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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第5章 旧友との再会

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第118話 波乱の入学式#3

 入学式の全てのプログラムを終えて広い廊下の一角で僕達男子組は重たいため息を吐いていた。

 特に心労に来ているのは僕と蓮であろう。なんせあの有名な冒険者がこの学校の教師としてやってきたのだから。


 正直、クラスメイトならまだ良かった。だけど、あの冒険者......特にリューズさんって人はダメだ。


 ホールを埋め尽くす人の数の中で僕を見つけてきた。

 あれは僕の実力がバレたというより、もっと別の何かが原因のような気がするけど。


 ともかく、僕達はただ学園の図書室の禁書エリアに入るというそこまで難しくないはずの任務がたちまちハードモードに変わってしまったわけだ。なんということか。


「おー、お前ら待ったか?」


「待たしたんやろか?」


 声をかけてきたのは一際目立つメイファ、ミクモさんであった。

 その二人の後ろには暗い顔をしているヨナの姿が見える。考えるまでもなく学院長のことだろう。


 それにしても、その三人は歩いてくるだけで男女問わずの視線を集めてくるな。

 この学院は大学みたいな感じで年齢制限ないから立派な大人であるミクモさんも入れる。そのせいで大人の色気が振りまかれている。


 加えて、ヨナは立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花といったザ・清楚な感じであるし、メイファまた違った人懐っこいような元気さがある。


 そのせいで彼女らの仲間である俺達はさぞかし釣り合いが取れてないだろうという目で見られてるな。

 ふぅ、ここにウェンリがいたら漏れなく彼女達は学院美女・美少女四天王として名を連ねていただろう。


 僕はメイファとミクモさんの二人の言葉に「今来たところだから」と返答すると早速ミクモさんが面白そうな様子でぶっこんで来た。


「それにしてもあの有名な冒険者のリーダーはんに熱烈な視線を送られとったちゃう。

 もしかしてあの人前に聖王国に侵入した際に小競り合いがあったって人?」


 相変わらず伊達に姫やってた人じゃないよな~。素晴らしい洞察力過ぎて「はい、そうです」としか答えられないよ。


 とりあえず、あの人に関しては分からないことが多すぎる。

 バレてると思って逃げるのは早計だよな? さすがに。

 あの時、僕も蓮も顔を見られてないはずだし。


「それから代表演説でしゃべってたあの嬢ちゃんもあんた達に関係する人なんだろ?」


 メイファの問いに全員がそっと目を逸らしていく。その態度にメイファは何かを察したように「すまねぇ、聞かなかったことにする」とそっと引いた。


 今はそれがありがたい。別に極端ないざこざがあったわけじゃ......と言おうと思ってたけど、そういえば聖王国では僕達が罪人扱いになってたんだっけ?

 おっと、このタイミングで思い出すか。これって不味くない? 不味いよね?


「とりあえず、僕からの感想を言えばたった小一時間の入学式の内容があまりにも濃すぎて腹いっぱいなんだよな。だから、一先ず気持ちを落ち着けてから今ある情報を整理することにしよう」


 そう言うと男子組の中では一番の仕事人である蓮が同意するように頷いた。


「賛成だ。さすがに疲れた。肉体的疲労なら未だしも精神的疲労はさすがにどうにもならんしな」


「それに気持ちを落ち着けたいのは僕達だけじゃないみたいだしね」


 薫が目線を向けるのはヨナであった。先ほどからずっと顔を下に向けたままだ。彼女にも彼女なりの整理のつけ方があると思うし。


 康太が話の区切りをつけるようにパンと一回手を叩くと「それじゃ今日は解散!」と言った。その言葉にメイファが「そうすっか」と賛同していく。


 というわけで、僕達は入学の際に決まったそれぞれの寮へと戻ろうとしたところで、突然聞き覚えのある声が背後からしてきた。


「見つけた!」


 声の主を確かめようと振り返ってみればそこにいるのは人差し指を向ける朱音の姿であった。

 そのそばには拳矢の姿もあり、他のクラスメイトの姿もある。


 そのクラスメイト達は多くの生徒達に見られながらもそれを気にすることなく、いるとすら思ってなかった僕達の存在に驚いたように固まっていた。


 その視線に僕達はバツが悪そうに目を逸らしていく。

 しかし、その中でただ一人朱音だけが僕に向かって走ってきて思いっきり抱きついてきた。


 あまりのことに一瞬思考が止まる。

 一体何が起こった? どうして朱音が抱き着いている? それにこの震えた腕は.......?


 動き出せばすぐさま様々な疑問の言葉が脳内に過っていく。

 しかし、その疑問に答えが出ることはなかった。出す必要も無かった。

 なぜなら、すぐそばで答えが出ていたのだから。


「良かった......ぐすん、良かったよぉ.......」


 朱音が泣いている。入学式の時には凛とした姿で堂々としゃべっていた朱音がまるでさっきと同じ人物なのかと疑ってしまうくらい弱弱しい震えた声で僕の存在を喜んでいる。


 その時、もう一人近づいてきた。朱音から遅れて近くに立ったのは拳矢だ。

 相変わらず見上げるほど大きい。全く羨ましい身長だ。


「元気してたか?」


 僕はそっと朱音を抱きしめると拳矢の言葉に返答する。


「ぼちぼちかな」


 今、少しだけ昔の三人に戻れた気がした。この異世界に来るまでの幼馴染の三人に。

 ま、その想いに耽るにはあまりにも姿が場違いと言えるけどね。


 僕はそっと朱音の肩を掴むと体から離していく。

 彼女も思い切った行動に恥ずかしそうにしながら涙を拭うと言葉をかけてきた。


「なんか変わったね」


「え!? そ、そうかな?」


「うん、だってさっきの私の行動に恥ずかしがる様子も無かったし」


 そ、そっちか~。僕達の実力がバレたのかと焦った~。とりあえず、無難に返答しておこう。


「それはあまりのことに驚いて固まってただけで......それよりも朱音達はどうしてここへ?」


 そう聞いてみると朱音は簡単に答えてくれた。

 朱音達がここに来た理由は端的に言えばレベルアップだ。僕達のこの学院でのサブ項目と同じ。


 ずっと指導していたあのリューズさん達冒険者が単純な指導だけでは限界が見えたらしく、だったら学院に行って色んな知識を浴びて新たな伸びしろを探してこいってことになったらしい。


