第125話 禁書エリアの魔法陣
マイラ先生から図書館の禁書エリアのカギを受け取ってからその日の深夜、僕はコソコソと移動しながら図書館までやって来た。
当然、図書館にはカギがされているが、その図書館のカギは禁書エリアのカギでも代用できるらしく、違うのはカギを刺してからの条件魔法陣による封印の解除だけらしい。
というわけで、僕は図書館に例のカギを刺して浮かび上がった魔法陣を解いていく。
ドアにはいくつかの魔法陣が一部重なるようにして浮かび上がった。
重なってる部分はその部分が他の魔法陣と役割がリンクしているから。
例えて言うなら大きな歯車同士に挟まれた小さな歯車というべきか。
ともかく、それがないと大きな魔法陣は本来の働きを見せない。
それどころかしっかりとしたセキュリティも組まれているのか下手に干渉して操作を誤ればけたたましいアラームが鳴るだろう。
ま、これぐらいの魔法陣ならどうにでもなる。
二つ以上の魔法を組み合わせるときに魔法陣のリンクはどう足掻いたって必要になるからな。
そう考えればこの結界は十段階中三段階ぐらいの難易度だろう。つまり余裕。
「お邪魔しま~す」
ガチャリと扉を開けると小さく呟きながらゆっくりと扉を開けて居く。
図書館の中は素晴らしいほどの蔵書で溢れていた。そりゃ図書館なんだから当然なんだけど。
自分が扉を開けた場所から壁に沿って本棚がずらーっと並んでいて、中央は螺旋階段になっている。
まるで世界中の本が集まってるみたいだ。そのくせ警備する人の気配は感じられない。
念のため<気配断ち>で姿を視認しづらくしてきたけどこれなら必要なかった―――おっと!
始めてくる図書館の光景に圧倒されていると魔力の塊が浮いてることが分かった。
<夜目>で確認してみればものすごくコンパクトにしたドローンのような球体の魔道具が一定のルートを巡回している。
あの魔道具、相当レベルが高いな。戦闘レベルというよりは創作レベルだけど。並みの<魔力探知>だと全くと言っていいほど認知出来ないだろう。それほどまでに自然の魔力に擬態して浮いている。
こんな技術を作れそうなのはドワーフぐらいだろうけど。
きっとこの街に住むどっかの誰かが作った代物なんだろう。
確かにこのレベルがあるなら警備は無人でもいいかもしれないな。
「だけど、過信軽率ってところだね」
僕は<魔力探知>でドローンの巡回ルート及び目には見えない魔力によるサーチ範囲に入らないようにコソコソと移動していく。
エントランスから少し奥に進めばそこには奈落まで続く螺旋階段がある。
覗き込んでみれば壁沿いにある本棚が下に向かって続いていた。
光が届いていないのか<夜目>でもっても底が見えない。ここって確か地上一階だったよな?
僕は妙な恐怖感に襲われつつも柵を超えてそのままダイブ。ひゅーっと僕の体は闇に飲まれていく。
結構下に続いているのかダイブしてから数秒経つが未だに地面に着地する気配がない。
空中に浮いているドローンを躱しながらふと振り返ってみれば、ダイブしたはずの入り口がすぐ近くにあった。そして、そのまま落下によって遠ざかっていく。どういうこと?
今、僕の体は浮遊感に包まれている。しかし、これが風魔法によるものだとすれば、ダイブした穴から距離が遠ざかることは無い。
穴を見続けていた僕は一度振り返って下から迫りくるドローンを重心移動で動きながら躱していくと直後に目の端で確かに捉えた。僅かに光を浴びるのを。
もう一度振り返ってみればダイブした穴がまた大きく視界に入ってきた。
そこからはまた僕が落ちるにつれて小さくなっていく。これはまさか......戻されてる?
うん、状況的にそう判断した方が良さそうだ。恐らくこれはどこかしらの転移結界が発動している。
それにきっとこの結界の役割はこれだけじゃない。
ここからは推測になるけど、僕が先ほど避けてるドローンは先ほどの警備ドローンじゃなくて迎撃ドローンじゃないか?
つまり螺旋階段を下りようとした人は普通に戻され、一気に下まで降りようとした者は結界によって戻され侵入者を感知したドローンによって攻撃される。
螺旋階段の方は近くに蔵書があるということで攻撃判定に入らないのだろう。
「となると......」
僕は下向きの頭を上に向けると両足に<固定>の魔法陣を発動させて周囲の魔力を集めて固定させる。
それによって僕は簡易的な足場を作ってその場に立てるってわけ。これ以上落ちる心配もない。
ここで僕は思考を巡らせていく。恐らく、いや、十中八九この下に禁書エリアがあるだろう。
先ほどの転移結界よりしたがそのエリアではなかろうか。
となれば、僕はその結界を突破すれば禁書エリアに行けるということだ。
問題はそれがどこにあり、かつどんな形をしているのかということ。
先ほどから全く持って目に映ってないんだよな。
これは本来の魔法陣の性質と反している。
魔法陣は起動すれば必ず魔力によるエネルギーによって光が生じるはず。
その状態が言わば稼働中を指すのだから。
しかし、先ほどから僕が経験しているこの転移結界にはそれが無い。
空中に設置されているであろうそれが稼働中にもかかわらず光を指さないのはおかしい。
とはいえ、魔法といえ結界といえその効力を発揮するにはやはり魔法陣という電球は必要になる。
もしかして、本来描く魔法陣という方法とは別で魔法陣を作っている?
