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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第4章 エルフの森

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第109話 妹との別れ

「それでは、そろそろ僕達はここを離れます」


「そうか。この森で起きたことに関して世話になったな。

 お主達がいなければ今頃こうして穏やかに暮らせていないだろう。感謝する」


 ワングさんが深々と頭を下げていく。

 それに対し、すぐに「頭を上げてください」と僕は返した。


 僕達はこの村に関して何もしていない。

 むしろ、魔神の使途という繋がりに関して迷惑かけたとすら思ってる。

 だけど、ワングさんからすれば決してそれだけじゃないんだろう。

 それが分かるのはワングさんの僅かな視線移動の先にいるウェンリの存在だ。


「ウェンリ、お主はこの者達と共に旅を続けるのか?」


 ワングさんはウェンリにそう尋ねていく。

 きっとワングさんはこの森にウェンリを攻める者はいないと言いたいのだろう。

 変えるべき場所はしっかりある、と。


 ウェンリは穏やかな表情でありながらハッキリと自分の意志を伝えた。


「そうね。もうあたしの戻るべき場所はここだから」


 その言葉にワングさんは「そうか」と一言だけ言って頷いた。

 それ以上ウェンリを引き留めるような言葉は言わなかった。


 僕達が馬車に移動していこうとすると、最後にウェンリの幼馴染のトリスさんが彼女に声をかけた。


「ウェンリ、達者でな! また何か必要なことがあったら行ってくれ! 協力する!」


「えぇ、わかったわ。ありがとう」


 僕達は馬車に乗り込むとウェンリが運転手となって樹海の中を潜っていった。

 その道中、しれっと馬車に乗っているガレオスさんが先ほどの光景について言及してくる。


「せっかくだったら別れの宴でもすれば良かったのに」


「そんなことしてる暇はないよ。魔神の使途がいつ狙ってくるかもわからないし、ガレオスさんみたいに変人として扱うわけにはいかない」


「と、言われてますよ、お兄ちゃん。図星ですね」


「図星じゃねぇよ」


 ガレオスさんの隣ではクロリスさんがいて身内を弄っている。

 どうやらクロリスさんの体は順調に回復中のようだ。

 もっともずっと体を動かしてなかっただけで大きな病気を患ってるわけでもないしね。


「お兄ちゃん、しっかり抱きしめるなの!」


「あ、はいはい......」


 そして、僕の方ではアイが胡坐の上に座って僕を座椅子のように扱ってる。

 ここぞとばかりに甘えてきてる。うん、可愛い!


 きっとアイのことだ、しばらく離れ離れになる分、ここぞとばかりに僕の温もりを感じているのだろう。

 なんか自分で言うとだいぶ気持ち悪いが。


 周りの皆はそんな僕達に気を遣ってか、はたまた全く気にしてないかのどちらかで、そんな空気感が実にいつもの僕達の旅路だと感じさせる。

 気を張り詰めすぎても良くないよな。


 そんな時間がしばらく続くとやがて樹海を抜けて街道に出てきた。

 そこは僕とアイの別れの場所でもある。


 僕達が乗ってた馬車の後ろにはもう一つ馬車があり、それはこれから拠点に戻るアイ達のものである。


「そんじゃ、こっからは別行動だな。お前達はこのまま直でオストレアに向かうんだろ?」


「そうだね。ガレオスさんはこのまま拠点に居続けるの?」


「あ~、それなんだが......」


 ガレオスさんはどこか言いづらそうな表情をしながら腹を括ったように告げた。


「しばらく俺も旅に出ようと思ってる。というのも、こうしてクロリスが復活出来たんだ。

 せっかくだからこの世界の色んな景色を見せてやりたい。

 だから、申し訳ねぇが拠点を守るという約束は反故になっちまう」


「そっか、わかった」


「いや、わかったって......お前はそれでいいのか?」


 何か言いたげな顔でこっちを見てくる。

 そりゃ村の皆のことを考えれば言いたいことはあるよ。

 だけど、それはガレオスさんが取り戻したクロリスさんという大切な人と比べたら、圧倒的に優先度は下でしょ。


「ガレオスさんがしっかりと結界を張ってくれれば問題ないでしょ。

 それにガレオスさんからすればターゲットは僕に向いてるんでしょ?」


「......はぁ、わかった。安心しろ、俺がお前の拠点には敵意を持つものは誰も入れないようにしておく」


「そんじゃ、そういうことで」


 僕がガレオスさんに手を出すとガレオスさんはその手を軽くはたいた。

 てっきり握手し返してくれると思ってたんだけどそういうわけじゃないらしい。

 ま、そっちの方がらしいけど。


「なら、あたしはアイちゃんを送ってそのまま拠点で監視しておくわ」


 馬車に向かっていくガレオスさんとクロリスさんに続いてウェンリがそう名乗り出た。

 確かに拠点にアイ一人が残るのは可哀そうだと思うけど。


「なんでウェンリが?」


「単純な仕分けよ。これからいくオストレアは学院街らしいじゃない。

 ってことは、前にお前達が話していた“学校”と近しいものがあるんじゃない?

