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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第5章 旧友との再会

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第115話 色気振りまく情報屋

―――で、どんなサービスをお求め? 口? それとも体?


 ソラスさんは僕にそう質問すると身をよじらせながら艶めかしく唇に触れていく。

 それは正しく男の好きそうな仕草を知り尽くしているかのような無駄のない美しくもエロスのある動きで思わず僕もドキドキしてしまう。


 これが魅了魔法の一種だったら魔法でどうにかなったんだけどな。

 全く使われてない技術によるものだから防ぎようがない。うん、相変わらず絶好調で誘惑してくるね。


 ソラスさんの行動は同じ女性であるセナからしても十分にドキドキするものだったらしく、ふと横を見ると顔を赤らめながらもぼーっとした表情で眺めていた。


 少ししてセナがハッとした様子で我に返ると慌てて返答していく。


「な、何言ってるのよ! 確かにここはそういうお店だけども......今は私がいるのよ!?」


 初々しいセナの反応にソラスさんがニヤッとする。

 わぁ、俺が少し彼女が苦手なのが分かった気がする。ミクモさんタイプや、この人。


「ふふっ、私は別に殿方にお相手がいようと構わないわよ? むしろ、若い子の初心な反応も見れて楽しいしね」


「なっ!?」


「それに食べたことはないけれど、味見したことぐらいはあるのよ?」


 ソラスさんは「口でも」と言って舌なめずりをし、「体でも」と言って自分を抱きしめるように腕をクロスさせて体をクネクネと動かす。この人の行動、いちいち色気を振りまくなぁ。


 とはいえ、当然ながら僕はソラスさんと一度もそういう“行為”に至ったことはない。

 なので、これはソラスさんが勝手にでっち上げたセナの反応を楽しむための戯言なのだ。


 そのセナはというとガッツリ真に受けているようで口をパクパクとさせながら固まっている。

 ギリッと僕を見たならまるで「女の敵!」と言わんばかりに睨みつけられてる。あれぇ、僕の貞操観念って意外と信用ない?


