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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第4章 エルフの森

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第106話 すでに交わっていた運命

 薫からの連絡を受けてクロリスさんの病室から抜け出した僕はすぐさま応接室に向かっていく。


 部屋に入ると連絡通りにガレオスさんが応接室で待っていて、僕の存在に気付いたのか「よっ!」と声をかけてくる。

 本当に来てる......というかここまでどうやって来たんだ?


「久しぶりって感じだけど......どうしてここにガレオスさんが?」


「この森にあるとある木にかけられていた封印が解かれたのを感じ取ったからな。急いで向かってきたってわけだ」


 向かってきたって簡単に言うけど、あの森って確か......。


「だけど、ここに来るまでってエルフの......精霊の協力が必要なはずだけど」


「あぁ、だからちゃんと借りたぜ。もっとも近づいたら勝手に導いてくれた感じだけどな」


 ガレオスさんを導いた? 精霊からしたらガレオスさんは敵判定ではないってこと?

 なんにせよ、こちらとしても聞きたいことがあったから好都合だ。

 そう思っているとガレオスさんが気になることを言った。


「それにしてもお前がまさか“そう”だったとはな......」


「それはどういう意味?」


「悪いな。それを詳しく言うことは出来ない。

 言いたいのは山々なんだがなこれも呪いの制約を受けていてな。

 もやもやとした気分になると思うが我慢してくれ」


「うん、絶賛そういう気分になったよ」


「悪かったって。だが、これは“あの時のお前の運命を決定づけた人物”の口から聞くのが最もだと思うんだ。弱い俺にはその資格はねぇ」


 ガレオスさんはどこか暗い顔をして視線を下に落としていく。

 両ひざに置かれた拳はズボンを掴んでいて何か強い感情がガレオスさんの中を駆け巡っているのだと感じた。

 そんなガレオスさんの心中に気を遣うつもりで僕は話題を変えた。


「そういえば、先ほど封印から解かれたクロリスさんって女の子が目を覚ましたよ」


「それは本当か!? クロリスは生きてるのか!?」


 ガレオスさんは僕達の間に置かれた机に身を乗り出して尋ねてくる。

 その目はどこまでも妹を安否を心配する兄の目であった。


「それじゃ、案内するからついてきて」


 僕はガレオスさんをつれて応接室を出るとクロリスさんのいる病室へ。

 ドアをノックすると入出許可が下りたので僕達は入っていく。


「リツさん、どうした......の.......」


 クロリスさんの表情がすぐに変化していくのがわかる。

 なぜなら、彼女に状況説明する時に、今はもう彼女が封印に着いた時から何百年の月日が経過してると伝えたから。


 その時の彼女は酷く動揺した様子であった。

 無理もないことだと思う。

 封印から目覚めたら何百年も後の世界で普通に考えれば自分の知り合いが生きてるとは考えづらい。

 いるとすれば超長命種のエルフぐらいだろうか。


 そんな時に突然現れた兄のガレオスさんの存在。

 それはまたガレオスさんとて同じ気持ちであろう。


 彼の方はクロリスさんは封印の中でも生きてると信じ続け、(どういう経緯で魔神の使途になったかわからないが)クロリスさんの封印が解かれるのを待ち続けた。


 そして、どんな因果か僕によって封印が解かれたことで、ガレオスさんはクロリスさんと再会できた。

 何百年という月日は重くない。

 そこにあるのは月日の数だけ想い続けた願いだけ。


「クロリス......無事で良かった.....」


 ガレオスさんの声が僅かに震えている。

 それに呼応するようにクロリスさんも震えた声で返した。


「お兄ちゃん......ただいま」


 僕はそっと病室に二人を残して外に出る。

 何百年ぶりの兄妹の再会なのだ。

 同じ場所にいるなんて野暮な真似はしない。


 廊下の壁に寄りかかりながら二人が満足するまで待ち続けた。

 それから三十分ぐらい経った頃だろうか、病室のドアが開いてガレオスさんが顔を出してきた。


「リツ、話がある。中に入れ」


「もういいの? もっと話したいことあったんじゃない? 目も腫らしてるし」


「クロリスが目覚めた以上はいつでも話せるからな。

 それよりもお前のことだ。後、目のことは触れんな」


 ガレオスさんに呼ばれて再び病室に入り、クロリスさんのベッドの横に椅子を置いて座っていく。

 すると、クロリスさんから丁寧にお礼の言葉を言われた。


「改めて、私とお兄ちゃんを合わせてくれてありがとう。

 またこうして会えるとは思わなかったから」


「どういたしまして。といっても、僕はよくわからずに封印を解いただけだけどね」


 本当に未だにわかっていない。

 分かりそうなのをガレオスさんが言ってくれないから生殺し状態になってる。


「それで話って?」


 そう聞くと答えてくれたのはガレオスさんであった。


「あぁ、それは俺達のことだ。

 俺達の存在は呪いの制約によって言えないが、俺達の過去を知る方法はある。

 とはいえ、大抵の場合は良いように脚色されてるがな」


「今知れ渡ってる伝説では魔神は倒されてることになってるけど、ガレオスさんが言うには魔神は生きてるらしいからね」


「そういうことだ。いや、これは仕方ねぇことだがな。

 魔神が生きてるのは実際に戦った俺達しか知らねぇから。

 だが、今こうして生きている俺達によってその時の戦いの記録を文字に起こした手記がある。

 それを見ればお前の“正体”がわかるかもしれねぇ」


「正体......?」


 なんだろうか、その僕が実は人間じゃないみたいな。

 でも、僕は地球で生まれて地球で育ったんだけど?


