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09 さようなら
迷う私に彼は言った。
私の目を見つめて、その言葉を。
「かまわないよ。だって、君が好きだから」
私は嬉しいとつぶやいた。
拾えないような小さな言葉だったのに、彼はしっかりと聞いていた。
気持ちが届いていた。
言われた言葉が、君が好きだからという言葉が。
その言葉がとても、嬉しくて。
涙がこぼれてきた。
今の自分を、間違っているだろう自分を肯定して、愛してくれる存在がいたことが、嬉しくて。
「私も好きです」
手をつなぐ。
ぎゅっと力をこめる。
ぬくもりが届いてきた。
心があたたかくなる。
一人じゃないって。とてもいいなって思った。
私達は歩き出す。
どこかへはいけない足で。
どこかへ行こうという意思だけ携えて。
もうここには戻ってこないつもりで。
とっくり戻れないと知りながら。
さようなら。
最後に、一人で言うつもりだった言葉を、二人で。
その別れの言葉を紡いだ。