第102話 魔法陣ヲタクがいるから
―――青糸蓮 視点―――
「なんだあの気持ち悪いのは」
最初に見た感想がそれだった。まるでジ〇リの化け物となったカ〇ナシを彷彿とさせるような先ほどまでのキリアの母親の顔の仮面をかぶった枯れ木のような体した四本腕の化け物。
もう正体を隠す気はなくなったようだな。しかし、これまで戦ってきた敵と比べて今目の前にいるのは人外そのものじゃないか。
「ふふっ、もう許さないわ。泣いたって駄目。もう一度お母さんから生まれ直してきなさい」
「ウェンリ、もう母親と認知すんなよ?」
「わかってるわよ。私のお母さんはもっと美人だったし」
まぁ、さすがにそうか。もはやあれを母親と思う方がどうかしてる。
「で、私達はこれからあれを倒せばいいってわけ?」
「まぁ、どう見てみそうやろうな」
「なら、全員でかかろう。じゃなきゃヤバイ気がする」
「支援なら任せな。前線はちょっと怖い! というかビジュアル的に近づきたくない!」
セナ、ミクモ、薫、メイファもやる気になってくれている。ありがたい。仲間がいればこっちも心強い。
俺達は戦闘態勢に入る。それに対し、顔だけは美人の山姥はニコッと笑って告げた。
「さぁ、手元へ戻ってらっしゃい」
その瞬間、バッと消えた。動きだしの僅かな残像と地面を蹴った砂煙だけでほとんど何も見えなかった。
だが、それでもこれまでの仲間との戦闘訓練で俺の目の端が僅かな影を捉える。
「っ!」
咄嗟にウェンリの目の前に蹴りを入れた。
その直後、グイッと重たい何かが当たった感触がするとともにその影は勢いよく吹っ飛んでいく。
吹っ飛んだそれは地面に引きずった後を残しながら止まると四つん這いの状態で告げた。
「痛いわ、全く。その足癖の悪さをどうにかしないとね」
「これが俺の戦闘スタイルなんだよ」
そう言い返しながら俺は仲間に声をかけていく。
「ぼさっとすんな。相手は強者ってわかってただろ」
「そうね、ごめんなさい。気を付けるわ」
「今の速度的にアイちゃんより少し速いかも。でも、捉えきれない速度じゃないはず」
「あぁ、薫の言う通りだ。結局初見殺しだ。あの速度ならずっと見てきたはず。俺達ならやれる」
全員の気持ちが切り替わったように表情に変化が現れた。
それに対し、山姥は面白くなさそうに四つん這いのまま俺達の周りを高速で周回し始める。
俺達は互いに背を合わせるようにその動きに警戒すると動き出したのは薫であった。
「通せんぼの茨」
薫は地面に手を付けると丁度山姥の周回している辺り全体に地面から茨を出現させていく。
それは全てが同時に出現したため、周回していた山姥はその茨に突き上げられた。
「捉えた!」
「鉄扇斬火<天津鳥>」
そこにミクモが鉄扇の周りに火球を作り出し、それを放っていく。
それは途中で鳥の形になり、山姥に着弾すると一気に爆ぜた。
「吹き狂う突風」
空中に漂う黒煙の中から突然俺達に向けてランスのような竜巻が襲い掛かってきた。
不味い、ここには康太に代わる防御に特化した奴がいない。
それに密集しているから受ければ全員が大ダメージだ。
「マイベイビー! 形態変化だ!―――結界魔法陣<耐衝魔力壁>」
その時、メイファが自身のドローンを俺達の前に配置し、その四つのドローンを繋ぐ魔力の結界を作り出した。そして、竜巻はその結界に直撃すると破壊していく。
しかし、その時には俺達はすでに距離を取っていたので竜巻が地面に当たって吹き荒れた風を浴びる程度で済んだ。
あの僅かな時間が俺達に避ける選択肢を作ってくれた。
「ありがとう、メイファ。助かったわ」
「気にすんな。さすがにベイビー達は壊れちまったがまだ予備はあるんでね」
セナにお礼を言われたメイファは照れ臭そうにしながらも、自分の腰のバッグからいくつかの球体を取り出し空中に投げていく。すると、それは形態変化してドローンに変わった。
「小賢しいわね―――地殻昇壊」
どこかイライラした顔をする山姥は地面に手を付けると「ふんっ!」と勢いづけて地面に亀裂を入れた。
それはすぐさま俺達の場所まで届くと俺達の足元の地面が一気に上がっていく。
「熱核爆」
その地面の隆起とともにせり上がってきたのは小さなされど高エネルギーが凝縮した熱の塊。
まさかあれを爆発させるつもりか! ここら一体消し飛ぶぞ!
