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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第5章 旧友との再会

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第117話 波乱の入学式#2

 それはあまりに唐突でバツが悪い出会いとも言えた。

 遅れて現れたのは聖王国に召喚された僕達異世界男子組からすれば元仲間ともいえる勇者達(クラスメイト)だった。


 戦闘を歩く茜は僕達の存在に気付いてないのか白い制服に身を包んだ姿で颯爽と空席へと向かっていく。

 その時、僕達は理解した。ソラスさんが言ってた“お偉いさん方”がクラスメイトであることを。


 今は気づかれてないけどバレるのは時間の問題。まさかこんな形で再会する日が来るとは思わなかった。

 くっ、これからは皆の動きに気を付けて動かなきゃいけないということか。


「律、これは不味いことになったな」


 蓮に声をかけられてチラッと顔色を伺ってみれば皆も実に嫌そうな顔をしている。わかるよ、その気持ち。すっごくわかる。


「まさかの再会だよ。もう少し情報を集めておけばよかった......と、言いたいところだけど結果から見れば結局知っててもこの選択はしただろうね」


「だけど、これはとんだサプライズだよ。少なくとも笑えるタイプじゃないやつ」


「嫌だなぁ。きっと僕達の格好を見て明らかな蔑みな目をしながらそれがバレてないと思って気楽に接してくるんだろうなぁ」


 康太と薫の顔色がさっきよりも悪そうだ。まぁ、僕達は皆からすれば圧倒的な落ちこぼれであったために聖王国から逃げ出したんだよね。情けない話だけど。けど、いいさ。


「どうせ僕達のやるべきことは変わらない。ちょっと面倒になっただけだよ」


 今更クラスメイトの皆が現れようと僕達のこれまでの旅が否定されるわけじゃない。

 それに先ほど薫が「明らかな蔑みな目をしながら」と言ってたけど、今だと僕達の方がむしろそういう目で見てしまうんじゃないか?


 とりあず、三人に「これからは自分が弱く見えるように演技して」と指示を送っていくと“お偉いさん方”が座ったようなので入学式が始まった。


 ありきたりな式の内容をぼんやり眺めていると新入生代表の挨拶が回ってきた。

 この場合、当然ながら入試成績一位の生徒ではなく、勇者である茜が前に出て行く。


 教卓の前に出ると茜は堂々とした姿で挨拶を始めた。その光景に僕は思わず驚く。

 この世界に来るまでの茜は明るい性格ではあったが前に出て堂々とできるようなタイプじゃなかった。


 責任感は強いから任された仕事はしっかり果たそうとするけど、その責任を重く捉えすぎて皆の前に出て何かを言うことがあれば緊張に言葉が上手く出ないなんてことがほとんどだった。


 だけど、今はどうだ? この世界に召喚されて半ば無理やり“勇者”というクラスメイトのリーダーを務めさせられたけど、その責任をしっかりと受けとめながらも堂々と噛むこともなくしゃべっている。


 まぁ、さすがに半年ぐらい経過すればその責任にも慣れるだろうけど、僕が最後に茜を見たのは聖王国に侵入した時で、まだその責任をしっかりと受け止めようとし過ぎて空回りを繰り返してるような頃だったから凄く成長しているように見える。


 親心なんて大それたことを言うつもりは無いけど、それでも茜は小学校低学年の頃からずっと知っている僕の幼馴染だ。

 だから、その変化が嬉しくもある。ま、彼女からすれば拳矢が入れば頑張れるんだろうけど。


「――――勇者ではなく同じ学生として存分にご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします。聖王国代表勇者ヒジリ=アカネ」


 滞りなく言い終えた彼女の言葉に多くの拍手が送られる。

 勇者が女性ということに驚いた人も多いだろうけど、今の姿を見れば十分な資格はあると思うだろう。拍手はその証とも言える。


「なんつーか、皆雰囲気が違ってるな。前に修行風景見た時はもう少しヘタレって感じだったのに」


「そうだね。後ろ姿からも大人びた感じが伝わってくる」


 蓮も同じようなことを感想で述べた。

 それにしても精神的な落ち着きが強すぎる気がする。これはもしかして―――


「「殺ったかもね」」


 僕と蓮の言葉を奪うように康太と薫が言った。どうやら皆考えてることは同じなようだ。


「恐らく山賊あたりだろうよ」


 蓮の言葉に頷く。確信はないけどきっと誰かしらは殺してる気がする。

 いずれ魔族と戦う際に通る道だと思ってたけどまさかこんなにも早いなんて。

 僕達のような特殊な状況じゃなければもう少し時間を置くはず。

 少なくともここに来るまでに済ませることじゃないだろう。


 聖王国で何かあったということか? それともあの時にあった和服の黒髪ポニーテールの女のせいか?

