第140話 因縁の対決#2
―――ヨナ(現在の主人格セナ)―――
リツの転移魔法陣が発動したおかげで周囲に気を配る必要が無くなった。存分に暴れられる。
だけど、それはアルドークも同じ。
特に怒りに支配された彼にはきっと余計に遠慮がない。
「私を倒す? 粋がるんじゃない生娘風情が!―――鬼火撃ち」
アルドークは周囲に青い炎をいくつも出現させるとそれを私達に向かって一斉に発射させていく。
すぐさま後ろに下がって避けていったけど、リングに着弾した青い炎が爆発したことによってさらに後ろへ飛ばされる。
はぁ、相変わらず自分の血統の魔法とはいえ、自分が使えない魔法でこの威力は嫌になるわね。
同じ炎を扱うミクモは一体どう思っているのやら。
そんなことを考えているとミクモが苦言を吐いた。
「はぁ、事前にセナから話を聞いとったけど、いざこうして魔法を見ると複雑な気分やで。ウチの魔法見劣りしてるとちがう」
「仕方ないわよ。鬼火はただでさえ火力が高いのにあの男は魔神の使途の力で強化されてるんだもの。だけど、私達は一人じゃない。勝機はある」
「そうだぞ。ここで退いたら女が廃るってもんだぜ」
メイファの言葉に頷くと声をかけた。
「行くわよ!」
今度は私達が一斉に動き出した。
それに対し、アルドークはすぐさま鬼火を連射してくる。
それを躱し、打ち払いながら徐々に距離を詰めていった。
距離が五メートルとなったところで数の利を活かしてミクモとメイファにはサイドから動いてもらう。
「挟みこめばどうにかなるとでも?―――鬼炎尾」
アルドークは手に炎を集めると距離を取るように後ろへ下がったと同時に手を横に振るった。
炎は打ち水のように広がっていき、進行する私達を迎え撃つように近づいてくる。
残念、あんたが避けるのは分かってたわ!
「鬼武術 鬼拳―――亜空貫」
私は向かってくる炎に向かって思いっきり拳を振るった。
それは拳圧の空気砲を作り出し、風は炎を纏ってアルドークに向かって行く。
私達が三方向から動いたのはあんたの動きを上か後ろか制限するため。
だけど、上はあまりにも隙が大きいから後ろを選ぶと思った。
「くっ!―――鬼火球」
アルドークは咄嗟に手から炎の球体を作り出して空気砲を操作していく。
しかし、爆風の勢いで一瞬身動きが取れなくなった。その隙を数で詰める。
先回りしたメイファが巨大なハンマーでもって振り抜いた。
「粉骨爆砕! 大地粉砕鉄槌!」
「がっ!」
アルドークの横からやってきた魔道具のハンマーはそれに搭載されたジェットのようなエンジンで一瞬で高速になり、敵の側面を叩きつける。
しかし、アルドークも反射神経でガードするが、咄嗟のそれは勢いよく吹き飛ばされると共に崩れていった。
「ほんまもんには遠う及ばへんかもしれへんけど、セナちゃんの協力の甲斐もあってほぼ再現出来た技がいくつかあんねん。その一つを見したる―――艶子狐火 鬼炎邪華!」
「がはっ!」
ミクモは両手に持つ鉄扇に鬼火に近い青い炎を纏わせる。
それは鉄扇の大きさから大きくはみ出てブレードのように変化し、その状態で飛んできたアルドークを切り裂いた。
アルドークは一瞬の出血とともにすぐに炎の火力で止血されていく。
彼の体に残ったのは切り裂かれた服と火傷で変化した皮膚の痕のみ。
アルドークは落下するとそのままリングに叩きつけられた。
しかし、致命傷までとはいかなかったのか痛がりながらも体を起こしていく。
「くっ、調子に乗りやがって! まさかこれで勝ったつもりか?」
「別に。それに私達、そんな甘くないの。やるなら徹底的によ」
「......そうか」
アルドークはリングに手を付けて立ち上がると上半身の服を破り捨てた。
すると、彼の右肩には魔神の使途特有の紋様がある。
それは光を放ち始めていた。
「ならば、見せてやるよ! 存在の位の差を! まずは半分の力でもってな!―――鬼火龍陣」
アルドークは頭上にに魔法陣を浮かべるとそこから三体の蛇のような竜が現れた。
いや、あれはこの世界の竜というより神の一柱である青龍に近い。
全身が炎で出来たそれは動き始め、まるで私達の動きを制限するように一定範囲でグルグルと回り続ける。
「さらに鬼火鎧装」
次にはアルドークの体が青い炎の鎧で包まれ始めた。
あの鎧に触れる間合いはまずそうね。
ガントレットから薙刀の方へと変えた方がいいかもしれない。
「それじゃあ、行くぞ!―――陽熱領域」
アルドークが地面に向かって思いっきり拳を叩きつけた。
瞬間、放射線状に亀裂が入り、その亀裂の隙間はマグマが流れるように赤くなり異常な熱さが修練場を包んでいく。
さらに亀裂のうち太い三本が私、ミクモ、メイファの所に伸び、真下がグツグツと赤くなり始めた。
バッとリングを貫いて炎の柱が出現した。
それをとっさに空中に飛んで避けるとその隙を狙ったかのようにグルグルと周回していた一体の炎龍が口を開けて向かってくる。
それは私だけではなくミクモやメイファにも同じように。
「くっ!」
私は咄嗟に薙刀を押し付けて噛まれないように防いだ。
しかし、龍の炎による熱でジリジリと体が焼かれていくのがわかり、さらにその龍は私の体を地面に叩きつけてきた。
「がはっ!」
咄嗟に薙刀で口を切り裂いて横に転がることで脱出する。すると、龍はすぐさま再生し再び周回移動をし始めた。
なるほど、あの龍は私達が一定範囲(陽熱領域内)から出ないようにするのと隙があれば攻撃してくるってのは役割なのね。
シンプルな故にとてもウザい。
「よそ見はいけないな。姫様」
「っ!」
アルドークが背後から近づき炎の拳を叩きつけてくる。
それを咄嗟に薙刀の柄でガードするも数メートル吹き飛ばされた。
そして、アルドークの動きが厄介。
魔神の使途で身体能力、魔法共に威力が上がっているだけにまともに一撃でも貰えば戦闘不能になりかねない。
「あぶなっ!」
なにより厄介なのは真下からの噴き出る炎柱。
一定秒数立ち止まってると真下から攻撃してくる。
魔力感知で事前に動いてくるのは確認できるけど、それに意識を割きすぎればアルドークと龍の攻撃を避けられなくなりそう。
しかし、避け続けるのはこちらにとって悪手にしかならない。
暑さで体力が奪われまくってる時点で動ける今のうちにアルドークを攻撃するしかない。
つまりさっさとアルドークを倒せってこと!
