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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第4章 エルフの森

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第103話 世界樹の行進を阻止せよ

――――数分前


「ハァハァ......」


 リックという不死身の奴と戦い続けてから早十数分と経過した。

 その間、僕はこの男を倒すために燃やしたり、感電させたり、氷漬けにしたりと色々と試したが結果から言うと不可能だった。


 どんな攻撃をしても相手が倒れることなく、これ以上の魔力の消耗は無駄だと思ったので、早々に僕はこの勝負をどれだけ耐えて引き延ばせるかという方向にシフトしていた。


「どうした? これで終わりか? 魔力も無くなって斬り刻むしか能が無くなったか?」


「別に、どうせ倒せないなら体術の修行に相応しいと思ってね」


 というのも、僕があの男と戦ってる時に不自然な魔法陣を見つけたからだ。

 あの男の首の後ろにある小さな魔法陣でそこから妙に細い糸が繋がっている。


 つまりはこの男をいくら攻撃しても意味がない。

 この男は所詮は人形で本当にこの戦いに決着をつけるには本体を倒さないと。


 試しに首を刎ねてみても、その魔法陣に組み込まれた自動修復機能によって頭をくっつければ元通り。

 本当に厄介だよ。この男が人形と気づかなければ。


 では、なぜ本体を倒さないでただ耐えに徹しているかというとそれはただ一つ。相手に心理的焦りを与えるため。


「いい加減こっちはお前と戦い続けてうんざりしてんだ。さっさと死ねや」


「嫌なこった。まだ僕の目的が何も果たせてないからね」


 相手は僕じゃ人形を倒せないと余裕を持っている一方で、その人形で僕をいくらたっても致命傷すら与えられていないという焦りを抱えてるはずだ。


 当然、戦いは長引くほど気力との勝負になってくる。

 今頃、心の余裕も焦りで上塗りされてるんじゃないか? そこが狙いの付け目だ。


「そんなん知ったことじゃねぇな」


「だから、僕も考えたよ。どうやってお前を倒せるのかを。でも思い浮かばなかった。

 だから、僕の魔力を使ってこの地一帯を吹き飛ばすほどの巨大な一撃を加えてやったらワンチャンどうにかならないかなって」


「なっ!?」


 ははっ、僕の言葉に焦ったね? 魔法陣から繋がる糸が一瞬強くなった。なるほど、大体糸が伸びてる先は把握した。


「ハッタリじゃないよ。証拠にここ数分間は魔法も使わず動き回って戦ってたのは一体何のためだと思う?」


「まさか―――」


 かかった! 照明点灯(まほうじんきどう)

 その直後、僕を中心とした巨大な陣が浮かび上がり、その魔法陣の大きさは直径300メートル。

 その範囲を包み込むように魔法陣特有の淡い光に包まれていく。


「そうそのまさかさ。魔法陣は規模を大きくするほどその設置に時間がかかる。だから、十分に時間を作る必要があった」


「だが、お前は魔法陣を描いてないはずだ! 仮にその技術を用いない方法があるとしてもそんな巨大な魔法陣は描けない!」


「そんなことはない。なら、現にこうして作られてる状況に対してどう説明する気かな?」


 もちろん、そんな方法は存在しない。

 いや、正確には魔法陣の形をそのままに大きさだけ変える方法はあるけど、それをするには大きければ大きいほどにその場にとどまって魔力を注ぐことに意識を傾けなければいけない。


 だけど、こんな戦闘中でそんなことすれば死ぬだけだ。故に、その戦闘最中では存在しないとほぼ言える。


 なので、僕がやったのは魔法陣モドキだ。

 方法は近くにいた魔物を<魅了>の魔法陣で従えて、その魔物に魔法陣を転写して指定の場所まで移動してもらうというもの。


 というわけで、今見せている魔法陣の光は魔法陣ではあるけど何の効力もないただのハッタリ。

 魔法陣は魔力を流せば光るという性質をただ利用したものにすぎないもの。


「ふざけんな! そんなことさせるか!」


 とはいえ、魔法陣について詳しくない人にはわからないことだけど。

 この世界で魔法陣はあって無いようなものだし。


 リックは僕に向かって突撃してくる。まぁ、当然そう来るよね。その行動が欲しかった。

 なぜならその範囲に人形を操る術者がいるって証明なんだから。


「転移」


「!?」


 僕は予め周囲にばら撒いていた陣魔符の一つへ転移していく。それはリックから魔力の糸が伸びている方向だ。


「待て!」


 僕が木に向かって動き出すとリックも追いかけて来る。だけど、僕の方が早いから追いつくのは無理。

 それに焦っているせいで人形に流す魔力が強くなっていて場所が丸わかりだよ―――見つけた!


 木の上に白い修道服を着た獣人の男がいる。

 獣人か、殺りづらいけどこの森に脅威を振りまくなら見過ごせない!

