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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第4章 エルフの森

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第112話 気分転換~勇者サイド~

―――聖朱音 視点―――


 “実践”から数日が経過した。

 その日は久々に長期的な休暇がリューズ先生から与えられ、各々が好きなように過ごしている。


 私も今はベッドの上でうだうだとしている。

 正直、起きる気がしない。しかし、寝れる気もしない。

 その理由はわかってる。

 だから、リューズ先生もわざわざ数日間も置いて休みを取ったのだから。


 私は自分の手を見る。窓辺から刺す太陽光に照らされて白く奇麗な手のように見える。

 しかし、私にはどこかその手に拭えぬ赤色が残っているように感じて仕方ない。


 吐き気はだいぶ無くなった。

 実戦最中はケンちゃんのおかげでどうにかなったが、直後のむせかえるような血のニオイと生気のない目は体調を崩すには十分すぎる状況だった。


 それは私だけではない。全員がそうであった。

 個人差はあれど殺した人達に対して何も感じないはずがない。

 リューズ先生は「それが正しい反応だ」と言ってたけど。


「はぁ、歩こう......」


 いつまでベッドに寝てても気が滅入る。

 体を起こしベッドから立ち上がっていく。

 ドアノブに手をかけた所でなんとなく手持無沙汰のような気がした。

 いつも持っている剣を持っていないからだ。

 当たり前のように携帯している剣。


 今はオフだから持ち歩く必要はないのだけど......もう近くにないとダメなのかもしれない。

 壁に立てかけてある剣を持って部屋を出た。


 どこに行くまでもなくただぼんやりと廊下を歩いていく。

 誰もいない窓から光が刺す廊下を歩くのはなんだか幻想的に見え、同時に一人にであることに急に不安を感じた。


 今までこんなことはなかったのに......今は無性に一人でいたくないと感じてしまう。

 そうでないと真に落ち着けない。


「どうされました?」


 不意に声がかけられてビクッと体が反応した。

 振り返るとエウリアちゃんの姿がある。

 聞き慣れてる彼女の声にすら気づかなかったのか......だいぶ参ってるみたい。


 私は平静を装って「エウリアちゃんがこんな所にいるなんて珍しいね」と言葉を返した。

 事実、エウリアは休みなく日課として午前中の今は教会関係の仕事をしているはず。


 だから、彼女が王城の廊下を歩いているとは思わなかった。

 それもたった一人で。例えお城の中でも付き人ぐらいいると思ったけど。


 エウリアちゃんはふと窓を見て窓辺からの光に眩しそうに目を細める。


「良い天気ですね。少しお出かけしませんか?」


 そう言われてエウリアちゃんに手を引かれるがままに城の外の城下町へ。

 こんな勝手に外へ出かけていいものだろうか。

 護衛として私がいるという理由は作れても、聖女なのにこんな日中からふらついて良いのかはわからない。


「エウリアちゃん、仕事の方は大丈夫なの?」


 私は思わず心配になって尋ねた。

 すると、彼女は自信満々に答える。


「これも仕事なんです」


 どういう意味かわからなかったけど、ふと回りを見てなんとなく感じた。

 もしかしたらこうしてお忍びで城下町の様子を見ること指してるのかもしれないって。


 実際、今のエウリアちゃんはいつも着ている神聖な修道服から村娘のような格好に着替えて、その上で外套を羽織りフードまでしている徹底ぶり。


 そんな彼女に私は感心する。

 そして同時に、そのあまりにも汚れの無さに嫉妬すら感じてしまう。


 私の心情を知ってか知らずかエウリアちゃんは無邪気に出店を指さして「あの店へ行きましょう!」と私の手を引く。

 その目は好奇心旺盛って感じだ。


 近くの出店に向かうとエウリアちゃんがサッと串肉を注文していく。

 お金もまとめて出そうとしていたので「私が出すよ」と言うも、「いいえ、私が食べたいんですから」と断られてしまった。


 串肉を受け取るとベンチまで移動していくと串肉を食べる。

 出来立ての串肉は口の中にじゅわっと肉汁が広がってそれはそれは美味しさに満たされた。


 隣でもエウリアちゃんが「ん~、美味しい~♡」ととても満足げに串肉を頬張っている。

 普段の彼女の清楚なイメージとは違う豪快な食べっぷりに思わず笑ってしまう。


「ようやく笑いましたね」


「え?」


 突然のエウリアちゃんの言葉に目線を移すと微笑みかけている彼女の顔があった。

 その時、なんで彼女が唐突に私を誘って外に出かけたのかを悟った。


「いつも元気なアカネちゃんがここ数日ずっと暗い顔をしてましたから。

 ついお節介を焼きたくなってしまったんです。

 どうしてそのような顔をされているのかはわかりません。

 ですが、アカネちゃんが見るこれまでの光景も、これからの光景も暗いものばかりではないと思いますよ?」


 その言葉は優しく私の道を照らしてくれてるような感じだった。これが聖女の力なのだろうか。

 彼女は最初から私を元気づけるために、自分の職務を放棄してこうして街まで連れてきてくれているのだ。


 そんな彼女の優しさに先ほどまで彼女の汚れの無さに嫉妬していた自分がバカみたいだ。

