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あの空に飛んでほしかったんだ  作者: 飛翠
第三章 無口少女と無口少年
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第三章 2 傷ついた夢

 翌日、風太は普段通り高校へ登校する。

 本来ならまったく、目を合わせてこない空乃がこの日は少し違い、風太と目をよく合わせていた。

 一方の修夢は意地でも風太や空乃と目を合わそうとはしなかった。

 すでに昨日、風太は空乃や行人ともに、ある作戦を考えていた。それはもちろん、放課後修夢を空港へ連れていくものだった。

 本当に上手くいくのかな、と風太は内心思いつつも、実行しないわけにはいかなかった。三人でちゃんと決めたことで、折れないわけにはいかない、と風太は感じる。

 それだけでなく、空港で働くことに憧れを抱くという共通点から、風太は修夢に対抗心だけでなく、共感も抱いていた、こんなところで、諦めてもらっては困るのである。

 そして、放課後。

 一人でスクールバッグを持ち、帰ろうとする修夢に、風太と空乃は声をかけるのだった。

「……里中」

「……修夢くん」

 修夢は目を逸らし、ため息をついていた。

「昨日、言ったはずだよ。夢は見るだけじゃダメなんだ。だから、僕はもう空港には行かない」

「……どうして、夢を諦めようとしているの? まだ、結論を決めるのは早すぎるよ」

「二人には、わからないよ。僕の気持ちなんか」

「ああ、わからないよ。里中は自分の気持ちとか何も相手に伝えようとしないからね」

 風太は少し強く口調で、修夢に言う。

「昨日、空港へ行ったことは夢に対して未練があるんだろう。どうして夢が叶えられない、って里中が思ったのかはわからないけど」

 少し前に出て、空乃は修夢に言う。

「修夢くんに見てもらいたいものがあるの。一緒に空港まで来てくれないかな。私からのお願いです」

 ……こんなに、可愛い子がお願いしているんだから、とっととOKしろや。おらっ。

 頭を下げる空乃を見て、風太は思うのだった。

「わかったよ。そこまで言うなら、僕は空港にいくよ」

 ……こいつも、所詮下心垂らしまくりの男だな。

 風太は、照れくさそうにする修夢を見て、そう思うのだった。

 そして、三人は空杉海高校を後にし、群青空港へ向かうのだった。

 群青空港の入口に入り、三人は立ち止まる。

「……見せたいものって、なんなんだ?」

「とりあえず、待っていて。もうすぐ行人さんが来るから」

「え? あの人が?」

 行人ともに、空港整備士の男――園上が現れるのだった。

「どうも、こんにちは」

 愛想よく園上が、風太たちに挨拶をする。

「……ど、どうもこんにちは」

 何も事情を知らない修夢は困惑していた。

「これは、いったい……」

「今日は特別に、空港整備士の様子を見学してもらえることになったんだ。俺とここにいるイケメン空港整備士の園上に感謝しろよ」

「ええっ」

「見学中は、ヘルメットや名札などを忘れず着用するように。それと、指示された場所以外には踏み入らないようにすることと、落とし物を絶対にしないことと、整備士の人に話しかけないこと」

