第141話 強大な敵
―――花街薫 視点―――
現在、僕と蓮君、康太君は学院を取り囲むように守護している。
学院の周りには律君の特殊な結界が設置されていて、現在中で戦っているミクモさん達の邪魔をさせないためのものだ。
後々合流する予定の律君を除き、僕達は今それぞれ等間隔に離れて守護しているので話し相手もいなくて凄く暇。
植物を操作して作った椅子に座り、葉っぱの屋根でいずれ戻ってくるだろう学院の生徒や教師を待ってるのだけど来るまでどれくらい来るのか。
どのくらい飛ばしたのか分からないから手持ち無沙汰なんだよね。
それに天気は曇り始めたんだけど顔を隠すための仮面は外せないから蒸れて凄く熱い。
取り外しちゃダメかな? ダメだよね? いつ来るか分からないんだし。
「ん?」
地面に生やした根っこからたくさんの小刻みな振動を感じる。
まるで一斉に何かがこっちに向かって来てるみたい。
ということは、どうやら一行さんがご到着したみたいだね。
僕が待っていると遠くの方から黒い点が見えてきた。
それが段々と大きくなっていき、やがて姿が見えてくる。
あの先頭にいるのは......リューズ先生だ。
律君から聞いてる要注意人物。
見た所その先生を筆頭とした複数の先生と生徒達。
リューズ先生の他の仲間が見えないことから分散して学院への侵入を試みてるってところかな。
リューズ先生は僕を見ると止まった。
そして、僕をチラッと見るとすぐに背後の結界に目を移していく。
「ふむ、見た通りに結界を守護する敵の一人ってところじゃな。
それにこれほどの大規模な結界、単に魔法陣を敷くだけじゃ難しい芸当じゃ。
となると、お主達が結界を破るカギといったところか?」
うわぁ、一瞬にして全部看破した。なるほどね、確かに律君が警戒するはずだ。
もっとも彼が言ってたのは戦闘面に関してだけど。
ここはお決まりっぽいセリフを言っておこう。実は一度言ってみたかったんだ。
「ご明察。ここには僕を含めて四人の守護者が結界を守っている。
この学院に用があってね。君達には出て行ったもらったわけさ」
「ふむ、それは先ほど確認が取れなかった学院長かはたまたこの学院の禁書庫か。あるいはその両方か。
どちらにせよ、それはお主を倒せばわかることなのじゃろ?」
「倒すだなんて物騒なことを言うのは止めて楽しくおしゃべりしない?
なーに、僕としても君達に危害を加えるつもりはない。
そんなことを言うとリューズ先生以外の先生方が「ふざけるな!」とか「この学院で悪さをさせるわけにはいかない!」と実に正しい反応が返ってきた。
今更ながら、僕達は悪役なんだよね。だからかな、少しあの正義感が眩しく感じる。
「リューズ先生ここは俺達にお任せください」「あなたは万が一のために生徒達の安全を」「なーにこれぐらいでやられるあたし達じゃないわ」
「なんともフラグ臭いセリフじゃが......わかった。その代わり無理だと思ったらすぐに交代しろ」
そうだね、本当にフラグにしかならない先生達の言葉。
正直、実力はすでにわかってるし負ける要素がないからな~。
どうやっても勝つ。というか、むしろそういう展開望んでる感じすらする。
おっしゃやってやらー! って感じで先生方が一斉に魔法を放ったり、手に持っている武器で接近してきた。
ので、僕は地面の下に伸ばしていた根っこを一部動かして先生方の足を捕えると僕の座っている植物の枝を鞭のように振るってべちんと吹き飛ばしていく。
ごめんね、なんか噛ませ犬みたいな役割させちゃって。
でも、あそこまで盛大にフラグ立てたのだったらむしろやってやるのが様式美かなって。
先生達が同時に一斉にやられてしまったことに生徒達が動揺している。
見た所僕の知り合いはいないみたいだけど。
さて、こんなにあっさり先生達がノックアウトされたら出るしかないよね?
「先に言っておくけど、今のは正当防衛だよ? でも、殺してないから。ここら辺にしない?」
「まさか。ワシも同僚がやられて黙って指を咥えているほど弱い意志は持っておらぬ。
さて、お主はどれほどワシを興奮させてくれるか試してみるか。言っておくが、ワシはそんなにチョロくないぞ?」
......あれ? もしかしてリューズ先生って戦闘狂系?
*****
―――ヨナ(現在の主人格 セナ)視点―――
アルドークの雰囲気が変わった。
左肩に刻まれた紋様は強く光り輝き、その輝きに呼応するようにアルドークの魔力が跳ね上がっていく。
「鬼人族には誰しもが目指す夢があった。崇拝する神がいた。
その名は奇しくも我らが種と同じ呼び方をされる存在―――」
くっ! まるで壁があるような風と熱波!
地面もジリジリと熱が高まっていくような感じがするし、熱に対して強い種族である私が火傷するような感覚に陥ってる!