僕は一度足場を消してもう一度ループしてみることにした。今度は色んなものを注意深く観察して。
魔法が発動する以上必要不可欠な魔法陣という要素を一体どこで補っているのか。
そして、何度か落下しながら見ていくと三つの違和感に気付いた。
まず先ほどから躱しているドローンだが、あまりにも位置と高さがバラバラじゃないか?
まるで適当に並べたかのような配置をしている。巡回もせずただ浮遊してるだけだし。
それにドローンの目の位置。ドローンはそれぞれ向きがバラバラだ。しかし、決まって他のドローンがある方向を向いている。
最後は当初は迎撃ドローンだと思っていたが、それにしてはあまりにも迎撃しなさすぎる。
あまりにも反応が無いので試しにドローンの視線上を通過しても反応なし。
つまりこのドローンの役割は侵入者の迎撃ではないということ。
「それがブラフだとすれば......使い用途の分からないバラバラに配置されたドローン、姿が見えないのに起動している転移結界、ドローンの視線―――まさか!?」
僕の脳裏には一つの可能性が生まれた。
それを確かめるようにもう一度ループして穴のすぐ近くに現れると<固定>で魔力の足場を作りドンドン上に登っていく。その後、真下に視線を落とした。
「やっぱり......」
僕の予想は的中した。真下にはバラバラに配置されていたはずのドローンが平面上に存在しており、それから伸びる魔力が他のドローンを繋いで一つの巨大な魔法陣を作り上げていた。
本来自分の魔力で描くはずの魔法陣を魔道具を利用して代用したのだ。
なるほど、三次元じゃなくて二次元で捉えることで初めて魔法陣とわかる仕掛けだったのか。
よし、わかったら話は早い! 早速ドローンを破壊して禁書エリアに.....と考えるのは二流。
これでも自称一流だと思ってますからここで一旦冷静になって止まる必要がある。
ちなみに、この法則が解けないのが三流だ。
この魔法陣がドローンを介して起動しているとして、もしそのドローンを破壊すれば転移結界は破壊できるだろうがすぐさま他のドローンが連動して迎撃モードになったら事だ。
なら、このまま一斉に全てドローンを破壊してしまうか。これなら先ほどの結果は防げるだろう。
しかし、次の日にいたはずのドローンが破壊されていたと知れれば、それだけで大事になってしまう。
禁書エリアに侵入を試みた者がいる。それも只者ではないレベルで。
そうなれば、再び侵入することになった時の侵入難易度が跳ね上がってしまう。
マイラ先生は僕ですら解けるか分からないという自信があったから禁書エリアのカギを渡してきた。
つまりマイラ先生の見立てでも一度で入れる可能性が限りなく低いと踏んだのだ。
なら、ここはなおさら慎重に行くべきだろう。
「だとすれば、やることは一つ―――乗っ取りだよね!」
僕は視認した全てのドローンに<構造操作>の魔法陣を転写していく。
これは主に岩や金属で出来たゴーレムを自立操作する時に使われる魔法陣だ。
それを利用してドローンの不正アクセスを試みる。
一度に全てやるために<並列思考>の魔法陣も重ねてかけておこう。
もうだいぶ時間が経過してしまったしな。これ以上の長居は危険かもしれない。
「これで解除っと」
僕がドローンの魔力線を出す機能だけオフにするとドローン同士を結んで出来る魔法陣は消えてなくなった。
後はこのまま飛び込んでループしなければ成功ってことで。
僕は意を決して飛び降りるといくつものドローンを抜けていく。
そして、最後のドローンを抜けてふと振り返って後ろを見れば変わらずに穴は小さく見える。よっしゃ、成功した!
そこから下は未知の世界。最小限の光源として<発光>の魔法陣を左手に、さらに目に<夜目>の効果を発動させて地面との距離を探っていく。落下死は嫌だからね。
ようやく最下層が見えてきたのか僕は<強風>の魔法陣で上昇気流を作りながら速度を調整して安全に着地。
辺りを見渡してみれば、一階付近にあった本よりも明らかに古く年期が入っている。
ふむ、このどこかにガレオスさんの言っていた過去の魔神との記録があるわけだな。ここから探すのかなんだか面倒.....ん?
視界に入ってきたのは装飾のある巨大な両開きの扉。
高さは十メートルぐらいある。一体なぜこんなに大きくする必要があったのか。
それはともかく、この扉には魔法陣が仕掛けられてるっぽいな。もしかしてこの扉の先?
そう思いながら近づいていけば、その扉に仕掛けられている魔法陣を見て絶句した。
「嘘.....だろ.....」
大きな三つの魔法陣がそれぞれ一部が重なるように連動しており、さらにその大きな魔法陣を構成する魔法陣が十数個、さらにその魔法陣を起草するのに数十個といくつもの魔法陣が複雑に絡み合っており、それらの数をザックリ数えれば優に百個は超えていた。
それに一つ一つはそれほど難しくないもののそれが圧倒的な数の多さにして、一つも不要な部分が見当たらないほど密接にかかわっておりこんなもの一度じゃ絶対に解けない。
「なるほど、マイラ先生の言ってたことはこれだったのか......」
僕はとりあえず全体の絵を数時間かかって模写してから帰ることにした。
読んでくださりありがとうございます(*'▽')