 園上から聞かされた様々な注意点を頭に入れ、三人は空港整備の見学をすることになるのだった。

「わー、すごい」

 間近で見る飛行機に風太たちは思わず圧倒されてしまう。

「凄いだろう。これが大勢の人間を乗せて、空を飛ぶんだぞ」

 園上から話を聞かされ、風太と修夢は目を輝かせていた。行人は飛行機をじっと見つめ、物思いに耽る。空乃は、両手で胸を押さえていた。

「空乃さん……大丈夫?」

「うん。大丈夫。私、もう見学やめて、空港内の他の場所にいていいですか?」

「ああ。じゃあ、俺が案内するから、二人はまだ見ていてくれ」

 行人に連れられ、空乃は見学を止めにした。

「……本当に凄いな。空の仕事って」

「そうだろう」

 すっかりと修夢は飛行機の虜になっていた。風太もここに連れてきてよかった、と思えることができた。

「……僕、空の仕事に憧れているんです」

「ああ、さっき書店の兄ちゃんに聞いたよ。だよなあー、俺も空の仕事とか空港で働くことに憧れていたんだ。だから、整備士の仕事に就こうって決めたんだ」

「そうなんですね、やっぱり」

「だから、夢を諦めるなんてこと言わないでくれ。君の友達や家族だけじゃなくて、君自身が一番悲しむことになるぞー」

 そう言われ、修夢は感傷的になる。その隣にいた風太も、強い風と言葉に胸を打たれていた。少し、外の風に当たるだけで気分が変わるのは本当のことなんだと気づく。

 見学を終え、風太たちは展望デッキにいた。

「どうだ? 今の気持ちは」

 率直に今の気持ちを行人は修夢に尋ねる。

 空を見上げながら、修夢は応えた。

「やっぱり夢を諦めたくないかも」

「それが本当の気持ちなんだな?」

「うん。本当の気持ち」

 すっかりと修夢の表情は晴れており、風太は安心した。風太の隣にいる空乃も先ほどよりも顔色が戻っているように思えた。

「空乃さんは大丈夫?」

「わたしは……大丈夫です。まだ少し怖いけど、飛行機っていいな、って思いました。もっといろんな場所へ行きたいです」

 空乃は優しく微笑んだ。

 四人は展望デッキを後にし、群青空港の入口へ向かう。そんな中、風太や空乃は、空港内が普段と様子が違うことに気づかされる。

「……なんか、騒がしくなっているみたいだ」

「どういうことですか?」

 行人は空港内の異変に気づいたようだった。

「空港整備の不具合で、飛行機が遅れるとか、なんとか……」

 ちょうど仕事に追われていた柴田が四人の横を通り過ぎる。

「柴田さん、何があったんですか」

「空港整備の場所で落とし物があったみたいで、点検に追われているみたいっ」

 四人の頭に不安が過る。

 ……ま、まさか。

 風太は先ほど、自分たちが空港整備の見学へ行ったことと何か関係があるのではないか、と考えてしまうのだった。

「……ない」

「え?」

 みるみるうちに、修夢の顔色が悪くなっていく。

「どうしたんだ?」

「ないんだよっ……」

 どうやら、修夢は落とし物をしたようだった。

「何がないんだ?」

「……い、家の鍵を落としたみたい」

 修夢の目には涙が浮かぶ。

「焦るな……心配するな」

 行人が必死に修夢をなだめる。

「どうしよう……俺のせいで飛行機が」

「大丈夫だ。今は何も言うな」

 泣いている修夢の肩を行人がそっと叩く。

 空港整備の見学へ一緒にいた、風太も錯乱状態に陥りそうになる。

 僕が……もう少しちゃんと見ていれば、こんなことには……。

 風太は自分を責め始める。

「風太。お前も、自分のことを責めたりするなよ」

「で……でも」

 涙なんて見せたくない、と思いつつも、風太の目には涙が浮かぶ。

「風太くん。今はまだ何もわからないから、自分を追いこんじゃだめ」

 空乃に諭され、風太は大きく頷くのだった。

「ねえ、空乃さん」

 首をそっと、空乃は傾げる。

「一緒に僕と行ってほしい場所があるんだ」

「一緒に行ってほしい場所?」

 次に風太は大きく頷いた。

「ああ、空港内の鍵屋だ」


 翌日の夜。風太たち四人は園上と空港のファミレスで話をすることにした。

「お疲れさま」

「……お疲れ様です」

 五人はテーブル席に座り、夕陽が姿を見せなくなったことを確認するように、夜ご飯を共にしようとしていた。

 あれからというものの、無事空港整備の落とし物は見つかり、飛行機は運転を再開することが出来た。そして、その落とし物は風太たちとは全く関係がないことが判明した。

 直接の関係がないことに一同は安堵したものの、一向に修夢の落とした家の鍵は見つからないままだった。

 そのこともあり、修夢は自分のことを責めていた。

「あー、お腹空いたあ。何を食べようかな」

 気を取り直そうと、行人はメニューを開き、大きな声で言う。

「書店の兄ちゃん、大食いだもんな」

「俺は健全な男の一日の食事量を取っているだけだ」

「こないだ、チーズかけハンバーグのセット二つ食べましたもんね」

 危うく墓穴を掘りそうになり、風太は口を閉ざす。

 一方の修夢は口も店のメニューも開かないままだった。

「修夢くん……元気を出して」

 修夢は昼間、高校へいつも通り登校していたものの、元気が全くなかった。それは誰の目から見ても、明らかなことだった。

「元気なんか……出せないよ」

 力のない修夢の声を聞いているのが、風太は辛かった。

「出せるよ、お前なら」

 行人が修夢に言う。

「……出せません」

「出せる」

「無理です」

「夢だって、叶えられる」

「……叶えられません」

 このまま僕は傍観者のままでいいのだろうか。

 ふと風太は思い、バッグからある物を出した。

「……はい、これ」

「これは……」

 風太がテーブルの上に置いたのは、修夢の家の鍵だった。

「どうしてこれを……どこにあったんだ?」

 修夢はもう二度と見つからない、と思いこんでいたのか、テーブルの上に置かれた鍵の存在に驚いているようだった。

「グランドスタッフの柴田さんが空港の入口で、見つけたらしい」

「よ……よかった」

 泣きながら、家の鍵を受け取り、修夢は安堵した。

「……ありがとう」

「いやいや、お礼は柴田さんに言ってよ」

 五人は空腹と安らぎの中、メニューを見始めた。

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