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砂漠の神殿-3

「どうしたんだよ、グラム。そんな怖い顔をして?」

俺は驚いたように、しかし冷静に見定める。

心臓の鼓動が早まる。背中に汗が流れる。本当に、どうしたというのだ!


グラムが本気で切りかかってきたら、この間合いではどうにもできない。できて雷のバリアを張るぐらいだろうか?

しかし凄腕の剣士や素早い亜獣達はバリアで防ぎきれなかった。どうしようか


そんなことを考えているとエリンも叫ぶ。

「グラム何考えているの?タロウと戦うなんてやめて!」そう言いながら俺とグラムの間に割って入る。


「戦ってなどいない。それにお前こそわかっているのか!?今の村の現状を!」


激しく恫喝する険しいグラムの顔が、村の現状を物語る。エリンは怒鳴られて萎縮してしまう。

「今の村には資源がない。資金もなく、若者も少ない。でも魔石や外貨を稼ぐために貴重な若者を冒険者として、外に出す。・・・村の外からくる若者を色仕掛けを使って定着させる。

確かに冒険者になる前は疑問は思わなかった。だが冒険者になって村の現状を知った。

このままでは村は消滅する。誰からも見られることなくひっそりと・・・だから変えなければならないんだ。何もかもを!」


彼はどうやら、かなり追い詰められているようだ。

村についてたくさん考えている。誰にも話すことなく。

「でもそんな無理やり聞こうとしなくても・・・時間はまだあるんだし。」


「タロウ殿が明日も村にいる保証はどこにある?彼は強いのだ。あの薬だって効かなかったんだろ?だからお前はここにいる。タロウ殿が本気になれば今我々を振り切って逃げきれるのだ。」


「それは・・・」

リルカが不安な目でこちらを見る。探索中はなんだかんだで楽しそうだったのに今は顔が曇っている。


グラムは続ける。

「先ほどの劣化した魔石を回復させる方法を使えば、わざわざ他の街に少ない村人を派遣しなくてもいいんだ!危険なダンジョンに赴かなくていいんだ。

これがどれ程、村を変えるかわかるか?プエトジで格安の魔石を購入してくるだけで、村の貴重な高純度魔石を使い続けられるんだ。それは村中に水をいきわたらせ、村の火事場を賑やかに保つだろう。だから私はそれを、今すぐ知らなければならないんだ。」


グラムはそう言い放ち、持っているロングソードをこちらに掲げる。

この技術はまだまだ未完成の技で彼が思い描いているほど融通が利くようなものではない。この事実を知って彼は落胆しないだろうか?

いやそれでも彼は望むのだろうな、この技を。彼の思いを聞くとそう考えられた。


「わかった。グラム今すぐ技の概要について教える。だけど落胆しないでほしい、これは誰でもできる技じゃないんだ。だから教えたところで、お前がそれを使いこなせるとは限らない。」


彼が睨む前で後ろに背負っているリュックから劣化した火の魔石とまだ使える低純度の光の魔石を取り出した。

そして二つの魔石をくっつけて魔素の移動を目の前で見せた。目の前には半分だけ色が移り変わった魔石が二つある。


「これは見てもらったからわかると思うが、活性化している魔石から劣化している魔石に魔素を移す技術だ。少しコツがいるが練習すればいづれはできるかもしれない。しかしすべての魔石でできるかは試していない。グラム、君の望むほどのことができるかわからないがやってみると言い。」


そう言って二つの魔石をグラムに投げ渡した。グラムはしっかりとその二つをキャッチし見よう見まねで俺と同じ事をやってみる。しかし何も起こらない。


グラムは魔石を握りしめて同じことをやるが一向に反応しない。この魔素を移動させる論文を書いた時、エマさんや他の人々も相当練習しないと再現することができなかった。グラムも一発では成功しないようだ。


「どうだ?できそうか?おそらくだが練習しないとできないと思うぞ。」

「少し、黙っていてください。まだ終わってはいません。」

そう言いながら力強く魔石同士をぶつけたりより力を込めて握ったりしている。

「もしも村の中で俺と同じことができる人が現れるまで村に滞在すると言ったらどうする?」


グラムは魔石を握る力を緩め、驚いたようにこちらを見る。

「いいのか?私はあなたを脅したのだぞ。」


「ああ、どちらにしろこの遺跡をくまなく調査したい。びっくりはしたが、この砂漠の移動を通してお前が村のために必死になっているのはひしひしと伝わってきたからな。それぐらいはかまわないさ。」


「・・・ありがとう、本当にありがとう。」

グラムはようやく込めていた力を抜き、腕を下ろした。


夜になるころには村に着いた。その日は手早く食事を済ませ、床の間に来た。

円形の部屋に荷物を置き、寝床に横たわる。今日あった事が自然と思い出される。リルカの楽しそうな顔、グラムの張り詰めた顔。


当たり前の話だが、皆それぞれ思いを持っている。今日それを実感した。グラムの眼はまるで炎のように燃え盛っていた。

何度も思いにふけっていると戸をノックする音が聞こえる。


「はいどうぞー空いてますよ。」

入ってきたのはリルカだった。

「どうした? 子作りはしないぞ。」

「違うよ!今日はお礼を言いに来たの!」

「お礼?何かしたっけ?」

「冒険。連れってくれたでしょ。あれすごく楽しかったんだ。ありがと。」

「そうか、あの遺跡は事前調査だと強い魔獣はいないと言われていた。最初の冒険としてはぴったりだろう。まだまだ調査は続くし期待してくれ。」

「うん!」

それからもリルカは冒険で体験した事を楽しそうに話していた。

「ところでいつまでいるんだ?俺はそろそろ寝ようと思っているんだけど。」

「隣で寝てあげよっか?」

「冗談はよせ。リルカも早く寝ろ。明日も朝早くから活動するぞ。」

「はーい。」

そう言ってリルカは逃げるように去っていった。


次の日は朝から調査をするかと思ったが、グラムに呼び止められた。

グラムについていくと数人の若い村人が横並びで立っていた。


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