出発!
うーん、1つしかない顔は……この顔はグリーンかな? とりあえずグリーンって呼ぼ。レッドは無事なんだよね?
「主よ。感謝しよう。これで我らはあるべき姿になれた」
私たちは一瞬、今の状況を忘れてポカーンってなっちゃってた。だって……ねぇ? え……これ戻るんだよね? ずっとこのままは困るんだけど。
「ところでどちらが指示を出すのだ。今の我の体は1つしか無くてな」
そうだった。今は別の事を考えている場合じゃない。
その答えはもちろん決まってる。
「「もちろん2人でだよ!」です!」
びっくりした顔をするグリーン。私たちの絆を舐めてもらっちゃ困るね!
「グリーン、巨大化! まだ魔王が苦しんでる今がチャンスだよ! 炎の渦で包み込んで!」
「そしたらすぐに上の方へ飛んでください!」
私たちもまるで1人かのように指示を出す。グリーン達は魔王に向き直って、その敵から奪った魔力でどんどん大きくなっていく。魔王と同じくらい大きなドラゴンが現れた。
グリーンの口元がどんどん明るくなっていき……炎の渦が魔王を包み込んだ。今までは回復をしようとしていた魔王がなけなしの魔力を使って反撃として撃った岩石弾をグリーンは飛んで避ける。
「そのまま上から体当たり! 岩でゴツゴツした肩をくらわせちゃえ!」
「そしたら1回転して岩石弾です!」
やった! グリーンの巨体が空から高速でぶつかると流石の魔王にも大ダメージだね。その勢いのままリリアちゃんの指示で、さっき魔王が撃った岩石弾が放たれる。
このまま勝てる……と思ったところで魔王の周りに魔力が集まり始めた。さっきのビームも比べものにならない量。まるで最初に山を削りさったあの時のような。
「はっはっはっは。まさかこの私がここまで追い詰められるとは。今までの舐めた発言はすまなかったな。敬意を払おうじゃないか。それでは見てくれたまえ。私の寿命の一部と引き換えに放つ聖霊魔法だ。これを私に出させた事を泣いて喜ぶがいい」
まずい! 守る? でもこれを守り切っても向こうは聖霊魔法。別に自分の魔力を使ってるわけじゃないし、こっちが必死になって防御した後を攻めてくるだけだし……。あーもう! 分かったよ!
「ミズキさん。今の私たちって考えてる事同じですかね?」
「うん。そうだと思うよ。じゃあ答え合わせしよっか」
私たちはグリーンに向かって指示を出した。
「「今の私たちの全力の攻撃で魔王にだって打ち勝って見せる! 龍光!」」
魔王からの真っ黒な稲妻とグリーンの撃った白い光線がぶつかり合う爆発と衝撃で何も見えなくなる。
ケホッケホッ……目を開けると疲れ切った表情をしたグリーンが立っていた。横にはレッドも。
2匹用の魔道具は真っ二つになって地面に落ちていて、魔力不足で巨大化も解除されている。
2匹とももう動けなさそう。これは……もしかして。
煙が晴れて見えたのは……倒れて少しずつ体が消えていく魔王だった。
つまり……私たちは……勝った! やった! 勝った!
「おめでとうじゃ。2人とも」
「うわぁ!」
「カーラさんいつの間にいたんですか!?」
「そんな人を幽霊みたいに言うでないぞ。2人や使い魔たちを回復してくれる治癒魔術師を呼んでおいたんじゃ。安心してゆっくり休め」
ふぅ~。もう今日は動きたくないからすっごく助かる。
安心して急に疲れてきた私たちはカーラさんが見守ってくれるなか、兵士さんに一応乗ってと言われた担架でこれ幸いと寝ることにした。
あれから2週間。けが人を救助したり、残念なことに亡くなってしまった人たちを探したり。それに破壊された近くの街のがれき除去なんかも手伝ったりしているうちに、あっという間に時間が過ぎてった。
レッドは遠かったり陸では行きづらい所にもまぁまぁの量の荷物を運んでくれるし、サンドはがれきの下にいる人を助けたり、壊れた城壁の岩だって楽々片付けてくれた。
他のみんなだってすごく頑張ってくれて、おかげでたくさんの人も助けられたと思う。
だんだんと街も綺麗になってきて、復興にはまだまだ遠いけれども少なくとも人が生活していけるくらいにはなった。
次の日にギルドに行くと受付嬢さんと良く知らない男の人がこっちに歩いてきた。大きくて重そうな袋を持って。私の目がキラリと光る。
「お2人とも魔王討伐、街の復興の手伝いと本当にありがとうございました。お2人が所属しているなんてギルドとしても本当に誇らしいです」
「ありがとうございます。当然の事をしたまでですよ。私たちが今まで行った場所だってこの後ろにたくさんありますし」
少し照れながらそう答えてたら横にいる男の人が話しかけてきた。
「はじめまして。私はこの地域の市長をしています。本日はお2人に感謝と謝礼をお渡しに来ました。こちら千枚の大金貨でございます」
千枚!? いやいやいや嘘でしょ!? え!? さすがに清貧な私も手が……でもねぇ……?
チラリと横を見るとリリアちゃんも私を見ていた。さてはリリアちゃんも迷ってるな~?
リリアちゃんに見られてるなら悪い事は出来ないね。
「最初に決められていた報酬と危険手当を含めた120枚だけで大丈夫です」
「私たちがこんなにたくさんのお金貰っても使えません。武器とかの修理代だけで結構です。このお金は困っている人やこの街の復興に使ってあげて下さい」
うん。実際120枚もあれば十分困らないし、こっちの方が私も幸せな気がする。
さ、ギルドの人からも許して貰ったから次の街に行こっかな。
「待ってくれ。おぬしらにちょっと伝える事があるんじゃ」
ギリギリ残っていた城壁の門から出る直前に今度はカーラさんが呼び止めてきた。城門から私たちの目の前にシュタっと着地。足は痛くないのかなぁ……すご。
「1か月後にこの国の首都まで来るんじゃ。用事はその時のお楽しみっ聞かんでくれ。それじゃあな。2人ともかっこよかったぞ」
そういうと隣の建物の屋根までジャンプしてどこかに走っていった。あれもう使い魔いなくても良いんじゃないの?
「ミズキさん。今のなんだったんでしょうか?」
「全然想像もつかないなぁ。ま、お楽しみって言ってたし良いじゃん。それより次の街に行こうよリリアちゃん」
「それもそうですね。次はどんな所なんでしょうね?」
「それも想像つかないや。ご飯が美味しいといいけど」
「ミズキさんはそればっかりですねぇ……」
殺し合いなんてもうこりごり。ギルドの依頼だけでおなか一杯だよ。私は楽しい旅がしたい。さぁ出発!