 その男に向かって陣魔符をつけた短剣を投げた。


「くっ、バレたなら仕方ない。だが、術者が弱いと侮ってもらっちゃ困るな!」


 そう言ってその男は僕の短剣を弾いて迎撃の構えを見せた。だけど、それじゃ僕を止められない。

 僕は<転移>でその陣魔符の位置へと移動していく。


「なっ!?」


「さっきも見せたよ。それじゃあね」


 僕は手のひらに魔法陣を浮かべ<空間収納>から刀を取り出すとそのまま斬り払って男を倒した。

 その瞬間、背後から追って来ていたリックも力なく倒れていく。


 恐らく、正面から向かえ討つつもりで自動操作に切り替えて挟み撃ちにしようとしていたんだろう。

 相手が僕じゃなければ脅威だっただろうよ。


「よし、これで終わり―――痛っ! あー、まぁ完全に傷開いてますわなこりゃ」


 普通に反撃食らって傷が開いた後も<麻痺>の魔法陣で痛みを誤魔化して動きまくってたもんな。ヨナとアイから正座説教ものだよこれ。


「ん?」


 毒霧独特の魔力が一部急速に消えた。あの霧の魔力は独特だからすぐわかる。うん、もしかしても薫によるものだな。


「あっちでも何かあったみたいだけど皆なら大丈夫でしょ。

 さてと、皆が帰るよりも先に戻って少しでも情状酌量の余地がある言い訳を考えないと―――おぉ!?」


 突然、グラグラと地面が揺れた影響で木の上にいた俺も思わずバランスを崩して落ちそうになる。

 な、なんにが―――お? おぉ!? なんかバカでっかい魔力が動き出したぞ!?


 僕は再び痛みを誤魔化して木のてっぺんに上っていくと世界樹ミッドレンの幹にトレントという木の魔物に似た怖い顔が浮かび上がり、それがズリズリと地面を這ってやって来てるじゃないか。


 おいおい、もういいってそういう怪獣大決戦みたいな巨大生物との戦いは。

 もう砂漠の竜だけで十分です......なんて言ってられないよね、これは。


 もう既にミッドレンの一部が伸びた枝の近くでいくつもの爆発が起きてるし、明らかに異質な植物の手がミッドレンの幹を押している。


「ハァ、これはただ怒られるだけじゃ済まなそうだけど。僕が行くしかないよね」


 なんせそのミッドレンの幹の中心には魔法陣が描かれている。恐らくあれが原因だろう。


 僕は早速その場所に向かって走り出した。そして、数分後皆の場所へ到着した。


「蓮、状況は?」


「律!? 動いて大丈夫なのか!?」


「あぁ、なんとかね。だけど、今は僕の心配よりもこっちをどうにかしないと」


「......そうだな。状況から言えば劣勢だな。

 毒霧の魔法陣がこの木を動かす魔法陣に変化したのも驚いたが、それ以上にとにかく質量の大きい存在が厄介だだ。

 こっちが何しようともビクともせずにゆっくりだが着実に進んできてやがる。まるでアリが像に挑んでるみたいだな」


「ミッドレンの幹にあるあの魔法陣だけど解析は済んでる?」


「いや、出来てない。一部は分かるがそれ以外がわからないから構造破壊は無理だ。

 加えて、世界樹を動かすほどの魔法陣の魔力量なんて俺達全員合わせても足りないから魔力の上書きによる術式破壊も出来ない」


 なるほど、現状手詰まりってわけか。だけど、可能性があるとすれば魔法陣に一番詳しい僕がこの魔法陣の構造を理解して魔法陣自体を消し去る構造破壊をすること......なんだけど―――


「あれは僕達が使ってる文字じゃないな。どこの文字だ?」


「さぁ、俺にもさっぱしだ。だが、さっき倒した魔神の使途を確認したら種族はエルフだったからもしかすると―――」


「そうだね。少しでも可能性があるならそれに賭けよう。蓮はとにかく少しでも長く足止めしといてくれ」


「わかった」


 そして、僕はすぐさまウェンリの場所に向かっていく。

 その道中で皆にも僕の存在がバレてセナからは「きてくれてありがたいけど、ヨナが後でお話しがあるみたいよ」と言われた。すーっ、うん、その時の自分に任せよう。


「ウェンリ! 聞きたいことがある!」


「体、大丈夫なの?」


「うん、<麻痺>で痛み誤魔化してるから今はピンピンしてるよ。反動が怖いけどね。

 で、それよりもウェンリにはあの魔法陣の文字が読める?」


「文字? えぇ、昔のエルフ語じゃないかしら。読めるわ。全文じゃないけど」


 よし、なら可能性は見えてきた。


「それじゃ、早速読んで―――っ!」


「攻撃来るわよ!」


 僕達の所にミッドレンの丸太より数十倍太い枝が鞭のように振り下ろされた。

 それを躱していくとその枝はバシンッと地面が陥没するほど強く叩きつけていく。

 その枝に巻き込まれた木は漏れなく砕け散っている。


 あんなの質量の枝の攻撃、康太でも防げないだろうな。

 というか、それに加えて遠心力でさらに威力ましてんだから当たったら終わる。跡形もないほどに。


 どうやっても前線が下がっていく。加えて、ミッドレンは巨体も巨体。あの山を背負った竜の2.5倍ほどの大きさはある。


 大きいというということはそれだけ攻撃範囲も大きいということ。

 恐らく、あと百メートルも後退したら攻撃範囲にエルフの村が収まってしまうだろう。また時間との勝負か。


「リツ、さっきの話の続きを教えに来たわ」


「助かる!」


 ウェンリがこっちに来てくれた。早速その魔法陣の構成術式を教えてもらおう。


「『悠久なる未来の英雄を待ち続ける時を止めた少女よ。その時を刻む時が来た。英雄が来し時過去に置いてきた運命はもう一度動き出す』って感じね。

 若干訳が間違ってる可能性もあるけど、恐らくこれで間違いないと思う」


「......そっか」


 ......な、なんのこっちゃ!? 普通構成術式って魔法で言う詠唱の部分を文字に起こしたことを言うんだよ!?


 これってゲームで言えば石碑に書かれた意味ありげな文章のやつじゃん! 何がどうなってんだ!?

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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