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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第5章 旧友との再会

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第139話 因縁の対決#1

―――ヨナ(現在の人格セナ)―――


―――学院を包む魔法陣が発動する数分前


 私とミクモとメイファは現在、リツから聞いた大規模魔法陣の中心部分である修練場に向かっている。

 その近くにやってくると不自然なほどに立ち入り禁止の文字が目立ち、仮にその警告文を無視したとしても結界で入れないようになっている。


 しかし、私はリツから貰った陣魔符でもってその結界を解除していく。

 どういう仕組みで陣魔符を結界に触れさせただけで解除しているのかはわからないけど、まぁリツだからと言えば大体納得してしまう。


「相変わらずリツはんは摩訶不思議なことするわね」


「まぁ、リツだから」


 ミクモもメイファも私と同じようなこと言ってる。

 つまりそういうこと。深く考えても意味ない。

 それよりも集中すべきはこれからのこと。

 私は決着をつけなければいけない。

 私を守り亡くなった者達のために。


 私達は穴が開いた結界の中に入っていく。

 全員が入り終わると結界はもとの状態に戻ってしまった。

 逃げ道が無くなった。もとより逃げる気はない。だから、怖くない。


 扉を抜けるとすぐに修練場を囲むように配置された観客席に出た。

 そこからは修練場のリングの中心に魔法陣を広げながら立っているアルドークの姿が見える。


 アルドークも私達の視線に気づくと顔を向けていく。

 いるのが私達だとわかるとバカにするように笑って言った。


「おや、てっきり私の結界を破ってくるほどですからナカイリツかと思ったんですが......まさかまさかこのような場所にヨナ姫様が直々に訪れてくださるとは。

 あなたの騎士(ナイト)は臆病風に吹かれたのですか?」


 その言葉に私はギリッと歯噛みし、さらに拳を強く握っていく。

 私をバカにするのはいい。だけど、リツをバカにするのは許さない!


 しかし、そう反論することをあえてせず、静かに心の奥に怒りの炎を抱えたまま二階の観客席から一階のリングへと降りていく。


 あの時は戦火の中たくさんの死体に囲まれている中で高らかに笑うあんたを見て恐ろしく思ったけど、もう私はあの時とは違う。

 あんたを見ても怖くない。


「随分と饒舌にしゃべるようになったじゃない。

 臣下として働いていた時は自分より年上の人にヘラヘラと笑ってごま擦ってたくせに」


 その言葉にアルドークは眉をピクリと反応させると全然笑ってるようには見えない笑顔でもって返答してくる。


「どうやらあの時の臆病で守られるだけの姫様ではないとわかり安心しましたよ。

 しかし、その言葉遣いは止めた方がいいですよ。

 人をイラつかせるとロクなことないですからねぇ!」


 ブワッっと空気が吹き抜けた。

 アルドークが威圧しただけで周囲の温度が僅かに冷えていくのがわかる。


 思わず気圧されそうになったけど、その背中をミクモとメイファがそっと手で背中を支えてくれたおかげで気持ちで負けることはなかった。

 わかってる、私はここに一人でいるわけじゃない。


 アルドークは威圧的な目からすぐに元の目に戻すと高らかに両手を広げて言った。


「私に復讐したいところ残念ですが、タイムアップですよ。

 なにせ私が組んだ魔法陣はもう完成してしまっているのですから!」


 アルドークはそっと腕を下ろすと右手だけをそっと自分の前に伸ばした。

 その光景を私達はあえて見たままでいる。

 そんな姿に何を勘違いしたのはアルドークは一人でに話し始めた。


「ふふっ、どうやら驚きで声も出ないみたいですね。

 ですが、私が宣戦布告してから猶予は与えたはず。

 すぐに攻めて来ればきっとこの魔法陣を不完全で発動できたでしょう。

 しかし、あなた達はそうはしなかった。

 あなた達のリーダーであるナカイリツは生徒の身を案じて置きながら結局今の今まで誰一人として救えぬまま今日という日を迎えてしまった。実に愚かですね」


 耐えろ、耐えるのよ私。アルドークの挑発に乗ってはいけない。

 むしろ、アルドークが魔法陣を発動させてくれた方がいいんだから。


「簡単な話よ。だったら、今止めればいいだけのことじゃない」


 私は冷静。うん、心に滾らせた炎でもって私の思考は正常に働いてる。よし、いくわよ!

