ルーナ村-2
相手も求めているのだし、いいか?触れようと手を伸ばすがうまく力が入らない。
迷いが晴れないまま、どうにか行動しようとしてプルプルと震える腕を動かす。
こつんと固いものに触れる。回復の魔石だ。
片付けずに寝たから手元に置きっぱなしだったようだ。
これを使えば腕の力もある程度は回復するかもしれない。そうすれば・・・
リルカは指でゆっくりと体をなぞる。
自分の中の抑えられない欲望に押され回復の魔石をつかみ、思いっきり魔素を流し込む。
暗い部屋の中に魔石から発する強力な光が広がった。
光は二人を包み、効力を表す。
回復の魔石を強くつかむ。
腕や足に力がみなぎるのを感じた。それと同時に思考もどんどんとクリアになっていく、まるで靄が晴れていくようだ。こんな感覚は初めてだ。
思考が晴れたことで、とある仮説が思い浮かんだ。リルカをどかし、部屋の明かりを灯す。部屋の中に光の魔石を起動して置いた。
俺の仮説を証明するかのように、リルカがきょとんとした顔でこちらを見ている。
「ちぇっ覚めちゃったじゃん。男の人なのに・・・枯れてるの?」
「失礼だな。そっちこそ、これはどういう事だ。」
「どういう事って?」
分かったようにおどける。あくまで白を切るつもりだろうか?
「変な酒のことだ。あんなに体の力が抜ける状態は普通あり得ない。何より回復の魔石で大きく回復できたことが証拠か。」
「まぁ簡単に言うと、そういうお酒かな。本当は意識も回復しないって聞いてたんだけどな~」
口に手を当て、うまくいかない理由を探っているようだ。
悪いとは思ってないようだ。それに村ぐるみか・・・
「じゃあ、なんで夜這いなんてしたんだ?」
「う~ん、私がタロウさんの事良いと思ったから・・・。」
目をそらし、声がうわついている。
明らかに何かを隠しているようだ。やりたくはないが力づくで聞くしかないか。
そうじゃないと安心して遺跡の調査ができないし、グラムみたいにいいやつがいる村でこのような思い出は残したくない。
俺は床に置いた光の魔石を拾い上げ、魔術を発動する。空気中に光の線が走り、破裂音が鳴り響く。
「ヒッ」
それは十分に恐怖をあおったようだ。腰を抜かし青い顔をして一瞬で部屋の隅まで逃げた。かわいそうだが、なめられるわけにはいかない。
「あまり、このような事はしたくなかったがしゃべってもらえないなら、俺の雷の魔術を食らってもらうしかないな。
おすすめはしない。なんて言ったって、魔獣を一撃で倒すことができる力があるからな。」
そう言いながらより出力を高めて近づく。部屋や赤紫色に彩り、甲高い音が出る。
「言います!言いますから、それ以上はちかづかないでくださいぃぃぃ。」
完全におびえさせてしまったようだ。光の魔石の発動を止める。
それを確認してリルカが話し出す。
「村は・・・その小さくて人が少ないの。だから人を増やすか、一人ひとりが強くならないといけないっていつもお父さんがしゃべっていて。」
取り繕っていないからだろうか?急に年相応に幼くなったように感じる。
「どうしてそのようなことを?」
「ここら辺には盗賊も多いの。だから常に男の人が警備に当たってるの。だけどいつでも警備できるわけじゃないし、絶対勝てる保証もないから…一人ひとりが強くなれれば苦しむ人が減るでしょ。それに敵は盗賊だけじゃなくて南の方から強い魔獣がたまに襲ってくるし・・・だから村人を増やしたりしないとって・・・言われてきたから。」
リルカの言い分は理解できるが、納得ができない。
村人を外部から供給し、あわよくば子供も増やそうという魂胆か。
一人ひとりを強くするとはそういう意味なのだろう・・・
しかしそれでは余りにも村の道具に成り下がっていないか?
この時代でこんな小さい村ならこれが当たり前なのか!?
「お前はそれでいいのか?よく知らない男の子を産むと言っているのだぞ!」
「だって強い魔術使いの子供は同じく強い魔術使いになるって言われているし村の人もある程度、選ばさせてくれるし・・・他の皆だってそうやって村に帰ってくるんだよ」
「そうじゃなくて、お前の気持ちだよ。」
リルカの話を聞く限り、この村ではこれが当たり前の生き方なんだ。外の世界を知らない、知ることができない環境で生きてきたんだ。
「私の気持ち?」
「そうだよ!お前が子供の時にあこがれたものはなんだ?いつも夢見る世界には何がある?」
思わず声が荒くなる。
俺にはどうしてもこの村の常識が受け入れられなかった。
「それは他の国を見てみたい。子供のころからあこがれていた他の街。たまに来る行商人とか、顔なじみの冒険者の人が話してくれた違う土地の景色を見てみたい。あとそれと海も見てみたい。ここって砂ばかり、でも水でいっぱいになった場所があるんでしょ。」
「そんな立派な思いがあるのに、好きでもない男の子供産んでいいのか?」
「でもそれが普通だよ?」
常識が違いすぎる。
きっとこの子に教育をしてきた人もそうやって生きてきたんだ。
「・・・わかった。俺はしばらくここら辺に滞在する予定だ。その間俺の冒険についてこないか?実際にやってみるんだよ。」
グラムによると村の人でも遺跡に行ったことが無い人がほとんどなのだそうだ。
「いいの?私はタロウほど強くないよ。」
「全く戦えないわけではないだろ?」
「ちょっとは・・・。盗賊にあったら逃げ切れるようにしているけど・・・」
「それなら問題ない。もし戦うようなことがあったらそうやって隠れてくれ。まずはリルカが憧れている世界を実際に見てみよう!」
「・・・わかった。」
「・・・どうした帰らなくていいのか?」
「帰っていいの?」
「帰って早く寝ろ!明日は早くから遺跡を調査するぞ。」
こうして歪な遺跡調査パーティーが結成された。次の日の朝から遺跡へと向かう。
調査にはリルカのほかにグラムもついてきた。別に問題ないと断ったのだが、恩を返したいという理由でついてくることになった。




