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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第4章 エルフの森

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第101話 母の第二形態

―――青糸蓮 視点―――


 ウェンリの母ウェンディさんによって操られた魔物らしき気配が霧の向こうからダダダダッと地面を蹴る音を響かせながら向かってくる。


 その音にすぐに警戒態勢に入るが、一人ウェンリだけはどこか覇気がない様子だ。


「ウェンリ、だい―――」


「皆、来るわよ!」


 声をかけようとしたがセナの声で遮られてしまった。

 そして、その魔物の方へ目をやると大小さ様々な魔物が一斉に向かってきている。


 いつも見るようなサイズの兎から三階建ての建築物のような大きさの蛇まで。それらが波ののように襲い掛かってくる。


「このままじゃ俺達が殺られるだけだ。ウェンリ、覚悟を決めろ」


「......えぇ、わかった」


 そう言う彼女の声は小さかった。しかし、今は彼女だけに意識を向けてる余裕はない。

 幸い、ウェンディさんは動きを見せていないが、それが逆に怪しいとも言える。

 ともかく、一先ずは魔物掃討を優先させるか。


 そう思うと俺は一度両手を合わせて話していくとその指先から糸を作り出した。

 そして、それをバラまくように両手を広げると前方の木々に糸を張り付けていく。


「お前ら仕事の時間だ」


「レン様の仰せのままに」


 その言葉にアラクネのシェイリが反応し、俺と同時に魔物に突っ込んでいく。

 そして、シェイリは小蜘蛛と一緒に俺の張った糸に飛び移り、そこから糸を飛ばして一体の魔物を拘束すると釣り上げて噛みついていった。


 噛みつきによって毒を注入された魔物は全身を糸でグルグル巻きにされてそのまま木に吊るされた。どうやらそこまでがワンセットらしい。

 シェイリに限っては何体も一斉に捕まえてまとめてグルグル巻きにしている。


 俺はというと手から投網のような蜘蛛の巣を放って魔物の足止めを行った。

 もちろん、それだけじゃ魔物の勢いは殺しきれない。

 だから、その投網の綱を導火線のようにして<火炎>の魔法陣でその糸を燃やしていく。


 それによって、捕まえた魔物を焼き殺した。魔物であっても苦しむ声はやはり耳に堪えるが許してくれ。


大木の板挟み(ウッドプレス)


「鉄扇斬火<雨降らし>」


「鬼人槍術<斬円>」


「行くよ、マイベイビー! 自動掃射(オートバレッド)


 俺に続くように薫が自分の持っていた種を急成長させて両手のような木が魔物を挟み込んで潰していく。


 ミクモは手に持った鉄扇で舞いながら自身の周囲に火の玉を展開しそれらを魔物に向かって放ち、セナは魔力で槍を作り出すとそれを体を大きく使いながら魔物に向かって放り投げた。

