第120話 寮食会議
寮食スペースに向かう途中で蓮、康太、薫の三人の姿を見つけた。
三人は何かを話している様子であったが、僕の存在に気付くと僕が合流するのを待つように視線を向けた。
「何話してたの?」
「なに他愛もない会話さ。やっぱり今更元クラスメイトと顔を合わせるのは面倒だなっていう」
あ~、なるほどね。確かに不良グループの連中みたいに直接言う人はいなかったけど、時には便乗したり、目線がもはや見下してるってのはザラだったからね。あまりよく思ってないのは当然か。
「でもまぁ、今はおいら達の方が上だしね。見た感じでもあまりに成長が遅い気がする」
「恐らくレベルも僕達の方が高いだろうだからね。だけど、この世界をレベルで評価してれば痛い目を見る。明らかに錬魔を鍛えた方がもっと強くなれるし」
それを本人達が気づいてるかは定かじゃないけど、少なからず軽く対峙したリューズさんは結構な年期で錬魔を鍛えてるっぽかったな。実力を隠してるのはお互い様ってことか。
僕は「とりえあえず移動しよう」と声をかけて皆で適当に雑談しながら移動を始めた。
その際、三人から口々にヨナと話し合うことをお勧めされた。ん? ヨナに何かあったのか?
寮食スペースに辿り着くとそこはレストランのバイキング形式になっており、座る場所も豊富にあった。
もう既に多くの学生が利用しているようでその中からヨナ達を探すのは大変だなとか思ってたら、すぐに見つかった。
なんせヨナ達の周りだけ妙にスペースが出来てるもの。なんだか恐れ多くて近づけない的な感じで。
彼女達も気づいたようでメイファが「おーい!」と手を大きく振って居場所をアピールしてくる。
あぁ、今行く......ん? メイファが両手の人差し指を横に向けながら「こっちこっち」と何かをアピールして......ってなんかヨナがめっちゃ僕を睨んでくる。
一見笑顔にしか見えないその顔は周りの男女の言葉だけ聞けば「奇麗」やら「美しい」で片づけられている。
しかし、そこそこ付き合ってきた僕にはわかる。あの笑みの裏に隠れた怒気を。
「僕、何かした?」
そう隣の蓮に聞いてみれば「自分の胸に手を当てて考えろ」と言われた。見放されたよ。
それに胸に手を当てて考えてもヨナに睨まれてることで心臓がドキドキしっぱなし。
少なくとも、僕がなんらかの原因を作ったみたいだ。心当たりが全くござらぬ。
一先ず、三人に合流すると僕は平静を装いながら口火を切った。
「とりあえず、ざっと報告したいことがあるから適当に食事を取ってきたらあっちの空いてる席に移動しよう」
「わかりました。では、リツさんの分は私が見繕ってきますね」
「え、別に食べたいものは自分で選ぶ―――」
「見繕ってきますね」
「あ、はい......」
なんかものすごく圧が強い。こっちにしゃべる主導権を全くくれない。
ヨナがササッと移動を開始するとミクモさんにポンと肩に手を置かれ「女の子の言葉はしっかり聞かなあかんえ」と言われた。
数分後、僕達は席につくと僕の目の前には僕の顔の位置に等しいほどの山盛りの料理が数々並んでいた。
え、なにこの量......いくら強くなろうと食事の量はあまり変わらないんだけど。
というか、食べきれる量じゃないと言いますか......。
「ふふっ、一杯食べてくださいね。もしキツくなっても食べるのを手伝ってあげますから」
「食べてくれるわけじゃないんだ......」
あくまでサポートなんだね。どうしよう、口に含めた瞬間かなり小さくして胃を誤魔化してみるか。
ただ消化する際の時間は変わらないだろうけど、満腹感は誤魔化せるはず。
僕はこの後の展開(主に激しい胃もたれ)を覚悟しつつ、食事を始めた。
そして、ある程度食事を始めて(全く減ってる感じがしない料理に頑張って手をつけながら)少ししたところで僕はザッと情報共有を始めていく。
「とりあえず、僕達のことはバレてない様子だよ。
さっき朱音と拳矢の二人と話してきたけど、あくまで僕達は聖王国からの脱走犯と思われていて普通に接する分にはまずバレないと思っていい」
多くの人が賑わうこの場所で話しているが当然魔法をかけて声は遮断してある。
ついでに適当な会話で盛り上がってるよう近くの人には幻覚を見せている。
あえて僕達がこんな人の多い場所で話してるのは秘密裏に集まって僕達が何かを企てているということを防ぐためだ。
いくら僕達が周りを警戒しようとも見落とすことがあるかもしれない。
だったら、最初から堂々と話せる場所で話した方が警戒意識はそこだけに向ければいい。
加えて、仮に何か企んでいるとしてもこんな人が溢れる場所で話してるとは思わなそうだし。
「そうか。なら、次は俺からだ。俺はこく学院のマップに記載されてない場所を探した。
今も探索中だが、少なからず何か所かは見つけてる。そこに何があるかはそれも探索中で分からない」
「どうしてそんな所を探してるんだ? アタイらの目的って図書館の禁書エリアだろ?」
蓮の言葉にメイファが尋ねてきた。確かに目的はそこだよ。だけど、それだけじゃなくなりそうだけど。
「不測の事態の時のためのって奴だな。
そもそも図書館の禁書エリアに行くのも律がそこに設置されている結界魔法陣を解いて侵入するといういわば正攻法で挑もうとしてる。
だが、仮に律がその魔法陣を解除できなく、代わりに見つけといた隠し通路が禁書エリアに繋がってたら?
