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最後の勝利のために

「お、おのれぇぇぇぇ! この弱小生物めがぁぁ!」


 戦場の音全てをかき消すほどの大音量で魔王の叫びが聞こえてきた。


「また出てきたぞ!」

「次は負けねぇぞ!」


 でも四天王を半分も消してこっちの士気も絶好調。頑張れ〜!


「これ以上人間どもの好きにはさせん。魔王軍、全軍突撃せよ」

「神が与えたもうた我らが土地を守り抜くのだ! 魔物は全員海に叩き出せ!」


 お互い正面からのぶつかり合い。人間側も魔王軍側も今や前線がめちゃくちゃで指揮なんか取れなくなっていた。


 あるのは敵に勝つという意志だけ。歴史上一番長い1日はこうして始まった。




 ――サンクチュアリ法国派遣軍第5騎兵連隊――


「連隊長。生き残っている人数を数えてみたところ250名でした」

「くそっ。俺たちは795人でここに来たんだぞ? 遺族に書く手紙が大変だ」


 俺たちはそんな事を愚痴りながら人間側の港の防衛に向かっていた。川の上流からポーション、武器や食料に増援まで全てが集まるあそこには4千人近くの守備隊がいたはずだが、今までの戦いで3桁になろうとしていた。


「状況はどこも同じだな」

「厳しいですね。ここはまだマシな方らしいですが」


「じゃあなんでこんなに守備隊が少ないんだ?」

「引き抜きらしいですよ。おかげで陛下を護衛してた私たちが代わりに派遣されたわけです」


 連隊長と無駄話をしていると要塞化した港が見えてきた。子供のころに観光で来た時はもっと華やかだったのに残念だ。


 周りの家から住民は消え、昔お土産を買った店は倉庫にされていた。いや、今は仕事に集中しないとな。


「到着したか。歓迎するよ」


 出迎えてくれた守備隊長は……アルパス連合軍のやつか? 冗談だろう。数十年以上も仲が悪いあの異教徒の指揮下に入れって?


 とは言っても今は味方だし仲良くやろう。魔族の次に信用ならないがな。


「まぁ疲れただろうし食事にしよう。港だから幸い物だけはたくさんあるんだ」

「おぉこんなに豪華な! しかも国際色豊かですな」


 机にはいっぱいの料理が並んでいる。すごいな、こんなの上級将校が食べるような料理だぞ。やる気も出るってもんだ。


 気を良くした連隊長も話が弾む。


「ここを行きかう各国の兵士に教えてもらってコックもどんどん上達しましてね」

「これはありがたい。ところで思ったより平和なのですな」


「ええ。ここ最近は要塞化もさらに進んで魔物も近寄らなくなりましたから。魔物が勝手にあちこち出没しないのは魔王が出てきて唯一ありがたい事ですな」

「はははは」


 大きな爆発音が和やかになっていた雰囲気をぶち壊した。もっと空気を読めよ。


「なんだ今の音は」

「空を見てください! 今まで無尽蔵に魔物をばらまいていたスカイが落ちていきます!」


「やったぜ!」

「ざまぁみろ!」


 四天王が倒された事で食堂は大盛り上がり。自分たちの戦いは無駄じゃないって思えるからな。


 しかし次に来た報告で空気は180度変わった。


「守備隊長! 魔王が再び前線に出現しました。その命令で魔物たちが一斉に攻勢に出た模様です」

「気にするな。どうせここには来ない」


「いえ、魔物たちはただ真っすぐ突撃しているようです。港にも多数接近中です」

「なんだと! 総員配置につけ!」

「了解」


 剣を持ってじっと待ち構える。敵の姿は全く見えないな。

 10分後、変な音が聞こえてきた。


「なんだこの音は」


 すると耳が良いことを自慢してた兵士が震えながら答えた。


「敵の足音です連隊長。数は数千!」

「弓兵はとにかく撃ちまくれ! おそらくそこの森の中だ!」


 この頃になると足音は轟音となっていた。数もどんどん増えていく。


 森の中に矢が吸い込まれていくたびに魔物のうめき声が聞こえるが、足音は収まる気配がいっこうに見えない。


「見えたぞ! そこだー!」


 すでに数十メートル先の魔物たちの群れに向かって俺たちは駆け出した。




 あぁ……。気を失っていたか。良くあれで生きていたな。

 足の感覚がない。どうなっている。


「歩けるか。ここを離れよう。手を貸してやる」

「この声は……守備隊長ですか。まさかあなたに助けられるなんて」


「こうなったら国がどことか関係ない。同じ人間だ。それで十分だろ?」

「そうですね。そういえばここは医務室ですか?」


「まだ意識がはっきりしてないのか? 残念ながら違う。周りを見てみろ」


 目を開くと荒れた大地が広がっていた。あるのは死体、死体、死体。

 そんな。神よ。


「生き残ったのは俺たち2人だけだ」

「そう……ですか」


「家族は?」

「妻と子供が2人」


「いるんだな? じゃあ絶対に生きて帰るぞ」

「そうですね。戻ったらうちの国に来てください。案外いいところですよ」

「それはいいな。お前もいつでも来いよ。歓迎してやる」 


 あぁそうだ。俺たちの国はすぐ後ろにあるんだ。それを守るためならいくらでも戦ってやるさ。

 

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