第138話 対アルドーク対策
「突然だが、集まってくれてありがとう。少し事情が変わった」
僕の目の前には蓮、薫、康太、ヨナ、ミクモさん、メイファと仲間達が集まっている。
集まってる場所はとある小さな空き部屋で<認識阻害>と<防音>で勘付かれるころはない。
さらに<探知>もしかけているので近づいてくる人も認知出来る。
僕の言葉と表情を見て全員が何かを察したように真剣な顔つきをすると皆の反応を代表したように蓮が返答した。
「事情が変わったってのはどういう意味だ? もう学院にいる意味が無くなったってことか?」
「ある意味そうとも言える。実は―――」
そこで僕はアルドーク学院長との話した内容を皆に共有した。
その中で一番表情が変化したのは当然ヨナだ。
ヨナは怖い顔つきになると多分な感情が含んだ拳を握っていく。
「そう言うわけで、実質宣戦布告のような形になってしまった。つまり、近々この場所は戦場になる」
「そういうことですか。なら、なんとしてでもアルドークのやろうとしていることは止めないといけませんね」
ヨナの言葉に僕はコクリと頷くと再び口を開いた。
「あの学院長が何をしようとしているかはわからない。だが、どのようにしてやろうとしていることはわかる」
康太が首を傾げたように「というと?」と先の話を促してきた。
そこで僕は<土操作>で床を少し変形させて簡易的な学院の模型を作り出した。
「学院長は僕との会話で学院にいる生徒と教師の全てが人質だとハッキリ言った。
つまり相手は僕達は学院内だと満足に戦えないと思っていて、人質として抑止力が果たせれば生かす必要もないということだ。
そして、学院長の狙いは勇者。となれば、人質を巻き込もうと関係ない学院長が取る行動は一つ」
僕は模型を中心とした魔法陣を作り出す。その構図だけで全員がすぐさま理解した。
「この学院全体を巻き込む大規模魔法陣の行使かな。まずこの学院は消し飛ぶほどの」
いつぞやの帝国と同じようにね。もっともあの時は結界だったけど。
学院長の狙いは勇者なのは間違いない。本人が明言したのだから。
そして、勇者も学院の生徒や教師も巻き込みたくないと思ってる僕達からすれば学院長のやろうとしていることは最善手といえる。
となると、僕達は迫られるわけだ。
僕達だけ避難するか、勇者のみを救出するか。
どちらにせよ学院の全員は助けられない―――というのが、学院長の想定している展開。
ハハッ、付け入る隙があるとすればきっとそこしかない。
僕が学院長の取りそうな手段を放しているとメイファが当然の質問をしてくる。
「で、どうせこのままってわけでもないんだろ? どうすんだ?」
「そうだね。まずはこの学院全体に散りばめられてるだろう魔法陣を見つけてそれを書き換える。
この学院全体を一つの魔法陣だけで囲むには何らかの形でバレるリスクが高いからね。
それに細かい魔法陣で囲み、それを繋いで最終的に大きな魔法陣へと構築した方が魔力に関しても消費が少なくて済む」
ま、禁書庫の封印ももうそろ終わりそうな段階には入ってたしそろそろこの学院ともおさらばとは思ってたしね。
そう言うとミクモさんはこの学院でそこそこの思い出が出来たのか少し残念そうに呟く。
「はぁ、もうすぐこの学院生活も終わってまうのね。
こないな年で学生に慣れるとは思てへんかったさかい楽しかったのに。
お友達と遊びに行くのんはなんか新鮮やったわ。いつも姫やっとったさかい」
「だったら、このまま残ってみるかい?」
「え?」
僕がそう言うとミクモさんは驚いたように顔をこちらに向ける。
そこへさらに「今なら薫もつけるよ」と言ってみるが、ミクモさん以外もやたら衝撃を受けた表情で固まってしまっていた。
少しの沈黙の後、ミクモさんはふふっと笑って返答する。
「冗談にしては少しやり過ぎやで。ウチらは仲間なんやさかいついて行くに決まってるとちがう」
その言葉を境に少し張り詰めた空気が和らいだ。
ほとんどの人が「冗談か。驚かせるなよ」と言っている中、ただ一人ヨナだけがどこか考えた様子で僕を見ていた。
ま、僕的には割と冗談じゃないんだけどね。
皆がついてきてくれてることは嬉しく思ってる。
だけど、心のどこかには必ずいるんだ。
今やってることは僕一人が背負うべき業なんじゃないかって。
村を滅ぼした元凶を殺した時、僕はヨナによって説得されたけど、それでもあの時の気持ちが完全に消えたわけじゃない。
それどころか旅を進めて行く度に強大になっていく敵に対して再び仲間を失うような可能性がある方が怖い。
いつまで経っても消えることのない臆病さ加減だな。
今の所はまだ乗り越えられる脅威だ。
だから、こうして力を貸してもらってる。
僕は......心から仲間のことを信じ切れていないのだろうか。
雑念を振り払うように頭を振ると話を進めた。
「話を戻すよ。まずは蓮がこの学院の中にいる魔法陣を見つけてくれ。
その時はくれぐれも学院長には勘付かれないように。
それから行動する時は出来る限り二人一組で。
ヨナの件もあったし何があるかわからないから警戒に越したことはない。
