もう一つの強さ
届いた!
私の短剣が相手を切り裂く。相手は驚いてこっちを振り返ったけど、そのまま死んでしまった。
私はその時に感じた感情にびっくりした。私が相手を殺した時に……喜んでいた。
もちろん人を殺してしまったという罪悪感もあったけど、それよりもリリアちゃんを守れてよかったって気持ちが強い。
私は……いや。これでいいんだ。うん。こっちの方がいいはずだよね。いざという時に覚悟が無いのは困るし……ね。
ドーラの攻撃も容赦無くなっていた。もともと魔物のドーラは特に殺す事に抵抗が無かったけど、私が嫌がっているのを察して我慢してくれていたみたい。迷惑かけちゃったな。
「ワンコロ! 連撃!」
驚いたのはリリアちゃんの変化。さっきまでは私以上に人を傷つけるのを怖がっていたのに、今は鬼のような表情になってる。
「私が甘えた考えをしていたせいで、またミズキさんに迷惑をかけてしまいました。ワンコロちゃんにも。次はそんな事をしたくありません。私、頑張ります!」
リリアちゃんは私に声に出してそう言った。まるで自分に言い聞かせているみたいに。私と考えが似てるのかな。
いや、きっと冒険者はみんなそうなんだと思う。いつかこの気持ちも忘れちゃうのかな。
「話してる場合か!」
盗賊が横から槍で攻撃してくる。考え事してる場合じゃないね。
間合いの長い武器は厄介だなぁ。
しばらく私が避けて、相手が突くっていうのを繰り返す。
全然近づけないけど、敵も有効打をうてなくて時間ばかりが経っている。めんどくさいなぁ。もう。
「やぁ!」
そんな事を考えてたら、リリアちゃんが後ろから魔法で攻撃してくれた。威力はすごく弱いけど、相手が後ろを向いただけで十分だよ。
一気に近づいた私に敵が対応しようとするけど、槍だからあんまり振りまわす事も出来ない。そのまま敵を倒せた。
まだ生きてるみたいだけど、完全に意識を失ってるし武器を取り上げたら大丈夫かな?
「ありがとうリリアちゃん」
「ミズキさんの役に立てたなら良かったです!」
いい子すぎて私泣いちゃう。
こんな時に魔法便利だね。テイマーだから強い魔法は難しいかもだけど、私も簡単なの練習してみようかな?
「終わったよー」
ドーラの声で最後の敵が倒されてる事に気づいた。残りの4人はドーラとワンコロで倒しちゃったみたい。やっぱり魔物強い。
「ありがとうドーラ。ワンコロ」
「もう魔力が限界だよー。外は魔の森みたいに魔力が多くないし……。魔力を回復できるポーションちょうだい」
疲れた様子のドーラにポーションをあげて、盗賊の生死を一人一人確認していった。4人も生きてるじゃん。ボスっぽい人も生きてるし、報酬の額が今から楽しみだよ。しっかり縛っておこ。
抵抗されて次は殺しちゃうとかは、やっぱり気分が良くないしね。人を殺す事があるのはしょうがない。
それでも出来る限りいい事をして生きていくようにしなきゃ。
そうでもしないと、人の心を無くしちゃいそうだから。そうなったら私の元家族と同じになっちゃう。
私は兵士さんに盗賊を引き渡した。報酬は金貨6枚。普通の盗賊退治の3倍もお金を貰っちゃった。どうやら逃げ足の早い盗賊だったらしくて、衛兵さん達も手を焼いていたみたい。
私達がたまたま洞窟で会えたのは運が良かったのかも。いやいや、やっぱり盗賊がいたってだけで嫌だよ。
リリアちゃんと半分こして残りは3枚。
一枚は何かあった時のために貯金しておくとして、2枚で何を買おうかな?
ドーラと一緒に町を歩いていると、ドーラがある店をジッと見ていた。つられて見るとテイマー用品専門店だった。何か気になるものでもあるのかな?
ドーラは結構控えめな性格をしてる部分がある。自分が嫌でも相手のために譲ってあげたり、今みたいに遠慮しちゃったり。
でも気持ちを隠すが下手だから、今回みたいに分かっちゃうんだよね。そこがドーラの可愛い所でもあるんだけどね。
「ドーラ。ちょっとあの店見に行かない?」
私が話を振ると、すぐに賛成してきた。正直なやつめ。正直、今回の金貨はドーラのために使うつもりだった。MVPは間違いなく3人を同時に相手にしたドーラだからね。
テイマー専門店には魔物のためになるアイテムがいっぱいある。それは魔物用のおもちゃから強化用のアイテムまで。
この町の店は小さいから、そこまで品揃えは良くないけど。私も都会にある超巨大な店舗が気になったりしている。
この店はこの町唯一の専門店だから私はもう常連。実は私も前からきになってた物があるからちょうど良かった。ドーラと別れて店の中を探す。
あったあった。
ドーラはというとお菓子コーナーをジッと見ていた。またー?
最近ドーラはお菓子とか甘い物食べすぎだから、ちょっと心配だよ。まぁ今日はいっか。
ドーラは買ったお菓子を美味しそうに食べてる。ちなみにお菓子はブラックストロベリーのカップケーキっていうやつ。人間には毒になるブラックストロベリーをドーラが笑顔で食べてると、なんかおかしな気分になる。
「ドーラ。あんまり甘い物食べすぎちゃだめだよー。最近顔が丸くなってる気がするし……」
「その時は体も丸くなれば分かりにくいから大丈夫!」
それの何が大丈夫なのよ……。ドーラは人間の言葉を理解できるはずなのに、全然言葉が届いてない気がする。
「そういえばミズキは何買ったの?」
そうだった。私は買い物袋の中から小さな腕輪を出した。着けた人によってサイズが変わる魔法までかかってる高級品だ。
「盗賊と戦ってる時も言ってたけど、ドーラってすぐ魔力が無くなるっていつも言ってるからさ。だから魔力増強の腕輪を買ったの」
喜んでくれるといいんだけど。どうかな?
「すっごく嬉しいよ! ありがとうミズキ!」
ドーラはすごく喜んでくれた。良かった。金貨二枚とも使ったかいがあったよ。一応魔法強化っていう腕輪とかもあった。
そっちの方が強くなるには良かったけど、魔力の場合は無くなると疲労感を感じるっていうからね。
ドーラにとって辛いかなって思ってこっちを選んだけど、正解だったみたい。
「ねぇねぇ。ミズキがボクに嵌めてよ」
ドーラが前足をつき出してきた。私が腕輪を着けてあげると、嬉しそうにくるくる飛び回りはじめた。体が軽いとか言ってる。
冒険者は誰でも出来る分、危険もあるし苦しい事もある。例えば今回の盗賊のようにね。でもこういうご褒美があるから、みんなやっていけるんだと思う。仲間の喜ぶ顔が見れるから。
まぁ今回の報酬は貯金分以外の全部使い切っちゃったけど。次はどんな依頼を受けようかな。