「薫! 手を貸せ!」
「わかった!」
俺が薫を呼びかけると薫は胸ポケットから種を取り出してそれを手で急成長させていく。
大きな手となったそれは熱の球体を包み込む―――が熱さで発火してるな。あれじゃ耐久度不足だ。
「耐熱糸縛」
そこに俺は<耐熱>の魔法陣を付与した糸でその発火した植物の手を包み込んでいく。
しかし、これで一体どこまで爆発を抑え込めるか。
その時、セナがせり出た地面を蹴ってその球体に向かっていく。待て、何をする気だ!?
「こういう時は元の場所に戻してあげるのよ!―――鬼人槌術<剛力衝打>」
セナは巨大なハンマーを両手で持って勢いよく叩きつけた。
その衝撃は強力な植物の耐久度を超えるもので、手首から折れたそれはそのまま地面にめり込んでいく。
―――ドオオオオォォォォン!
直後、巨大な爆発が起こり、俺達は散り散りに吹き飛んでいった。
セナのおかげでちょくげこそ避けたが、そこそこ近い位置にいたせいで爆風だけで結構なダメージだ。
おまけに吹っ飛んだ時に色んな木をへし折りながら突き進んだこともそのダメージに入る。くっ、やってくれたな、あの化け物め!
ごほっ、ごほ、先ほどの内臓ダメージがもろに響いてくる。まともに動けるようには少し時間がかかるな。
辺り一帯の木も燃えちまってる。そして、爆心地に近づくほどそこにあったはずの木は何も無くなっている。消し飛んだのだろう。
「レン様、大丈夫ですか?」
「あぁ、生きてる。他の皆は?」
「生きています。しかし、衝撃は待逃れなかったようで......申し訳ありません」
「いや、気にするな。むしろ、これだけで済んでるのはお前達のおかげだ」
というのも、爆発の直前でシェイリ達が糸で俺達の体を引っ張ってくれたのだ。
そのおかげで五体満足で済んでいる。そうでなければ......これ以上はあまり考えたくないな。
「そういえば、レン様。一つ気になることが」
「なんだ?」
「どうにもあの化け物からは命の波動を感じません」
「どういうことだ?」
「人である気配は確かにするのに、それに伴う生命の脈動を一切していないのです。
私達は相手がアンデッドなら人の気配がするとは言いません。
この違和感はレン様にも共有していた方がいいかと思いまして」
魔物ならではの感覚による違和感ってことか。
この森を知り尽くしているコイツが言うだったら心に留めておくべきだろう。
「わかった。情報サンキューな。それとそれが本当ならもう一つの可能性が出てきたそっちはお前に任せたい。頼めるか?」
「......」
「どうした? 変なこと言ったか?」
「いぇ、こうしっかりと感謝の言葉を言われたのは初めてな気がしまして。どうしましょう、孕みます!」
「......お前が平常運転で、ある意味落ち着けるな」
俺は「さっさと行け」と言ってシェイリを引かせると歯を食いしばって山姥の場所へ向かった。
先ほどの爆心地に戻ってくるとそこには散り散りに吹き飛ばされた仲間が同じく立っている。
姿を見れば全員がボロボロだ。誰しもがあの爆発に襲われたというのが一目でわかる。
そんな俺達を見た山姥は不敵に笑った。
「ふふっ、しぶといのね。今ので死んでくれると助かるんだけど」
「それは残念だったわね。あいにく私達はお人好しのリーダーの集まりなんでね。
あいつを寂しがらせると可哀そうだから死ねないのよ」
セナが堂々と答えていく。ははっ、全く持ってその通りかもな。
それに俺はアイツに恩がある。それを返すまで死ねねぇんだよ。
「鉄扇斬火<天津鳥>」
「行くぜ、マイベイビー! ファイア!」
ミクモとメイファがそれぞれ火球の鳥と魔力弾で弾幕を張っていく。
しかし、それはまるでゴキブリのようにカサカサと動く山姥によって容易に躱された。
だけど、それで動きはある程度誘導できた。そんな俺達の無言の意思疎通が伝わるように薫が次なる一手を加えていく。
