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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第5章 旧友との再会

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第142話 記憶の回廊#1

―――ヨナ 視点―――


「うっ、ここは......?」


 目覚める真っ暗い空間にいました。

 体を起こすして周囲を見渡していきます。

 周囲には白い泡のようなものが大小様々でぷかぷかと浮かんでいました。

 真っ暗いのになぜかその泡を認識できるといいますか。

 厳密に言えば暗いとは感じてないのよね。


 景色、床、天井とどこもかしこも黒いだけでして一応夜目も効きますが、この見え方は昼間にいるような感覚と同じ感じです。


「ということは、ここは現実ではない......?」


 そういえば、起き上がる時に床に手を触れた時、濡れた感覚はしなかったのに水の波紋が浮かびましたね。

 恐らく私の感覚は正しいのでしょう。ここは現実ではない? となれば、ここはどこか?


 アルドークの何かの術中でしょうか?

 意識を失ってから何をされてるのかわらないですし......あれ?

 私は違和感に気付きました。

 なぜここに(ヨナ)がいるのかということに。


 私は確か戦闘が得意なセナちゃんと人格を交代したはず。

 セナちゃん? 返事をしてセナちゃん!?......応答がない。

 意図的に答えない時はありましたが、こんな緊急事態に答えないほどセナちゃんは考えなしではありません。


「っ!」


 私に焦りと不安が募り始めた時、私の横側からぷかぷかと小さい泡が浮かんできました。

 その泡に目をやるとそれにはなぜか幼少期の私の姿が映し出されていました。

 え、どうして私の小さい頃の姿が? いる場所は今は無き鬼人国の城の中。


 私はそっと手を伸ばし、泡をつつくように指先をちょんと触れさせます。

 すると、まるでその泡に意識が吸い込まれるようにその頃の情景が見えてきました。


―――ある日の記憶―――


「あ~もう、お勉強ばっかで()だよ~。つまんな~い」


「おひい様、もう少しですから頑張りましょう。ね?」


 当時五歳の私は姫として色々な制限を受けながら教育を施されていました。

 それが当時の私からしたら嫌で、別に勉強自体が嫌いというわけではありませんでしたが、同年代の子供達と一緒に遊ぶことが出来なかったというのが一番嫌だったんだと思います。


 当時の私も窓際によって城下町を見下ろし、そこから見える親子や子供達を見ながら羨ましそうに見ています。


 そんな記憶を私は第三者目線から見ているというのはなんとも不思議な感覚で、少し気恥ずかしくも感じますね。


―――終了―――


「はっ!」


 私の意識は現実世界へと戻ってきました。と言いましても、以前暗いもとい黒い空間にいるのですが。

 ふと周囲に浮かんでいる泡を見ますと検証のためにもう一つ今度は大きな泡に近づいていきます。


 この泡は先ほどの泡と比べると純度が悪く、少し濁ったような感じがしていました。

 私の考えが正しければ、この泡も恐らく......。

 私は覚悟を決めてその泡に触れました。


―――ある日の恐怖―――


「おい、本当にこんなことしてもいいのか?」


「大丈夫だって。誰も俺達のことなんて気づきやしない。それよりも守備はどうだ?」


「今の所大丈夫だ。にしてもまぁ、ガキにしちゃそこら辺の女よりも上玉だな」


「......っ!」


 ......思い出しました。ずっと胸の内に封じ込めていた記憶の一つ。

 当時十一歳の頃の私は国王の臣下の一部の手によって三人組の男性に誘拐されました。


 両手両足は麻縄で縛られ、目と口には手ぬぐいを巻かれてまともに動くことも見ることもしゃべることも出来ない状態で男性達にどこかもわからない場所に連れていかれる。


 その時の恐怖は今でも少し身震いがします。また、なによりもキツかったのはまだ幼い体である私に欲情的な目で見る姿でした。


 ねっとりと絡みつくような視線はまるでヘビが私の体に巻き付いてるかのようで、その頃はまだ魔法が使えなかったのでただじっと誰かが助けに来てくれるのを待つばかりでした。