 私は右手にガントレットを作り出すと勢いよくアルドークに向かって走り出す。

 それに対し、アルドークは動くこともせずただニタリと笑った。


 大きく拳を振りかぶってアルドークに近づいていく。

 距離はあっという間に私の間合いに。

 それでもアルドークは何もしない。

 余程魔法陣の効果に自信があるのだろう。

 それがどれほどの過信であることも知らずに。


「さらばだ、姫様! 発動せよ!―――黒蛇贄棺(こくじゃにえひつぎ)!」


 アルドークの言葉によって魔法陣が光り出す。

 私のいるリングはおろか修練状態が眩い光に包まれる、きっと規模は学院全体でしょうね。

 だけど、残念! リツはそんな甘っちょろい考えなんてお見通しなのよ!


「鬼武術 鬼拳―――破鎧正拳!」


「がっ!?」


 私の拳がアルドークの顔面にクリーンヒットしていく。

 相手の顔はみるみるうちに私の拳で歪み、拳を振り抜かれた勢いで数メートル吹き飛び地面を転がっていった。

 チッ、そのまま場外の壁へと叩きつけるつもりだったけど、さすがに魔神の使途だけあるわね。固い。


 アルドークは口の端から血を流し、さらに鼻血を出しながら困惑した表情で私を見た。

 その顔や四つん這いの姿は酷く滑稽ね。


「なぜだ? なぜだなぜだなぜだなぜだ!? 私の<黒蛇贄棺>の魔法陣は完成したはずだ。

 今頃地面から現れた黒蛇がお前達に絡みつき地獄の園に連れていかれてもおかしくないというのに!?」


「簡単な話よ。書き換えたのよ、あんたの魔法陣を」


「書き換えた......?」


 私の言葉にアルドークは一瞬放心状態になる。

 しかし、すぐに目の前で起きた現実を否定するように頭を振ると再び叫んだ。


「ありえないありえないありえない! <黒蛇贄棺>は私が長年かけて陣を敷いた魔法陣だぞ!?

 それも第一級禁忌魔法陣だぞ!? それが破られる!? ありえない!!

 今日という日のために昨日もぬかりなく確認したんだ!

 どこにもほつれはなかった! 発動しない方が不自然だ!」


 アルドークの発狂具合が凄まじい。

 リツ......あんた一体何したのよ。

 私達本当にただ単に陣魔符を見つけた魔法陣に貼っただけなんだけど。


「知らないわよ。それがどれほどのものかなんて。だけど、目の前に起こったことが全て。

 大方、自分の立っている場所だけ安全地帯にしていたのでしょうけど......別の魔法に置き換えられたなら意味なかったかもね」


「待て、それはどういう意味だ?」


 アルドークが再び困惑した表情で私達を見る。

 そんなこと聞かれても......こっちが知りたいわよ。


「私が知ってるのはリツがあんたの魔法陣を<転移魔法>の魔法陣に書き換えたってことぐらいよ。だから、ほら? 周囲に一切の魔力反応が無いでしょ?」


「っ!?」


 私の言葉を受けてアルドークが頭をキョロキョロし始めた。

 恐らく周囲の先の魔力反応を自ら確かめてるのでしょうね。

 そして、私の言葉が嘘じゃないとわかったはず。


「私の魔法陣を発動(トリガー)をそのままにして転移魔法陣に書き換えた?

