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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第5章 旧友との再会

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第143話 記憶の回廊#2

―――ヨナ 視点―――


 私が過去に経験した大切な記憶を思い出したところで、私が進むべき道はまだまだありました。

 よく見ると私が歩いている場所はうっすらと道のようなものが確認でき、それが先まで続いているからです。


 それにしても、私はどうやったら現実世界に戻れるのでしょうか。

 この世界が仮に走馬灯の世界だとして、単に過去に起きた記憶を思い出しているのならそうだと思ってもいいのですが、私には“私がいる”というハッキリとした自覚がある。


 自意識がある状態で走馬灯というのは見るものでしょうか?

 それが無いのだとしたら、私は夢を見ているということになります。

 夢の中で自由に動くことはありましたから。


「あれ?」


 そんなことを考えながら道を歩いていると途中で道が途切れていることに気付きました。

 近づいてみるとすぐに分かりました―――そこに道がないのではなく、巨大な泡があることを。

 周囲の黒い背景に同化するほどに純度の悪い泡......十中八九、あの時の記憶でしょうね。


「もしかして、この記憶を受け止めない限り現実世界に戻れないのでしょうか?」


 ありえない話ではありませんね。

 だとすれば、私はアルドークを倒すためにこの泡の記憶を見なければいけない。

 見るということはもう一度あの地獄を経験するということ。

 あの地獄を......もう一度!


 思わず足が竦んでしまいます。

 これが例えただの記憶の話であったとしても私にはもう一度私を活かそうと尽力してくれた人達の死の瞬間を見なければいけないということです。


 私はあの地獄からたくさんの犠牲を得てやっとのことで逃げ出しました。

 皆家族がいて誰も死にたくなかったはずなのに、私を守るという使命のために命を散らしていきました。

 私がいなければ! 今頃生きていたかもしれない人達が!


―――ヨナ、目を逸らしちゃダメ


「この声は......セナ!?」


 私は思わず見回しましたがどこにも姿が見えません。


―――私はあなたよ? あなたがいる場所が私の場所。だから、見えないわ。


「そ、そうなんですか」


―――いい? 現実世界のあなたは辛うじて生きている。リツが学院に特殊な結界を張ったおかげで少しずつ体が治癒されてるの。


「では、ミクモさんやメイファさんも!?」


―――えぇ、恐らく。ただ、あいにく外の状況はわからないわ。あなたが目覚めなければ。


「私が目覚めるためには恐らくこの記憶を見なければいけません。

 ですが、私は会の時の恐怖で足がすくんでしまって―――」


―――ヨナ、一人じゃないわ。私達二人よ。それに今は仲間がいるじゃない。違う?


「.......」


―――確かに見るのに辛い記憶かもしれない。でも、こんな場所で立ち止まっていいの?

―――あたなには大切な仲間がいる。その仲間もこのままでは再びアルドークに蹂躙されてしまう。それを見過ごせるの?