あくまでそういう可能性だが、そういうのを見つけといて損はないだろう」
蓮の言葉にヨナが続いていく。
「それに隠し通路ということは学院が残した不測の事態のための通路なのかもしれません。
例えば、学院に閉じ込められたとしてもその通路があれば外に出れますよね?」
「なるほど、確かに盗賊紛いなことをしようってんだったらちゃんと逃げ道も確保しとかなきゃな」
メイファは納得したように頷く。すると、その話には一旦区切りがついたところで康太が僕に話しかけてきた。うっ、意外とお腹溜まってきたな。
「ちなみに、律は現状おいら達にして欲しいことってある?」
「そうそれ。僕と康太は蓮みたいに影で動くタイプじゃないからさ」
ふ~む、そうだな。蓮と差別化する意味で仕事を与えるならこれかな。
「二人は周りから信用を得られるように動いて欲しい。例えば、教員や生徒だけじゃなく事務員や清掃の人、食堂の人とかでもいいからとにかく誰でも。
蓮は影から盗み聞きするのは得意だけど、直接的なコミュニケーション能力は二人に劣ると思うんだ」
「唐突にコミュ力ないってディスられたんだが」
ごめんて。別に本気で悪いと思って行ってないから。
ただ蓮は見た目とキザっぽい言動が周りからウザがられる傾向が高いからさ。
「それにそういう人達だからこそ知ってる情報があるかもしれない。
そういった長らく勤めてる人しか知らない情報を蓮の盗み聞きだけでどうにかするってのは運ゲー過ぎるからね」
そう説明するとミクモさんの方からも反応があった。彼女はフフッと笑うと口を出してくる。
「なら、ウチらの方こそそないな仕事は向いてるんちゃう?」
「わかってる。だから、ミクモさん、ヨナ、メイファは主に男女の学生、そして教師陣に対して情報を聞き出して欲しい。それから、三人には出来るだけ目立って欲しい」
「目立つ? アタイらが?」
メイファが怪訝な目で見てくる。まぁ、現状でも十分に目立ってるけど、ともかく存在感をアピールして欲しいんだ。
「僕達はこれか悪いことをしようとしている。しかし、影に徹しようとも限界がある。
だけど、身内に光となって注目を集めてくれる人がいれば影である僕達はその光に作り出された影に紛れて行動しやすくなる」
「なるほど、そういうことですか。ですが、私の予想だとこうして私達と集まってるだけでもリツさん達は十分に目立ってるんじゃないですか?」
「そうだね。十分に悪目立ちしてる。だけど、大丈夫」
光あるところに影が生まれる。そして、その光がヨナ達であるなら先も話した通り影は僕達だ。
ヨナの懸念の通り悪目立ちしたら僕達の行動はしづらくなるだろう。
だけど、そこに光であるヨナ達が僕達を擁護したら?
多くの人達はヨナ達が信じている僕達が悪いことをしてるはずがないと思うだろう。言わば、類は友を呼ぶ。光の友達は光であると。
例え、疑いの目を向けられていようとも彼女達が僕達を信用しているという状況さえ作りだせれればいい。
大抵の人は彼女達の信頼に反する行為を取りたくないと思うだろうから。
しかし、当然一部の過激派となる連中はいるだろう。そこで康太と薫の出番だ。
二人は主に生徒以外の相手つまりは大人の信用を取り、その人達が「悪い連中じゃない」と言えばその行動もかなり収まるだろう。自分より年齢が上の人がそう言うのだから。
それでも止まらなかった連中に関しては各々が対処すればいい。
その時には恐らく相当過激派の数は減ってそうだから。
それにこれは偶然の産物だけど、僕達が勇者の知り合いであるというのも大きい。
入学式後の勇者達と僕達の存在は多くの生徒に見られていたはずだ。なんせ勇者がいたのだから。
勇者のことを信じてる人からすれば勇者の知り合いに悪い人はいないとするだろうし、仮に僕の不審な行動が誰かに見られたとしても勇者を頼れば一介の生徒よりは僕の言葉を信じてくれるだろう。
どんな落ちこぼれであっても同じ世界から来たクラスメイトなんだから。
もちろん、この打算まみれの作戦は必ず成功するとも思っていない。だから、場合によっては各々が対処すればいいという考えが必ず付いて回る。
それらの話を簡単に全体にしていった。
人間の心理的部分を利用するわけだから目立つの担当であるヨナ達が目立てば目立つ程影は濃くなるからね。
「それから、後であの冒険者リューズさんとマイラさんに会ってくるつもりだ」
そう問題はリューズさんとマイラさんだ。
あの二人は僕の正体に気付いてる恐れがある。
確信率ほぼ九割ぐらいには。警戒すべきは二人の行動か。
そう言うと突然ヨナ以外の全員がガタッと立ち上がって食器の乗ったトレイを持って移動し始めた。え、まだ終わってないんだけど......。
「後は頑張ったらええのに」
と、ミクモさんに言われてそっとヨナの方へと視線を向ければ「OHANASHIがあります」と言いたげなとっても素敵怖い笑顔を向けていた。おっと、これから僕は死ぬのかな?
読んでくださりありがとうございます(*'▽')