 彼女は彼女の仕事を全うする中でそういう汚れる仕事が無かっただけで、逆に私は汚れることが与えられた仕事なわけで。


 そもそも嫉妬する対象が違うのだ。

 だから、私が感じるこの感情も私の醜い勘違いによるもの。


「あ、ちなみにアカネちゃんを元気にしたいってのは理由半分で、もう半分はたまにはサボりたかっただけですよ。

 私は聖女ですが一人の人間なのでたまにはこうして息抜きしないと潰れてしまいます。

 ふふっ、それにしてもこの背徳感は素晴らしいですね」


 と彼女は言っているのでそういうことにしておこう。

 仮に全部の言葉が本当だとしても、それはそれで人間味があって親近感が湧くってもんだし。


 私が串肉を食べ終えると口元が汚れていたのかエウリアちゃんがハンカチで拭いてくれた。

 別にしてもらうつもりは無かったが、私が反応するよりも早くされてしまったのでやむを得ず。

 もしかしてこの行動りっちゃんにもやってた?


 エウリアちゃんのおかげで少し元気が出てきた私は、エウリアちゃんが思うがままのルートをひたすらについていく。


 一緒に宝石店へ行ってみたり、服屋へ行ってみたり、本屋へ行ってみたり。

 その店のどれも王城住まいのエウリアちゃんには価値の低そうなものだと思えたけど、彼女はそのどれもに目を輝かせて見てた。


 もしかしたら漫画でよくあるお嬢様だからこそ庶民の暮らしや物に憧れる、といった行動かもしれない。

 もともとエウリアちゃん自身が好奇心旺盛ってのも合わさって。


 そんな彼女が特に興味を持ったのはなんと武器屋であった。

 店の前に傘立ての傘のように乱雑に置かれてる剣を適当に一本手に取ると物珍しそうに見ていく。


「意外と軽いんですね」


「木剣は全部が木だからね。でも、それはミドルソードだから。

 ロングソードになれば木剣よりも重いよ」


 もちろんステータスによる筋力値の違いによって剣の重さの感じ方は違ってくる。

 なので、エウリアちゃんの筋力値は意外とあるみたい。

 見た目は正しく華奢な女の子なのに。


 ま、そんな見た目で常識が測れないのがこの世界だ。

 なんせこの私が勇者なんてやってるぐらいだから。

 今ではそこそこ筋肉がついてしまったが、それでも全然華奢と言われるぐらいしかない。


 そんな私でも明らかに筋肉モリモリの大男相手に普通に勝てるレベル。

 それこそその大男が全力で振りかぶったパンチを指二本で止められるぐらいには、この世界ではステータスの差というのは重要なのだ。


 しかし、そのステータスという概念に縛られないのがあの“豪魔”という特別な魔力の修行法。

 今頃ならとっくにステータスの差で勝ってるリューズ先生にいつまでも勝てない理由がそれである。


 前までは勝てないことに悔しさがあったけど、その豪魔を知ってからは負けるのは当然と思ったけどね。

 明らかにその豪魔にかけた修行の時間が違うから。


 リューズ先生は「時間ではなく質」だと言う。

 けれど、実際その質に持っていけるレベルまでは時間をかけて魔力の練度を上げなければいけないのでは? と思うけど、正直そこら辺は何とも言えない。


「アカネちゃん、中にも入ってみましょう!」


 私が一人別の考えに耽っているとエウリアちゃんは子供っぽく目を輝かせて私を誘ってくる。

 先ほどまで私のことを慮っていた人物とは思えないけど、これが私だから見せてくれる表情だと思うとどことなく優越感を感じる。

 ごめんねりっちゃん、ポジション奪っちゃうかも。


 店に入って中を見渡していく。

 いつも使ってる剣は王国が直々に発注している剣らしいので、実際にこういう場所に来るのはなにげ初めてかもしれない。


 たくさんの武器が店内に並び、壁には防具や弓といったものが飾られてる。

 こう見ると正しくゲームの中に入ったような気がして少しワクワクしてくる。


 伊達に幼馴染二人が男じゃないしね。

 小さい頃は男勝りなんか言われて二人と一緒に男の子向けのゲームにハマってたし。


 エウリアちゃんが満足するまでひとしきり店内を見渡すと外を出て行く。

 冷やかしと思われないだろうかと思ったが、店主はエウリアちゃんという美少女が来ただけでだいぶ満足してたような顔してた。


 午前中から出かけてからもうお昼という時間。

 エウリアちゃんもさすがに午後までサボるわけにはいかないということで解散することにした。


 私はエウリアちゃんを王城まで送っていく。

 さっきまでたまには息抜きやらなんやら言ってた彼女だけど、結局根の部分では真面目じゃん。私だったら午後もサボる。


 城の近くまで行くとエウリアちゃんが「ここまで大丈夫です」というので、私は立ち止まりエウリアちゃんの後ろ姿が小さくなるまで見送ることにした。


 途中、エウリアちゃんは振り返ると私に向かって一言だけ言った。


「アカネちゃん、私はあなた達の活躍を誇りに思っています。

 ですから、いざとなれば私達のせいにしてください」


 彼女の顔はとても笑顔だった。

 そんなこと言われたらむしろ人のせいにしづらくなるんだけど。


 私は彼女の姿が見えなくなると大きく伸びをする。

 不思議と朝と打って変わって気分がスッキリしていた。


「私も自主練再開するかな」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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