 槍はブーメランのような軌道をしながら魔物を次々と斬り裂いていく。


 そして、メイファはドローンのような空に浮かぶ魔道具を作り出すとそれに搭載された<雷撃>の魔法陣で魔力の分だけ砲撃を行っていった。


 皆して魔物の進行を食い止めている中、ウェンリ一人だけは動けずにいた。

 当然か、例え敵であってもその姿は紛れもなく自分の母親。

 そう簡単に割り切れるものじゃない。


「まぁ、酷いわ。せっかくのウェンリちゃんの教育の場面を。

 でも、ウェンリちゃんはやっぱりお母さんのことを分かってるのね。

 ふふっ、昔から生き物に優しかったものね」


「~~~~~っ!」


 ウェンディさんの言葉にウェンリはそっと弓を持つ右手を強く握った。その肩は強張り震えている。

 何か言いたいことがあるのに上手く言葉に出来ない、そんな表情だ。


「セナ、そっちは任せていいか?」


 俺はそんな彼女を見ながらすぐ近くにいるセナに聞いた。すると、すぐに返事が返ってくる。


「えぇ、こっちは任せなさい。今のウェンリに届くのはきっとあんたの言葉だけよ。そっちは任せたわよ」


「あぁ、任せろ」


 そして、俺はウェンリに近づいてと正面に立って肩に手を置いた。

 その瞬間、ビクッとしてゆっくりと顔を上げる。

 その顔は今にも泣きそうだった。


「ごめんなさい。やっぱり無理だった。覚悟決めようと思ったのに......決まらなかった」


「そんなことだろうと思った。手助け、必要か?」


 ウェンリが俺の手に触れる。そして、か細い声で伝えてきた。


「手伝って。レンとなら前に進める気がするから」


「わかった」


 そう返事をするとウェンリは目に浮かんだ涙を拭ってバチンッと両手で頬を叩くことで気合を注入した。

 そして、母親に向き合っていく。


「ウェンリちゃん、変なこと考えてないでしょうね?」


「残念ながら考えてるわ。これがあたしの答えよ」


 ウェンリはウェンディさんに向かって弓を向けた。それに対し、彼女はそっと目を閉じた。


「そう。こうして魔物による力の差を教えてあげれば聡明なウェンリちゃんは分かってくれると思ったけど、どうやら私の大切な娘が変わってしまったのはその周りの人達のせいなのね」


「違うわ。変わったのは私の意思。もう一度言うわ。これ以上あたしのお母さんを汚さないで」


 俺はひそかに薫に連絡して即興で矢と矢筒を作って貰った。

 そして、それが地面から伸びた植物によって運ばれると受け取ってウェンリの腰に装着していく。


 そこから矢を引き抜いたウェンリは静かに弓に矢を番えた。


「これが最後の警告よ。武器を降ろしなさい」


「ごめんね、お母さん。あたしはもう悪い子だから」


 ウェンリはウェンディさん......否、ウェンディに向かって矢を放った。

 しかし、その矢は当然のように魔力障壁で弾かれる。


「ふふっ、そんなおもちゃを飛ばした所でお母さんを止められるわけないでしょ?」


「そんなのわかってるわよ。だから、一人で戦わないんじゃない」


「っ! 男はどこに―――っ!?」


 俺はウェンディがウェンリに意識が向いてるうちに自身に<気配断ち>の魔法陣を仕掛けて音を殺しながら近づいた。


 そして、背後から短剣で攻撃―――までは良かったが、ギリギリで気づかれてかすり傷に終わった。すぐさま蹴りを入れるもそれも腕で防がれる。


「足癖が悪い子ね!」


「それは悪かったな。シェイリ!」


「はい、レン様!」


 俺が名前を呼ぶとシェイリと小蜘蛛はミッドレンに張り付いたままウェンディに糸を飛ばした。

 ウェンディはそれをバク転しながら避けていくが、その動きに狙いをつけたようにウェンリの正確な矢が飛んでくる。


「全く」


 しかし、それは頭に刺さる前に手で受け止められた。

 そして、ボキッと握って矢をへし折ると眉をピクつかせながらウェンディは告げる。


「危うく当たっちゃうところだったじゃない。さすがにお母さんも我慢の限界だわ。

 実力差を教えてあげる―――殴打する風(ストライクエア)


「がっ!?」


「レン!?」


 な、なにが起こった!? 敵は確かに目の前にいたはずなのに突然アッパーカットされた!?

 くっ、しかもモロに受けて視界が揺れる。足もふらついてまともに立てねぇ。


「ウェンリちゃんなら知ってるはずよ。お母さんは魔法に長けていたことを―――電導強化(バララーク)


「っ!?」


 一瞬で目の前に!? 体に紫電が走ってるからしてアイと同じように電気の力で身体機能のリミッターを意図的に外したのか! 不味い、躱せな―――


破雷裂(ウルクショック)