 そんなことを考えていると次は新人教員紹介で僕は思わず固まった。


「恐らく知ってる者もおるかもしれんが一応新人教員として挨拶しておこう。

 ワシらは冒険者として活躍してる『金龍乱舞』のリーダーの人族リューズ=コトブキじゃ。

 んで、仲間で同じく人族マイラにエルフのハイエル、竜人族のタルクじゃ」


 大雑把に挨拶していくリューズさんにマイラさんが「ちょっと雑過ぎよ」と呆れた顔でツッコんでいく。

 そんな様子をハイエルさんはヘラヘラした様子で見ていて、タルクさんは豪快に笑っていた。


「実はの、しばらく前で勇者達に指南者として呼ばれておったのよ。

 で、この度この学院に入学することに決まったことでワシらも教育者という立場として働くことになったのじゃ。よろしくな!」


 会場は大いにざわめく。冒険者「金龍乱舞」......この四人のことは当然知っている。

 冒険者ギルドで情報を集めた際に必ずと言っていいほど上がる名前だからだ。


 その知名度はこの学院でも変わらない様子で、周りを見渡してみれば種族に限らず誰しもが有名人に教えてもらえるということで興奮してる様子だ。


 にしても......それにしてもなんてタイミングの悪さだ。

 冒険者ネームしか知らなかった故にまさか聖王国でのあの女がこの学院にも来るなんて!


 指南者がこの学院に来る可能性を考慮しなかったわけじゃない......けど、くっ、これは諦めるしかないか。来てしまったのは仕方ない。幸いまだ顔バレはしてないはず―――!?


 い、今、リューズさんと目が合わなかったか? いや、気のせいだ。俺が強く意識しすぎてそう見えてしまってるだけだ。


「律、これは......」


「何も言うな」


 何度も言うが、結果から見ればこうなったとしても僕達には侵入した方が都合が良いのだ。

 それを優先しただけ。例え、こんなにも顔が合わせづらいメンツが集まっていようとも。


「......ふむ、どうやらこの学院にも見渡す限り見どころのある生徒がいるようじゃの。これは実にワクワクするな!」


「もう、勝手に挑んで才能の芽を潰しちゃダメよ?」


 くっ、リューズさんはいちいちこっちのドキッとする発言をしてくるな。本当に心臓に悪い―――


「な、心当たりおる者はおるじゃろ?」


「っ!」


 ま、間違いない。今完全に目が合った。目が合ったうえでニヤッと笑った。

 バレた!? どうして!? どうやってこの人数から、それも随分前の顔を隠しているはずの僕に気付いた!?


 わからない。わからないが、今この瞬間に僕にとって最大の障壁になる人物が分かった気がする。

 覚悟を決めねばなるまい。もし、あの人が僕の目的のための本当の邪魔になるなら......剣を握れないようにしよう。あくまで握れなくするだけだ。殺しはしない。


 僕と蓮の様子を見て康太と薫が「大丈夫か? 何かあったのか?」と声をかけてくる。

 うん、大丈夫だよ。でも、この二人には一応あの四人との接触は控えることを伝えておこう。

 もし関わることになってしまったら......そん時はそん時だ。


 見てるだけでこちらの心臓を悪くしそうなその四人はたっぷりと存在感をアピールした後にステージ脇にはけていった。

 ふぅ、視界に入らなくなっただけでここまで呼吸がしやすくなるものなのか。あー空気が美味しいー。


 その後、その冒険者達のせいでインパクトが弱く見えてしまっている可哀そうな新人教員の紹介が一通り終わると最後に学院長の挨拶として学院長が壇上にあがった。


 その人物の特徴的な容姿と言えば一際目立つ額から生える二本の角であろう。そのうち一本は欠けているようだ。


 高身長で見た目は若々しさが残る四十代という感じのイケおじの見た目は見間違えようもない―――鬼人族だ。ソラスさんから貰った情報通りだな。


 ということは、この人に近づければヨナが欲しがっている鬼人国を滅ぼした犯人の情報が得られるかもしれない。


「この度は我が学院に入学してくれたこと心より嬉しく思う。まずこの見た目で驚いたことだろう。

 私は鬼人族だ。蔑称を使うなら亜人。だが、見てわかる通り私は亜人でありながらこうして立っている。

 この光景が意味するのは、そう! ここは亜人による差別がない中立街というわけだ」


 人前で挨拶することには慣れているのか多くの生徒を見渡すように視線を動かしながらプレゼンでもするように軽く壇上を歩いていく。


 今の印象は立派な指導者という感じだ。

 学院長にしては若いだけあって言葉に熱量も感じられる。ま、今のところはだけど。

 その時、突然ヨナから<念話>による連絡が入った。


『リツさん......』


 僕の名前を呼んだ声は何かに衝撃を受けたように弱弱しかった。

 まるで知ってはいけない何かに知ってしまったように。僕は「どうしたの?」と返していく。


「もちろん、全てにおいて中立を保てているわけではない。

 申し訳ない、私の熱がまだ街全体に行き渡ってないばかりに。

 だが、安心して欲しい。この学院においてはそれらの意識はハッキリとついている。

 宣言しよう差別はな......」


 その時、学院長がとある場所を見つめて固まった。その時間は僅か数秒であったが確かに静寂が訪れた。


 学院長はハッと我に返ると「すまない、少しセリフが飛んでしまった。勇者が来てくれて緊張しているのかな?」とコミカルな切り返して生徒から笑いを誘っていく。


 その一方で、僕は未だその静寂で固まった心を動かせずにいた。

 それはヨナが言ったセリフに関係している。

 学院長が固まった時、彼女は確かにこう言った。


『あの人が―――鬼人国を滅ぼした張本人です』

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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