「はああああ!」
私は真下から炎柱が来る前にアルドークに突撃していく。
その私の考えはミクモやメイファも同じようで三人して敵に向かっていった。
「そうですよ。この状況でまともに立ってられるのは私しかいない。
止めるには私しかいない。ですが、私が倒せればの話ですがね!」
私が薙刀でもって斬りかかる。しかし、それは炎の鎧で防がれ弾かれた。
その隙をメイファがハンマーでもって叩きつけていくが、アルドークは勢いがつく前に彼女の間合いを詰めて蹴り飛ばした。
自らの火でもってアルドークの炎の威力を軽減しているミクモが相手の背後から鉄扇でもって攻撃していく。
その隙を狙うように私も薙刀で突いた。
しかし、アルドークはニヤッと笑って私の突きを躱し、柄を掴んでそのまま引き寄せていくと刃の部分でミクモの鉄扇を弾いた。
それによってバランスを崩したミクモさんが裏拳でアルドークに殴られ、私も引き寄せられた勢いで胴体に回し蹴りを食らった。
その直後に追撃の隙を与えないようにメイファが再びハンマーで殴りかかっていく。
そこから私達は目まぐるしい怒涛の攻撃をしていった。
しかし、その攻撃はただの一度もまともにアルドークに直撃しない。
それでも私達は体力が続く限り動き攻撃を仕掛けていった。
体力がゴリゴリと削られていくのがわかる。
たたでさえ、今の場所は熱いというのにダメージを食らえばさらにごっそり体力が持ってかれる。
それでも勝つには動き続けるしかない。
「少し鬱陶しいな」
私達の怒涛の攻撃に苦言を吐いたアルドークは一瞬の隙をついて指をパチンと鳴らした。
すると、攻めて吹き飛ばされた私達に向かって周囲をグルグルと動いていた炎龍が口を開いて突撃してくる。
くっ、ここでコイツらが来るか!
それもいやらしく起き上がりの隙を狙って攻めてくる!
このままではアルドークの体力が回復してしまう!
これまででまともなダメージ与えられてないのに!
弱気になるな! やることは一つしかないんだから!
「ミクモ、メイファ! 気持ちで負けるんじゃないわよ!」
「えぇ、わかってるわ」
「あぁ、負ける気はねぇ!」
私達は炎龍の妨害が始まっても怒涛の攻撃を止めなかった。
それは炎龍が加わってくる時よりも勢いが強いかもしれない。
それにイライラしたアルドークがついに隙を見せた。
「鬱陶しいわ!」
アルドークが私に向かって裏拳を放った。
それは拳の先から数メートル伸びた炎が伴っていた。
しかし、それをしゃがんで躱すと薙刀を思いっきり逆袈裟に斬り上げる。
力いっぱいに振り上げたそれは炎の鎧の防御力を上回り、アルドークの胴体から血が噴き出る。
「今よ、ミクモ! メイファ!」
「えぇ!」
「おう!」
ミクモがすかさず鉄扇でクロス斬りをして、斬り刻まれた胴体にメイファの強烈なフルスイングが直撃する。
「がはっ!」
これまでの私達の攻撃を全て乗せたかのような三連撃にアルドークが吹き飛び、リングの上を転がってうつ伏せになった。
しかし、これで終わってくれるほど敵は甘くない。
というより、魔神の使途の耐久力がその程度で倒せるほど低くないというべきね。
「かはっ、今のはさすがに......効きましたね」
炎の鎧を消したアルドークが地面に手を付けて立ち上がる。
右肩の紋様は異様な光の強さを放っていた。
「なら、見せてあげましょう。本当の力の差というのを。
これまでの頑張りがいかに無意味であったのかということを」
アルドークは口の端から流れた血をペロッと舐めると言った。
「これが鬼人族の最終目標である鬼神の姿です」
読んでくださりありがとうございます(*'▽')




