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あの空に飛んでほしかったんだ  作者: 飛翠
第一章 父を探せ
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第一章 5 今日はこれで最後

「いよいよ、これで最後だな」

 時刻は八時半。

 空乃の父からの最後の頼み事は、父を探すことだった。

「おいおい、それってどういうことだよ」

「……そのままの意味です」

 最後の最後で無理難題を突き付けられた二人は途方に暮れる。

「無理だろう。探すには、ここは広すぎる」

「それでもやるしかないですよ」

「あん?」

 否定を続ける行人に、前向きな姿勢を風太は見せる。そのまた空乃もどこか前向きな気持ちでいた。

「大丈夫です。絶対に見つけられます」

「意気込んでいるのはいいが、何かヒントはないのか?」

「……ありません」

 即答する空乃に、行人はずっこけそうになる。

「ないのかよ」

「ただ、お父さんが行きそうな場所に心当たりはあります」

「……心当たり?」

 風太と行人は同時に疑問符を打つ。

「一緒に来てもらいませんか?」

「もちろん」

 空乃が風太たちを連れていったのは、空港内の遊覧スペースだった。

「ここなのか?」

「はい、そうです」

「こんなに遅い時間なのに、まだ子供が遊んでいるんだな」

 遊覧スペースの前で中をガラス越しから、行人は覗いていた。

「楽しんで遊んでいるように見えるけど、本当は寂しかったり、悲しかったりするんですよ。子供は」

 不意に空乃はそのようなことをつぶやく。口を開く空乃の目はどこか虚ろだった。

「空乃さんもそのような経験が?」

「ないと言ったら、嘘になります」

 寂しそうに空乃は笑った。

 空乃さんにも、こういった経験があるのか。

 思わず風太は、幼い頃の空乃と同じ気持ちになる。

「外国へ行くことを夢見て、この場所でお父さんを待ちながら、外国行きの飛行機を待ったんです」

「空乃さん……」

 それから二十分ほど三人は遊覧スペースの前で、待つ。

「もう、九時になるな。父ちゃんは来ないな」

 行人は腕組みをし、ため息をつきながら、悪態をつく。

「それでも私は待ちます。約束したから。……父さんと」

「それって、ここじゃないんじゃないのか」

「ううん。小さい頃に、ここへ来た覚えがあるから、ここで合っている」

 行人は笑った。

「そうじゃなくて、ここの第一ターミナルじゃなくて、第二ターミナルのほうなんじゃないのか」

「どうしてそう思うんですか?」

「よーく、話を整理してみたら、お前自身が国際線に乗っていた、という記憶がある。つまり、第一ターミナルは国内線しかないわけだから、これはつまり……」

「国際線のある第二ターミナルが正解?」

 行人に指摘され、空乃ははっとする。

 閃いたように、空乃は突然走り始める。

「おい、待てよ」

 慌てて風太たちは空乃の後を追うことにした。

 どれほどの時間が経ったのかわからないぐらい、その時の風太はただ無心に、懸命に走っていた。

 行人はあまりにも生き急ぐように走る二人に、落ち着けよ、と何度も告げる。

 第一ターミナルから、第二ターミナルへ、三人はたどり着く。

「……お父さん」

「……空乃」

 重い荷物を抱えながら、空乃と空乃の父は近づいていく。

 そんな光景を風太と行人は遠目で眺めていた。

「良かった。無事にたどり着いて」

「お父さんこそ、飛行機の時間に余裕で間に合いそうで良かった」

「……一人で全部頼みごとをやってくれたのか」

 空乃の父にそう聞かれ、空乃は首を横に振った。

「風太くんと行人さんが、協力してくれたの」

 空乃の父親に会釈をされ、風太と行人も申し分程度に頭を下げた。空乃と空乃の父は、ゆっくりと風太と行人に近づく。

「娘が迷惑をおかけしました」

「いえいえ、とんでもない」

 風太は謙遜し、行人はただ言葉を聞き流すだけだった。

「良ければ、お礼をしたいのですか」

「いえ、そんな。お気になさらず」

 行人はお礼などどうでもよく、さっさと家に帰りたいようだった。

「空港内のお食事でも良ければなんですけど、奢らせてください」

 風太と行人は丁寧に断ろうとするものの、思いのほか空乃の父は頑固なのであった。



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