表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/59

もう一つの強さ

 届いた!

 私の短剣が相手を切り裂く。相手は驚いてこっちを振り返ったけど、そのまま死んでしまった。


 私はその時に感じた感情にびっくりした。私が相手を殺した時に……喜んでいた。


 もちろん人を殺してしまったという罪悪感もあったけど、それよりもリリアちゃんを守れてよかったって気持ちが強い。


 私は……いや。これでいいんだ。うん。こっちの方がいいはずだよね。いざという時に覚悟が無いのは困るし……ね。


 ドーラの攻撃も容赦無くなっていた。もともと魔物のドーラは特に殺す事に抵抗が無かったけど、私が嫌がっているのを察して我慢してくれていたみたい。迷惑かけちゃったな。


「ワンコロ! 連撃!」


 驚いたのはリリアちゃんの変化。さっきまでは私以上に人を傷つけるのを怖がっていたのに、今は鬼のような表情になってる。


「私が甘えた考えをしていたせいで、またミズキさんに迷惑をかけてしまいました。ワンコロちゃんにも。次はそんな事をしたくありません。私、頑張ります!」


 リリアちゃんは私に声に出してそう言った。まるで自分に言い聞かせているみたいに。私と考えが似てるのかな。

 いや、きっと冒険者はみんなそうなんだと思う。いつかこの気持ちも忘れちゃうのかな。


「話してる場合か!」


 盗賊が横から槍で攻撃してくる。考え事してる場合じゃないね。

 間合いの長い武器は厄介だなぁ。


 しばらく私が避けて、相手が突くっていうのを繰り返す。

 全然近づけないけど、敵も有効打をうてなくて時間ばかりが経っている。めんどくさいなぁ。もう。


「やぁ!」


 そんな事を考えてたら、リリアちゃんが後ろから魔法で攻撃してくれた。威力はすごく弱いけど、相手が後ろを向いただけで十分だよ。


 一気に近づいた私に敵が対応しようとするけど、槍だからあんまり振りまわす事も出来ない。そのまま敵を倒せた。

 まだ生きてるみたいだけど、完全に意識を失ってるし武器を取り上げたら大丈夫かな?


「ありがとうリリアちゃん」


「ミズキさんの役に立てたなら良かったです!」


 いい子すぎて私泣いちゃう。

 こんな時に魔法便利だね。テイマーだから強い魔法は難しいかもだけど、私も簡単なの練習してみようかな?


「終わったよー」


 ドーラの声で最後の敵が倒されてる事に気づいた。残りの4人はドーラとワンコロで倒しちゃったみたい。やっぱり魔物強い。


「ありがとうドーラ。ワンコロ」


「もう魔力が限界だよー。外は魔の森みたいに魔力が多くないし……。魔力を回復できるポーションちょうだい」


 疲れた様子のドーラにポーションをあげて、盗賊の生死を一人一人確認していった。4人も生きてるじゃん。ボスっぽい人も生きてるし、報酬の額が今から楽しみだよ。しっかり縛っておこ。


 抵抗されて次は殺しちゃうとかは、やっぱり気分が良くないしね。人を殺す事があるのはしょうがない。

 それでも出来る限りいい事をして生きていくようにしなきゃ。


 そうでもしないと、人の心を無くしちゃいそうだから。そうなったら私の元家族と同じになっちゃう。




 私は兵士さんに盗賊を引き渡した。報酬は金貨6枚。普通の盗賊退治の3倍もお金を貰っちゃった。どうやら逃げ足の早い盗賊だったらしくて、衛兵さん達も手を焼いていたみたい。


 私達がたまたま洞窟で会えたのは運が良かったのかも。いやいや、やっぱり盗賊がいたってだけで嫌だよ。

 リリアちゃんと半分こして残りは3枚。


 一枚は何かあった時のために貯金しておくとして、2枚で何を買おうかな?


 ドーラと一緒に町を歩いていると、ドーラがある店をジッと見ていた。つられて見るとテイマー用品専門店だった。何か気になるものでもあるのかな?


 ドーラは結構控えめな性格をしてる部分がある。自分が嫌でも相手のために譲ってあげたり、今みたいに遠慮しちゃったり。


 でも気持ちを隠すが下手だから、今回みたいに分かっちゃうんだよね。そこがドーラの可愛い所でもあるんだけどね。


「ドーラ。ちょっとあの店見に行かない?」


 私が話を振ると、すぐに賛成してきた。正直なやつめ。正直、今回の金貨はドーラのために使うつもりだった。MVPは間違いなく3人を同時に相手にしたドーラだからね。


 テイマー専門店には魔物のためになるアイテムがいっぱいある。それは魔物用のおもちゃから強化用のアイテムまで。


 この町の店は小さいから、そこまで品揃えは良くないけど。私も都会にある超巨大な店舗が気になったりしている。


 この店はこの町唯一の専門店だから私はもう常連。実は私も前からきになってた物があるからちょうど良かった。ドーラと別れて店の中を探す。

 あったあった。


 ドーラはというとお菓子コーナーをジッと見ていた。またー?

 最近ドーラはお菓子とか甘い物食べすぎだから、ちょっと心配だよ。まぁ今日はいっか。


 ドーラは買ったお菓子を美味しそうに食べてる。ちなみにお菓子はブラックストロベリーのカップケーキっていうやつ。人間には毒になるブラックストロベリーをドーラが笑顔で食べてると、なんかおかしな気分になる。


「ドーラ。あんまり甘い物食べすぎちゃだめだよー。最近顔が丸くなってる気がするし……」


「その時は体も丸くなれば分かりにくいから大丈夫!」


 それの何が大丈夫なのよ……。ドーラは人間の言葉を理解できるはずなのに、全然言葉が届いてない気がする。


「そういえばミズキは何買ったの?」


 そうだった。私は買い物袋の中から小さな腕輪を出した。着けた人によってサイズが変わる魔法までかかってる高級品だ。


「盗賊と戦ってる時も言ってたけど、ドーラってすぐ魔力が無くなるっていつも言ってるからさ。だから魔力増強の腕輪を買ったの」


 喜んでくれるといいんだけど。どうかな?


「すっごく嬉しいよ! ありがとうミズキ!」


 ドーラはすごく喜んでくれた。良かった。金貨二枚とも使ったかいがあったよ。一応魔法強化っていう腕輪とかもあった。


 そっちの方が強くなるには良かったけど、魔力の場合は無くなると疲労感を感じるっていうからね。

 ドーラにとって辛いかなって思ってこっちを選んだけど、正解だったみたい。


「ねぇねぇ。ミズキがボクに嵌めてよ」


 ドーラが前足をつき出してきた。私が腕輪を着けてあげると、嬉しそうにくるくる飛び回りはじめた。体が軽いとか言ってる。


 冒険者は誰でも出来る分、危険もあるし苦しい事もある。例えば今回の盗賊のようにね。でもこういうご褒美があるから、みんなやっていけるんだと思う。仲間の喜ぶ顔が見れるから。


 まぁ今回の報酬は貯金分以外の全部使い切っちゃったけど。次はどんな依頼を受けようかな。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