 ウソだ。ありえない。だって、陣の絵は発動させる魔法そのものを表している。

 術式構成、陣の絵、魔力量、それら全てが欠けても魔法は発動しないはず。

 それが陣の絵をそのままにさらに術式構成の難しい魔法陣へ書き換えた?

 なんだそれは?? わけがわからない!」


 なんだか頭を抱えてずっとブツブツと言い始めた。

 その光景は酷く気持ち悪く、今の姿は先ほどの自信に満ち溢れた姿とは対極に位置してる。


「ともかく! あんたのしようとしていたことがなんだかわからないけど、全てリツによって失敗に終わったのよ。

 そして、ここからは私......いえ、私達があんたを成敗する番」


 その言葉にアルドークの言葉はピタリと止まる。

 そして、ゆらゆらと立ち上がると笑い始めた。


「ククク、ハハハハハ! ここまで盛大にコケにされたのは初めてですよ。あぁ、本当に、本当に......腹立たしい!

 あの少年、いやあの男には死よりも恐ろしい目に遭ってもらわなければ私の気が済まない!

 その手始めにあなた達の首でも刈り取ってプレゼントしてみましょうか。

 ククク、今にも怒り狂った顔が目に浮かぶようだ!」


「随分と物騒なことを言ってるとこ悪いんだけど、そんな未来は来ないから。

 なぜなら、あんたは今から私達の手で倒されるんだから」


「そやな、あないな物騒な男を残しとく方危険やわ」


「いっちょ派手にやってやるか!」


 私の言葉に続いてミクモとメイファが言った。

 それぞれ鉄扇を広げたり、巨大なハンマーを担いだりしていく。

 さ、終わらせるわよ私。過去との因縁に別れを告げるの!


******


―――聖朱音 視点―――


 何気ない日常を過ごしていたら突然地面に広がった魔法陣らしき絵から放たれる光に包まれていった。

 それはさながら初めて転移を味わったもとの世界での教室での出来事のように。


 視界が真っ白に染まっていく最中、私は心ながらに思った。

 もしかしたらもとの世界に戻れるのではないかと。

 しかし、そんな思いも虚しく目を開けるとそこはどことも知らない森の中だった。


 これは<転移魔法>。

 それもその魔法を受けたのは教室にいた私達だけではなく、他の生徒も。

 見渡す限り生徒が見える。教師もいる。

 もしかして学院の生徒と教師全員が転移した?


「朱音!」


「けんちゃん! 無事で良かった!」


 私は思わず走り出すとケンちゃんに抱き着いていく。あ、勢い余ってなんか凄いことしちゃった!?

 けんちゃんは恥ずかしそうに私の肩に手を置いて引き離すと一つ咳払いして今の状況について聞いてきた。


「朱音、これって転移だよな? ここがどこかわかるか?」


「ううん、わからない。でも、この辺の森は見たことあるような―――」


「ここは学院街の外の街じゃな」


 私が見渡していると近くにリューズ先生とマイラ先生がやってきた。

 突然の事態にもかからわず二人ともとても落ち着いてる。

 マイラ先生が口を開いた。


「先ほどハイエルが確認したから間違いないわ。

 今タルク達が率先して生徒を集めて確認してるから安心して」


「ま、魔物もこれだけ人がいたら怯えて出て来ないから大丈夫じゃ」


「そうですか......しかし、一体誰がこんなことを?」


 なんとなくそう聞いてみるとリューズ先生もマイラ先生も沈黙して答えることはなかった。

 私はその反応に思わず首を傾げるもすぐに次の質問をした。


「あ、そういえば、りっちゃんがいないんですけど見かけてないですか?」


 そう聞くと今度は僅かにピクっと反応した。しかし、二人とも答えることはない。

 ただ「早く学院に戻るべきじゃな」と言って走り出すだけ。

 その後ろ姿に妙な感覚に襲われながら追いかけていった。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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