「なぁ、ここまで逃げれば大丈夫じゃねぇか?」


「いいや、まだ本土の奴隷商(ブローカー)に渡してねぇじゃねぇか」


「なぁなぁ、その前に味見していいか?」


「良いわけねぇだろ。価値が落ちる」


「大丈夫、どうせ姫ってだけで俺達が遊んで暮らせるだけの額で売れる。

 それに所詮はそこら辺のロクでもない男に散々使い果たされるぐらいなら一番目貰ったって問題ない。お前はどう思う?」


「俺は.....せっかくだし味わっておくか」


「おい!」


「はは! そう来なくちゃな!」


 そこから一人の男に衣服を脱がされ始めていきました。

 その光景を私は思わず「やめて!」と叫びましたが、記憶のそれがその願いに応えることなく。

 私はただその耐えがたい状況に目を逸らすことしか出来ませんでした。


―――終了―――


「っ!」


 再び私の意識は戻ってきました。妙な場面を見て戻ってきましたね。

 その後の展開は一応ギリギリの場面で男性の一人が足音が近づいてるのに気が付いて、逃げられないと判断した三人組は応戦するも捕まり私の体は奇麗に保たれました。


 まさかこんな記憶の片隅に封じ込めたような嫌な思い出まで見ることになろうとは......。

 しかし、これでこの泡の正体が私自身の記憶であるとわかりました。

 とはいえ、これを見てどうなるのでしょうか。

 もしかして、先ほどのように何か忘れている記憶でもあるのでしょうか。


 私はここを「記憶の回廊」と名付け、その場所を巡っていきました。

 一つ一つの記憶を見たわけではありませんが、それでも意を決して色々な泡を見ていきました。


 両親に褒められた記憶、小指を家具の角にぶつけた記憶、初めて城下町を訪れた時の記憶、魔物を始めて殺した記憶と良い思い出から辛い思い出を様々な思い出が蘇ってきます。


 そんなこともあったと懐かしい気持ちになったり、別に思い出さなくてもいいどうでもいいものだったり、今でも心にズキリと痛みが走るような悲しいものだったりと......色々な気持ちを見る限りそれにふさわしい体験をして来たんですね。


 記憶を巡っていく中で改めて分かったことは、純度の高い透明に近い泡は主に喜びだったり楽しいことだったりの記憶で、純度が低い泡ほど悲しくて苦しい思いであることが分かりました。

 また、大小の大きさも少し関係していて大きい泡になるほど強い感情の記憶であることも分かりました。

 

 私が歩き始めた地点から色んな記憶を遡っていくと自分はこんなにも感情豊かな人間なんですね。

 お転婆といいますか、なんといいますか、よくウロチョロ走り回って感情のままに動いている感じがします。


 その時、気が付けば目の前に身の丈ほどの泡が目の前にありました。

 一体いつの間に......純度は高いですが若干白みがかってる?

 これは初めて見ますね。しかし、嫌な記憶ではないでしょう。


 私はそっと手を伸ばすと指先をその泡に触れさせました。

 瞬間、いつものように記憶の中に吸い込まれていきます。


――――ある日の重要な記憶―――


「ヨナ、今日はお前に見せたいものがある」


「見せたいものですか?」


 お父様に連れ出されるままに歩いていく当時の私。

 もうだいぶ口調が矯正されてるということは恐らく十四歳ぐらいでしょうか。

 ということは、それからそう経たないうちに......っと今はこの記憶を見ましょう。


 当時の私が向かった場所は城の地下でした。

 厳重に封鎖されたその場所はお父様の言葉によって解かれ、お父様が歩く後ろをただ追いかけていくだけ。


「ここだ」


「これは......」


 やがて辿り着いた場所は古めかしい祭壇でした。

 空間自体はあまり広くなく、ただ部屋の奥にポツンと祭壇と一つのが巻物が置いてあるだけ。

 しかし、部屋の壁には色々な壁画が描かれていました。

 あれ? この絵に描かれてる人物......ネルドフ大迷宮にあった壁画と同じ人物です。


「お父様、ここ何でしょうか?」


「ここは鬼神様を祀るための祭壇だ。壁画にあるのは鬼神様が巨悪と戦う際に共に力を合わせた神様達。

 そして、鬼神様達が囲んでいるのが世界を混沌へと変えようとした魔神だ」


「......どうしてこのような場所に私を?」


「それはお前になら言葉の謎が紐解けるかもしれないと思ったからだ。

 といっても、それは建前で単なる伝統だ。

 鬼神様の前で民を導き恥じない生き方をするためのな」


 どうしてこのような記憶を忘れていたのでしょうか?

 まぁ、その後に起こるそれよりも強い記憶でもって上書きされてしまったのかもしれませんが。


 当時の私は祭壇に近づいていくと巻物を手に取って封を解き、その中身を開いていきました。


『今歴史間違。世界正昔滅。此処我死、否諦。故、授力。何時修正歴史願。欲力、意志願―――』


「......何でしょうこれは? 読み方がわかりません。それにこれはどういう字でしょうか?」


「......そうか。ヨナにもわからないか。なら、仕方ない。

 いづれお前が世継ぎを作った時でもまた読ませてやってくれ。

 それじゃ、今から鬼神様の前に近いを立てる。準備は出来てるな?」


「はい」


 当時の私は祭壇に跪いて両手を握り合わせると祈りを始めました。

 その姿を見ながら―――私は先ほどの文章の意味がわかってしまいました。


 ”今の歴史は間違っている。正しい世界は滅んだ。ここで我は死ぬが諦めきれぬ。故に、力を授ける。いつか歴史が修正されるのを願って。力を欲せ、意志を願い―――”


 当時の私が読めないのも無理はありません。

 なぜなら、その字はこの世界に存在しないのですから。


 あの字はリツさんに教えてもらった「漢字」という字で、鬼神様はその字を暗号代りにしていつか読める異世界人もしくはその人物と関わりのある鬼人族に教えようとしたのでしょうか?

 それにしても文体がめちゃくちゃなような......苦手だったんでしょうか?


 ですが、過去の魔神との戦いの歴史を遡っても異世界人が関わったような記述は一つとしてありませんでした。


 それはどういうことなのでしょうか? もしかして、その歴史にもまだ隠された真実が残っている?

 そして、あの巻物に記されていた最後の言葉......あれが恐らく欲する力なのでしょう。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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