プエトジ-2
「コイル!数日ぶりだな。今はルーナ村から別の依頼を受けて、一緒に行動中だ。お前こそ、調子はどうだ?一旗あげられそうか?」
「いや、さっぱりだね。正直、液体魔石は分からないことが多すぎてどう扱えばいいか・・・皆もわからないでいる。だというのに、利権ほしさなのか単純に珍しい物をとられたくないのかわからないけれど、この国の貴族たちが場所取り合戦を始めていて、とてもじゃないが手の出しようがないね。」
コイルは遠くを見つめながらさらっと話す。どうやら一苦労したようだ。
「この後はどうするんだ?」
「俺はこの件から手を引くよ。砂漠を渡れる時期になったらまた情報屋稼業でもやるさ。それまではせっかく来たこの町を観光でもしようかね。」
「いいのか、それで?」
「いいさ、縁がなかったってことで。世の中には己の力だけじゃどうしようもないことがたくさんある。いちいち気を張っていたら、明日も楽しめねぇってもんさ。邪魔したな、俺はこの後もそこらへんで飲み明かすから、気が向いたら来いよ。じゃあな。」
「切り替えが早いと言いますか、さっぱりとした方ですね。」
エリンが少し驚いたといった表情をしている。
「そうだな、思い切りがいいな。俺達も明日に備えて早めに切り上げよう。」
「そうですね。」
「二人でなんか納得してんのズルイー私にも教えて!」
リルカは足をバタつかせて文句を言う。
エリンといるときは大分甘えているようだ。エリン姉さんと呼んでいるし、二人は仲がいい。
その後、軽く食事を済まし、就寝した。
次の日、空は珍しく暗かった。太陽は出ているが、それがとあるもので遮られているのだ。
砂嵐だ。吹き荒れる砂が深く被っている厚手のフードを叩く。
とてつもない砂嵐は、数メートル先も見えないほどでフードを深く被っていないと目に砂が入ってしまう。しかしこの国の人たちは慣れているのか、気にする様子はなく、足早に移動する。
俺は魔導三輪を操作しながら、先行する二人の背中を追いながら彼女らがいつも取引しているという行商人の元へ向かった。取引自体は顔なじみだそうで、彼女らに任せてある。
いつもの注文だから、しばらく待っていてほしいと言われた。しかし言っていた割に直ぐ帰ってこなかった。取引所の方を覗いてみると何かもめているようだ。
もっとしっかりと見ると、エリンが言い合いをしており、後ろでリルカが見ている。近づいてリルカに聞いてみる。
「何かあったのか?」
「よくわかんないけど、いつも用意してもらっている魔石の数がないんだって」
「どうして?」
「それは、採掘所に持って行っているからだ。」
取引を終えたエリンが戻ってきた。しかし理由は中々に悩ましい物だった。
この国で今、最も熱い場所。そこに商品を持っていくのは当たり前か・・・
「予定の数に達していない。残りは実際に採掘場に行って仲介業者からかうしかないか・・・」
「しょうがないさ、売っているところに行こう。」
液体魔石の採掘場に行くことになったが、ひどい砂嵐。
採掘場の場所もわからないし砂嵐が収まるまで待つのかと思っていたが、この砂嵐の中でも、とてつもない人の流入が起こっているようだ。
砂嵐の中を移動する団体で移動する人々がいる。移動する道は多くの人が踏み固めたおかげでわかりやすくなっていた。
「今日行かなくてもいいじゃないか?どうせこの嵐じゃ村には数日帰れないんだから。」
「タロウさん、我々には時間がないんです。詰められるところは詰めて、あなたが村にいてくれる間に特殊な技法を覚えられる人間を育てなければならないんです。」
「タロウさん、もしかして怖気づいちゃった?」
真剣な表情とおちょくるような表情のエリンとリルカにおされ、砂嵐の中を移動する一団についていくことになった。
目の前が見にくい中を進んでいく。体に当たる砂の音が耳につく。いつもの厚い砂漠と違い意外と冷える。
周りの移動速度に合わせるため魔導三輪は降りて蒸気機関を微小に稼働させて手押し風に見せかけて移動していた。向かっている方向は遺跡とは逆の方向で、今向かっている先をずっと進むと海に出るらしい。
しかしよく採掘場なんて見つけたな、一番最初の発見者に感激するばかりである。
採掘場へは天気が良ければ一日とかからずに到着するとのことだが、おそらくこのペースでは丸一日かかりそうな予感がする。
一応、キャンプの準備は済んでいるし、これだけの人数がいるんだ。見張りの番はどうにかなるだろう。
そんなことをつらつらと考えていると、リルカが隊列から遅れてくる。元々、村の中で穏便に過ごしていた娘だ。このような風の抵抗の大きい中で長距離の移動は慣れていないのだろう。
「リルカ、荷台に乗るか?」
「ううん、いい。自分で歩く。」
ここ最近一緒に過ごしてきて分かったことだが、彼女は旅や冒険に出ているときはとても強気だ。何が彼女をそうさせているかわからないけれど、村を出て確実に何かが変わっているのは確かだ。
そんな成長を感じていた。そんなほっこりした気分を裏切るように突如として悲鳴と騒音が響く。
すぐに音のする方を見ると、別の団体の馬車を引いている馬が空を舞っていた。
「サンドワームだ!」
誰かがそう叫んだ時には既に体が動く。腰に据えていたクロスボウを引き抜き特殊矢を放っていた。




