役だ。ま、そういう風に振舞ってるからいいんだけどね。

 その声や姿は今にも消えそうな火を灯していた朱音達を奮い立たせた。

 朱音達の目が力強いものに変わっていく。


「そうだね。私達が弱気になっちゃいけないよね。後ろには守るべき人達がたくさんいる。

 私達がこんなんじゃその人達は抱えきれない悲しみを背負うことになってしまう。

 だったら、引き下がれない。相手がどんな強敵だったとしても!」


「それは仮初の勇気かもしれないのに?」


「それでも勇気であることには変わりない! 私達は負けない!」


 おっと、流れ変わったな。漫画で言えば勇者逆転勝利展開と言えばいいだろうか。

 ま、実際そんな甘くないけどね。


 朱音達が「皆、行くよ!」と声をかけると先陣切って飛び出してきた。

 あまりにも真っ直ぐな視線と気迫だ。

 まるで()()()()()()()()と言ってるようなものだよ!


「貫鉄―――なっ!?」


 僕は朱音に向かい合う前に体を半身にすると背後から拳が飛んできた。

 朱音達は実力差を理解している。だから、騙し討ちを仕掛けてきたのだろう。

 だけど、それはあくまで僕に諭される前に気が付かなきゃ意味なかったかもね。


「仲間は返すよ」


「っ!?」


 僕は拳矢の飛び出した腕を掴むとそのまま正面の朱音に向かって投げ飛ばす。

 彼女は咄嗟に構えていた剣を解除し、拳矢を受け止めていく。

 しかし、そのせいで速度は死んだ。そこへ僕がすかさず近づいていく。


 僕が二人まとめて拳底で吹き飛ばそうとすると、両側からハルバードを持った男子と薙刀を持った女子が襲い掛かってきた。

 殴りかかろうとしたジャストタイミングでの攻撃。

 見事だ、これは無視して朱音と拳矢に攻撃できない。


「「かはっ!」」


 僕は急ブレーキをかけてその攻撃を眼前で避ける。

 武器が二つ目の前で交差していくのを見届けると、それぞれの柄部分を持って引き寄せていく。


 男女二人が僕に近づいてきたところですかさず武器から両手を離し、二人の胴体に拳底を当てて吹き飛ばした。


火災隕石(フレイムメテオ)」「超激流水(スーパーハイドロ)


 すかさず小隕石のような火球とうねうねとうねりながら向かってくる砲撃の水が向かってきた。

 それに対し、僕は地面を強く踏み込むと、畳替えしのように一部の地面をひっぺ返し盾とする。


 二つの攻撃が土壁に直撃し爆散。

 衝撃で壁は壊れ、爆風が通り抜け、瓦礫が高速で飛んでくる。

 それを躱しながら僕は次の行動を予測した。


 なるほど、今の行動は僕に対するダメージというより、炎と水の攻撃による水蒸気を生み出すことに意味があったのか。


 律儀に僕が魔法を使わないという言葉を信じてる辺りが大変可愛らしいが、悪くない手といえる。

 となれば、次の攻撃は当然視界不良の中の全方位からの斬撃攻撃。

 

 僕の予測が正しいように色んな方向から斬撃が飛んできた。

 躱すのは容易い。しかし、それは朱音達からしても予想済みだろう。

 なら、これは色んな方向から攻撃を繰り出させての方向感覚を狂わせるのが目的と見るべき。


 そして、先ほどから色んな方位から来ているが全く来ていない方向が二か所。

 それは真上と真下。

 色々な斬撃を僕の周囲から飛ばすことで上下の意識を散らせることも目的としてあるだろう。


 そこに突然上下の攻撃がやってくる。

 真上は巨大なハンマーによる攻撃か。

 避けられないように周囲からの斬撃の牽制もある。

 仕方ない腕で受け止めよう。すると、次は当然真下からの攻撃だよな。


 地面の一部が変形して槍のような先端となって襲ってきたが、足元に魔力障壁を使って防ぐ。

 ちぇ、使っちゃった。本当は魔力障壁も縛ろうと思ってたんだけど。

 ま、魔法使ってないから嘘はついてない。


 僕は受け止めたハンマーを弾いていく。

 周囲の水蒸気も次第に晴れてきて視界の確保ができ始めたその時、僕に行動権を与えないように朱音や拳矢を始めとする近接戦闘職が一斉に仕掛けてきた。


 僕はそれを躱し、弾き、時には相手の動きを利用して完全に間合いを詰めさせないように仕向けた。


 僕の周囲から色んな武器による攻撃が飛んでくる。

 後衛部隊が魔法による支援も行ってるのだろう。

 先ほどよりも攻撃速度が上がってる。

 威力は言わずもがなだろう。


「かなりの連携だと思うよ。様々武器種の人が揃ってるのに互いに邪魔しあってない。

 だけど、それも当たらなきゃ意味がないよ。

 このままじゃ君達が先にスタミナ切れで終わるだろう」


「だったら、それまでに終わらせるまでだよ!」


 朱音の速度がさらに上がった。それにより陣形も少し変わる。

 先ほどまでは全員がバランスよく攻撃してた感じだが、今は朱音が主体となって攻撃し、他が隙を埋めるように攻撃してく感じだ。


 恐らく朱音の速度に周りが対応しきれなくなり始めたからだろう。

 凄いな、怒涛の連続攻撃だ。

 まるで一人で何体もの朱音を相手にしてる気分。

 だけど、そこが今の朱音達の限界と見える。

 そろそろ終わらせようか。


 僕は猛攻に耐えきれなくなり始めたフリをして後ずさりをしていく。

 そして、途中でわざと段差に躓き、背後に倒れていきとそこをチャンスだと朱音が攻め込む。

 そこへ召喚するは冒険者最強の魔法使い。


「防げ、魔法使い」


「マイラ先生!?」


 僕は<転移魔法>で目の前にマイラ先生を出現させた。

 マイラ先生の目の前には剣を振り下ろす朱音がいる。

 とすれば、彼女が助かるには防御魔法で朱音の攻撃を防ぐしかない。

 その時、彼女はニヤッと笑った。


「ねぇ、まさか私があなたの魔法を一つも研究してないとでも?」


「っ!?」


 そう言った瞬間、突然マイラ先生が消えた。今のは転移魔法!?

 直後、入れ替わって現れたのは長い黒髪のポニーテールを揺らした僕が嫌悪する戦闘狂。


「ん、ここはどこじゃ?―――ってあぶな!?」


「げ、リューズ先生......」


「むむ! その声は......! 会いたかったぞ! 我が宿敵!」


 リューズ先生は間合いゼロともいうべき距離感から放たれた朱音の攻撃を平然と受け止めながら、それはそれはキラキラした瞳で俺を見た。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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