「そんなこと出来るはずありません!」


―――なら、覚悟を決めなさい。受け止めて前に進む時が来たのよ。


 私は震える体に喝を入れるように両手で頬を叩くと一歩を踏み出し、手をその泡に突っ込んだ。

 瞬間、私の中に膨大な情景が見えてくる。


―――忌まわしき記憶―――


 街は業火の海と化していました。

 正しく地獄の窯のような光景がそこにはありました。

 家も人も家畜も何もかもが燃えて炭化し、逃げ惑う人々で溢れかえっています。

 また、空からは雨のように火球が降り注ぎ、それも被害を甚大にしている原因の一つでありました。


 当時の私も襲い掛かる猛火から逃げる避難民の一人であり、父と臣下ともに城内を逃げていました。


「お父様! お母様が!......お母様が!」


「何も思い出すな。今は逃げ延びることを考えよ!」


 私のお母様は逃げ切れずに炎に飲み込まれました。

 その瞬間を見ていた当時の私はあまりの衝撃に動くことが出来ず、臣下に担がれながら遠く小さくなっていくお母様を見ているしか出来ませんでした。

 直後、背後の壁が爆ぜてそこから奴が現れます。


「おやおやどこへ逃げるつもりですか、親方様? まさか私から逃げ来てるとでも?」


「っ! お前達! 死んでも娘は守れ! ヨナが生きていればまたこの国は復活する!」


「復活する? バカ言わないでくださいよ。この国は鬼神となった私の手によって全て灰燼と帰すのです。

 そう、これは神の戯れ。天災に文句が言えないようにこれも仕方ない運命なのです」


「ふざけるな! 貴様のような賊が鬼神を語るな! 鬼人族の誇りを汚すものは断じて許さぬ!」


「ハハッ、誇りで腹が満たせればいいですね! そんなものに縋って生きているからこの種族は滅ぶんですよ」


「走れ!」


「お父様!」


 お父様は数人の臣下を残して当時の私を逃がすためにアルドークに立ち向かいました。

 逃がされた私は城内を脱出し、城下町へ。

 しかし、そこも安全とは言い難く、すぐに森へと移動を開始しました。


「どこへ逃げるんですか?」


 ですが、逃げようとした先にはいつの間にかアルドークが待ち伏せしていました。

 奴は燃えた民家の上に立ち、自分の方が強者であるかのように見ろしてきます。

 そして、奴は片手に持つものを私達に見せるように掲げました。


「遺骨をお忘れですよ、お姫様」


「お......父様?」


 彼が見せつけてきたのはお父様の生首でした。

 まるで敵の主将を倒したが如く。

 そのあまりの光景に私は恐怖以外何も出来ませんでした。

 そう、怒りすら感じるよりも先にその感情に包まれてしまったのです。

 そんな私を見て嘲笑うかのようにアルドークは話を続けました。


「そういえば、私も昔こんなことを教えられましたっけ。

 鬼人族の生やす二本の角は誠意と誇りの象徴だって」


 アルドークはニタァと笑うともう片方に持っていた刀でもって二本の角を削ぎ落していきます。


「あらら、ダメじゃないですか。この国を治めていたであろうお方が誠意も誇りも無くしてしまうなんて」


「貴様ぁ! 親方様になんてことを!」「許さねぇ! 絶対にテメェだけは許さねぇ!」「ここは我々に任して姫だけはお逃げください!」


「おや~? 誠意も誇りも感じられない一方的な殺意。

 ダメですよ、そんなことすれば親方様が死んでも死にきれない。

 可哀そうですね、死んでもなお臣下の怠慢の光景を目にしてしまうとは」


「貴様ぁ!」


 一人の臣下がアルドークに斬りかかろうと走り出しました。

 瞬間、奴は手に持っていたお父様の生首を投げていきます。

 それに気づいたその臣下は咄嗟にお父様の生首をキャッチしようと動き出しました。


「おい、避けろ!」


 直後、別の臣下の言葉も間に合わずその臣下は足元に浮かび上がり発生した火柱に包まれ、瞬く間に全身を真っ黒な姿へと変えていきました。

 そんな光景を見ながらアルドークは盛大に笑います。


「アハハハ! あんな何の価値もない頭のことなんて気にしなければ私の動きに気付いて避けれたかもしれないのに! なんという愚か!

 誇りも誠意もなんの役にも立っていないではないか!

 私にも同じ血が流れてると思うだけで反吐が出る!」


「今すぐ姫を逃がせ!」


「ですが、私は選ばれた存在......鬼人を超える者。

 この愚かな思想は私の慈悲でもって修正してあげなければ。

 あまりにも哀れで可哀そうですからね」


 当時の私は臣下の一人に手を引かれて無理やりそこから離されました。

 私を守ってくれていた護衛のほとんどが無謀とも言えるアルドークの足止めを行うことで時間を稼ごうとして。


 逃げる最中、色んなものを見ました。

 一緒になって逃げる者、全身が炎に包まれながらもがき苦しむ者、燃える民家の下敷きになった者、一人置いてかれて泣き叫ぶ子供、崩壊していく国を茫然と眺めていえう老人。


 これが私が好きだった街の光景であるとは思えませんでした。ですが、これが起きた現実。

 それもアルドークというたった一人の人物によって起こされた国崩し。

 これが魔神の使いとなった影響だなんて......当時の私にはわかるわけもありませんね。


 途中、別の場所にいた臣下が合流して少しだけ仲間を増やしながら森の中に入っていきました。

 森という天然の迷路へと迷い込めば逃げ切れるという淡い期待もアルドークは壊していきます。


「この程度で私から逃げ切れると思わないことですね!」


 アルドークは一斉に森に火を放ち、瞬く間に森の一部を更地に変えていきました。

 それを繰り返しながら進んでくるため、私が追い付かれるのも時間の問題となったその時、私を逃がしてくれた臣下全員が私に言いました。


「姫様、申し訳ありませんがここからは一人でお逃げください」


「え?」


「これから私達は少しでも多く時間を稼ぎます。その間にとにかく逃げ続けてください。最後まで護衛出来ずに申し訳ありません」


「ま、待ってください! このまま一緒に逃げればいいじゃないですか!

 そうすれば、もしかしたら逃げ来れ―――」


「姫様、ご決断を」


 当時の私には選択肢などありませんでした。

 弱かった私にはその選択肢しか用意されてなかったのです。

 そして、私は溢れる涙を抑えきれないまま立ち上がり振り返らずに走っていきました。

 背後からは一斉にアルドークに襲い掛かり苦しみながら死んでいく声が響くばかり。


 私は夢中になって走って走って走り続けて呼吸をするのも忘れてやがてどこかで倒れました。


―――回想終了―――


「私の命はたくさんの犠牲があって成り立っている......わかってるつもりでしたが、まだまだ認識が甘かったようです」


 この記憶を見てその当時の私と違うことはアルドークに怒りを感じていること、そしていつか来るこの日のために力を蓄え続けたこと。


―――ヨナ、辛かったわね


「はい、途中で一人で生きるのに困って現れた人格がセナちゃんなのでセナちゃんにはお世話になりっぱなしです」


―――気にしなくていいわ。なんたって、私の体だもの。それよりも覚悟は決まった?


 セナちゃんが言っているのはきっと体が目覚めて今度こそアルドークと決着をつけることでしょう。


「はい、今度こそ終わらせましょう! あの悪夢を!」

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