「がっ」


 全身に雷が落ちたような衝撃と痛みと熱が一瞬にして襲ってきた。

 がはっ、内臓がやられた。口から血の味がする。


 俺はその勢いで吹き飛び地面を転がっていく。

 そんな俺の名前を呼びながらウェンリは矢を向けて反撃しようとするが、さすがに精霊が呼べないこの状況じゃただの矢を放っても意味がない。


「ふふっ、見てなさい。あなたを歪めたこのゴミはすぐに片付けるわ」


 そう言ってまるで勝ちを確信したように近づいてくる。

 ははっ、そうだ。それでいい。蜘蛛は自分から狩りをしない。


「っ!」


 ウェンディの頭上が淡く光る。その大きさは半径五メートル。

 それは俺が蜘蛛とだけに出来る<テレパス>のようなもので指示をして作らせた蜘蛛の糸の魔法陣だ。


 魔法陣を作るのは何も自分の魔力で描いたものばかりじゃない。

 自分の魔力で作ったもの、自分の召喚した魔物にも十分にその役割を果たしてくれる。


 俺は最初から正面からお前を倒そうとしていたわけがない。

 そもそもお前相手に正面切って勝てるのは律ぐらいだろう。だから、俺は策を練る。


「お前は他所に気取られ過ぎなんだよ。おまけに怒りで視界を狭めてくれたおかげで助かったぜ―――限定魔法陣<蜘糸繭囲(ちしけんい)>」


 シェイリと小蜘蛛が蜘蛛糸で作ってくれた魔法陣を起動させるとその魔法陣から糸が放たれ、ウェンディの手足を拘束していく。

 また段々と広がっていき、やがて彼女を覆うようにドーム状に変化した。


 そして俺が閉じるように両手を握った瞬間、そのドームは中の空気を抜いて真空パックするようにウェンディの形をしっかり残したまま張り付いた。


「捕獲完了」


 その時にはもうだいぶ揺れも収まってきた。

 はぁ、さすがに魔法陣の構築は蜘蛛に任せて良かった。

 あの状態じゃ描くことすら難しいからな。


 俺は近づくとウェンリに近づいていく。そして、尋ねた。


「最後は......俺が決めるか?」


「いいえ、家族のケジメは私がつけるべきよ。無茶させて悪かったわ」


「気にするな。もとよりお前が戦えないことは知ってたからな。

 それに偽物としても家族と戦うのは酷だろう。

 というわけで、俺自身を囮にするのも作戦のうちだ」


「カッコつけて......なら、もう少しヒヤヒヤさせないでよ」


 そう言うウェンリの表情は少しだけ明るく見えた。多少は助けられた恩返しは出来ただろうか。

 そして、彼女は「行ってくる」と告げるとウェンディの繭に近づいていく。


 彼女は矢筒から矢を取り出すとゆっくりと振り上げた。


「お母さん、親不孝でごめんなさい」


 そして、その矢じりを心臓に向かって突き刺した。

 ウェンリはその刺さった母親の姿をしたものから後ずさりしていくとぼんやりとその光景を眺めていく。


「終わった?」


「あぁ、一応は。そっちは?」


「こっちも全部の魔物を片付けたよ」


 薫の言葉に振り返るとそこには魔物の死屍累々の光景が。

 自分の仲間ながら絶対に敵に回したくないと思えて来るな。にしても―――


「何か嫌な予感がする」


「え?」


 虫の知らせとも言うべきか。

 相手は魔神の使途でそれこそ先のアルバートほどではないが、確実に魔力では俺達よりも格上であった。

 にもかかわらず、俺の独力だけで片が付くとは到底思いにくい。


 俺だって強くなっているとつけ上がりたい気持ちになるが、俺は自分の強さの程度を知っている。こんな簡単に終わるはずがない。


「全く、本当に悲しいわぁ」


 その声が聞こえてきたのはウェンリが殺したはずのウェンディであった繭から。

 その繭はもぞもぞと動くとやがて俺の魔法拘束を突き破って出てき......腕が四本ある?


「もう一度生まれ直しが必要ね」


 その存在はもはやさきほどのウェンディとはまるで別人であった。

 さながらキリアの母親の顔をした山姥のような。

 声や枯れ木のような腕や首筋をしているそれは正しく化け物と言えた。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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