「セナ、これまで一緒に旅してきた僕と初対面のソラスさんとでどっちを信用してるの?」


「そ、そりゃあ、リツの方だけど.......」


 「だけど」とは一体? そこは断言してくれた方が嬉しかったんだけど。

 話が少々とんちんかんな方向に行ってしまったことに対し、ズラした本人であるソラスさんがハッキリと言ってくれた。


「ふふっ、ごめんね。つい未経験の若い子の反応を見たくなってからかいたくなってしまったわ」


「だ、誰が未経験よ!」


 セナ、それ男が「誰が童貞だ!」と見栄張ってる言い回しと同じだからね。

 ソラスさんは新しいおもちゃにはしゃぐ子供のようにクスクスと笑うとようやく説明してくれた。


「実はね、さっきの言葉が確かにお客さん相手に使うものだけど、この子に対しては少しだけ意味合いが違うのよ」


 ソラスさんの言う通り、本来は風俗店に足を運ぶ客相手に最初は口でヌいてもらうか、初めから体でヌいてもらうかの質問に過ぎない。


 ただ僕がこの店に訪れたのは情報集めのためであり、この場合の“口でのサービス”はこの店で流れた情報を横流ししてくれるという意味だ。


 ソラスさんはそれらの内容をきちんとセナに話してくれた。

 そのおかげかセナもようやく納得した表情で頷いてくれた。ただ、最後に爆弾を投下してきたけど。


「でも、体でのサービスはそのままの意味よ? 数日前もそれを聞いて―――」


 ソラスさんがポッと顔を赤らめる。直後、セナの鋭い視線が突き刺さる。弄ばれてんなぁ~。


「『はいはい、わかったから。さっさと情報くれ』って適当に流されたのよ~。

 結局一度も求めてくれたことないのよね~。せっかくサービスしてるのに」


 僕は出来るだけ顔を動かさずセナの方を横目でチラッと見る。

 セナは今にも怒って言い返したそうな顔をしてるけど、先ほどからからかいまくってくるソラスさんの言葉を鵜呑みにしたのは自分だから言い返せないって顔だな。


 この様子じゃセナはしばらく固まってそうだしいい加減僕も話を進めたいしね。


「サービスは口で。それで? 何か面白い情報や僕が欲しそうな情報とかある?」


 そう質問するとソラスさんは顎に指を当てて思い出すような素振りを見せた。


「そうね~、これといってあまりないわ。前に言ってた奴隷商のこともここはどちらかというと聖王国寄りの風土だからいないしね。

 もちろん獣人もとい亜人嫌いはいるけど、それでもここは敵対している魔族以外の中立地として作られたようなものだからね。

 多少の差別はあれど亜人にとってもそこまで暮らしにくい場所じゃないはずよ」


 ソラスさんはセナの方をチラッと見てわざわざそう説明してくれた。

 この街に奴隷商がいないことはすでに聞いている。

 しかし、説明してくれたのは鬼人族であるセナを見たからだろう。

 気を遣ってくれたようだ、ありがたい。


「他には? ここは学院街の先生が夜な夜な来る場所なんだろ?」


 もとの世界の倫理観だと教職としてそれはどうなんだ? になるんだけど、ここはもと世界の常識が一切通用しない異世界だからな。ツッコんだらキリがない。


「えぇ、来るわね。本当に若い子が好きみたいで困るわ。こっちとしても若い子にお年寄りを相手させるのは酷よ」


 そんな店側の愚痴を言われても。まぁ、若い人はもっぱら冒険者になって若いリビドーを戦闘によって解消してますもんね、知らんけど。


 すると、ソラスさんは何かを思い出したようにハッとすると僕に教えてきた。


「あ、そうそう、そういえばね、この前来たお客が『学院にお偉いさん方が来る』って言ってたわ。それも割と多めに」


 お偉いさん方、か。ま、僕達の行動が制限されるようなことにならなければいい。


「どこから来るとか聞いてないか?」


「ごめんね~、その子の相手をしたのがうちのテクニシャンの子でね。

 聞き出す前に果てちゃったらしくて聞き出せなかったみたいなのよ。

 ま、その人も早漏気味だったしね。ダメよ? 早漏は。女の子もしっかり気持ちよくさせなきゃ」


「変な風に脱線して変な風に気を遣わないで」


 今のところ、こっちは解決すべき課題が多くてそんな気分になりません。

 それにそういうのって死亡フラグみたいじゃないか。


 一瞬沈みかけた僕にソラスさんがじーっと視線を向けてくる。

 その視線にハッとするといつも通りの表情を浮かべた。


「情報はそれだけ?」


「そうねぇ、強いて言うなら学院長のことかしら」


 学院長?


「別に特に面白みもない話だから伝えることもないと思ってたんだけど......」


 ソラスさんはチラッとセナを見る。

 セナも落ち着いていたようで彼女の視線に小首を傾げた。


「その学院長って鬼人族らしいのよ。姿はハッキリ見たことないけれど、その学院初めての亜人の学院長らしくてね。数年前の話だけど一時話題になってたのよ」


 その言葉に僕は驚いてセナを見る。すると、彼女も同じように驚いた表情で僕を見ていた。

 セナにとっては自分の国以外では恐らく初めてになるであろう同種の人間だ。

 それがまさか学院長になっているなんて。


 もしかしたらセナの故郷を滅ぼした犯人の行方を知ってるかもしれない。

 彼女にとってはまさに希望の存在だろう。


「その人は今も学院に?」


 その質問にソラスさんは首を横に振った。


「別の子が聞いたことだと、今は聖王国に訪れているらしいわ。

 もとより多忙な人だと聞くから直接会って話を聞くなんてことは難しいと思うわよ。

 だけど、遠くからなら確認できると思うわよ」


「入学式か......」


 ソラスさんはコクリと頷いた。


「聖王国との話し合いがどんなのかはわからないけど、お偉いさん方って言ってたからある程度の人数規模になるだろうし、お偉い相手に無下な態度は出来ないということもあるだろうしで入学式を開いて学院挨拶とかするんじゃないかしら」


「随分と詳しいな。もしかして昔に通ってたことが?」


「昔の話よ。もっとも今はそのキャリアがあったから様々なテクで搾り取れるってわけ。色々とね」


 なんとも敵に回したくない相手だな。僕の直感がそう感じる。

 ソラスさんが「以上が聞いた話よ」と言ったので僕も感謝を述べて情報料のお金を払っていく。


 そして、僕がサッと帰ろうとしたところでガシッと肩を掴まれた。


「何をさっさと帰ろうとしているの? 女の対価がこれほど安いはずがないじゃない?」


 ギギギッと今にも軋むような音を出しそうなほどに慎重に振り返っていくとそこには正しく魔性の女性―――魔女がいた。


*****


「「疲れた~~~~」」


 僕達はしっかりと体を働かされた後にようやく解放された。

 というのも、僕達がやってたのは雑用とメディカルチェックをしていたのだ。


 ソラスさん達が主にする仕事は体を売る仕事。しかし、当然ながら体は酷使しすぎると壊れていく。

 ましてや好みの娼婦を無理やり妊娠させようなんて輩もいるらしい。


 彼女達が避妊の対策をしているにもかかわらず、だ。

 故に、それが本人同士の同意であれば未だしもそうでなければそうなってしまった従業員が可哀そう、と言うのがソラスさんの意見。商売的にも良くないってのもあるらしいけど。


 これまでソラスさん達は知り合いの医者に定期的に検診に来てもらっていたが、その人も年齢で引退してしまって困っていた所に出くわしたのが僕。


 もっとも出会いは商売で演じていたソラスさんに勝手にガチ恋して他の男を商売で抱いたにも関わらず勝手に嫉妬して襲われた所を僕が助けたって感じだけど。


 その時、僕もこの街で効率よく情報が集められないか模索していた段階だったので、彼女との出会いは偶然の幸運であった。


 お礼は当然ながらそういう事になりそうだったけど、持ち前の魔法陣知識を活かして体のチェックやら疲労軽減を付与してやったらそれが好評になり、今や情報の対価がそれになっている。


 今回はいつもなら一人でやってるのをセナがいてくれたので助かった。セナは医者だからね。

 特に女性の体のチェックとか本当に大変だった。目隠しでやってたから。音の反響で位置を調べてたよ。


 ソラスさん達的には見られることに恥じらいが無いので僕の反応に常に盛大に弄ってくる。もうひたすらにあの空間が辛かった。


「はぁ、あんたが今までこんなことしてたなんてね。言ってくれれば手伝ったのに」


「ほんとに?」


「.......」


 あ、今思いっきり目を逸らした! どっちにしろ怒られてたパターンじゃん!

 とにもかくにも、今回は確かな報酬があった。

 お偉いさん方か......まさかアイツらじゃないよな?

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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