第136話 レベルアップのカギ
現在、僕は図書室に来ている。
といっても、定期的にお忍びに来ていた深夜の図書館ではなく、学生として来た昼間の図書館だ。
そんでもって今は一つの大きめの机を広々と使って調べ物をしていた。
机の上には大小様々、分厚さも様々な本が乱雑に積まれていてそれだけ真剣に情報収集をしていたという証だろう。
調べていたことはもちろん魔神関連だ。
マイラ先生とのリレーネの尋問にあたってから数日が経った今でも特に目立った成果はない。
まるで意図的に世界に真実が隠されたかのように。いや、ここまで来ると真実を知らないのでは?
そんなことを思いながら今は休憩中に別の本を読んでいる。
その本の名は「魔法基礎・応用」とまるで勉強の参考書的な本で至って当たり前のことしか書かれていない。
加えて、この本には錬魔に関しては乗っていないというおまけつき。そりゃ、過去に普通の戦士が魔族と戦った際に負けるわけだよ。
「康太、何か見つかった~?」
「いや、何も~」
僕が本を閉じてバタッと机に顔を伏せると僕と同じように顔を伏せていた康太が気の抜けた声で返事をした。
時間が空いていた相手が康太だけだったので彼に僕の情報集めを手伝ってもらってるけど......そっか~、そっちでも情報無しか~。それは困ったな~。
「ちなみに、魔神関連の話ってどんなの?」
「至ってセオリー通りだよ。世界に魔神が現れました。
魔神が世界を我が物にせんと動き出しました。
人族の国から魔神を倒そうと勇者が立ち上がりました。
勇者は旅をしながらやがて魔神と戦いました。勝ちました以上」
「簡潔なストーリー紹介あざ」
僕は康太にお礼を言っていく。
それに対し、康太は「はいはい」と適当に返事をして体を起こすと再び先ほど読んでいた本をペラペラと捲り流し読みし始めた。
「ま、話の流れは大体こんな感じなんだけど、多少のストーリーの違いはあるっぽいね。それにこの伝説には気になった言葉があった」
「気になった言葉?」
ぐでっとした体を起こすと反対側の席にいる康太の場所まで移動。
そして、後ろから康太の読んでいる本を見ていく。
僕が近づいてきたのを確認した康太は「ここの部分」と一部の文章を指さした。
「勇者が魔神の使途アバドスと戦った時の話。『勇者はその身に内包する魔力を放出させて新たな魔法を生み出した。それは己の魔力及び魔法の真理に辿り着いたものだけが出来る魔法の絶対領域であった』ってって」
「勇者だから脚色されてんじゃない? それに伝説だって言い伝えの類だろうし」
とはいえ、もしこれが本当に実在するのであれば気になるところ。
使えるようになれば確実な戦力アップになることは間違いなしだし。
もしこれを知っているとすれば魔法に関して詳しい人......ってあの人しかいないじゃん。
なんかめっちゃお世話になるな。ま、いっか。
****
「私に魔法を教えて欲しいって? 絶対嫌よ」
毎度お馴染みマイラ先生。
開口一番に聞いてみればハッキリと拒絶された。
それに対して、僕は想定済み。敵である僕に力をつけるのは避けたいもんね。でも、先生には借りがある。
「マイラ先生、借りを返してください」
「うっ......ここでそう来るのね。ハァ、わかったわ。ただし一つだけよ。借りは一つだけなんだから」
「律儀で助かります」
「ここで暴れられても困るからね。それで......その前にリューズ先生はどうされたんですか?」
僕はずっと無視していたがついに耐えれらなくなってマイラ先生に聞いた。
現在、僕はマイラ先生と机で向かい合って話しているのだが、先ほどからリューズ先生はずっと後ろで虫のようにウジウジしているのだ。気が散って仕方ない。
その質問に対し、マイラ先生は「あぁ、彼女は―――」と残念そうな顔をして言葉を続けた。
「禁断症状なのよ」
「はい?」
「ほら、ここ数日あなたが忙しそうにしていて構ってもすげなく躱されるからついにいじけちゃったのよ。あなたのせいよ? 責任もって構ってあげなさいよ」
「なんてハタ迷惑な」
構ってあげなさいって言われても......この人が要求することって僕と戦う事だけなんだよな~。
それに戦うたびに目がラリってるから怖くて仕方ないんだよ。正しく戦闘狂。
「寂しい~寂しいよ~。なぁ、お主は知ってるか? 戦闘狂は寂しいと死んでしまうんじゃぞ?」
「そんなウサギは寂しいと死ぬみたいに言われても......迷惑さ加減が比でもない。いい加減、自制を覚えてくださいよ」
「そんな! ワシは一体これからどうやって生きていけって言うんじゃ!?」
「清く正しく人に迷惑かけないように生きてください」
そう言うとリューズ先生は歯噛みして「この女ったらしー!」と不名誉な言葉を叫びながら走り去っていった。
なので、すぐに彼女の背中に<消音>の魔法陣をペタッと転写して放置。