「俺はその存在になる力を得た。それは偶然とも言えたが、確かにその力を得るための力を与えられたのだ!」
アルドークは両手を盛大に広げるとグルグルと周囲を周回する炎龍を自身に集めていった。
三体のそれはアルドークにぶつかるとまるで吸収されていくように消えていく。
直後、空間に響き渡る確かな脈動を聞いた。
―――ドクン
アルドークの全身に大地がヒビ割れるような痕が刻まれ始めた。
その痕はマグマのように赤熱し、再び大きな脈動が聞こえてくる。
―――ドクン、ドクン
アルドークの肉体が膨張するように膨れ上がっていく。
薄橙色の肌は赤黒く変色していき、鬼人族特有の角は太く禍々しいものへと変化していった。
―――ドクン、ドクン、ドクン
やがてアルドークの肉体は四メートルにも膨れ上がり、筋肉も膨張してより力強く。
熱を帯びた体は常に水蒸気を生み出し、まるで体に蒸気の衣を纏うような姿となった。
その姿に見え覚えがある。かつて城の地下で見た鬼人族の神の姿―――
「これぞ鬼人族の果てにある姿―――鬼神だ! この姿になった私にお前達は万に一つの勝利もない!」
鬼神の姿となったアルドークはその大きな拳を頭上に振りかぶると思いっきりリングに叩きつけた。
「鬼神熱拳」
「うわぁ!?」
拳はリングにぶつかると同時に炎の波を生み出し、それは私達を容易く飲み込んで空間全体を包んでいった。
私達はそれぞれ魔力障壁で防いだけれど、周りはその炎で大炎上。
まるで地獄の窯にいるような.....いいえ、窯というよりそれに熱を加える焚火の中ね。
「メイファ! ミクモ! 二人とも大丈夫!」
私はすぐさま二人に声をかけた。すると、私の心配をよそに元気な声が返ってくる。
「アタイは大丈夫だ。炎は友達だからな。鍛冶でもよくお世話になってる。
とはいえ、ここまでの熱は流石にクーラードリンク飲まないとまずかったけど」
「ウチもいけるで。自らの炎でもって熱波と炎は軽減さしとったさかい。
そやけど、それも長うはもたなそう。尻尾や耳の毛先徐々に焼けていって熱いわ」
「無事なら良かったわ。だけど、あまり時間をかけれないのは同感。このままじゃ生きたまま火葬されかねない」
「ってことは、さっさとあのデカブツを倒せってことだな!」
そんなメイファの言葉が聞こえていたのかアルドークは不敵な笑みを浮かべて返していく。
「俺を倒すだと? 出来もしないことを言うのは止めるんだな。
それとも虚栄を張るほどには生き急いでいるのか? それならば、この私が叶えてみせようではないか!」
「来るわよ!」
アルドークは空中に火の玉を作り出すとそれを一斉に放ち始めた。
大きくて速いけど避けられないわけじゃない。
―――ドゴーーーーン!
なるほど、あおの一つ一つが数メートルの範囲を一瞬にして灰に変えるほどの威力を持ってるということね。
当たればどれだけ炎に耐性を持っていようと関係なく大ダメージになる。
私は出来るだけ低姿勢で走り抜け、右手に持つ薙刀を大剣に変えるとそれを逆手に持って思いっきりアルドークにぶん投げていく。
当然、アルドークには腕で弾かれた。しかし、その僅かな隙でメイファが到着する。
「ドカンと一発! 砕け散れ!」
サイドから走り込むメイファが炎でブーストさせたハンマーでもって頭に叩きつけていく。
その一撃は正しくクリーンヒットだった。
「軽いな」
「......固いなっ」
アルドークにはかすり傷一つ付かなかった。そして、それはメイファに致命的な隙を生んだ。
アルドークは角でもってハンマーを弾くとそのまま体を回転させて拳を叩きつけた。
「自動防御機能」
メイファは咄嗟に腰ポーチからブロックの形をした魔道具を四つ落とした。
それらは空中で勝手に変形し、空中へ浮かびながら主人に随行する魔道具に変形した。
それはメイファの言葉ですぐさまアルドークの拳を防ぐ盾へと変形したがそれ諸共彼女は壁へと叩きつけられていく。
「がはっ!」
「メイファ!」
「咄嗟に威力を殺されたか。思ったより死線をくぐっているな」
「なら、こっちはどう!」
反対側からミクモが迫り両手の鉄扇に纏わせた炎でもって攻撃した。
「華煉斬火」
二つの鉄扇から振り下ろさせた炎を断ち切る一撃はアルドークに届いた。ただ腕にかすり傷のみ。
「この炎を斬る炎か。面白い。お前は生かす価値がありそうだ」
「残念ながら嬉しないわ」
「そうか」
アルドークの回し蹴りにミクモは咄嗟にガードするもそのまま蹴り飛ばされ、地面にバウンドし観客席の方まで吹き飛んでいく。
「ミクモ!」
「なんだ? 姫様はさっきから叫ぶだけか? それじゃ、まるで昔と何も変わらないな!」
「くっ!」
私は走り出す。アルドークに挑発されたからじゃない! 宿敵を倒すために。
再び片手に大剣を持って相手の懐に潜り込む。
アルドークの叩きつけてきた左手を躱してそれを足場に眼前へ。
「引導を渡してやるわ!」
「出来るものならな」
私は思いっきり大剣を振るった。
それに対し、アルドークは角で迎撃。
あっという間に私の剣は弾かれた。
「一番軽かったぞ、姫様」
「がっ!」
アルドークの大きな右拳が全身を打ち付ける。
体は弾き飛ばされ、地面にバウンドしリング外の壁へと激突していく。
うっ......あ、意識が霞む。まだ、まだ......終われない......やりたいことがあるし、見守りたい奴もいるのに......。
私の意識はそこで沈んだ。そして、いつかの夢を見始めた。
読んでくださりありがとうございます(*'▽')




