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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第5章 旧友との再会

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第119話 軽薄な対話

「ふぅー、疲れた~~~~~」


 俺は脱力するように自室のベッドに突っ伏した。

 この学院にはそれぞれ男子寮と女子寮に分かれており、遠方から通いに来た人はある程度の寮費を払えば部屋を借りることが出来るのだ。


 というわけで、俺は善力の脱力タイム。もう入学式のインパクトが強すぎてしばらくやる気が湧かないが、クラスメイトやあの冒険者達からの介入を防ぐのであれば下手に長期的な画策など考えずさっさと行動した方が早い。


 となれば、次に僕が取る行動はこの学院にある図書室に向かう事か。

 何事も現場を見なければ計画なんて立てられないしな。

 それにこの学院での時間割やら教員の主な移動ルートなど調べることは山積み。


 あぁ、そう考えると少なくとも数か月かかることは確実に見越した方がいいじゃん。

 嫌だなぁ、その間ずっとあのリューズさんって人に絡まれそうで。

 目つきが獲物を定めた肉食獣のそれだもん。


 僕は未来に高確率で現れるだろう人物のことを憂いながら情けなくため息を吐いていると突然ドアがノックされた。


「律、いるか? 俺だ」


 この声は拳矢? もしかして遊びに来た感じ? あぁ、そうか、そうだよな。警戒すべき人物は自分の仲間もそうだった。

 拳矢は人懐っこい性格してるしフットワーク軽いからよくこうして遊びに来るんだよな。


 とはいえ、久々の幼馴染と話すのだ。先ほどはリューズさんに邪魔されたしな。

 それに僕も拳矢から何か聖王国の情報やリューズさんの情報が聞き出せないかと思ってるし。


 僕は「今行くよ」と重たい体を起こしてドアに向かった。

 そして、ガチャっとドアを開ければ見上げる位置に拳矢の顔があり、そしてその大きな体の後ろにはちょこんと顔を覗かせる朱音の姿もあった。え?


「朱音もいたんだ......」


「ごめんね、突然押しかけて。あの時は色々あってゆっくり話せなかったし。ダメかな?」


 ダメ......ではないけど、とりあえずその無意識な上目遣いはやめて欲しい。

 僕が少なからず昔に好意を寄せていた相手だ。

 断れないのをわかってるだろうか? 断る理由もないんだけど。


 僕は気にしてない素振りを見せて二人を部屋に招き入れる。

 さすがに部屋の中に三人じゃ狭く感じるな。いや、というよりは拳矢がデカいのか。こっち来てまたちょっと背伸びただろ?


 拳矢は「お菓子持ってきたぜ」と街に売っていたであろうお菓子をテーブルに並べていく。

 三人でそのテーブルを囲むと最初に話題を切り出したのはやはり拳矢であった。


「にしても、驚いたぜ。まさか律がこの学院に入学してくるとはな」


「僕は自分の実力がこのままじゃ不味いと思って必要に駆られたからだよ。

 それを言うなら二人だってこの学院に入ってくるとは思わなかった」


「それはリューズさんの提案だからね。でも、実際にはエウリアちゃんと話して決めたそうだよ。律も知ってるはずだよね? エウリアちゃんは」


 朱音の問いかけに「もちろん」と返していく。そうか、これはエウリアによるものでもあるのか。

 そう思うとさっきの悪態について非常に後ろめたさが出てきた。彼女には恩があるし。


 ともかく、ここでとやかく言ったところでこの状況が変わることはないしな。

 もう素直に受け入れることにしよう。それよりも問題はあの冒険者達だ。


「リューズさんってあの臨時教師になった女性のことだよね?」


「あぁ、もともとは金龍乱舞ってめちゃくちゃ有名な冒険者パーティの一人でってさすがに知ってるか」


「そう、それだよ!」


 朱音が突然ダンッと机を叩くと身を乗り出してグイッと顔を近づける。その目から逸らせられない。


「りっちゃんはリューズさんとどういう関係なの?」


 来たか、この質問。どの道、クラスメイトに会えばどこかしらで突っ込まれると思っていたが、想定していたよりも早く接触しすぎて全然答えが用意できてないんだよな。


 さて、どうしたものか。この状況で僕が“あの時聖王国の宝物庫に不法侵入した者です”なんて言えるはずもなし。


 となれば、リューズさんが聖王国を訪れるまでの空白の時間で出会ったという嘘の主張をするしかない。

 実際ミラスって街で会ってるんだけど。一方的に。


 この場合の問題は僕がその嘘をついたとしてこの場は乗り切れると思うが、その後何らかの形で朱音達がリューズさんに同じような質問をして「会ってない」と言われたら矛盾が生じてしまうことだ。