 そして、そのリューズさん達はそのまま朱音達の成長を見守るために一緒に学院へ。彼女達はあくまで教師という立場で。


 というわけらしい。うん、あまりにもタイミングが悪い!

 リューズさん達が僕達の動向を探れるとは思えないから単純な不運、いや不幸と言っていいことが起きてしまったらしい。泣ける。


 朱音達からもこの学院に来た理由を聞かれたけど「同じような感じ」と無難に答えて置いた。

 そしたら、妙に答えづらそうな反応をしていく。他のクラスメイトもそうだ。


『恐らく俺達の服の色を見て判断したのだろう。白黒の違いは優劣の違いだろ?』


 と、蓮からわかりやすい言葉が<念話>で送られてきて納得した。なるほど、そういうことか。

 にしても、そうだとすれば意外と蔑んだような目はされないな。どちらかというと同情されてるような。


 その時、ちょっと沈んだ空気を取り戻そうと朱音が必死に会話を続けようとする。


「あ、だったら、りっちゃん達も私達と一緒に訓練受ければいいよ!

 今凄い人が来ててね、リューズさんっていう人がいるんだけど―――」


「そこにおったか仮面の君~~~~~!!!」


 朱音の言葉を遮りながら大声で廊下を爆走してくる和服を着た黒髪ポニテールの少女―――リューズさんは躊躇することなく飛び掛かってくる。


 どうしよう。避けれる間合いなんだけど避けるとそれはそれで朱音達から「どうして避けれるの?」みたいな目が来そうな微妙な距離感。この人、もしかしてわざとか?


 それにこの人はわざわざ「仮面の君」と言って僕に“挨拶”してきた。簡単に訳すと「お前の正体を知ってるぞ」と。


 その上でこの距離感の選択。しかも、対象物は爆速で飛び掛かってきたわけで考える時間などほとんどない。


 今は咄嗟に<高速思考>の魔法陣を発動させてまるで走馬灯を見るように考え事を巡らしてるけどこれも使い過ぎると脳がショートするからもうじき効果を切らなきゃいけない。


 ま、はなから選択肢は無いんだけどね。この人の行動から言っている意味はきっとこうだ。

 正体をバラされたくなければ黙って抱き疲れろ、と。くっ、なんなんだよこの人。


「ぐはっ!」


 僕は仕方なく受け入れることにした。

 魔法陣の効果を切った瞬間、一秒も満たない時間で肉の弾丸が僕のわき腹に突き刺さり一緒に廊下を数メートル転がっていく。

 あまりの事態に朱音と拳矢が「ええええぇぇぇぇ!?」と驚いている。そりゃそうだ。


 大の字で寝転がればその上で未だに離れる気のないリューズさんの姿がある。

 チラッと仲間の方を見てみれば蓮がご臨終とでも言うように手を合わせていた。他人事だと思いやがって!


 康太と薫はまぁ驚いた様子で、ミクモさんは相変わらずおもちゃの新しいネタを見つけたことに喜んでいて、メイファは......と隣を見てる? 隣はよ、ヨナだよ? 悪鬼じゃないよねあれ? なんかも凄い形相で見てくるんだけど。


「この状況でよそ見とはいい度胸じゃの。それともワシなんぞはこれほど近づいても目に入らぬということか? ククク、だとすればさすがはワシの見込んだ男じゃ」


 なんか人の上で跨りながら変なことを言ってる。いいから離れて―――ってなんだこの威圧(プレッシャー)は?


「さぁ、ワシの探し人よ。ずっとこの時を待ち続けていたんじゃ」


 リューズさんは恍惚そうな笑みを浮かべながらもその目はしっかり戦闘態勢に入っていて、左手ではしっかりと親指で鍔を上げて今からでも斬りかかれそうな状態だ。


「さぁ、ワシと死合おうぞ!」


 もう戦闘態勢以上に狂気を孕んでいた。まるでこの戦いが出来た後なら満足して死ねるみたいな。

 やべぇ、この人やべぇよ。てか、この状況どうしよう。


 そう思っている突然僕の周りから石で出来た鎖が出現し、その鎖がリューズさんに絡みつくと背後の十字架に磔にされていく。


「な、何するんじゃマイラ!」


「それはこっちのセリフよ。ついに血迷ったのかと思ったわ」


 助けてくれたのは大人の女性の色香を放つマイラさんという人物。確か金龍乱舞の魔法担当だよな。

 彼女は僕にそっと手を差し伸べる。どうやら起こしてくれるみたいだ。


 ありがたく手を借りて起き上がろうとすると不意に簡易<消音結界>が張られて聞こえるのは僕と彼女だけ。


「君のこと、教えてもらうからね?」


 すぐさま結界は切られた。他の人からすれば何事も無かったかのような短い時間で。

 僕は起き上がると二人を見る。そして、ため息を吐いた。早速目をつけられたなぁ。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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