僕は図書館に用があるから基本一人行動だ」
「まぁ、律君に関しては大丈夫だろうね。なんせ最近の強さはさらに頭がおかしいし」
「なんか安心理由としては随分な言われ方されたような気がするけど......まぁいいか。
それから、皆には後で陣魔符を配っておくからそれで見つけた近くの魔法陣に張ってくれ。書き換えはそれで完了する」
「なんだか随分と簡単になったんだな」
「今回はいつ学院長が行動に移しかわからないしね。時間勝負さ」
僕の言葉に康太が「なるほど」と納得した所で会議は終わり......となる予定だったのだが、ここでヨナが律儀に手を挙げて発言権を求めてきた。
「どうしたの?」
そう聞いてみればいつになく真剣な目で言った。
「アルドークの対処に関しては私に一任させてもらえないでしょうか?」
ヨナは家臣だったアルドークによって鬼人国を滅ぼされた。
この行動はそれ故のケジメなのだろう。
身内の敵は身内で対処する。
そのことに関しては僕も反論することはない。
しかし、アルドークは魔神の使途だ。
それに関して本人が認めたような言葉は無かったが、状況証拠からそのように断言できる。
となれば、話は別になってくる。
ヨナは同じく魔神の使途であるリレーネに負けた。
それだけでヨナが魔神の使途であるアルドークと戦って勝てるビジョンが見えてこない。
だから、僕はヨナの行動に賛成できない。
僕が口を開こうとした時、先に発言してきたのはミクモさんとメイファだった。
「そこにウチらも加わったらどうかしら?」
「そうそう、一人でダメなら三人で。これなら安心して任せられるんじゃないか?」
その申し出にはヨナも驚いた様子だった。
咄嗟に何か言おうとしたけど真剣な目をしていることに彼女は思わず口を閉じていく。
僕にはその行動の意味が良く分かった。
二人の行動はきっとヨナの助けになると同時に贖罪の意味も含んでいるのだろう。
リレーネに捕まったのはヨナの落ち度だ。
だから、ヨナ自身は二人が助けに来れなかったことに関して悪いとは思っていない。
しかし、二人は違う。
ミクモさんもメイファも敵がどこかにいると想定してた。
それでも仲間が危険な目に遭ってしまった。
それは僕達に土下座してまで謝罪してくるほどには。
二人は罪悪感を抱いている。
それを払しょくさせるにはヨナと一緒に行動してもらう方が一番か。
それにどちらにせよヨナ一人ではゴーサインなんて出せなかったし丁度いい。
「わかった。一人はさすがに危険だと思ったけど、二人がついて行くなら構わない。
ただそれでも相手がどんな行動をしてくるかわからないし、魔神の使途の時点で十分脅威だ。
だから、慎重すぎぐらいで気を付けて頑張ってくれ」
「わかりました。許可を出してくださりありがとうございます。
ミクモさんもメイファさんもありがとうございます」
「ふふっ、気にせんでええわ。これぐらいは当然やで」
「そうそう、今度はアタイ達がいるんだ。大船に乗った気持ち......ってのは言い過ぎかもしれないが、十分に安心した気持ちでいていい」
ヨナの話はこれでまとまった。
すると当然、薫と康太が役割を欲しそうにこっちを見てくる。
「ねぇねぇ、僕は何すればいいの?」
「そうそう、おいら達だけ何もないのなんかこう......ソワソワするんだよ。サボってるみたいで」
「そりゃ当然役割はあるよ。それももの凄い大きい役割がね。それにこれに関しては僕も蓮も関わってくる」
「俺もか」
「それはね―――」
そして、僕は蓮、薫、康太に決戦当日になった際に起こりうる未来の話をしていった。
****
―――決戦当日
学院の中は当たり前のような賑わいを見せている。
当然か、何も知らない人達からすれば今日は当たり前の日常なのだから。
だけど、僕は今日ここが戦場になることを知っている。
それは意図的に結界が張られた修練場にいる一人の人物―――アルドーク学院長の姿があるからだ。
そんな現在学院長権限で封鎖されている修練場に結界を破ってヨナ、ミクモさん、メイファが向かっている。
また、蓮、薫、康太の三人にはこの学院から離れてもらってる。学院内にいると面倒だしね。
そして、僕はというと今は図書館だ。
目的はもちろん図書館の最低層にある禁書庫。
時間をかけて解いた禁書庫の無数に張り巡らされた魔法陣の解放メモを手に持ってこれから禁書庫を開けるつもり。
本来なら人目を避けて夜とかにやる予定だったんだけど、どうせ人がいなくなるし今行っても問題ないよねってことで。
僕は大きな穴を囲った手すりに手をかける。
そんな僕の明らかなおかしな様子にどこかの生徒が「ちょっと、君」と声かけるが無視してダイブ!
大きく両手を広げながら落ちていく感覚は実に気持ちがいい。そして―――時間だ。
僕がいる図書館はもといこの学院全体は見続ければ失明してしまうかのような膨大な光によって包まれた。
読んでくださりありがとうございます(*'▽')
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