 当然ながら、現状おける二人の信頼度は圧倒的に僕よりリューズさんに対しての方が大きい。

 そうなれば、僕の嘘がバレた時その嘘について追及されることになる。

 だが、その場合にも正直に話すわけにはいかない。


 そう考えると......仕方ない、この二人との話が終わったらすぐにでも辻褄合わせに行かなければいけないか。

 つまりはリューズさんに貸しを作るということ。嫌だなぁ、だって明らかに戦闘狂じゃん。


「僕達が街に着いて冒険者として活動していた時に強い魔物に襲われたことがあってね。その時にたまたま助けて貰ったんだよ」


 言ってしまったぁ。背に腹は代えられないけど......やっぱ、やめときゃ良かったかなぁ。

 一先ず二人は納得してくれたみたいだ。すると、当然のようにあの言葉についても質問してくる。


「それじゃ、『仮面の君』てどういう意味だ?」


 当たり前だけどこれもバカ正直に答えるわけにはいかない。

 しかし、仮面となれば二人には聖王国に侵入した賊を彷彿とさせるだろう。

 現に今も幼馴染のよしみでなければもう少し疑いの色が顔に濃く出てたかもしれない。


 となれば、今こうして二人が堂々と僕に会いに来ている訳を利用して話題自体をすり替えさせてもらおう。


「それは......その時はまだ聖王国から抜け出して間もない頃だったから、僕達の正体がバレるかと思って......」


「「っ!?」」


 顔を俯かせながら嫌な思い出を思い出すような演出を。

 その言動は功を奏したようで二人はバツが悪そうな顔をしている。畳みかけるのなら今だな。


「この学院ならそれなりに遠くへ離れてると思ったから仮面も外して過ごしてたんだけど......まさか皆に会うなんてね。でも、二人が僕に会いに来て何もしないってことは疑いは晴れたの?」


 身を乗り出して希望を見出すように。

 二人の善意に付け込んでる感じは罪悪感しか湧かないが、もう僕はとっくに歩むべき道を見つけたのだから必要とあればその行動もする。


 僕の思惑に気付いてない二人はすぐにその質問に答えてくれた。


「大丈夫、りっちゃんの疑いはもうないよ!」


「あぁ、犯人はあの不良どもだ。不良どもなんだが......」


「その人達がどうしたの?」


 僕はあえて二人から話を聞きだす形で聞き返した。

 しかし、僕はとっくにエウリアからその三人の顛末を知っている。その裏で何が動いてることも。


 二人の話からだとその裏の正体まで気付いていない様子だったけど、それは仕方ない。

 僕達だってそれを知ったのは偶然とも言えるし。


 二人の話を聞き終えて僕は安心したような戸惑ってるような演技を見せて今の状況を整理する。

 この話になったおかげで二人の僕と仮面の人物を結びつけるような疑いはなくなったと思う。


 それどころか僕達が一時的にでも罪を被る形になってしまったことに対して罪悪感を抱いているような態度だ。全く、素晴らしく勇者向きだよ。二人は。


 僕としては二人の疑いを散らせればそれで良かった。

 とはいえ、それはそれとして二人には申し訳ないことをしたと思ってる。


 そんな二人を元気づける意味ではないが、一先ずせっかく再会できた喜びを祝うように僕は二人に声をかける。


「ま、僕のことは気にしなくていいよ。疑いが晴れたならそれでいい。

 確かに不仲とはいえ同じクラスメイトである不良グループの三人が亡くなってしまったことは悲しい。

 つまりそれはこの世界がそれだけ十分に厳しい環境であることを裏付けてる。

 だからこそ、こうして再会できたことはとても喜ばしいことだと思わない?」


 僕の言葉は酷く薄っぺらい。なぜなら、現に僕は二人のことをさっきまで厄介に思ってたからだ。

 それにこれからの行動を考えると僕の今の言葉は酷い裏切り行為の前触れとなるだろう。


 つまりこの学院生活で僕と二人の幼馴染という関係性は完全に潰える。

 その覚悟は完璧ではないが、もうすでにある程度持っている。はぁ、やっぱりもう住む世界が違うんだな。


 二人は僕の言葉に「そうだね」「あぁ、祝おうぜ」と反応してその場は昔話(もとの世界での話や各々の場所での話)に華を咲かせた。


 二人が帰っていった頃には時刻はすっかり夕暮れ。

 もともと昼過ぎから始まった入学式にその後のクラスでも諸々の配布物やら先ほどの幼馴染の突然の部屋凸によって想像以上に時間が奪われてしまった。


 これから夕食の時間だ。この学院寮には朝と夜に寮食があり、決まった時間内にそこに行けば食事にありつけるというもの。

 そして、この寮は男女に分かれてるが、中屋の方では男女の垣根はなく自由に交流できるスペースがある。


 本来、男女の寮はそれぞれ女子禁制、男子禁制となっていて先ほどの朱音の行動は正しくその寮ルールを破っているのだが、これは別に朱音に限った話ではなくなるだろう。初日でやってくるとは思わなかったけど。


 ともかく、夕食は自由スペースだ。つまりそこでヨナ達と会う事には何ら問題ないということになる。

 まずは彼女達に先に状況に対する情報共有をした方が良いだろう。

 その後にリューズさんのもとへ尋ねる。さすがにそれぐらいだったら大丈夫だよな?


 僕は立ち上がると大きく伸びをして一気に脱力していく。

 はぁ、今回もこれからも考えるべきことが一杯だ。

 この道を選んだ以上平穏な日は来ないと思ったけど、こんな形で無くなるとは。


 肉体的疲労より心労の方が回復速度が悪いんだから、少しでもこの学院から離れるにはやはり早めの行動しかないか。


「よし、やるか」


 そして、僕は寮食スペースに向かった。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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