これで誰も彼女の叫び声は聞こえない。
「あなたって案外女性を乱暴に扱うDV男?」
「やめてください。僕は敵対しなければ基本誰だって優しく接しますよ。
それにリューズ先生は女性じゃなくて戦闘狂です。自分でも認めてますし」
「それは......ハァ、いいわ。どうせあなたがあんな態度取ってるのリューズだけだろうし」
そう言うマイラ先生も思ってる以上にドライじゃないですか。
マイラ先生は「さっさと本題に戻りましょ」と言うと改めて僕に聞いてきた。
「それで? あなたが知りたいことっていうのは?」
「この文章についてです」
僕が康太と一緒に見つけたものをマイラ先生に見せると先生は一瞬ピクっと反応した。
その僅かな変化を僕は見逃さなかった。
「知らないわ」
「何かあるんですね。教えてください」
「それは伝説よ? それに勇者といえば、人々にとって悪を討ち滅ぼす希望の象徴。
多少の噂でも尾ひれがつくのだから勇者の伝説となれば当然内容は膨れ上がって―――」
「先生」
僕は右手の人差し指だけを机に触れさせて魔法陣を展開させていく。
威圧的に、魔力の密度を濃くして今から暴れてもおかしくないといった風に。
その変化にマイラ先生は表情を変えることはなかったが、冷や汗を流し始めたのはわかった。
「僕は用心深いんですよ。まさかマイラ先生の借りに対して何もしてないとでも?」
何もしていない。これは単なる言葉による脅しに過ぎない。
しかし、マイラ先生は僕という人物の評価を大きく見ている。
つまりそのようなことをしていてもおかしくないと。
それに僕が人一人を隠せる方法も知っている。
故に、マイラ先生はリスクに揺らいでいるはず。
そして、マイラ先生なら出来るだけリスクを避けるはず。
なぜなら、先生が欲している禁書庫は恐らく僕が手に入れるだろうから。
マイラ先生は大きくため息を吐くと答えた。
「ハァ、ダメね。あなた相手だと私の駆け引きが通じないわ。まるで子供の力で大人に抗ってるかのようで」
「理解してもらったなら何よりです。では、教えていただけますか?」
「その文章について話してる内容は恐らく『魔展操制』という力よ。私も昔気になって調べたことがあるの」
魔展操制......聞いたこともない言葉だ。
それほどまでに秘匿情報だったのか、もしくはそれを使える人が極端に少なかったのか。
「どんな本に書いてあったかはさしがに覚えてない。それに私も使えるわけじゃないからハッキリした効果は分からないわ。
ただこれを使えるようになると魔法が一段階レベルアップすると言われてるわ」
「ハッキリした効果がわからないって言ってる割にまるで使用したことのあるような言い方をするじゃないですか。もしかして、誰か使える人を知ってる感じですか?」
「疑り深いけど、別に疑っても意味ないわ。それを使えていた人は私の師匠にあたる人物の人でもう既にこの世にいないもの」
そうか、出来るならその人から話を伺ってみたかったものだけど仕方ない。
「それはどのように修練すれば使えるようになると言ってましたか?」
「そうね、あの人は天才だから感覚で言う事が多かったのよね。
でも、やるべきことはあなたが知った文章に書いてあることのまんまよ」
「『己の魔力及び魔法の真理に辿り着いたものだけが出来る』って部分ですか?」
「そう」
自分自身に向かい合って考えろってことか。
それはまた何とも難題なことだな。それに抽象的過ぎる。
魔力及び魔法の真理って何さ?
それは一般的な真理なのか自分だけが求める真理なのか。
聞いてみたはいいけどこれが今すぐ役立ちそうだとは思わないな。
とりあえず、考え続けてはみるけど。
マイラ先生は僕の様子を見ては「これで借りは返したわよ」と言ってきた。
まぁ、僕としてもこれ以上の話の進展は望めなかったし終わっても問題なかったんだけど。
僕は席を立ち上がるとマイラ先生に感謝の言葉を述べて資料室を出て行った。
さて、これからの行動だけど、やっぱり魔神の情報集めぐらいしかないか。
禁書庫の解除方法は一応少しずつ進んでるけど、こればっかりは一朝一夕で済まないし。
「それに己の真理ってな。やっぱり字面から考えると自分の中にある何かだよな。
それこそ曇りのない一つの答え......? 自分の信念......?
うわぁ、嫌だなぁ。曖昧過ぎてさっぱしわかる気がしない」
顎に手を当てぶつくさと呟きながら考えてみるもののどういったことなのか取っ掛かりすら掴めそうにない。
そんな風にして歩いていると突然背後から声をかけられた。
「そんな風にして歩いていると転んでしまいますよ」
僕が後ろに振り返るとそこにはこの学院の長であるアルドーク=グランフィス学院長の姿があった。
「うん、今日も学生は勉学に励んでいて何よりだ」
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