「正直、俺とてどうしてお前が今のようになってるかわからねぇ。

 もともと考えるタイプでもないからな。

 だが、その魂を持つお前ならその手記を見れば何か気付くか思い出すかするかもしれねぇ」


 なんか抽象的な言葉ばかりですっごくもやもやする。

 とにかく、自分では説明できないから知る術を教えるから自分でなんとかしてくれってことだね?


「その手記がある場所ってどこかわかりますか?」


「学院街オストレア。多くの若者が武や魔法を学ぶために通う学院がある街だ。

 その学院の図書館の奥にそれはあるはずだ」


 ということは、次に向かうべき場所はそこになるわけか。

 それにしても、色んな場所に行く度に話が壮大になっていってる気がする。

 今では僕の正体とは!? だよ、なにそれ。


「わかった。皆と相談して決めるよ」


「それからこれからの魔神の使途の行動には気をつけろ」


 ガレオスさんが真剣な様子で伝えてきた。

 おっと、これは色々面倒ごとの予感。


「と言いますと?」


「お前の解いた結界は大きな余波を生み出した。

 それに気づかないほど魔神の使途も愚かじゃない。

 恐らくここからはより一層お前らに対して攻撃的になると考えた方がいい」


「つまり襲われる確率がぐんと上がったと」


「ぐんじゃねぇな。ぐーんと上がったな。特に俺の仲間は何するかよくわからねぇ」


「みたいですね。ここに来る前にアルバートという男に瀕死にさせられたし、ロクトリスというよくわからない女性に攻撃こそされなかったけど、突然来られて二人っきりにされて誰かと勘違いされたし」


「あ~あの二人はお前......というよりも、お前の正体に対してめっちゃ好意的なんだよ。

 ロキ......ロクトリスに限ってはアレだな、ぞっこんレベルで」


 うへぇ、なにそれ。超嫌なんだけど。というか、僕の正体って何?


「ともあれ、その二人は封印解除に関して特に敏感に反応しただろうから気をつけてな。

 ただ、その二人にとって確証が得れた今は恐らくお前に限っては殺されることはないと思う。

 だが、それはお前の正体をしっかり認知してるものだけだ。

 他は普通にお前でも殺しに来ると思え」


「ともかく、魔神の使途だったら全員警戒しとけってことでしょ? ガレオスさんも含めて」


「そういうことだ。俺も呪いに抗ってるだけでいつ意識が壊れてもおかしくないからな」


 それをクロリスさんの近くで言うのもどうかと思うんだけどね。

 めっちゃ「え、え!?」って焦った顔してるよ。

 せっかく兄に会えた妹を心配させるんじゃないよ!


「ま、その学院はお前にとっても有益な場所になるだろう。

 特に魔法陣を勉強したいお前ならな」


 それは確かに。扱えるかはともかくその知識があれば色々応用が聞くはずだ。

 ようやく話が一段落ついた所で、クロリスさんは僕に声をかけてくる。


「リツさん、私にはお兄ちゃんと話してることはよくわからないけど、あなたが思っているほど記憶で見たお兄ちゃん達は悪い人ではないの。それはどうか信じて」


「わかってます。何か事情があるのは」


 アルバートやロクトリスさんだって実際に会った時の印象と記憶の中の印象では百八十度ぐらいに違った。まさに闇と光といった具合に。


 だけど、それはそれ。例え何かやむを得ぬ事情があったのだとしても、僕は僕の守りたい未来のために行動する。その意志だけは変わらない。


 僕は立ち上がると病室を出ようとドアに手をかける。

 すると、ガレオスさんは一つ言い忘れていたことを伝えるように僕に伝えた。


「リツ、お前の妹のアイいただろ? アイツはもう旅から置いていけ」


****


―――???


 世界から断絶されたような白き空間。

 常人が立ち入ればまさに天国と見間違うような神聖なるその空間では二人の男女が話していた。


「ねぇねぇ! アルバート、今の感じた!? 感じたよね!?」


「落ち着いて、ロキ。僕も感じから。あの気配は確かに彼のものだった。

 というか、彼にしか反応しないものだからね。解けた時点で彼だよ。

 でも、ロキが勢いで会いに行った時には彼ではなかったんだろう?」


 興奮した様子のロクトリスをアルバートは落ち着かせるように両手を胸の前に出せば、彼女に質問した。

 ロクトリスはガックシと肩を落として答える。


「うん、おっかしいな~って思ったよ。

 だって、私がどんなに思い出を語ろうとうんともすんとも反応しなかったんだよ?

 うぅ、今思い出しただけでもちょっと泣きそうになってきた......」


「う~ん、何か引っかかるね。僕も彼の魂を触れて彼だと思ってロキに伝えたけど、帰って来た時にはまるで当てが外れたように落ち込んでたし。

 でも、今の結界の波動はどう考えても彼にしかありえないし」


 その言葉にロクトリスは前のめりの姿勢で言った。


「というか、普通なら私に会った時点で私って気付いてもいいよね?

 あれだけの旅をしてそんな反応されるとか......あれ? 悲しいを通り越してちょっと腹立ってきた」


「どうどうどう、落ち着いて。情緒が不安定になってるよ。なら、やることは一つ。確かめればいいのさ」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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