 そう考えると勝手が理解しやすいお前達異世界組の四人が残るのは当然だろう。

 すると、旦那についていく妻がいて、さらにそこは魔道具についても色々学べる場所だから魔道具職人もついていく。

 後はリツの監視役にヨナがが行くって感じに分けるとこうなる」


「なんで僕に監視役が......」


「なんでってそりゃなぁ? アイちゃん」


「そうなの。お兄ちゃんは一人で勝手に無茶するから心配が拭えないの。

 ヨナお姉ちゃん、お兄ちゃんが迷惑かけると思うけどよろしくなの!」


「なんつーか、この瞬間だけ切り取ると妹というより完全に保護者だな」


 なら、その部分だけ切り取る必要はないんじゃないかな、蓮!

 そんなアイの行動にヨナもしっかりと「任せてください」と答えてる。

 なんだろう、この感じ......学校の三者面談を思い出す。


「それじゃ、そろそろ行くわ。アイ、最後に何か言いたいこととかある?」


「う~ん、特にないの。お兄ちゃんは必ず帰ってくるって約束してくれたし。あ、でも一つだけある!」


 何かを思い出したように手を叩くとアイがそっと手招きしてくる。

 アイの目線まで腰を下げると思いっきりギューされた。

 え、なにこの可愛い子。天使か? やっぱり天使なのか!?


「行ってらっしゃいのチュー」


「っ!?」


 僕がアイの可愛らしい行動に悶えてるとさらに追撃とばかりのほっぺにチュッとされた。

 あわわわわ、アイが一体いつの間にこんな大人びた行動を!?


 そんなアイの行動に正面のウェンリは「ヒュー♪」と煽るような口笛を吹き、後ろの男達三人も妙な目でこっちを見てくる。

 言っておくけどロリコンじゃねぇからな!


「ヨナ、また一歩アイちゃんにリードされたわね」


「アイちゃんにこんなこと教えたの絶対ミクモさんでしょう!」


 ヨナを煽るミクモさんに彼女は咄嗟に言い返すが、ミクモさんは実に涼しい顔で返答した。


「確かにこないなこと教えそうなのはウチぐらいなのは認める。

 そやけど、残念ながらウチちゃうんよね~これが」


「なら、誰が......」


「アイのお父さんとお母さんなの。えーっと、いつもどこかへ行く時にお母さんがお父さんにしてて本当は口にするべきなんだけど......それはちょと恥ずかしかったの」


「あ、アイちゃんがませてる......!」


 アイの言葉にヨナは衝撃を受けたような顔をした。

 いや、僕もびっくりだよ。だけど、これって本当にアイの独断か?


「ふふっ、アイちゃんもお年頃なのよね~」


「本当にミクモの仕業ねぇんだろうな?」


 メイファも疑ってるのかミクモさんに尋ねてみるが、ミクモさんは依然として涼しい顔で受け流していく。

 う~む、ポーカーフェイスが上手すぎて何もわからん。


 そんなちょっとしたカオスな雰囲気をウェンリが「はいはい、もうおしまい」と手を叩き、この状況を強制終了させていく。

 ハッ、確かに別れる最中だったのについいつも通りの空気に戻ってしまっていた。


「そんじゃ、あたし達は今度こそ行くから。気を付けて行きなさいよ」


「あぁ、わかった。そっちこそね」


「お兄ちゃん、早く帰って来てね~!」


 ウェンリとアイがもう一つの馬車の方へ向かっていく。

 その最後の瞬間までアイは僕達に向かって大きく手を振っていた。


 動き出した馬車を僕達は小さくなるまで見送っていく。

 やがて何も見えなくなるとようやく僕達は目的地に向けて出発していったのだ。


―――数日後


 僕達は交代して馬車を運転していくとやがて遠くの方に街が見えてきた。

 小高い丘からだとその街の様子は良く見えて、高い壁に囲まれたその街の中心より少し上の方には学校らしき巨大な教会みたいな建物が見える。


 さらにその街に向けていくつもの馬車が移動している様子も見える。

 恐らくあの町が学院街オストレアで間違いないだろう。


 その街の門まで向かって通行許可を貰うと街に入っていく。

 学生らしき白い服と黒い服とそれぞれの色に分かれた若者が歩いてる。


 その服はてっきり男女で別れてるのかと思ったが、馬車で移動しながら見てるとそうでもなさそうだ。


 いつも通り適当な場所に宿を取ると早速この街における情報を集めていく。

 数日の情報集めの後わかったことはまず近々に学校への編入試験があるということ。


 これは僕達みたいな遠くから移動してきて、本来の入学よりも時期外れになってしまった人のための救済処置みたいなものらしい。

 これは実にタイミングが良い。


 制服が白と黒に分かれてるのはどうやら優等生と劣等生の違いによるものみたいだ。

 加えて、その二つには大きな溝があるらしく、また優等生は色んな所で待遇が良いらしい。


 ということは、この学校で満遍なく情報を集めるには、僕達の中で白組と黒組で別れた方がいいな。

 その編成は後で考えよう。それよりもまずは―――


「「「「入学試験か~~~~~」」」」


 僕達異世界組はここに来て再び勉強をしなければいけないということに、どことないやるせなさを感じた。


 仕方ないこととは思ってる。

 勉強はどこにでもついてい来る。

 無知では何もなし得ないと。

 だけど、それはそれ。

 気持ちとしてはやっぱり抵抗感がある。

 くっ、やるしかないんだ!


「勉強するぞおらぁ!」


「「「おぉー!」」」


 そして、僕達は来る入学試験までに勉強し始めたのであった。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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