「凝光の波動」
薫は二本の巨大な背丈の花を咲かせた植物を山姥を挟んで生み出すとそれは花びらの中心から光線を放った。
「残念だったわね。かすり傷よ!」
相変わらずの機動力で直撃を避けたか。だが、お前は気付いているか? 蜘蛛はあっという間に自分のテリトリーを作るってな。
俺はずっと戦闘中に細くしなやかでありながら細い糸を張り続けていた。
そして、それはお前の全身に絡みついている。
「捕縛」
俺はギュッと手を掴むようにして引くとその動きに連動して山姥に絡みついていた糸が一気に引っ張られ、山姥は地面に立ったまま固定された。
「な、なによ、これ!?」
「お前の命の糸だ」
俺は走り出す。その動きに合わせてセナも動き出した。
そして、山姥に一気に接近すると同時に斬り込んでいく。
山姥の胴体には大きくバツ印の線が出来、山姥は息絶えたように倒れ込んだ。
「ふぅ、これで終わりね」
「あぁ、終わりだ―――術者がな」
『レン様、魔力の根源を探知しました』
シェイリからの急な連絡。やはりそうか。この山姥はただの人形か。
「ふふっ、これで死んだと思ったの?」
「なっ、生きてる!?」
「驚いてるとこ悪いが安心しろ。もう死ぬ」
「何を言って―――」
俺はセナの言葉を無視するようにとある木へ視線を向ける。その視線を辿るようにセナも視線を向けた。
そこにはウェンリがいる。実のところ、彼女には爆発前から<気配断ち>の魔法陣でずっと待機してもらってたのだ。
。
それは戦力外だからというよりも確実なトドメを刺してもらうため。
もともとの作戦は俺達がこうして山姥を追い詰め、そのトドメをウェンリにしてもらう―――予定だった。
だが、シェイリの言葉を聞いて仮にあの山姥がただの人形だとすれば必ずどこか見える範囲に人形使いがいる。
そいつを探すのは至難の業だ。探そうとしていることを気取られれば逃げられる可能性もある。
だから、俺は薫以外には予定通り山姥を倒してもらう方向で動いてもらった。
そうすれば、人形使いは必ずこう考える「残念、そいつはただの人形だ」とな。
しかし、相手は一つ想定が甘かった。それは俺達が魔法陣に長けているということ。
人形を遣うにも魔法陣によるリンク接続が必要だ。
人形使いは人形が一度倒れたことを示すためにも死体に魔力が残っているのは不自然なため一度リンクを切る必要がある。そっちの方がリアリティあるしな。
だが、それが仇となったな。恨むならうちの魔法陣ヲタクリーダーを恨むんだな。
「行け、ウェンリ」
「弓閃一矢<精霊の怒りの風>
本来なら使えないはずの風の精霊を使った一矢。
それは先ほどまでだったら確かに仕えなかっただろう。
しかし、それは薫の植物によって一変した。
先ほどの薫が老婆に攻撃するために作り出した植物、実のところあれが攻撃用だけではない。
毒霧を浄化するための植物だ。
いや、正確な言い方じゃないな。あの攻撃植物と同時にもう一種類の植物がそこにはいたのだ。
そして、それは薫によって能力が強化され、浄化能力が高まり、その結果霧は消え精霊を呼び戻せた。
さて、うちの狙撃手の正確無比な攻撃に耐えれるかな。
―――ドオオオォォォォン!
世界樹ミッドレンの枝の一か所で盛大に爆風が起こった。
そして、その爆風から一人の男が落ちてきた。どうやらあいつが人形使いのようだ。
「これで終わりのようだな」
『いえ、レン様。まだ終わってません』
「は? 何を言って―――」
その直後、ゴゴゴゴッと地面が揺れたと同時に木の葉がガサガサと動き出した。まるで警告音のように。
「おいおい、嘘だろ......」
これはさすがに飽きれる。またこのパターンかと。そう、動き出したのは世界樹ミッドレンだった。
読んでくださりありがとうございます(*'▽')




